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短編の6「赤色」

作者: 湊 ユウヒ


答案の返却。


人によっては『テスト返し』と言ったりもして、まるで必殺技のような感じだ。


いや、紛れもなく必殺技なのだ。


時には人の心をズタボロにし、時には人の心を喜ばせ、時にはなにも起こらなかったり。それが『テスト返し』なのだ。


「ねぇ佐倉さん、どうだった?」


隣の席の佐倉さんは数学が大の苦手だ。このクラスの連続赤点記録を更新中である。


「あ、えーと、えへへぃ」


佐倉さんは照れたように笑って頬を掻きながら、点数を見せてきた。


…………16点。


「あ、あはは…………ドンマイ」


…………笑えねぇー! これで1、2学期に続いて3学期最初のテストも赤点……。進級できるのか?


「ご、ごめんね。悠斗くん、教えてもらったのに……」


不安な顔をしていると、佐倉さんは申し訳なくなったのか、悲しい顔をして謝ってきた。


「いやいや、別にいいよ。次がんばろ!」


マジで笑えないが、流石に気まずいので、笑顔を作って励ました。すると、


「おい佐倉ー、おまえ中1でそんなに赤点ばっかりだと今後痛い目見るぞー。……つーわけで、放課後に職員室なー」


数学担当の先生が、呑気そうに頭を書きながら言った。


「は、はい……」


それを聞いた佐倉さんの顔はどんどん青ざめて行った。



ガラガラ、と後方の扉が開く音がした。


「あ、おかえりー。どうだった?」

「んー、めちゃ怒られちゃった」


放課後の教室で、俺は佐倉さんを待っていた。戻ってきた彼女を見ると、目が赤くなっている。きっと泣いたのだろう。


「悠斗くん……」


教室には俺たち以外には誰もいなくて、二人だけだとなぜかドキドキしてしまう。別に期待なんてしてないけど。


「ん、今日もやろっか」


そう言って隣同士の机をくっつけて、俺は数学のテキストを広げる。佐倉さんはノートを広げる。


分かりやすくするために俺のテキストを真ん中に置いてそれを二人で見るようにしていた。


「で、この式はカッコの前に2があるから、それで展開して……」

「あ、この問題は分かりそう!」

「ちがうちがう、2×9は18だよ」

「へいほうかんせい……? なに、それ」

「その問題はさっきのを応用して……」

「2:3の辺なのね!」

「だから、2×6は12だって!」


そんなこんなでいつも勉強会をしている。


二人で勉強していると、いつのまにか時間も遅くなっていた。


夕日が教室に差し込んで、野球部のボールを打つ快音が、微かに聞こえる。


勉強会が終わりに近づくにつれて佐倉さんの熱も増していき、グイグイと攻めてくる。そのせいでテキストを覗き込むたびに肌が触れあう。髪の毛が俺の顔を撫でる。


いい匂いがした。


「ねぇ悠斗くん、この問題なんだけどさ、なんで5+2×7は19なの? どうやっても69になるんだけど……」


ぼ──っと見惚れていると、急にそんなことを言ってきた。


「あ、あぁそこね。なんで69になるのかは分からないけど、これは先にかけ算をして……」

「あぁ! なるほどね。計算の順番は分かってたけど、2×7があってなかったのね!」


この人、どんだけ2の段出来ないんだよ……と思ったけど言ったりはしない。




まったく……。




「また一つ謎が解けたね!」


親指を立てて喜ぶ佐倉さんは、とっても可愛かった。夕日の赤が後ろから照らしていることもあるのだろう。


必死に悩んでいる佐倉さんもいいけど、やっぱり笑う彼女が一番だ。と、心の底から思う。



かわいい。



つい見惚れてしまっていた。


笑顔だった佐倉さんもじーっと見られているのに気づいて、恥ずかしそうに視線を逸らした。


やべ、なんか頭が真っ白だ。


「ねぇ、佐倉さん……」


何を言おうとしたのか、自然と彼女を呼んでいた。


「あの、えっと……」

「ゆず……」


なんとか言葉を繋ごうとした俺を、空気を読んだのか佐倉さんはそう言って遮った。


「佐倉さんじゃなくて、ゆず……。そう呼んでほしい……」


彼女の顔は赤く染まっていた。


今日も夕日はズルい……。


「ゆず……ちゃん、あの……」

「ちゃんはいらないよ……」


照れているのか両手でスカートを握り、落ち着きのない佐倉さんが目の前に、至近距離にいる。


どうしたらいい? なんか勢いで来たけど、俺は何と言えばいいんだ?


あぁそうだ。告白、すればいいのか。


「真剣に聞いてほしいんだ。……ゆず、俺ずっと前から────」




その日の夕焼け空は、いつもより濃く赤く教室を染めていた。



「ほーい、テスト返しまーす。心の準備はいいかー?」


先生の言葉と同時に「えぇー」という声が教室から湧き上がる。


「石田、伊藤、浦田──」


そんなことは気にもとめず、次々と生徒の名前を言っていく先生。さすが手慣れている。


「ね、ゆず。今回のテストどうだった?」


いつものようにまずは予想点数を聞いてみる。


「んー、50点くらい?」


両手で50のジェスチャーを取り、ふふっと笑った。


予想で50は褒めたものじゃないが、数学以外はことごとく俺が負けているから笑えない。


「悠斗くんは?」


ゆずがそう聞いてきたから、頭の中でテストの問題を思い浮かべた。


「90いったらうれしい、かな」

「……………え?」


俺の言葉に、幻聴を聞いたかのような顔をするゆず。


でもまぁ、人に教えたら自然と頭に入ってくるから、ゆずのおかげでもあるんだよなぁ。


「──佐倉」


そしてついにその名前が呼ばれた。同時に、何故かドキッとしてしまった。


「はい!」


大きな返事をして、机を立ち上がる。心意気は十分で何より。


駆け足で取りに行ったゆずは、先生から答案を受け取った瞬間に点数を見つめて……、


そして満開の笑顔を咲かせた。


「やった! やったよ──っ!」


走って俺の元へ寄ってきた。そして答案を突き出した。


「36……お、おぉ!」

「悠斗くん、やったよぉ! 赤点脱出だよぉ」


きゃっきゃと跳ねるゆず、かわいい。


「おーい佐倉、おまえめちゃくちゃ喜んでるけど、平均点より遥かに下だからな」

「はーい!」


「あははは」と教室中から笑いが起こるが、俺は嬉しくてたまらなかった。


…………よかった。





一通り静まったゆずは、席に座り、俺の方を向いて顔を近づけてきた。


「いろいろ教えてもらっちゃった……。ありがとう、悠斗くん。大好きだよ」


真っ赤な顔で、囁くようにそう言った。














最後まで読んでくださった皆様が大好きです♪


最近、恋人が最高すぎてつらすぎます。少し自慢話に付き合ってもらいませんか?



私の恋人はとっても素敵です。

私の恋人は一緒にいて楽しいです。

私の恋人は見ていてあったかくなります。

私は恋人とずーっと一緒にいたいです。


でも、そんな私の恋人にも少しマイナスなところもあります。まあ人間ですから仕方ありませんよね。



私の恋人は、画面から出てきてくれません。



画面に引きこもる癖を治して、と言っても無視してきます。


とうしてですか?


……………………。


あ、コメント、評価をしてもらえたら出てくるって?


皆さん、よろしくお願いしますね(威圧)


@次回、少し長めです。

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