バレンヌシア『ドラゴン追い祭り』ついに開幕
「それではここで! バレンヌシア『ドラゴン追い祭り』のルールのおさらいをしましょう!」
いよいよ祭り開始とあって、会場はざわついていた。
そのざわつきに負けないように、アステマの声はいつもより張っている。
「時間は12時間。その間に祭り会場となる街中に放たれたドラゴンのうち、一番大きいドラゴンか、一番数を多く仕留めた者が優勝権利を獲得し、最終的には観客のみなさまの拍手の大きさで、真の優勝者がきまりますっ!」
拍手ねえ……。やはり強い組織力をもつ騎士団が有利なルールだ。
でも、まぁいい。そもそも権利獲得者が一名だったらいいよね。明確だ。
「さて、肝心のドラゴンですが、バレンヌシア帝国南方にあるクジン山。通称『ドラゴン山』に設置された、ドラゴントラップである『神の籠』に入ったドラゴンが会場各所にある魔法陣へと魔力転送されてきます。昨年は例年にくらべ数もサイズも不作とのことでしたが、今年のドラゴンのコンデションはどうでしょうか?」
闘技場のリングには、見本として青白い光をはなつ檻が置いてあった。
大きさは車庫ぐらい。なにやら檻の格子には文字が浮き出ているが、とうぜん読めない。魔法の文字なのだろう。――檻の中には餌と思われる鶏肉が積まれている。これを食いにきたドラゴンが檻に入ると出られなくなって、そのまま祭り会場に魔力転送されてくるということらしい。
よくできている。
なるほど、その年の天候状況などで、ランダムにドラゴンが罠にかかるということなのか。
オレは騎士団や他の参加者にまざって闘技場のリングの中にいた。参加者達は、ここぞとばかりに、各々自慢の装備を身につけての祭り参加だ。ベーシックな西洋甲冑の者をはじめ、甲殻類をイメージしたものや、漆黒のトゲトゲ鎧の者。東洋風の華やかな甲冑や、遊牧民風の軽装備の者……などなど、格好は様々だが。名うてのドラゴンハンター達も多そうだ。その様子はまるで、モンスター狩りゲームにでてくる。よく伸びることで有名なアイスクリームと同名の街のようだ。
そんななか、オレの装備は水色をベースとした『祭』と書かれた半被一枚。
……いやこれ、防御力皆無じゃね? 強いて言えば『ぬののふく』だよね。下手したら防御ステータス無しの初期装備あつかいだよね……。ドラゴンの一撃に耐えられるのコレ?
そんなガチ勢+オレが、大きな魔方陣を囲む形で、祭りの開始をいまやおそしと待っている。街の広範囲が会場になるとはいえ、やはり皇帝や帝国の高官も居並ぶ円形闘技場がメイン会場なのだ。だれだって目立ちたい。
「そして! ことしの『ドラゴン追い祭り』は、異世界のお祭り男こと。勇者ダイスケも参戦しています!」
「 (∩・∀・)∩ワッショ-イ!!」
オレはアステマのアナウンスに応じて、他の参加者に埋もれないように、おおきく祭りアクションをとる。
「おい、あいつの装備みろよ」
「マジであんな格好で参加するつもりか」
「しかも武器もってないぞ」
「素手とは、なんという胆力」
「勇者だな」
「ああ。あいつは勇者だ!」
――ウォオオオオオオオオ!
会場にわきおこる歓声。
なんか誤解があるが、それでいい。
誰がなんといおうと、この場で最強はオレ。まもなくこの黒いノートが証明してくれることだろう。それに、だいたい強者という存在はパッと見シンプルな格好をしているものなのだ。ボスキャラの第三形態とかでよくある話。ソースはフ〇ーザ様。
「彼のためにも、とっても大きなドラゴンが、かかるといいですねっ!」
なにやら意味深な笑みをうかべるアステマ。
どういう意図だろう?
「それでは! 大神官ガトー様おねがいしますっ!」
貴賓席にいるじじいが杖を掲げると、いっせいに、じじいと同じような格好をした配下達が詠唱を始める。そうすると、地面からせり上がるように、ドラゴントラップの檻と同じ青白い光を放つ魔力の壁が、闘技場を中心とした街の一角をドーム状に覆った。これで外界と祭り会場を遮断して、ドラゴンを逃がさぬようにするらしい。そりゃそうだよな。ドラゴン羽あるし。空飛ぶもんな。
☆
「それではっ! 会場の準備がすべて整ったようです!」
――競馬のレース開始を思わせる、荘厳かつ重厚なファンファーレが鳴り響く。闘技場の観客席に反響して、おどろくほど大きく聞こえる。
うん。いい。
オレのような人間でも高揚を覚える壮麗なファンファーレ。オレの高揚感は、祭りに……いや、エルフハーレムに期待を膨らませているものだろうか? 期待か……。これから自分がすることには、おおよそ似つかわしくは無い。目的の為には手段を選んではいられない。
「ドラゴンーーー!! かうんとだうん!」
会場にいる人間の声が重なる。
「5!」
「4!!」
「3!!!」
「2!!!!」
「1!!!!!」
「ゼロっ! 『ドラゴン追い祭り』開幕ですっ!!」
――ブゥンンンンンン。
低い電子音のような音があたりに響く。つよい光を放つ魔方陣。あまりのまぶしさに直視不可だ。光が収束すると同時に、巨大な――
巨大すぎる黒いシルエットがあらわれた。
「グワァオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
――オオオオン!!」
つんざく咆吼。反響した圧倒的な音量に、びりびりと全身をつつまれる。おくれて強烈な風圧におそわれた。最前列に陣取っていた大勢が木の葉のように吹き飛ばされる。オレは思わず、かがんで身を護り耳をふさぐ。……砂埃がひどい。
「!?……」
間を置いてから、ゆっくりと……すこしずつ目を開ける。
「おい! みてみろ!!」
「なっ……」
「なんだ! あれは!!」
騎士団他の参加者が口々に叫ぶ。
「ダイスケ!! ぅううううううううあれをみてみろっ!!!!」 たっぷりと溜め気味にオレに告げてくるアステマ「リアルでいっちゃった。キャハハ」
その光景を目の当たりしたオレは……
「どぅおぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」