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エルフ嫁ニケアの召喚に成功したよ

 稲光が碧くはしったようだった。


 閃光に目が眩んだ、瞬く隙に――


 ヒュバッ


 シュパ、カシュ


 キンッ。


 …………。


 囲んでいた帝国兵達が手にした武器ことごとくが切断され、

 クルクルと宙をまわって地面に刺さった。


「!? これは」

「武器が根元から、無い」

「いったい、なにが……」


 オレを除いたこの場にいる全員が、なにが起こったのか解らない様子。

 でも、オレには全て解っている。


「そうはさせません!」


 声の主は碧眼をもつ小柄な少女。ショートボブの金髪からのぞく耳は長くとがっている。


 もちろんニケアだ。オレのエルフ嫁。


 兵士達に睨みをとばし、襲撃の意図を挫くことができたと確認すると、そのまま、ぐいっとオレとアステマの間に割り込むように入ってきた。


「《《そうはさせません》》からね」


 ドスの効いた声でそんなことをいう。


 ギンッ――っと、オレをガン見するマジ眼……やっぱ、こわい!

 

 オレは覚悟を決めて、目をぎゅっとつぶった。まさにこうなることは覚悟の上だ。オレはきっと、また……。死ぬ。ニケアにスパッといかれるだろう。


「!? …………ッ」


 しかし、数十秒まっても変化はおきなかった。


「そうは……させません……から」


 おそるおそる視界を回復させたオレの目に映ったのは、うつむき、両掌からのばした氷剣を解除するニケア。


 あれ? なんでだろ? なんでオレをいま斬らないの? 


 斬るならいつ斬るのか? いまでしょ! 


 この方法でニケアを召喚した以上。オレはまた斬られて死ぬの覚悟してたけど……。

 でも、死なずにすんだのならば、これでいい。

 

「《《こうしたら》》来てくれると信じていた」


「…………だからって」


 拗ねるように口を尖らすエルフ。でも、氷剣は解除したものの、その瞳は碧く輝きを放ったまま。つまり、怒りはまだ完全に収まっていない。


「ニケア。ありがと……ウッ」


 安心したら、いっしゅん視界が暗転した。足下もふらつく。さすがにオレはもう限界だ……。感を、強調することをわすれない。怒りを逸らさないと。どうかその怒りを鎮めたまえ!


「!? ダイスケさん! 大丈夫ですか?」


 たおれるオレを支えるように、ニケアが胸を貸してくれた。ないけど胸を貸してくれた。


「これで思い残すことはない……君がきてくれたから。最期ぐらいその胸の中で迎え――カクッ」


 ――カクッ。感も忘れない。


「ダイスケさん! ダイスケさん! しっかりしてください!」


 涙目でオレを揺らすニケア。しばし揺られてから「あ……ああ。ここは? まさか君がいるなんて……だとすれば、ここは天国かな、ははっ」と、お約束の笑顔リアクションを返す。

 これぐらいやればいいかな。怒りは逸れたかな……。

 うん、瞳の光は消えているな。いつもの優しいニケアだ。これで安心だ。


「!? よかった……!」


 ぎゅっとオレを抱きしめてくれるエルフ嫁。オレはその肩越しにアステマにウインクを送る。


「……ニケ。あんたのことが、ときどき心配になるんだけど」


 ……うっさいぞアステマ。


「???」


 そんなアステマのつぶやきに、ニケアは首をかしげるだけだった。



 ☆



「それにしてもあんたさ……助けに来るのおそくない?」


 すべてを理解したアステマが、からかうようにいう。


「そ、……それは」ためらいをみせるニケア。


 オレにはわかる。制止する家族や故郷のエルフ達をまえにして、踏ん切りがつかなかったのだろう。ニケアはやさしい子だから無理もない。だから、こういったきっかけが必要だった。


 ちなみに帝国兵達は距離をとって対峙するだけで、それいじょうのことをしてこなかった。ニケアが隣に居るいじょう、攻撃することはできないからだろう、巻き込めば中立を保っているエルフ達を敵に回す可能性があると判断をしたようだ。


「そなたたち。ちと、道を空けてもらおうか」


 その間に、帝国軍を割り悠然と歩いてフェスも合流した。


 こうして、オレ達と帝国軍は、にらみ合う形になった。



 ☆



「これはどういうことだ、エルフの女王!」


 声を発したのは皇帝ジェラート。ニケアがこちらについたことを指しているのだろう。


「…………」


 問われたイケアはエルフ達を従え、だまって腕を組んでいる。

 

 その組んだ腕にずっしりとのっかる胸に、オレの視線が釘付けに……って、こんなときでも釘付けになるオレの視線自重!


 でも、釘付けになる。……悲しいけど男の子なんだよね。いままで縁がなかった分なおさらだ。オレの異世界に足りなかった成分を摂取するように視線を這わす。そういえば()()()妹でもある。ミケとラケのロリっ娘エルフ双子は――


「うわ、冷たっ!」


「ダイスケさん。《《どうしましたか》》?」


 にっこりとニケア……。氷のオーラが漏れている……。


「いえ! なんでもありません! ……う、うむ。重装歩兵が50……魔術兵が30……」


 オレは表情をキリッとすると、イケアの胸から急いで視線を逸らし帝国軍むけた。

 敵戦力をカウントして今後の対応策を練っています……感をだす。


「陛下。大神官ガトーの孫『エービス』がこちらに向かっておりますれば」


「『帝国四天将』も招集しました。じきに闘技場に……」


「いましばらく持ちこたえれば『バレンヌシア二十四騎士』も……」


 だまって聞いていると、帝国側から不穏な情報が……。


 おいおい、……そこは耳打ちするとか、オレらに聞こえないように伝達しろよ……。

 帝国にまだそんな戦力があるとか聞いていないでんすけど! 何アピール?



「いいかげんにしなさい!!!!」



 大喝が響いた。ずっと沈黙をまもっていたエルフの女王イケアだ。

 胸がおおきいだけあって声もおおきい! いいことをいう。本当にその通りだ。


「イケアに完全同意! 帝国いいかげんにしろ! なにがガトーの孫だ! なにが四天将だ! いうに事欠いて二十四騎士とかマジで数多すぎだろ! もっとコンパクトにまとめろ! キャラ被りしてるやつとか雑魚いやつ削れ!」


「これいじょうのたたかいは無意味です」


「無意味なんだぞ! わかってんのか?」


「……祭りは終わったのですよ」


「そうだ、とっくーーーに、祭りはおわってるんだぞ!」


「このような無益なことを、いつまでつづけるのですか?」


「ほんとに、いつまでつづけるつもりだ!」


 イケアの言葉を受けたジェラートが叫ぶ。


「終わってなどいない! わたしはあの悪魔を倒さねばならぬ! 今さら退けるか! 父や兄の敵をとらねば……おめおめと生きてゆかれるものか!」


「敵ですか……。その気持ちは解りますが、たとえ貴方が(かたき)をとったところで、死んだ者は返ってこないのです。そのような憎しみは新たな憎しみを生み、憎しみの連鎖――」


「しつこいぞジェラート! ふざけんな! 誰もおまえの復讐劇なんか期待してないんだよ! あーあ、おまえなんて助けなけりゃよかった! あのとき、死に損ないのオマエを見殺しにしておけば!」 



「あの……ごめんなさいダイスケさん。さっきから、うるさいです」 



「!? えっ……すいません。ついアツくなってしまって」

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