表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/74

騎士団諸君。三途の河を整列して渡るがいい

祭り当日。


 年に一度の祭り。闘技場は大いに盛り上がっていた。多くの観衆に混じり、豪華なしつらえの貴賓席があり、そこには皇帝や大臣といった帝国の重鎮が居並んでいるようだ。オレとアステマは貴賓席のすぐ右側に。騎士団連中は左側に位置している。


「さてっ! おまたせしました全世界のみなさま! ついにバレンヌシア帝国『ドラゴン追い祭り』開催直前! 会場の熱気は最高潮ですっ! それでは祭りの主催者である大神官ガトー様に――」


 アステマがオープニングトークを配信している。


 そんな中、オレは騎士団連中の、ライバル視する視線を感じていた。その目は「異世界からきた馬の骨にやらせはせん」という、敵意にみちている。


 居心地の悪さを感じていると、三人の若い騎士がオレの近くに寄ってきた。


「異世界の勇者と聞いたからどんなやつかと見にきたが」

「なんだ貧相な男だな」

「わざわざ様子を見にきて損をした」


 それぞれが大層ご立派な金属甲冑を身につけている。鎧に施されたその意匠から、身分の高さがみてとれた。おおかた貴族の子弟といったところだろう。相手をしても時間の無駄と思われたので、オレは無視をきめこむ。


「まったくだ」

「こいつじゃ、小型のドラゴンも狩れないだろう」

「石でもめくってトカゲでも狩るんじゃねーの?」


 下卑た笑い。完全にオレを見下している。


「やめないかおまえ達!」覇気にあふれた声が響いた。


「なんだと! 誰にものを……」

「あ、おまえ止せ!」

「べ、ベクトール様……失礼しました!」


 騎士ベクトールが現れる。昨日アステマの配信につきあってくれた男だ。三人が一斉に恐縮して居住まいを正した。


 恐縮するはずだった。このベクトール。じつは皇帝の息子でしかも長男。つまり次期皇帝なのだ。武勇に優れカリスマ性も十分。いまも会場の女性達の熱い視線を浴びてい――しねばいいのに……。


 そのうえ、オレやアステマへの態度も紳士的でいい奴。血筋がよくて有能でハンサムで性格もいいなん――しねばいいのに……。


 アステマの配信で、彼の存在を世界にアピールしたいという、帝国の目論見もあるのだろう。アステマの世界配信担当かつ、オレたちのエスコート役だった。これ以上無い宣伝だ。


「異世界の勇者。ダイスケ殿に非礼を詫びるんだ」


ベクトールがそういうと――


「「「もうしわけありませんでした!!」」」


三人の若い騎士が勢いよく頭をさげてくる。


「お互いフェアプレイでやろうじゃあないか」


オレはそういって、笑顔をおくる。


「……なんだコイツ」

「気持ちのわるいやつだな」

「いこうぜ。もどって団長に報告しよう」


 オレの雰囲気に不気味さを感じたのだろう。戸惑いをうかべながら三人の若い騎士が去った。


「(せいぜい吠えろ。その口もじきにきけなくなる)」


「もうしわけないダイスケ。気分を害されたのなら、私からも謝罪する」


「それには及ばないさベクトール。彼らも祭りで舞い上がってしまっているのだろう」


「そういってもらえると助かる……」


「気にしないでくれ」


 この祭り会場がおまえ達騎士団の最期の戦場なのだ、おまえ達に永遠の安息日をくれてやろう。アステマから貰ったアイテムの力で……。



 ☆



「……ベクトール兄さん」


ベクトールとたわいのない話をしていたら、女性――いや男か。やさしい眼差しの美青年が、遠慮がちに声をかけてきた。


「どうしたジェラート?」


「……父が、皇帝陛下がお呼びです」


「父上が? わかったすぐに行く……。あ。ダイスケ。こいつの名はジェラート。私の弟なんだ」


「はじまして、異世界の勇者様」


 そういって、オレに会釈するジェラート。そのしぐさは優雅で、男性のものとは思えない。体つきも細くて、すべてが男らしい兄のベクトールとは、ぜんぜん似ていない。


「……それではダイスケ。祭り本番ではお互いにがんばろう。異世界の『お祭り男』の戦いぶり。私は楽しみにしている」


 ベクトールと弟のジェラートは去って行った。祭り直前でいそがしいのだろう。



 ☆



「――いやな奴らだったね騎士団の連中。ベクトール達はいいヤツっぽいけど」


 去ったベクトール達と入れ替わるように、配信を終えたアステマが近寄ってきた。


「いわせておけアステマ。寛大なこころでゆるそうじゃあないか。己の運命もしらぬ……憐れな、小動物の諸君を」


 小動物。そう、かれらの命はオレの掌に転がっている。いや、もうすでに転げ落ちているのだ。そのことを、アステマからもらった黒いノートにびっしりと埋められた人名が物語っていた。


 ――死亡予約を入れておいた。


 祭り参加者が事前に死ねば、祭り自体が中止になる恐れがある。『ドラゴン追い祭り』は始まる。そのうえで、しばらくしたらオレ以外の祭り参加者全員が謎の死を遂げる。そうすればオレが自動的に優勝だ。ククッ……バレンヌシア帝国騎士団。三途の河を整列して渡るがいい。大勢のお仲間と共に。せいぜいあの世で、戦争ごっこにでも興じていろ。筋肉バカどもが。


「……なんかすごく変わったね……ダイスケ」


 そんなことをいうアステマ。


「そうか? そんなことは。――フッ……あるだろうな」


 なにしろオレは力を得た。何者にも負けぬ絶対的な力を。そう、いまのオレはただの平凡男子高校生ではない。いうなれば――神だ。力を得た人間は変わるという。それが事実ならば、オレも変わったのかもしれない。


「すごく……………………かっこいい、かも……」


「あ? なんかいったかアステマ?」


 会場のボルテージは最高だ。歓声で、アステマの台詞のさいごの方は聴きとれなかった。


「……べ、べつに、なにもいってない」


「……さようなら。さようなら騎士団の諸君」


「え? ダイスケ、なにかいった?」


 オレの声も同様に、歓声にかき消されたようだ。


「…………」アステマのその問いに、オレは答えなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ