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君の名は『黒神フェス』

「む。もしかして? わらわって……魅力ない?」


 ご褒美ポーズを解除して、オレに向き直る黒髪の少女。


「いや、安心して。……むしろ、めっちゃある」


 小柄なので、オレを見上げる形になるのだが……。首をかしげちゃって、可愛らしいことこのうえない。すこし恥じらいの表情が差しているのがツボ。


 ……あれだね。ちょっとしたラッキースケベ展開ならグッとくるけど。出会い頭に『エロアプリご褒美』だと衝撃が大きすぎて、ぜんぜんピンとこないね。寝込みを襲われたとか、後ろから奇襲(バックアタック)をうけたとか、そういう系の衝撃が先にきちゃう。このタイミングで「いいんですか? よっしゃあ!」って、即行為におよべる男の子はいないと思う……。


 でも、あらためて眺めてみると。この娘。こうしてみるとかなりイイ……。


「じゃあ、よかろ」


「よくない! いろいろと急すぎて意味がわからない! だいたい、こういうのって、出会ってから笑いあり涙ありの2人の時間を重ねて、そこから、なんかいい感じになっていくものなの! いきなりすぎるのはダメなの! 脱げばいいってもんじゃないの! それだと男子は盛り上がらないの! ジャンルがちがうの!」


「むー。そういうものなのか? お主ら人間はめんどいのう」


 さっきから『お主ら人間』なんて、上から目線で言っちゃって、この子何者? そういう病気?

 もしかして人間じゃないのかな……ここは異世界。エルフ(ニケア)だって悪魔(アステマ)だっている。なんでもアリだ。


「どこからきたの? こんなところでなにしてるの? ……そういえば、君の名前もしらないんだけど……」


「おお、そうであった。これは失礼した。お主に名乗っていなかったな。わらわの名は――」


「……うん」



「『冥王黒神暴君究極悪魔皇帝龍ヘルエンド・ダークネスオブ・フェルディナントワグナス』じゃ」



 腰に手をあて、堂々となのった黒髪の少女。誇らしげに胸を張っているので、ツンと上向く双丘の桜色シンボル。絶賛全裸継続中。


 ……なんとなく、そうだとおもったけど。それしか可能性無いと思ったけど。


「ですよねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」



 ☆



 最大の障害だとおもっていた黒ドラゴンの正体が、こんな少女だとは思いもよらなかった。

 オレを異世界に連れてきた『アステマ』が女神じゃなくて悪魔だったということよりも……。エルフの少女『ニケア』が見た目に反して超強い魔装剣士でキレる子だったということよりも……。思いもよらなかった。


 異世界……マジパねぇ。


「あのさ、とりあえずこれ着てくれ。ドラゴンだから服は着ないのかもしれないけどさ……」


 目のやり場にこまるので再度マントをとりだした。今回は押しつけるように渡す。


「む。わらわはドラゴンではないぞ」


 そういいながらも、しぶしぶといった様子でオレのマントを羽織る。


「へ? どういう意味?」


『冥王黒神暴君究極悪魔皇帝龍ヘルエンド・ダークネスオブ・フェルディナントワグナス(少女)』から話を聞くとこうだった。


 彼女はそもそもドラゴンではないということ。『黒神龍族』という存在で、いちぶの地域の人間達からは『神』とあがめられる存在であるという……。オレ達人間もドラゴンも『黒神龍族』を元につくられたという伝説? があることから『お主らやドラゴンがパクり』ということらしい。


 そして気になる眼帯と黒炎のような腕の紋様。やっぱり左眼と左腕に『真の躯』である龍としての身体を封じているからだという。


 ……なにそのリアルガチ厨二設定。


 いや、彼女にとっては、生まれついての事実だろうから、いわゆる厨二病とかではないんだけど……なんだろうこのモヤモヤ感。


「うーんとさ、じゃあドラゴンの姿と、いまの姿。どっちが本来の姿なの?」


「どっちもわらわじゃ。そのようなこと、考えたこともなかったの……」


 えらくざっくりしている。生まれたときからそうなのだから。本人にしてみたら考えたこともないのだろう。


「で、なんで? オレと……その、男女の……関係をしちゃう必要があるの?」


 いちばん聞きたかった疑問。初登場いきなりの『エロアプリご褒美』の理由をストレートに聞く。


「それは、ダイスケ殿がわらわを倒したからじゃ。強い者と結ばれて、よりすぐれた強い子孫をのこす。われら『黒神龍族』では、自然の風習なのだが」


 なにその風習、エロゲ設定かよ。と、心中でツッコむが。いってる本人は大真面目……。本人がそういうのなら、しかたがないよね。オレ達人間だって、よりよい条件の伴侶を求めるというのは、おなじ理由だろうから他種族のことはいえないか……。

 そもそも種族違うけど子どもできるの? できた子どもは黒神龍族なの? 人間なの? 力弱まらないの? とか細かい事は……専門家による調査が待たれるところだ(ぶん投げ)


「さ、話はここいらへんにして。はじめるとしよう」


 羽織っていたマントを滑らせ、オレに抱きつく『冥王黒神暴君究極悪魔皇帝龍ヘルエンド・ダークネスオブ・フェルディナントワグナス(少女)』


 そのとき――ゴオ。と、スイカ大サイズの炎球(グラ)がオレ達にとんできた。


「む、なにやつ!」


 まったく動ぜず、左腕でそれを受け止める『冥王黒神暴君究極悪魔皇帝龍ヘルエンド・ダークネスオブ・フェルディナントワグナス(少女)』。すると、『冥王黒神暴君究極悪魔皇帝龍ヘルエンド・ダークネスオブ・フェルディナントワグナス(少女)』の左腕にほどこされた黒い紋様が輝き、炎が腕に吸収されたようにシュワと消えた。『冥王黒神暴君究極悪魔皇帝龍ヘルエンド・ダークネスオブ・フェルディナントワグナス(少女)』は不敵な笑みをうかべ……っうか、名前なげぇよ! ダメだよ、いろんなことが、ちっとも頭にはいってこないよ! 炎球(グラ)とか展開がどうでもよくなるよ! これはいけない……。


「誰だそいつ!」


 いつのまにか近くにいたのは、悪魔っ娘のアステマ。紅い瞳がいつもより紅い……気がする。たいそう怒ってらっしゃる……。


「なにしてんだダイスケ! あんたはケダモノか! みさかい無しか! ちょっと目を離すとこれか!」


「……ちょ、ちがうって!」


 盛大に勘違いしているアステマ。いや、端からみたら、そのとおりにしか見えない件。


「なにがちがう! そういうスキルか! 主人公か!」


「はぁ? そんなスキルがあったら、むしろ欲しいんですけど! 甲斐性なしの悪魔になんか呼ばれたせいで、なんのスキルもなしに異世界やっているんですけど! だいたいオレが誰と抱き合おうともにおまえには関係ないだろが!」


「ニケにいいつけるよ。切り刻まれたいの?」



「すんませんアステマさん。それだけは勘弁してください」



 本気であやまるオレ。ここに来たのがアステマでよかったよ。ニケアだと問答無用だっただろう。きっと、気がついたときにはオレの首と胴は離れていた(すでに死んでいた)に違いない。


「……そんなことよりも、そいつ誰?」


「あ、えっと……この娘は」


 せつめい面倒だな。そもそも名前ながすぎるし……。よしこの際、名前をバサッとみじかくしてやるか。


「彼女の名は『黒神フェス』」


「「『黒神フェス』?」」


「そんで、フェスは……オレの妹だ」


 抱きついていることを説明するために、テキトー設定を付け加えることを忘れないオレ。おっし完璧だ。アステマなら、これで納得する(ダマせる)だろ……。


「へーそうなんだ。なんだあ、ダイスケの妹か……」


「む。ダイスケ殿? わらわが『黒神フェス』? お主の妹? どういう――いたっ」


 オレは『フェス』のお尻をぎゅっとつねる。

 うん……名前短いとイイネ! あと、お尻の感触もついでにイイネ!


「そうなんだアステマ。フェスのやつ、ついさっき異世界(こっち)に来たんだって。ふたりで再会を喜んでいたところだ」


「再会ねー。ふーん。それはいいけど、なんで裸なの?」


「全裸なのはちょっとした手違いだ。服だけ転移できなかったんじゃね?」


 アステマが相手だからと、さらにテキトーなことをいうオレ。


「そうかーたいへんだったねー。そんなこともあるんだねー」


「そんなこともあるんだなー」


「妹さんとなら、全裸で抱きついていても仕方が無いよね」


「そう、妹とならしかたがないよな。はは……」



「って、そんな設定。ねえよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

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