大決戦!『冥王黒神暴君究極悪魔皇帝龍ヘルエンド(~以下略)』
闘技場についた。
ドラゴンをみた。
勝った。
前回とおなじように、闘技場の観客席につくと……。リングの中でフツーに首をもたげていた黒ドラゴン。オレは心の【いいね!】ボタンを連射する。話はやいねキミ。ストレスフリーだね! そういう子、オレは大好き!
そんなわけで、ジェラートが『ですっ☆ノート』にドラゴンを描くと――
おおきく、ビクン。という反応があり……
「――グワァアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
断末魔ともとれる咆吼が、ビリビリと闘技場の観客席に反響し、黒ドラゴンはその巨体を地に横たえ――弾けるようなエフェクトを伴って消滅したのだった。
あれだけオレ達を苦しめたのが嘘のように、いっしゅんで消えた。
こうして『冥王黒神なんたららららららららららららららららららららフェルディナントワグナス』は滅んだ。
あれ? 冥王黒神のあとってなんだっけ? 『暴虐覇王四天平成傾城絶世……』たぶんちがうな……。でも、いいか。もうでてこないし、いまさら名前覚えなくてもいいよね。バイバイ。
「ダイスケさん! やりました!」
抱きついてくるニケア。オレはその小柄な身体を受け止める。
「異世界の勇者殿……。どうやら作戦は成功したようだ。感謝する」
「いや。絵を描いたジェラートのおかげだ。ジェラートがいなかったら、うまくいかなかった」
「それはそうだが。わたしには思いもよらない方法だった。これはダイスケ殿の手柄だ。さすがだよ」
「そ、そうかな……。そうだよな!!」
「……ええーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
勝利に酔うコングラチュレーションなオレ達を他所よそに、ひとりだけ、ぐんにょりとしているアステマ。
「なに不満そうな顔してんだよアステマ! えーー。とかいわない! なんなのオマエ? だったらオマエがドラゴン倒してくれたんですか? 倒せたんですか? フツーに戦って倒せないでしょうが!」
「ちょ……ダイスケ。そんなに顔真っ赤にしないでよ……」
「だったら、そういうカオをしない! これがオレ達のやりかたでしょうが! ウチはずっとこんな感じでしょうが! ブレてないでしょうが! バトルとかは、そういうのが得意な他の勇者に任せればいいんです! ウチはウチ、他所は他所だからね!」
「わかったから……わかったから。カオちかいから……。あたしがわるかったから……ね? おめでとーダイスケ。さすがだねダイスケ。ついにドラゴンたおせたねーパチパチパチ」
「わかりゃいいんだよ……」アステマのやる気のない拍手が気になるけど、勘弁してやるか。
そういうわけで、気を取り直して。オレは独り拳を天に突き上げ、勝利のポーズ。
《YOU WIN》
という脳内再生ボイスと共に、――パララララララ。と、なんらかのスコアが加算されていく感。
(※あくまで個人の感想です)
「……ダイスケ? なにしてんの?」
「い、いや……ちょっと、心の奥底からの衝動が……だな」
「やっぱり、くるったの?」
「アステマさん……あの、ちょっと」
気まずそうな表情で、ニケアがアステマの腕をひっぱる。ごく小声でつづける。
「ダイスケさんはときどき、こうです。……ダイスケさんしかいないはずの部屋から独り言とか……絶叫とか……。ちょっとこわいんですけど……きっとだいじょうぶ。ニケが寄りそって生きていこうと思っています」
オレに気をつかっているようだけど、丸聞こえ……。
「ちょ、やめてニケア! そういうときは言って! おねがいだから言って! もしくは完全にスルー推奨!」
「………………ダイスケ」
――ポン。
ものすごい同情視線で歩み寄るアステマが、オレの肩に手を置いた。
なにその哀れみの視線。
「だいじょうぶ……だいじょうぶですダイスケさん。ニケがいますからねー。おーよしよし」
「う……うん」
オレをなぐさめてくれるエルフ嫁の、ない胸にカオをうずめた。
ちっとも、うずまらないけれど。胸はやっぱりないけれど……。
でも、その胸は……とってもあたたかかった。
☆
そんなことから、すこし間があり――
「魔力ドーム解けないね……」と、天を見上げてアステマ。
「そういえば、そうだな……」オレもつられて、上をみる。
そこにあるのは、いままでと変わらない魔力ドームの青白い天井。
黒ドラゴンが消滅した、このタイミングで街を覆っている魔力ドームが解けるとタイミングバッチリなんだが……。とくに変化はなく、そのままだった。これはイマイチ。
「なんでかな?」
「たぶん。まだ他にもドラゴンがいるんだとおもいます」と、冷静な分析をするニケア。
「そうか。ドラゴンをぜんぶ倒さないとダメなんだっけ……うっわ。めんど。あたしパスねー」
……いや、アステマ。おまえ常にパスだよね。
「仕方ないですね。でも、黒ドラゴンが消えたいま、もう少しです。外をみてきます。ダイスケさんたちは、ここで待っていてください。残りはニケがやります」
たしかにそのとおりだ。おおボスだった黒ドラゴンさえ倒せば、あとはどうにでもなるだろう。
「3時間だけまってあげる。それ以上はまてない」指を3本おったてて、ニケアにつきだすアステマ。
……いや、アステマ。おまえ何様?
「わかりました。でも――」そういって、つきだされたアステマの指を2本たたむニケア「1時間でけっこうです」
うっわ……めちゃかっこいい! そんな台詞、オレも言ってみたいんですけど! うん。彼女に任せておけば、だいじょうぶ感ハンパない。
「やるじゃんニケ」グーを突き出すアステマに、ニケアもグーをだして――コツンと合わせ応える。
「ダイスケさんを、お願いします」
「わかった。任せておいて」
なんか、この2人。いつのまにか友情が芽生えている気が。ようしオレも……。
「このダイスケ。老体といえども、まだまだ若いもんらには負けぬ。ワシも共に行こう」演技して、しわがれた声をだすオレ。
「「……………………」」
リアクション無しで、ガチスルーする2人。マジこいつなにいってんの? といった系の視線すらない。あれ? これって鉄板のボケじゃないの? 面白くなかった? 異世界人には通用しないの? これが文化の違いなの? いちばん心にくるパターンのリアクション……。ごめんよ2人。無視しないでよ……。こっちみてよ、お願い。
「じゃあ、いってきます」
「がんばってねー」
立ち去るニケアと、それを見送るアステマ。
「ぷっ、くく。ダイスケ殿……。いまのは、よかった」
涙目のジェラートだけが、そう声をかけてきた。
彼にだけは…………ウケたようだ。
☆
「ニケ殿はいい娘だな、それに引き換え……」アステマに嫌悪の視線をとばすジェラート。
「あんだ? ジェラート! ドラゴンを倒したいま、おまえは用済みだ。やるか!」
「のぞむところだ悪魔! ここで決着をつけてやる!」
手に炎を宿すアステマと、剣を抜き放つジェラート。
「まぁまぁ、ふたりとも。落ち着いて。な?」
オレはあいだに入って、2人ををなだめる。
おおきな目的が果たされるとこうなっちゃうよな。
ニケアが残りのドラゴンを退治すれば、魔力ドームが消えてそとに出られるだろう。そうなれば、ふたりの接点ないだろうから、いまだけガマンかな。オレは、そんなことを考えながら、あっけなく倒された闘技場の黒ドラゴンがいた空間を眺めると――
「!? ……うん?」
なにかが、ある? 眼をほそめてみると、ポツンと倒れている人影らしきものが確認できた。なんだろう?
「どこいくのダイスケ?」
「ちょっと、みてくる」
オレはアステマにそうつたえ、黒ドラゴンが消えた闘技場のリング内へと向かった。




