アステマ容疑者、確保ォオ!!
「アステマ確保ォオ!!」
オレは再びアステマに飛びつき、すばやく後ろ手に縛り上げる。
「へ!? えっ……え? いきなりプレイ再開!?」
「プレイとか、ごまかすなアステマ! ロークとブッケ。および子ネコのアスニャン殺しの容疑者としておまえを拘束する!」
「は……え?」
「おまえが殺ったんだろう? 正直にいえ!」
「ちょ……ちょっとまって! いまアスニャンが殺されたって? アスニャンの身になにかあったの? なんのことか説明して!!」
「!? あれ? なんだそのリアクション……」
詰め寄るアステマ。その真剣な表情に気圧されて、オレは縄をしばる手を緩めた。
☆
オレはアステマに、状況をかいつまんで説明をした。ロークとブッケがしんでいたこと。同時に子ネコのアスニャンまでがしんでいたということ……。
アステマはアスニャンのくだりを聞くと顔色を変え、プルプルと震えだしていた。
そんなとき、オレの耳元に口をあてるようにニケアが囁いた。
「あの、ダイスケさん……」
「どしたの?」
「……アステマさん。犯人じゃないかも」
「……だな。オレもそう思っていた」
「あと、もうひとつ……ずっと気になっていたんですが。聞いてもいいですか?」
「ん? あらたまってどうしたの? いいよ」
「『ぷれい』って……なんのことですか?」
「うっ……それは」
無垢な表情で問うエルフ少女の瞳をみて、とまどうオレ。
「アステマさんがいっていた『ぷれい』って、なんのことなんですか? さっきから気になってしまって……」
……どう答えるんだよ、これ。これならまだ『こどもはどこから来るんですか?』とか、聞かれたほうが答えようがあるレベル。
「どうしたんですか? ダイスケさん、おしえてくださいっ」
「(わかった……おしえてあげるよ。たっぷりと、きみの身体にね!)」
……ダメだダメ。却下。どう考えても、この回答は最悪……。
純真なニケア相手にそんなこと……。いまはまだ、その時ではない。待つのだオレ。
「なにしてるのダイスケ! アスニャンはどこ? 案内してはやく!!」
「……お、おう! そうだったな。わかった!」
アステマのひとことに救われた。オレはここぞと大きなリアクションで立ちあがる。
「みんな、こっちだ急げ!」
「……あ、ダイスケさん、ちょっとまってください!」
「なにをしているのニケ? さ、いくよ!」
「……あの、まだ答えを聞いていな――」
「と、とにかく急ぐんだ! いまはその話しをしている時間はない!」
これ以上聞かれると説明に困るので、とにかくニケアを急かす。そんで部屋を駆けだした。
「『ぷれい』って、なんだろう……?」
首をかしげるエルフの様子が視界の端にはいってきた。
☆
食堂に戻った。テーブルの上には毛布に包まれて子ネコの遺骸がのる。
それを囲むようにオレとニケア。そして、ポロッポロと涙を流しているアステマ。
「まさか……アスニャン。こんなことになるなんて……嗚呼、ごめんねアスニャン。あたしが冷たくしたばっかりに。仲直りしたかった……」
「アステマさん……」
嗚咽をもらすアステマの肩に手をおくニケア。もらい泣きといった様子で、その目には涙がにじんでいる。そんなにネコが好きだったんだなアステマ。意外な一面だ。
「いちおうそこに、ロークとブッケも……」
「は? 寿命でしょ」
真顔でアステマ。悪魔の一面だ。
……老人ふたりの扱い酷えな。
「誰があたしのアスニャンをこんな目に遭わせたんだ! 許せない!!」
オレとニケアは顔を見合わせた。オレ達を騙すような演技ができるほど、アステマは器用なやつじゃない。みずから子ネコを殺めておいて、こんなに悲しんだり怒ったりすることはできないだろう……。どうやらアステマは犯人ではない。シロだ。
「オレはてっきりアステマが犯人だと思ってた」
「ニケもてっきりアステマさんが犯人だと思いました」
「……あんた達。あとでゆっくり話あおうか」
「だとしたら、誰がいったい……」
「そうですね。屋敷に侵入された形跡はないですし……」
「いや……もう一人いるでしょ。この場にいない唯一の屋敷の住人。根暗な皇帝陛下サマが……ジェラートが!」
「「あ!」」
「いま、きがついたのかよ! フツーそっちでしょ!」
「あまりにも……。あまりにも大きな『アステマ容疑者』という可能性の影に隠れて、オレは気がつかなかった……」
「……木を隠すには森の中とは、よくいったものです。疑惑の森アステマさんが居る以上、どんな罪もアステマさんの仕業と思い込んでしまうのは仕方のないことです。みごとな捜査の攪乱です」
「盲点だった……」
「盲点でしたね……」
「あんた達さ……じつは、バカでしょ?」




