『嫁選び』強制イベント。ダラララララララララ……
「……それにはおよびません」静寂を破ったのは愛するエルフ。決意を秘めたといった表情でこうつづけた「ニケが去ります」
「ニケア!?」
「ごめんなさい……。また、ダイスケさんを殺めてしまいました」
「いや、オレ生きているけど……」
「それは、そうですが……ダイスケさんが化物じゃなかったら、確実に殺めていました……」
……化物て。それ、地味に傷つくんですけど。
たしかに、そのとおりなんですけど……。
「とちゅうで我に返って、手加減をしたんですが……」
手加減してあの威力て……。もう少しで真っ二つだったよね。
「なににせよ、ニケは……ダイスケさんのお嫁さんには相応しくありません」
グッとちいさな下唇を噛むエルフ「……だから、去ります」
「うん……しかたないねー。外は酷いことになっているけど、いいの?」とアステマ。期待通りの流れといった様子だ。
「いっしょにいたら、またダイスケさんを殺めてしまうかもしれませんから。……もう怒りに身をまかせないって誓ったのに……ダイスケさん。ほんとうにごめんなさい」
ペコリとオレにあたまをさげるニケア。だいぶ自分を責めているようで、みているオレの方がいたたまれなくなる。
「あんたとは色々あったけど。元気でねニケ。あんたの戦闘力なら外でも十分やっていけると思う。か弱いあたしにはムリだけどさー」
「さようならアステマさん。……そしてダイスケさん。いっしょに暮らせた日々は、すごく幸せでした」
そのまま部屋を出ようとするニケア。伏せ目がちでオレとは目を合わせようとしない。
「ちょ、ちょっと待って! ニケア!」
「そうだ! ちょっと待って!」オレの声をさえぎるアステマ。なにかを思いついた。といった、いじわるな笑みをうかべつつ「せっかくだから、こういうことはダイスケの口から、ちょくせつ聞かないと! ニケこっちきて! こっちきて座って!」
そういって、去りかけていたニケアの肩を押して部屋の中央に連れてきた。
「!? えっ……え? アステマさん? なにを?」
「じゃあ、そういうことだからダイスケ。あたしかニケか選んで。結果はわかりきっていることだけどさー」
戸惑うニケアの隣にアステマも座った。オレの前には二人の美少女が並んでいる。
紅いショート髪と瞳をもつ悪魔っ娘【アステマ】
ショートボブ金髪碧眼のエルフっ娘【ニケア】
自信満々といった笑顔をうかべたアステマの表情とは正反対に、暗く浮かない表情のニケア。
「ダイスケに選ばれなかった方は、この屋敷を即座に去ります! さあ! 運命の選択!! ダラララララララララ……」
じぶんの口で小太鼓の盛り上げ音を表現するアステマ。
……おまえノリノリだな。このシチュエーションを全力で楽しんでいるな。
「あたしかニケか? 選んでダイスケ!! さあ!!!!」
「【ニケア】」即決するオレ。
「イエーイイ!!」かぶせ気味に、両手でVサインをキメるアステマ「そうそう、ニケア……って、ええ!? あれ? ちょ、まってダイスケ! あたしアステマだよ!」
「……しってる。いまさら、このタイミングで名前を間違えないだろ」
「あたしとニケだよ。可愛いあたしアステマ。ダイスケを斬ったのはニケ」
「だからニケア」
「あはは。こんなときにジョーク? それ、笑えないんですけど?」
「ジョークじゃないし。……いや、なんでおまえがさっきから自信満々なのか、オレは理解できないんだが……さいしょから欠片も微塵も、おまえを選択する意思ないんですけど!」
「じ、じゃあ……あたしかニケか? 選んでダイスケ! さあ!!」
「さらっと巻き戻すなよ。……ニケア」
「あたしかニケか? 選んでダイスケ!! さあ!!」
「二・ケ・ア!!」
「あたしを選んでダイスケ!! さあ!」
「選択肢の無限ループとか、そういうのいいから……。おいでニケア」
「……いいんですか? ニケで。こんなニケで」
「あたりまえだろ。君以外にオレの嫁はいない。すこし殺されたぐらいでゆらぐエルフ愛なら、そんなものは愛とはいわないさ」
日本語としてすこしおかしいが、そういいながら、おもいっきり愛するエルフを抱きしめた。
「……く、くるしいです」
「かなしい思いをさせてごめん」
「ニケもダイスケさんを斬ってごめんなさい」瞳をうるませながら、そんなことをいうニケア。悪いのはオレなのに……。
「ちょ、ちょっとまってダイスケ! ここはあたしを選ぶ流れじゃない? だって、あんなにやさしくしてくれたじゃない! なぐさめてくれたじゃない!」
「……それは、トモダチとしてだ」
「じゃ、あれは? あんだけキスをした!」
「それは、まぁ……」
「しかも! フツーのキスじゃないからね! DKだからね! DK!」
「……だって、おまえ可愛いし」
「可愛い……それは、うれし――」
「遊びだ」
「………………………………遊び」
「おまえとは、ただの遊びだから」
「本人をめのまえに『遊び』と断言……。しかも、なんてさわやかな笑顔なんだ……」
☆
「あの……ダイスケさん。これでいいんですか?」
「いや、ニケ。あんたがそれでいいのかよ……こんな男の嫁で」
うっさいぞアステマ。どっかいけ。
「あたりまえだ。オレは誓っただろ? 『君と結婚する』って。たしかに、オレはちょっぴり……ほんのちょっとだけ、わずかばかり遊んじゃったかもしれない……」
「……ちょっぴりだったかな、あれ? がっつりだったよね? 罪の軽減に必死だよね……」
「ただ、そんなことでニケアとの結婚の誓いを破るような、……じぶんに嘘をつくような卑怯者にだけはなりたくはない! オレはニケアと結婚するんだ!」
「……セリフの勢いは、つよい意思を感じさせる系なんだけど……。やっている行為は、ゲス極まりないんですけど」
たっぷり湿度なうるおい視線をオレにむけてアステマ。
「去れアステマ! おまえとはただの遊びでした! 消えうせろ!!」
「非道い!」
「ゴチャゴチャいうな! 遊びは終わりだ! おまえもしっかり楽しんでただろが! ああん?」
「非道い非道い非道い!!!」
☆
「じゃ、そういうことで。さようならアステマさん。……あの、よかったらこれ食べてくださいね」
テーブルに乗ってた、だれかの食べかけコッペパンを適当にわたすニケア。
「あ、餞別ね。イイね! じゃあオレも。アステマ。これをつかってくれ」
オレは腰から、ちっさいダガーをひきぬいて無造作になげて渡す。
「!? あれ……。強制お別れイベントきた!?」
「外では気をつけるんだぞ」
「がんばって生き残ってくださいね」
「パンとダガーて……。こんなダガーていどで、外の地獄でなんとかなる気がしないんだけど……」
「応援しているぞアステマ(屋敷の中から)」
「アステマさん祈ってます(屋敷の中から)」
「その……やっすいガッツポーズとお祈りポーズやめてね……。あんたたち、そうしてるとすんごくお似合いだ」
「さようならアステマ、元気でな」
「さようならアステマさん、お元気で」
「なんてカラッカラの、お別れのことば……」
「どうした去らないのか?」
「さっき潔く去るって……」
「は……え? いまなんかいった?」
すっとぼけるアステマ……。
いや、この至近距離で聞こえない訳ないよね? いままでバッチリ聞こえていたよね?
「「(じーーーっ)」」
オレとニケアの視線がそそがれる。アステマの額に汗。
「ぜ、ぜったいここをうごかないから! あたしは屋敷をでていかないから!」
ベットの上に飛び乗り、そのままぐるぐると布団にくるまるアステマ。どうやら籠城の決意だ。
「わかりましたアステマさん。そのままでいいですよ」
慈愛にみちた笑顔をうかべるニケア。いつものやさしい彼女の姿。
「ほっ。……あ、ありがとうニケ。やっぱりあんたはいいエルフだ、これからも仲良くしよ――」
「……実力で排除します」
笑顔のまま、ニケアの目が碧く光る。これは本気だ。
「た、たすけてダイスケ! ニケになんとかいって! あたしたちトモダチでしょ!」
――プイッ。
視線を逸らすオレ。
「……あ、ト……モダチ。…………でした、よね? でした…………かね?」
すまんアステマ。オレはオレの命が惜しい。
「さ、アステマさん。潔く去りましょうねー。自分で言ったことですから」
「ダイスケの薄情者! 人間はトモダチを大切にするから素晴らしいってパパがいってたのに! 人間の友情はときとしておそろしい程の力をだすって……、だから侮れないってパパがいっていたのに!」
「いや、どうやらオレ、人間をやめたてみたいだし。……だれかさんのせいで」
――プイッ。
こんどはアステマが視線を逸らした。
「無駄話はもういいですか? さ、アステマさん、こっちですよぉ~」
ゆら~りと、ニケアがアステマに歩み寄った。
☆
「……そろそろ、アステマを許してやろう。冗談、冗談だよ」
布団を引き剥がそうとするニケと、そうはさせないと抵抗をするアステマ。そんな二人に声をかけた。
「!? うう……ありがとダイスケ」
「え? 冗談? そうだったんですか?」と、マジ顔でニケア。
「ご、ごめんなさいニケ。なんでもします! なんでもしますから!!」
「……なにもしなくていいです。むしろダイスケさんとは、なにもしないでください」
「うんうんうん」ブンブンと、頭を縦にふるアステマ。
「プッ。わかったかアステマ。もうキスはするなよ」
「……ダイスケ。さんも!」
「は、――ひゃい!」
「ほんとに、もうやめてくださいね。……さすがに次は本気で斬っちゃうかもしれません。両手剣モードで乱切りしちゃうかも。ダイスケさんの再生能力とニケの斬撃の速度対決です。……ぜったいに負けないですよ」
ニッコリとしたニケアの微笑み……怖ッ。
「それとも……再生できないように瞬間凍結した上でシャリシャリと細切れにしちゃうかもしれません。そうですね……これなら完璧です。うふふ」
「ぎょ、御意ー!」
オレは90度の角度でエルフに頭をさげた。
☆
「あのさ? 気になっていたんだけど。……あんた達、なんであたしの部屋にきたの? なにしに来たの?」
間があって、場がまったりしかけたところで、アステマのひとこと。
「「あ!?」」
顔を見合わせる、オレとニケア。
……そうだった、こんなしょうもないことをしている場合ではない。
オレたちの住む屋敷内でロークとブッケ、あろうことか子ネコのアスニャンまで殺されたのだ。その犯人を捜さねばならない。
嫁選び強制イベント。これにて終了。
そして時は動き出す。




