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どうやら魔王になっていたようです



「……あれ? ここは」


「気がついた? ダイスケ?」


 そういってオレの視界いっぱいに入っていたのは紅い瞳の美少女。もちろんアステマだ。

どうやらベッドの上でこいつに膝枕をされている体勢のようだ。


「痛ッ。オレはいったい……」


 ……たしか、アステマとキスをしまくっていることがニケアにバレたんだったよな。そんでニケアに斬られたんだっけ。


 みるとオレの胸にはバッサリと斜めにおおきな傷跡がある。ニケアの氷剣によるものだろう。そこからシュワシュワという音とともに泡のようなものがでていた。あきらかに致命傷といえるレベルの傷だけど……。オレ生きてる?


「なんだコレ? 傷がふさがっている……のか?」


「ふふん。おどろいたみたいだね。みたか! これぞ、魔王脅威の再生能力だ!」


「『再生能力だ!』じゃねーよ!! なんだそれ? オレの身体に何をしたアステマ? ……そうだ、さっきも言ってたけど、オレが魔王ってどういうことだよ!」おもわずガバッと身を起こすと、胸から鈍い痛みがした。でも動けないとかそういうことはなくて、ほんとうに傷が治っているようだ。


「……よかったねダイスケ。魔王じゃなきゃ、しんでたよ。感謝してよね」


「いや……だから。オレが魔王って何?」


「え、知らないの? ダイスケは魔王なんだよ。キャハハ」


「……初耳なんですけど」


「あれーそうだった? あたし、いってなかったっけ?」


「……聞いてない。だから詳しく教えてくれ」


「しかたないなー。えっとね、まえにニケが無慈悲な『グルグニル・アイス』でダイスケを殺害したときあったじゃん。そのとき蘇生してあげたじゃん?」 


 異世界にきて、はじめて死んだときのことだろう。ニケアとアステマの争いに巻き込まれたときのことだ。


「あのときは、おまえも全力で『グラゾーマ・フェニックス』を放っていたけどな……。……それはいい。そのときにおまえがオレに魔力をくれたんだろ? それでオレは生き返った……」


「それはそうなんだけどさー。そもそも魔力をあげるにはさ、悪魔同士じゃなきゃムリなんだよねー。いちおう人間のダイスケと、あたしとの間では魔力のやりとりとはできないんだ」


「……続きを」


「だからさーダイスケを魔王にしてあげた。そしたらうまくいったんだよね。あたしってマジ天才。誉めてくれていいよ。誉めてー」


 キラッキラした瞳でオレをみつめてくるアステマ。


「…………ほらよ」


 オレは乱暴に髪をクシャクシャしてやる。


「ん……。パパがしんでからさ、あたしがいちおー魔王だったんだけど。そういうのあんま興味ないからダイスケに魔王位を譲ってあげたんだよ。……だから、シン・マオウとしてがんばってね!」


「……そうか、異世界でオレもついに魔王に…………って、かってに魔王にするな!!!!」


「いたいいたい! あたまグリグリしないで! いたいいたい!!」


「本人の同意なしかよ! ふっざけんなよアステマ!!」


 どうやらオレは、いつの間にか人間をやめていたらしい……。そんなおいしいイベントを一切をしらないまま過ごしていたなんて……。


「だって、あのときダイスケ死んでたんだよ! どうやって同意得るのさ?」


「……くっ、アステマのくせに正論を」


 たしかに、そのとおりすぎた。いきおいで抗議してしまったが、あのまま死んでいたことをかんがえると、アステマのとっさの判断は悪くない行動といえた。街ごと魔力ドームに閉じ込められているとは言え、屋敷で楽しく暮らせているし……。いつのまにか魔王っていわれても、具体的になにをするのか実感ないけど……。


「あれ!? うれしくないのダイスケ? 魔王だよ魔王? みんな憧れの職業だよ? それに、このほうがさ――」


 きゅうにもじもじするアステマ。


「……なんだよ」


「面白いじゃん!」


「やっぱり、それかよ!」


「あのときは、あたしもパニクっちゃってて……。とにかくダイスケがいなくなっちゃうのだけは……嫌だったから、さ……」


「……アステマ」


「ごめん。嫌だった?」


「いや……。ここは、ありがとう。かな」


 いなくなったら嫌だと伝えてくる悪魔の好意に、オレは素直に感謝した。


「うん。おなじ仲魔同士。これからもずっと、なかよくしようね!」


 誰かに聞かせるといった様子で、そう強調するアステマ。


 うん? 誰か? そういえば――



 ☆



「そういえば、ニケアは?」


「ずっと、あそこにいるよ」


 みると、はなれた場所にいるニケア。アステマの部屋の隅で体育座りをしていた。うす暗い部屋の隅で、その両眼だけが碧く輝いている。この様子。すんごい既視感なんだけど……。


 そんなニケアはオレと目があうと――サッ。と視線をさげた。抱えた膝の間にはんぶん頭をうずめる。エルフ耳のシルエットだけがしっかりと目に入ってきた。


 その様子から、ずーんと落ち込んでいるのが、ひしひしと伝わってくる。オレを斬ってしまったという後悔+オレがアステマとキスをしまくっていたという、ダブル落ち込み効果のたまものだろう。


 ……これはいけないな。オレの可愛い嫁に、かなしい思いをさせてしまっているようだ。でも、部屋から去らずにこの場にいるということは希望がある、フォローをして。ということなのだろう。ニケアのことだから、オレの身体の心配をしてくれているのかもしれない。アステマとのことは謝って許してもらおう。


 気づくと、胸の傷はミミズ腫れを残すだけとなっていた。すごいな魔王の再生能力。……これって、かなり使える能力だよね。オレはそんなことを思いながら立ちあがる。ニケアの近くに向かう――


「ちょっと待ったダイスケ! よく考えて!」


「……なんだよアステマ」


「ニケはさ、またダイスケを斬りつけたんだよ。明確な殺意あったんだよ。迷いなかったよ」


「……そうだけどさ。こんかいのはオレが悪いし」


「あのさーちょっとキスしたからって斬っていいの?」


「……ちょっとじゃ、なかったしな」


「ダイスケ。そろそろはっきりさせない?」


「なにをだよ……」


「あたしとニケ。どっちを選ぶつもり?」


 ――ビクッ。と肩をふるわせるニケア。


 ふふん。と、ない胸をそらせるアステマ。本人はあるつもりだけどぜんぜんない胸。ほんとうに、これから育つのかその胸? ムリじゃね? ……って、胸の話はいまはいい。


「さ、ダイスケ。はっきりさせよ。あたしとニケ。どっちか選んで」


「……ここで?」


「いますぐここで。ハッキリさせて。そして選ばれなかった方は潔く去る。いいねニケ」


 ――コクリとうなずいて、より深く膝の間に顔をうずめるニケア。


 ……ここでまさかの『嫁をえらべ』強制イベント発動。


 どうするオレ? どうするよ。

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