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太陽の沈まぬアステマさん

「ここいがいの何処かなら……どこでもOKさ!」


 親指にグッと力をこめたサムズアップもキメる。


「なんてキラッキラした笑顔なんだ……。そんな笑顔もできるんだね」


 暗い表情でアステマ。


「世界は広いぞアステマ。世界に飛び立てアステマ! おまえには立派な翼がある(リアルで)いまこそ、はばたかせろ! その自由の黒い翼を!」


 ここは白い翼といいたいところだが、じっさい黒いものは仕方が無い。


「!? ひびかない! ここまで心にひびかない言葉をもらったの、あたしはじめてだ……」


「だから、どっかいけ」


「!? 直球キタ」


「シッシッ」


「うー。ダイスケのばか……ばか」じぶんのひざに、ふかく顔をうずめるアステマ。


 よし……。オレは撃沈したアステマの様子を確認して、ふたたびニケアの耳に唇を――


「あの…………ダイスケさん……。やっぱり、恥ずかしいです。それに……」


 そういったニケアの耳は、先端まで真っ赤だ。身をよじらせてオレに向き直る。


「アステマさんは、聞いてほしい話があるんじゃ……。たいせつなトモダチじゃないですか。ニケは席をはずしますね、また後できます。お話がおわったら呼んでください」


「あ、ちょ……待って」オレの制止をきかずに、ニケアが部屋を去ってしまった。


「ありがと……ニケ」と、アステマの声が、ちいさくひびいた。



 ☆



「ニケニャン。いえ……いまはアスニャンだったね。……あの子に、あんなに嫌われるなんて……ほら、やっぱりあたし、悪魔だからさ……キャハハ」静寂をやぶったのはアステマ。


 自嘲的な乾いた笑い声をあげた。


「いつもそうなんだ……仲良くしようとすると、こうなる……いつも……こうだ…………ひとりぼっちだ」


 子ネコの件で、おもっていたよりも精神ダメージを受けていたらしい。こいつのことだからケロッとしているのかと思ったけど。意外にもこういう一面もあるんだな……。


「あのさ……。トモダチのダイスケにはおしえてあげる。じつはさ、あたしのパパ。魔王だったんだ」


「へっ?」


「意外だった? そうだよね。おもいもよらないよね……」


 ……おもったとおりすぎた。


「おどろいたでしょ? かわいくて純粋で高貴で汚れを知らぬ美しさで気品をもち慈愛にあふれ幸福のシンボル的存在なあたしが」


「自己評価高ッ!!」


「そんな人呼んで『太陽の沈まぬアステマ』が……、魔王の娘だったなんて……」


「『太陽の沈まぬアステマ』て……」


 もはや個人を讃える称号じゃねぇよ、それ……。っうか、誰がいっているんだよ、ぜんぜん聞いたことがないんですけど!


 それにしても、アステマが魔王の娘とは……。なんとなく普通の悪魔じゃないとは思っていた。高い魔力や伝説級のアイテムをもっていたりと、無駄なハイスペックぶり。中身は残念だけど、すんごく残念な子だけど……。魔王の娘だというのなら、いろいろと納得。


「驚いたでしょ……」


「いや……」


「嫌いになった?」


「別に……何故?」


「……だって、ダイスケの世界の人間って女神にそそのかされて、あたし達……悪魔を、魔王を倒しにくるじゃない。……ぜんぜん関係ないのに。そっちの人間の世界になにもしていないのに……迷いなんて微塵もなく襲ってくる。だから嫌いなんだろうな、って……」


「……たしかに」


 オレは悪魔のアステマに連れられて、いわば邪道ルートで異世界こっちに来たけど……転生女神の正規ルートで来ているやつも多いのかもしれない。いわゆる異世界転生or転移というやつだ。好きとか嫌いとかいうよりも魔王を倒すというのが定番の目的だろうし……。いわばクエスト目標だからな……。


「……そういうの……なんか怖い」


「まぁ、そうだな……」


 魔王側の立場でものを考えたことがなかったから、そんなアステマの言葉にちょっと考えてしまう。


「あたし達は、ただ好きで生きているだけなのに。なんかしらないけどタゲられて、定期的に無茶な強さの勇者が現れてさ。襲われて退治されるなんて、おかしいよ……。だいたいさ、人間も神も好き勝手やってるじゃん。それなのに勝手な都合であたしたち悪魔ばっかり……。パパの最期だって……独りで戦ったのに……4人がかりで。しかも毎日何連戦もさせられて……だからあたし……女神になって――」

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