ニケニャンからアスニャンへ
「なんだダイスケ。ケチ!」
口をとんがらせるアステマ。
「拗ねてもダメだ」
「じゃあ、ジェラートはいいの? あんな手負いの人間なんて、役立たずじゃんか! ぜったいネコより食うじゃんか!」
「……ジェラートはいいんだよ」
ジェラートは落ちぶれたとはいえ皇帝だ。ドラゴンを倒し祭りを終わらせることができたら、彼の存在は非常に大きいものだろう。帝国の版図は広いらしいから、外の世界では未だその権力は圧倒的なはず。きっと、褒美も期待できるだろうし……だから、キラーカードとしての利用価値がある。
「ダイスケさん。あの……」
おずおずとニケアが前にでてきた。その胸には子ネコを抱いている。
「どうしたんだニケア……って(うっわ……かわいい)」
……エルフ美少女と子ネコって相性抜群じゃないか。かわいい✕かわいいの破壊力。これで心がグラッとこない男子はいない(断言)このままスマホの待ち受けか、ポスターにしたいレベル。
「……ニケからもお願いします。この子を屋敷で飼ってもいいですか?」
「は? なにいってんのニケ。そんなのダメにきまってんでしょ? あんた、いままでの話きいてた?」
「いいよ。ぜんぜんオッケー。オレもそうおもってた」
「ファッ!?」
「こういう状況だからこそ。癒やしは必要だ」
「は? なんだそれ!! あたしのときと扱い違くない?」
「そうか?」
「ダイスケさん、ありがとうございます!」
パッと顔を輝かせるニケア。……うん、その笑顔のためにオレは生きている感。
「いいよいいよ」そういうオレは、自分の頬がゆるんでいるのを自覚する。他ならぬエルフ嫁、ニケアの頼み事ならなんでも叶えたい。
子ネコはニケアの胸元でゴロゴロと喉を鳴らしている。
「エサのことは心配しないでください。ニケのぶんを分けてあげます」
「あっしのも」「わたしのもつかってください」と、ロークとブーケ。
「ロークさん、ブーケさん。ありがとう」
「いえ……ニケ様の為なら」「ぜんぜん構いませんとも」
人望あるなニケア。人柄……じゃなかった、エルフ柄の為せる技だな。
「ニケア、とうぜんオレの分もつかってくれ」と、言葉を付け加えるのも忘れない。
「じゃあ、この子の名前を決めないといけないですね……かわいい名前をつけないと」そういってアステマを横目にするニケア「……そうだ『アスニャン』にします! かわいいですよね『アスニャン』!」
「……う、うん。いいんじゃないかな」
かわいい? のか……その名。なぜに『アスニャン』かは、ツッコまないでおこう。すんごい身近に似た名前の悪魔がいるけど気にしないでおこう。先に仕掛けたのはアステマだし……。
「「「よろしくね『アスニャン』!」」」
笑い声とともに、みんな(除くアステマ)の声が重なった。
「は! なんだそれ! 変な名前! かってに名前変えないでよ! っうか、あたしの『ニケニャン』だから! あたしが救ってやったんだから! さ、こっちおいで『ニケニャン』!」
アステマは、そういってニケアの胸にいる子ネコに手を伸ばす。
――フーッ! と、目をむいて、さっきまでの飼い主であるアステマを威嚇する子ネコ。
「いたっ! 噛まれた!!」
……どちらが得か? じぶんの飼い主に相応しい方を瞬時に判断したのだろう。生きる力つよいな『アスニャン』
「「――プッ」」ロークとブーケが噴いた。それをキッと睨むアステマ。
「なんだこのネコ。クソすぎ……」
ネコにまで嫌われるアステマって……。
「ぐぬぬ。あたしをうらぎったこと……後悔させてやるからな。……お前、おぼえていろよ」
子ネコを指さして、そんな台詞を吐くアステマ。おまえ……目が怖い。
「かならず後悔させてやる……かならずだ……」
ドアを閉める間際にも低音で呻いて――アステマは部屋を去った。




