あの無駄に名前の長い黒ドラゴンを倒そう作戦会議
屋敷の一室。そこに篭もってアステマと作戦会議。
お題はもちろん――どうすれば祭りを終わらせられるのか。あの無駄に名前の長すぎる黒ドラゴン。なんちちゃららららワグナス(名前もうわすれた)を、どうすれば倒せるのか。ヤツを倒さない限り、屋敷での幸せな生活はいつかは終わってしまう。食糧がいずれ尽きるからジリ貧だ。
☆
「そういえば、トラックうごかしただろおまえ、トラック召喚できないのか?」
「トラックの召喚て」
「カッコいいぞ。割り込み顔グラのアップとともに、必殺技アニメーション演出で、だな」
「だからそれ、なに目線! っうか、トラック生きてないし。魂があれば悪……女神の力で連れてこられるけど」
「……まだ、この後におよんで、その『じぶんは女神』設定、まもろうという意志あるのな……すごいよアステマ。……そうだったなアステマ。もう頑張らなくてもいいんだぞアステマ」
オレはアステマの頭をやさしくなでてやる。
「……なんか。すごく……しゅんとした……」
「トラックはそうだよな。さすがに無理だよな。せっかくおまえに運転させて、黒ドラに突っ込ませようと思ったんだが」
「そうかーあたしがトラックで突っ込んで活路を開くんだね。それは、ナイスアイディア……。じゃ、ねーよ!! は? なんだそれ!!」
「ガソリンに引火して爆発すればけっこうなダメージが入るだろ。きっと」
「ぜ、ぜったい、そんなの嫌だから!!」
「……いや、偶然に頼るのはなんとも心許ない。ここは荷台に火薬を満載してオレの火球グラを……」
「ぐたい的な作戦やめて!」
「なんだアステマ。せっかく汚名を返上する機会を、考えついてやったのに」
「ぜっったい嫌!!」
「すまん……アステマ」
「えっ? どうしたのダイスケ。きゅうに……」
「きもちはわかる……。でも、トモダチとして、オレにはおまえの力がひつようなんだ! トモダチのアステマじゃないとダメなんだ! トモダチのおまえにやって欲しいんだ!」
「トモダチ……。ダイスケ、そんなにもあたしのことを」
「あの世から……オレとニケアの幸せを、祈ってくれ」
「……うん、全力でお断り」
「誰かが、やらなきゃならないんだよ! そうしなきゃ、オレ達に夜明けは無い! このままじゃ、いずれ食料が尽きてジリ貧。未来は拓けない!」
「だったら、ニケにやらせなさいよ!!」
「ばかやろう! ニケアにそんなことをさせるぐらいなら、オレがやるわ!! ふざけんなアステマ! さっさとおまえがやれ! さっさとおまえが死ね!」
「ちょ、ダイスケ! 本音! 本音自重!! オブラート! 言葉をもっと包もうダイスケ! トモダチなんでしょあたし達! そうなんでしょ? ね……、ほんとにトモダチ……ですよ、ね?」涙目でアステマ。
「――チッ」
……つかえねえな、こいつ。
「舌打もダメ!」
「……で、他になんかないの君? ここに来るまで、いままでなにしてたの君? 元気とかやる気とか、そんなあやふやなものだけじゃえねえ。そんなことじゃあ、ウチにはいらないよ」
「なんだその、急な上から目線……。あと、爪にヤスリをかけるのやめよ、ね?」
「いまのおまえに魔力がないのは解る。本来は『グラゾーマ・フェニックス』をお見舞いして欲しいところなんだが、無理だろ? だからお得意の特殊アイテムとかないのか?」
「そんなこと、急にいわれても……」
「そのうすい胸ポケットからなんかだせよ。胸パットいがいのものをな!」
「すんごい無礼千万! うすいひとにうすいうすい言うなボケ!」
「……じゃあ、なんて言えばいいんだよ」胸がないことをどう言えというんだろう? ないものはないんだし……。
「そだね……『ひかえめ』とか『地球に優しげ』とか『いまはまだひらかぬ花蕾だが、いずれ咲くであろう大輪をおもわせるのに十分なふくらみを擁した』とか、優しさとか将来の期待感? みたいなのをふくめて欲し――」
「んで、そのうすい胸ポケットになんかないの?」
「全スルーかよ! それにあたし、ニケよりあるし!」
「…………」
比較対象がエルフの少女というのは如何なものか。
☆
「うーん……あ、そういえば!」
「お! なんだ」
アステマのこれをまっていた。オレは期待する。なんだかんだいって、こいつはやればできる子。中身は残念だが、カオをふくめてスペックは異様に高い子。やればできる子だ。
「これならあるんだよ。どうだ!」エヘンと――いまはまだひらかぬ花蕾だが、いずれ咲くであろう大輪をおもわせるのに十分なふくらみを擁した胸を反らすアステマ。
そんな胸元からとりだしたのは、自動車の免許だった。
「免許? へーおまえすごいな」
たしかアステマの年齢は600歳超えだった、免許をとるには問題ない年齢だけど……いや、つうか。悪魔に免許いるの?
「だって、これがないとトラックを、うごかせないんでしょ?」
「それはそうだが。……ん? この名前?」
「名前がどうか?」
「『波綾イレ』て。何?」
ニカッとしたアステマの顔写真が載った免許。その氏名欄には、なぜか『波綾イレ』と記名されていた。
『波綾イレ』――もはや説明不要だろう。知らないやつはいない一世を風靡した、もはや古典となりつつある超有名アニメの超有名すぎる無口系ヒロインだ。
「えへ。だって、似てるでしょあたし?」
「おこがましいわ!!」
「え? え?」
「おまえマジふっざけんなよ! 世のなか言っていいことと悪いことがある 言うにことかいて『波綾イレ』。このガキどうしてくれようかマジで」
「うええ、……ダイスケ、こわい」
あたまをまもるしぐさをするアステマ。
……おっと、オレの『波綾イレ』愛があふれ出してしまったようだ。いちど好きになったキャラクターのことは、わすれたくともわすれられない。そんな愛。
「チッ……それで、どうやって入手したんだよ?」
手にあるアステマの免許は、氏名部分さえ無視すれば、どうみても本物に見えた。
「うんと……ダイスケをヌッ殺しにそっちの世界にいったときに……」
「ヌッ殺し……。さらっといわれたけど、……まぁいい、つづけてくれ」
「街を歩いていたら『オネエサン。オネエサン。メンキョアルヨー。イマナラサンマンアルヨー』て、やさしい人が声をかけてきたから『マジ三万? やっす! 買う買う』て」
「……それ、偽造だろ」危険な香りしかしない入手経路。
「え? とっても、お得な免許だよ。しらない奴情弱なんだよ」
「……うん。おまえが最も情弱」
「情弱じゃ無いし! べつにトラック運転できればいいし!」
「その理屈でいくと、免許自体いらないだろ」
「……あ。言われてみれば」
「いま気づいたのかよ!」
「ダイスケ賢いね!」子供のようなキラッキラした瞳をオレにむけてくるアステマ。
「……そうだなアステマ。お前よりは、な……」アステマの免許をぽいっと捨てるオレ。
「捨てないでよ!」床から拾い上げるアステマ。
「あー、で? 他には? 他には無いのアイテム? そんなゴミじゃなくて、ドラゴンを倒せる系のステキなやつ」




