トモダチはえらんだ方がいいらしいけどアステマがトモダチ
アステマと大商人の屋敷でいっしょに住むようになってから数週間がたった。
食い扶持が増えた。これは地味に痛い。
屋敷にはオレとニケア、使用人のロークとブッケに加えアステマ。計5人。食糧の残りは豊富にあるが、あとどのぐらい持つのか? という心配はオレの頭から離れることはない。こうも目に見えてはっきりと余命が見えてしまうのは、精神衛生上とてもよくない……。
そんなこと、お構いなしに毎日パクパク食べるアステマ。いまも、食堂にいるオレ達の前でパクついている……。屋敷にいっしょに住むようになってから、ずっとこの調子だ。
……っうか、おまえ食い過ぎ。あきらかにオレ達4人の誰よりも食っている。
「……アステマ。おまえさ、もう少し遠慮して食えよ」
「モグ。は? あたしは魔力を回復するために、たくさん食べないと、モグ……。ダメなんですー」
「そりゃあ、そうだけどさ……」
アステマは、オレを生き返らせる為に魔力をくれた。そのことを言われるとオレとしても強くはでられない。
「それにさ、モグ。食料のことなら心配しないでいいよ」
「『心配しないでいい』と言われても……どんどん減ってるし」
「あたしに、食糧問題を解決するいいアイディアがあるよ。あのさ……」
ごにょごにょ。オレの耳元でささやくアステマ。
「……それはオレも、正直かんがえたが」
「さすがはダイスケ!」
「なんの話ですか?」皿をかたづけながらニケア。
「!? な、なんでもない。ぜったい言うなよ、アステマ!」
「んーどうしよっかなー」その表情はたのしそうだ。小悪魔っぽい笑みをうかべている。
「あーずるいです。ニケだけ仲間はずれだなんて」
「で? モグ。いつやる? 今夜? モグ。やるなら、はやいほうがいいよ。そのほうが効果も高いし」
「やんねえよ! 却下だ」
「……なんだつまんない」
「ダイスケさん。話に混ぜてください。何をするんですか? ニケにもおしえてください!」
「いや、たいした話じゃないからさ……はは」オレは言葉を濁して頭を横に振る。
アステマはオレにこういった。
――ロークとブッケを突き落とせと。
屋敷の屋上から2人を突き落とせと。そうすれば食糧の減りは確実に抑制できる……。口減らしだ。たしかにその通りだけどさ……。なんという悪魔的発想。さすがは悪魔だ。
こんなこと、愛するエルフの前で言えるか!
オレのイメージが壊れること甚だしいわ!
ニケアの前ではオレは異世界からきた『勇者サマ』でいなければならない。
だって、ニケアに嫌われたら、オレ……生きていけないし……。
とはいえ、生き残るためには手段を選んでもいられないのも事実。綺麗事だけで世のなか生きていけるのは、恵まれた環境にある奴だけの甘えでしかない。まして、オレがいるのは『ドラゴン追い祭り』会場。ここは、いわば戦場なのだ。戦場で死ぬのは弱いヤツでも強いヤツでも無いだろう。死ぬのは、きっと甘いヤツからだ。
オレは、この大商人の屋敷での生活を手放したくはない。せっかく手に入れた平穏で充実した日々を護りたい。ニケアやアステマと過ごす幸福な生活を護りたんだ。そのためだったら何でもする。そう、何でもするんだ。その覚悟はある……。
「どしたのダイスケ。笑みなんてうかべてモグ。おかしくなった? くるったの?」
「ふふ、かもな……」
「ダイスケのばあい、もともとか……モグ」
「アステマ。おまえの言うことは一理ある。さっきのは保留な。話がある、……ここでは……その、なんだな……。とにかくついてこい」
「……。えー、あたしまだ、食べているんですけど」
「残りはあとにしろ」
「じゃあ、ニケもいきます!」
「あ……。ニケはロークとブッケと、ここに居てくれ」
「……でも……なんかアステマさんばかり……ずるいです」しゅんとするニケア。
「ごめん……すぐにもどるからさ」そういいながらオレは、ニケアの横に立って襟口からじぶんの手を差し込む。まよい無くエルフのひかえめな胸にすべらせる。
「……ん」いつものようにまるい突起の感触をたのしむと、ニケアの口から吐息が漏れた「……もう。ダイスケさんの……えっち」
頬を染めたエルフは今日もかわいい「……わかりました」ニケアはいつも聞き分けが良い。
……この幸せを護るためにも、やるべきことはやらないといけない。
「ほら、はやくしろアステマ。オレたちトモダチだろ」
「んーしかたないなぁ。トモダチだから、とくべつだからね」
にへらーと笑うアステマ。まんざらでもない様子。
カランとフォークを皿になげ、席を立ちあがった。
「トモダチかぁ……」そういう声色は弾んでいる。
アステマはこのトモダチという言葉にめっぽう弱い。……きっといままで、ずっとずっとトモダチいなかったんだろうな。ひとりぼっちだったんだろうな。
そうおもうと……あれ、なんか視界に水が……。涙が。
でも、オレもそうだったから解る。
おっと、この涙。オレへのダイレクトアタック!
なんて哀しい共感。でもそれも過去の話だ。すべては過去だ。
いまのオレ達は違うんだ。な? アステマ。
☆
――部屋をでるとき。よこぎった壁にある鏡。
そこには、なんともいえない笑みをうかべた男が映っていた。
蝋燭の炎に照らされて、その影がゆらいだ。
おおきく。影が……。




