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アステマと舌を絡ませた件についてニケアがノーカウントにしてくれない危機

「おまえの偽乳なんて知るか! どうでもいいわ!」


「ええ!? だってダイスケが話せっていうから、あたし決心したのに……」


「むしろ、ここまでどうでもいい事を、よく引っ張ったな、おい!」


「ニケと仲良くするために真実を話せっていうから、てっきり……」


「あの……それどういう意味ですか?」


 こめかみをピクつかせながらニケア。


「胸のないものどーし。仲良くしよーぜ的な……」


「い、いっしょにしないでください!」


「いや……ニケ。あたしたちトモダチじゃない。うんどうみてもトモダチ。トモダチだ」


 視線をニケアの胸に固定しながらアステマ。

 ……まばたきぐらい、してあげて!


「嫌な、トモダチきた!?」


「ないものどーし、これから仲良くしようねニケ。――さすさす」


 ごういんに肩を組んで、その服ごしに胸を揉むアステマ。


「あーでも、あたしのほうがぜんぜんあるなー。ニケないなー。胸ないねーニケ。見た目よりぜんぜんない。エルフだからってなさすぎでしょ。こういうときって、たいてい『見た目よりあるねー』パターンなんだけど、ないねー。ほんとない」


「……や、やめて……ください」すんごく嫌そうな表情をうかべるニケア。


「むしろ凹んでる?」


「凹、む……」――ピキ。「ニケの胸は凹んでないですし! 凹むってなんですぁ!!」


「ニケア……」


「はっ……だいじょうぶ、……だいじょうぶ。ガマン。ガマン」オレの視線に気がついて片眼をすぐ抑えるニケア。でも、碧い光が漏れでている……。


「!? そーだ! ダイスケ。それ返して」


 アステマはそういうとオレの手にある胸パットを取り、ニケアにわたした。


「はいコレ」


「え……?」


「あたしのお古だけど、ニケにあげる。トモダチの証だよ。プレゼント」慈愛に満ちた笑顔をうかべるアステマ。その表情はまるで女神。


「…………」


「えんりょなく胸パットつかってニケ。むしろ窪みを埋めて」


「窪み……」


「これでプラマイゼロだね。キャハハ」


「……プラマイゼロ」


 ――ぶちぶちっ。ニケアが手にしたシリコンは握りつぶされ。ちぎれ落ちた。なんという力……。


「あれ、ニケどうしたの? キレてんの?」


「は? なんですか? キレてないですし」


「に……ニケア」


「だ……だいじょうぶですダイスケさん。ニケはきめたんです。魔装を2度と発動しないって……。もう怒りに身をまかせないって。そうしないとまた大事なものをうしなってしまう。あんな悲しい思いはもうこりごりです。ガマンです。すーはーすーはー」


 深呼吸で息を整えるニケア。


「そ、そうか……」噴火直前の火口だった……。さっきからオレ、嫌な汗しかかいていないんですけど……。身の安全のために、いっこくもはやく避難したいんですけど。


「って、違うだろアステマ! さっきから何をいってんだおまえは! セフレ! オレとセフレだという嘘を訂正しろ!」


「!? ……ああ、セフレ? なんだそんなことかー。だったらはやくいってよね」


「「そんなこと……」」


 オレとニケアの言葉がかさなる。


「あたしとダイスケがセフレなんてウソウソ。真っ赤なウソだよ。そんなの口からでまかせにきまってんじゃん! ノリでいっただけだよキャハハ」


「なんだろう……うれしいはずの真実を聞いたのに、このモヤモヤ……」


 仄暗い表情のニケア。

 ……うん、そのモヤモヤ。すごく理解できる。


「あたしとダイスケの間に大人のカンケーなんてないから安心して。だってーあたしたち。まだディープまでだから。ね? ダイスケ」


「おっとぉ、アステマ。いまそれ言うか……」


 ――ピキキ。


 辺りに冷気が満ちる。その元はもちろん愛するエルフ。


「えっとニケア……」


「ぐぬ……ディープなのって何? 初耳なんですけど」


 そういう耳がピンと張った。これはいけない兆候。怒りのサインだ。


「キスにきまってんじゃんニケ」


「キス。そう……ですか……」


「ほら、あれだよニケア! オレが死んだときの救命行為だから! そう、医療行為! オレの蘇生のための医療行為だからノーカン!」


「魔力を注入するだけなら、額とかほっぺたでよかったんだけどさー。なんか想いが高ぶっちゃって唇にキメちゃった。んで、舌をいれた。ダイスケの舌っておおきいんだね。えへへ」舌をちろちろするアステマ。


「ひつよう以上の行為だったということですね……」オレを睨むエルフの視線はどこまでも冷たい。


「あれはノーカウントなんだ! ノーカウンッ! ノーカウンッ!!」


「えーでも。途中からダイスケから絡ませてきたよ。はなしてくれなかった……すごかった」


「絡ませた……ね」


「それはニケアと勘違いして……って、バカアステマ! 訂正しろ! ニケアがお怒りだ。この状況わかってんのか? おまえ、いま魔力がないんだぞ!」


「うあ!? ……そうだった。ヤバ……。えーっとねニケ? いままでのうそうそ。まっかなうそなんだ。キスうそ。舌なんていれてない……ダイスケの舌がおおきくなんてなかった」


「それはウソ」にっこりとニケア。


 その瞳孔がおおきく開いている……。これは……。


「……ごめんダイスケ。もう、ムリだ」全力ダッシュするアステマ「あたし、逃げる!」


「あ、ずるいぞアステマ!」



「もおダメ。がまん。……ムリ」



 ――ギンッ。


 ニケアの瞳が碧くかがやいた。魔装の発動だ。

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