ああダイスケ!『ドラゴン追い祭り』は、とても危険な祭りだ!
「ダイスケぇ! うぅあれをみてみろ!!」
「うぇええええええええええ!!」
デカいリアクションをとるオレ。
もちろん『祭』と大書きされた水色の半被を身につけている。
円形闘技場にいた。
金属甲冑に身を包んだ騎士のベクトールが示した先、闘技場のリング。
そこで男達が、巨大は虫類を相手に駆け回っていた。
巨大は虫類は、普通車より大きい。
オレを撥ねたトラックよりは小さいようなので、たぶん6~7メートルといったところか。
……うん、あれはどうみてもドラゴンだ。
重量感がブルトーザーや戦車みたい。あれと生身でやりあうなんて常軌を逸している。
もちろん、ドラゴンなんてリアルではじめてみたから感激した。まさにファンタジー世界の醍醐味だ。あんな生き物が存在しているなんて……。
危険でしょうが! 全力で危険でしょうが!!
これからオレが『追う』相手なんですよ! 感激なんて消し飛んだわ!
「ダイスケ、セリフ、例のセリフっ!」小声でアステマ。
……わかってるよ。開いた口がふさがらないオレだったが、こいつとの打ち合わせどおり、仕事をしなきゃならない。
「ベクトール! これって危険な祭りやん!」
オレは使い慣れない関西弁もどきをつかう。
本来アステマに喚ばれるはずだった、お笑い芸人を演じているのだ。
うろ覚えだが、こういうキャラだったはず。
「ああダイスケ! 『ドラゴン追い祭り』は、とても危険な祭りだ!」
「これぜったい人、死ぬやつやん! 死ぬ祭りやん!」
「そうだダイスケ。毎年大勢の死人がでている」
「どぇええええええええええ!!」
再び過度リアクション。
視界の端をリングにやると、ドラゴンのツノで突かれた男がはね飛ばされ、ピクリともうごかない。
あ、あれ。死んだな……たぶん。
いや……だから、せめて牛ぐらいにしとこうよ! ドラゴンて。
だから異世界って嫌い。野蛮よ!
「はいオッケー! ダイスケさすがじゃん」
アステマがオレにOKサインを送ってくる。
「それでは全世界のみなさま! バレンヌシア『ドラゴン追い祭り』祭り本番は明日! お送りしたのは女神アステマと、異世界の勇者、皆川ダイスケでした! 乞うご期待ですっ!」
そういいながら、杖の先についた禍々しい眼の瞼をとじている。
カメラのようなものらしい。
……いや、悪魔アイテムにしかみえないんだけど、それ。
ギョロッとして、すんげー怖いんだよ。
やっぱ悪魔だろ……アステマ。
「おつかれさまですぅ~」
あたたかい蒸しタオルをスマイルで差し出してくるアステマ。
昨日の一件いらい、すっかり下手にでてきている。
☆
話をまとめるとこうだった。
この世界。オレにとっての異世界にあるバレンヌシア帝国では年に一回、神々への感謝を込めて祭りが開催されている。という、よくある話。その祭りこそ『ドラゴン追い祭り』であり、祭りを盛り上げるゲストとしてオレは招待された。
人違いだったんだけども……。
アステマはこの祭りを盛り上げることで、偉そうなじじい――大賢者ガトーから、ご褒美がもらえるらしい。そこでアステマは、全世界への祭り配信を思いついた。この異世界初の試みのために、一年ちかくかけて世界中の池の水面や鏡をリンクしてまわったとも聞く。……そういうところはマメだなコイツ。
この甲斐あって、いまのところじじいの覚えめでたく順調とのこと。ご褒美の内容について聞いたら『えーおしえない』だってさ……。
「……さて、約束をまもってもらおうか」
宿屋の部屋にもどったオレは、傍らにいるアステマに声をかける。
なんでもいうことを聞くといった女神アステマ。
「……ついに、このときが……。うん、約束だからね。わかった……」
「ものわかりがいいな」
「ダイスケ……うしろをむいてて」
「!? うしろをむく?」
「はやくしてほしいな……はずかしいから」
なんで、そんなことをする必要があるのだろう? あと、はずかしいの意味がわからない。そんな疑念をもちながら、真剣な表情のアステマに気圧されて、いわれたとおりにするオレ。
――しゅるしゅると衣擦れの音。
これって、もしかして……。
――しゅる。
……ゴクリ。もしかして……。
「……いいよ。ダイスケ」
はいっ! でました!
アステマさん、あざっす!!
振り向いた先に、一糸まとわぬアステマの姿。
まっ白な肌。女性になりきれていないといった、絶妙な境界線上にある少女の身体ライン。
真紅の瞳とショート髪。
さすがは女神というだけはある。とても綺麗だ。
背中には黒いコウモリのような羽と尻尾。
……やっぱり悪魔だよな、こいつ。
「――ダイスケ。すきにして」