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ダイスケの死

 屋上に着いた。

 魔力ドームに囲まれてしまったバレンヌシアの街に風が吹くことはないから、どんよりとした、血なまぐさくて濁った空気がまとわりつく。その感触から、オレ達がこの屋敷にきた当初よりも、あきらかに状況が悪化しているのが判る。


 ――ぱたぱたぱた


 みると、すでに宙に飛んでいるアステマ。


 あ、こいつ悪魔の羽あったんだよな。飛べるのって便利だな。

 そうか……考えたな、狭い館内より野外の方が、飛べるアステマには有利だろう。


 それを地上から睨んでいるニケア。

 ……よかった。二人の闘いはまだ始まっていなかった。間に合ったようだ。



 ☆



「ニケ・アムステルダム。まずは、逃げずにきたことを褒めてあげる」


「逃げずにきた……? アステマさん相手に、その必要がどこにあるというんです? ふふ」


「ふん。……この屋上がニケ。あんたの墓場だ! なぜなら、これからあたしの指1本1本からグラゾーマを放つ。つまりは計10個のグラゾーマの同時攻撃。炎魔法の最上位段階であるグラゾーマ。高位の魔法使いでもやっと習得できるあのグラゾーマを10個も同時に扱うなんて!『まさか!?』『あの超美少女が!』『10個同時に……だと』『キャー! アステマ様!』……グラゾーマ10個が合わさった業火は、そう、それはまるで伝説の炎鳥・フェニックスのよう……。だから! 人よんで『グラゾーマ・フェニックス!!』」


「……うっわ、じぶんで必殺技の説明している……カッコ悪! しかも、この場にいないモブの煽り台詞まで……」


「う、うっさいわね、ダイスケ!!」


 アステマの顔は、ここから伺えるほどに、燃えるように真っ赤になった。

 そう、それはまるで『グラゾーマ・フェニックス(笑)』


「そうですか……ならニケも、指1本1本から《氷剣》をだします。それを全て束ね合わせることで、どんなものも貫く《氷槍》を創りだす……そう、それはまるで北エルフ神話の主神『オーディル』が持つ神槍……名付けて『グルグニル・アイス!!』高位の魔装戦士でもやっと扱うことのできる、あの《氷剣》を10本同時に扱うなんて!『まさか!?』――」


「いや、ニケア! 真似しなくていいから! 影響されてる! アステマに影響されてる!!」


 あ、オレ喋れてツッコめているぞ。

 よかった、ニケアの口封じの魔法は一時的なものだったようだ。


「……こほん。――と、とにかく。その『グラゾーマ・フェニックス』ごと、ニケの『グルグニル・アイス』で貫いてみせます!!」


 ひかえめに頬を染めながらニケア。


 恥ずかしいならやめればいいのに『グルグニル・アイス』

 ……ま、かわいいから、いいけどね。



 ☆



 ――カサカサカサ。


 目の前を枯れ草玉(タンブルウィード)が転がった。

 まるで西部劇のような緊迫感を醸し出す。

 ……いや、この演出いらないよね。そもそも風吹いてんの? この魔法ドームの中。


「いくよ!!」


 ――ポッ、ポッポポポ。

 アステマの指に次々と炎球が灯る。


「のぞむところです!!」


 ――パキ、キキキキキ。

 ニケアの指1本1本に氷剣が生えた。


 お、ついにはじまった。ほんとうに指1本1本から魔法を放つのか。それって本気で高レベルなやつじゃないのか? 対照的な炎と氷をあやつる二人。狭い室内での接近戦ではニケアに分があったが、広い屋上にきたいま、どこまでアステマの優位性が発揮されるのか? いったいどちらが勝つのだろうか……って、違う! そうじゃないオレ! 戦いを止めにきたんだろオレ!


 ――ズサー!!!!


 オレは力をふりしぼって、飛び出すように二人の間に割って入る。


「ふたりとも止すんだ! もうやめるんだ!!」


 エルフのニケアと、悪魔っ娘のアステマ。二人が……二人の美少女が。それもとびきりの美少女が、オレを取り合って争うなんて馬鹿げている。なんて無益で……そして


 ――なんという【甘美(かんび)】な、感覚なんだろう!!!!


 このシチュエーション。こんなことが起こるなんて、やっぱり異世界最高ォ! なんという充足感。まさに主人公だよオレ! 異世界はオレを中心に回っているじゃないか! オレを取り合う美少女二人。こういうシチュをまっていた。もうたまんない! ゾクゾクくる! そうでなきゃ異世界!!


「ふたりとも……オレのために」


「いくよ!」「いきますよ!」



「オレのために争うのは! もう、やめるんだッ!!!!!!!!!!!!」 



「グルグニル・アイス!!!!」


「!? がッ――は」


 衝撃とともに、ぶっとい氷槍がオレの身体を貫いた。


「!? なっ、なんじゃこりゃぁあああ!!!!」


「グラゾーマ・フェニックス!!!!」


 じぶんから噴き出す鮮血を眺めていると、オレの眼前に迫ってくるのは業火の鳥。それはゆっくりと、とってもゆっくりとオレに迫って……数秒にたらないであろう瞬間がしっかりと感じられて……。あ、これって。これってまさか



 ――じゅっ。


「……………………」







 ――オレは死んだ。

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