ニケアＶＳアステマ。碧と紅の因縁 バトル４
踵を返し逃げるアステマ。館の廊下を駆ける。Ｌ路の角を曲がり、すぐに姿が消えた。
オレは足をやられているので、追いかけることはできない。部屋からでたところで動けなくなった。
思った通りの展開。アステマはきほん、近接戦闘は苦手なやつだ。最初の火球で、終わらせるつもりだったようだから、予想外のニケアの強さと、反撃に驚いたに違いない。オレにとってもニケアの戦闘力は……予想外だ。っうか、なにその半端ない強さ。オレなんかが護る必要ないくらい圧倒的に強いよね？ 闘技場でみたハンター達より強いよね？ 普通のドラゴンなんか１人で狩れるよね？
「くッ……」
部屋の中でニケアがよろよろと、立ち上がる。
「（――キッ。）」
「……う」
オレを鋭く睨むと、そのまま近づいてくる。その両手には未だ魔力による《氷剣》を纏っている。
まさか？ アステマとの闘いを邪魔したオレに止めを刺す気なのか？
いまの半端ないニケアならやりかねない。なにせ、オレの脚を迷わず貫いたのだ。いつものやさしいニケアからは想像できない行動。アステマの嘘がここまで影響してしまうとは……。
弁明……いや、誤解を解かないと。逃げた方が……。なんとか腕の力だけで進むも、あっと言う間にニケアに追いつかれた。彼女の刃の間合いに完全に入る。オレは覚悟をきめた。
――その時。
「逃げる。と、みせかけてからの、くたばれエルフ！ こんどは本気だから！」
アステマが消えたはずの廊下奥から飛び出して、そんなことを叫ぶ。
「アステマ!? おまえ、逃げてなかったのか？」
「――!?」
「これでおわりだ！ キャハハ！ グラゾーーーマ！！」
閃光がアステマの腕に収束し渦を巻いた。そして手を突き出すアステマ。紅い塊が放たれる。
グォゴオオオオオオオオオオオオ。
ドラゴンのブレスのような連続した炎。先ほどの火球よりも格段に高威力。それが廊下に隙間なく、まとわりつくような炎の壁と化してオレ達に迫る……。
あ、これ確実に死ねるやつだ。逃げ場ないし。またアステマに殺されるのかオレ……。
「!? ダイスケいたの忘れてた！ 避けて！ ダイスケだけ！ あたしのグラゾーマ避けてっ！！」
そんな声が聞こえる。
「バカテマっ！ できるかっ！！」
いつかアステマに、間違って殺されると思ったけど……その時がきたよ。最期の時がきたようだ。どう考えても無理ゲー。さようならオレの異世界。
……って、大人しく観念している場合じゃない！ ニケアだ。ニケアがいる！ ニケアだけは護らないと。迷わずオレは、ニケアを庇うように炎熱に背を向けて間に立った。
「!? ダイスケ……さん？」
こんなんでニケアを護れるだろうか？ 護れるとしたらオレの命など安いもの、せめてニケアだけでも無事だといいが。そんな思いがオレの中に浮かぶ。焼け焦げて死ぬのは嫌だけど……すぐに覚悟がきまった。自分の命がどうでもいいぐらい大事な存在があるって――目の前の愛するエルフに微笑みを向ける。最期はちょっと誤解があったけど。
「……ニケア。ありがとう。そして――」
そういうのが精一杯だった。ほかにも色々伝えたいことがあったけど、それは叶わない。それには時間が足りない。
アステマの放った炎壁がすぐ後ろまで迫っているのだろう。オレは熱と光に包まれた……。
熱い。まぶしい。思わず眼を瞑る。
「さようならニケア……」
――って、え？
あれ？
熱くない。
焼け焦げ……ない？ というか、ニケアどこ？ 目の前にいたはずのニケアの姿がない！
振り返ると、そこにニケアはいた。オレの後ろに立ち、炎に向かい両手を突き出している。その手に纏っていた２本の《氷剣》が合わさり、雪の結晶型のシールドと化して防御をしている。オレを護ってくれたのか……。
「……よかった、間に合った」
☆
「ダイスケ！ だいじょうぶ？ よかった、生きているみたい」
アステマが駈け寄ってくる。
「って、これっていったい……。ニケ、あんたいったい何者？ ……あたし渾身のグラゾーマが……効かないなんて」
「おわりですかアステマさん……。こんどは、こちらからいきますよ……」
ニケアがそういって、歩み出る。シールドが割れて、再び２本の《氷剣》に戻る。
剣を構え、すうっ――と、おおきく息を吸い込んだ。刃の青いオーラの色が強まる。
「……う。あたしのグラゾーマを完全に防いだ!? なんて魔力……。その魔力。あんた、フツーのエルフじゃないね……」
「（――ギロ）だとしたら？ ふふ……ヒントをあげます……アムステルダム」
「!? アムステルダム……。あたしでも、しってるよ……」
「知っていてくれて光栄です。アステマさん」
「そうか。アムステルダム……。あんた北エルフの王族……。じゃあ、もしかして……母親の名は？」
「そんなことを聞いてどうなるっていうんですか？ ……ま、べつにいいですけど。冥土の土産ってやつで、教えてあげます。『イケ』ですよ……『イケ・アムステルダム』」
自信に満ちあふれた笑みを浮かべてニケア。
「………………だよね」
「むだばなしは、おわりにしましょう……覚悟はきめましたか」
「……パパの敵の、魔装剣士エルフ。ニケ、あんた……。……その娘か」
