不幸への片道切符は、アステマの専売特許
「うえぇえええええええん」
オレを確認した侵入者。アステマは、泣きながら抱きついてきた。
「う、ダイスケ……会いたかった。うええ、あたし……非道いめに、ほんとうに……あれから非道いめに……ふえ」
そりゃあ、そうだろう。よくこの状況で、外の暴力と死だけの世界で一ヶ月生き残ったなアステマ。奇跡というか、悪運が強いというか……まぁ、悪魔だけに。
「アステマ……まさか生きていたとは」素直な感想がオレの口から漏れる。
「勇者さま……これはいったい」
「ローク。こいつは大丈夫だ……いや、ぜんぜん大丈夫じゃないヤツだが、……その、知り合いだ」
「ろくに食べられないし……いつもお腹ペコペコだし……。寝てても、次々と非道いやつらが襲ってくるし……う、グス」疲れているようなので、うながして座らせると。よほど怖い目にあっていたのだろう、すっかり弱気なアステマが、オレの胸の中で泣きじゃくる。
「……そうだろうな」
「……あたし、なにも悪いことしてないのに」
「それはねえよ!」
オレはキッパリと言い放った。ドラゴンと共に閉じ込められるという、最悪な現状を招いている戦犯のアステマ。帝国騎士団や他のハンターなどに命を付け狙われて当然だった。
「あいつら……血に飢えた非道いやつらで……あたしの身体目当てで……」
「それもない……。こともないか……」
目をやると、アステマは例の悪魔っ娘コス。いまも座り込んだ太ももの肉感がなまめかしい。うん……衣装のエロ成分が強すぎるから、野生開放ォ! の男達にとって刺激が強すぎるのは確かだ。アステマ。無駄に外見はいいから……。
「何回も捕まったんだよ……あいつらに。うう……、そのたびにもうダメかと……」
ですよねー! 捕らえられたら殺す前にと、アステマは非道いことをされるだろう。非道いことをされるだろう(だいじなことなので二度いいました)女騎士ならばクッコロ不可避だろう。ここからは会員登録したうえで有料コンテンツだろう。うすい本展開必至だろう!
「男はほんとうにオオカミだ。眼がほんとうにこわいんだよ……。人間の男ってほんとうにこわいね……ドラゴンよりこわいね」
自業自得だろ。と思ったが。それは言わないでおいた。こんな現状にたたき込んだから身体ぐらい好きにさせても……とも思わないでもないが、それも黙っておいた。
なんにせよアステマが生きていたのは幸運? だ。こいつなら、もしかして現状をなんとかする術をもっているかもしれない。本人の言い様から、貞操もたぶん? 護れているようだし。ギリギリ。
……いちおう、それもよかった。貞操を護れてなかったら、こんご陰鬱だもんな。どう対応していいか迷うもんな。
「ダイスケ……あたし喉がカラカラなんだ、それにお腹も……」
「ああ、そうだったなアステマ。すぐに準備させる。ローク! この者に水と食料を、……あと、そこに伸びているブッケを連れていってやってくれ」
「はいですだ」
オレの指示を受けて、気絶しているブッケを担ぎ立ち去るローク。
「う……グス。ありがとダイスケ。やっぱダイスケだ。あたしには……ダイスケしか、いない……」
……友達いなさそうだよなアステマ。あ、これ、本気で言ったら駄目なやつだな。
「ひどいことを、いって……」
「ん?」
「別れるとき、あたし『死ね』なんていった。ダイスケに……」
涙を溜めた瞳でアステマがいう。……こいつ、そんなことを気にしていたのか……。オレはそんなこと忘れていた。むしろ存在もほぼ忘れていた。
「ごめんね……」
「…………」
……しょうじき意外だった。こいつがそんなことを言うなんて……。外の世界で苦労したのだろう。それも、とてつもなく。苦労は人を育てるというが、アステマにもあてはまるのかもしれない。人じゃ無いけど……悪魔だけど。
「ダイスケだけは、べつ。べつだからね……」
そんなことをいうアステマ。
――ブンブン。
いかんいかん、こいつの容姿に騙されてはいけない。
「ごめんなさいダイスケ……」
そういってアステマは、オレの胸に顔をうずめた。照れ隠しなのかもしれない……。
なんか、かわいいとこあるな。だまって頭をなでてやる。
……いまは、すこしだけ。騙されてやっても、いいかな。なんて……。
オレとアステマは薄暗い部屋で抱き合う。
悪魔アステマとの再会。幸運を招くのだろうか……。
それとも、
――不幸を招くのか。
「ダイスケさん……。そのヒト……、その娘、だれですか?」
扉がひらいて、声がかかった。
そこに立っていたのは、愛するエルフ。ニケアだった。




