この女神。目的のためなら平気で人を殺めるぞ
「聞こえた! いま、しまったって!」
「くっ……しくじった。まさか人違いだなんて……」
「やっぱ人違いかよ! おかしいとおもったんだよ! 話あわねえし」
「ゴメンナサイ」
「はやく、あやまれよ! ……って、あれ? 謝ってる!?」
ペコリとオレにむかい頭をさげているアステマ。
……意外だった。てっきり謝るどころか、ここぞとばかりに逆ギレしてくるタイプだと思っていたけど、オレの勘違いだったようだ。見直したよ……。ずいぶんと素直な娘じゃないか。本人がいうとおり、ほんとうに女神なのかもな……。さっきの暴言は、なにかの間違いだったんだろう……。こうしてみると、アステマはそうとうに可愛い。
「……でも、まぁ、べつにいいよ」
「え? 許してくれるの?」
「あれだろ。オレはトラックに撥ねられたから死んだんだろ? それで転生させてもらったと。それなら異世界でやりなおせる分、オレはまだツイている。チャンスをもらったとおもえば――」
「……あのトラックはあたしが運転してた」
「って、うおい!! ……運転してた、て! 直接犯人じゃねーか! それでも女神かよ!」
「だって、死なないと喚べないしー。だからちょっと、ね」
「『ちょっと、ね』じゃねーよ! それ女神の所業じゃねーよ! やっぱおまえ悪魔だろ!」
「は? あくまじゃねーし!」
「どうみても悪魔の所業じゃねえか! その尻尾と羽! ぜってー悪魔だ悪魔!」
「あくまじゃねーよ! 女神だ女神! よし、人違いとわかったら、もうおまえイラネ。もといた世界にもどしてやる。トラックに撥ねられているところスタートでな」
「ちょ、おま! なんだそれ!」
☆
「どうしたのかな? アステマ」
オレたちが言い争っていると、人影が近づいてきた。
「あ、ジジ……じゃなかった、大神官ガトー様」
アステマがその人物に、うやうやしく頭をさげる。
現れたのは、大賢者といった雰囲気を漂わせた、かなり高齢なじいさん。白髭も立派なものでお召し物もえらく立派だ。
「このお方が異世界の勇者どのか。今年の祭りは例年になく、もりあがりそうじゃわい」
そういって目をほそめ、オレの手をとるじいさん。
……じじいに手をにぎられても、うれしくはない。
「ご協力感謝いたしますぞ。まさか自ら進んで、こちらにお越しいただけるとは」
「へ?」
オレが自ら進んで? なにをいっているんだろう?
「あちらの世界では、あらゆる辺境にも足を伸ばし、祭りを盛り上げ民を慰撫して回っていると聞き及んでおります。まさか私達の世界にまで来ていただけるとは……」
「あの? ……来たっていうか、オレ。ここにいるアステマに殺さ――」
「!? ……ちょ、ちょいまち! ストーーップ! ダイスケ!!」
すごい勢いでオレの腕をひったくるアステマ。
そのまま、じじいから距離をとる。
「あの……ダイスケお願い。そのことはいわないで」
小声で手をあわせ、オレに懇願してくるアステマ。
「あと、ダイスケ違いだった。っていうことも、なにとぞ秘密に……」
……はーん。そういうことか。理由はわからないが、こいつはじじいに頭があがらないらしい。
「じいさん! コイツがオレを殺しま――もごっ」
「!? ちょ、まって!!」
必死にオレの口をおさえてくるアステマ。
「しかも人違――んぐ」
「ゴメンすいませんもうしませんっ!」さっきまでの態度とえらい違いだ。全力で平謝りしてくる。そしてアステマの次のことばがオレの耳にささった「……なんでも、いうこときくから。……おねがいダイスケ」
「!? な、なんでもいうことをきく? ほんとうだな」
「うん」
「ほんとうに、ほんとうに、ほんとうだな?」
「なんでも……いうことを、きく」こくりとうなずくアステマ。
おっし。女神ゲット。
そうとう駄目なやつだから、これが異世界名物『駄女神』というやつだろうか。
いや、こいつの場合、そもそもほんとうに女神なのかも怪しいやつだが……。
とはいえ、これはたのしくなってきた。