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エルフ嫁のために侵入者を撃退しよう

 ロークに案内され、ばあさん――ブッケが捕らわれているという部屋のまえにきた。

 ……たしか屋敷の主人の部屋だったはずだ。壁には書棚。それを背にして立派な机と椅子があったはず。そんなに広くなかった。

 部屋の様子をドア越しにうかがう。聞き耳をたてるが声や物音はしない。


「ここは執務室だったなローク?」


「はい、そのとおりですだ、勇者さま」


 ここにくるまで、ざっくりとだが、館のなかをひととおり調べた。とくに異常はなかったので、ロークのいうとおりだとすると、侵入者は一人のようだ。

 なら、話は早い。こちらは二人いるから、力押しだ。

 侵入者は人質をとっているから、あるていど油断していることだろう。

 オレはロークを顎でうながす。それを受けてロークがコンコンと部屋の扉をたたく。


「水と食料はもってきたかああ!」中から声がした。


「……もってきました、だ」


「よし。なら、そこに置け。置いたらいったん部屋からでるんだ! はやくしろ! このババアがどうなってもいいのかあ!」


 その声質は内容にそぐわぬ軽いものだった。

 オレもロークに続いて中に入る。薄暗い部屋のなかで目に入ったのは、机の後ろで壁を背に立つ侵入者と人質に取られている不安そうな老婆の姿。

 みると侵入者はそうとうに小柄だった。小汚いローブを身につけ、フードを深く被っていた……もしかすると、子供かもしれない。

 オレの中に安堵感がひろがる。歴戦のムキムキマッチョとかだったら、しょうじきヤバかった。しかも武器は暗くてよくみえないが、ナイフのような小型なやつだ。じぶんで口の端がつり上がったのがわかる。重武装のオレなら絶体やれる! 必勝の予感!


「ん? そいつは誰、って、く、くるな!!」


 オレの存在に気がついた侵入者が狼狽えた。


大義(エルフ嫁)の為に死ね! 侵入者!!」オレは走り込む、例の筒を手に侵入者との距離を詰めた。


「!? な……、ババアがどうなっても!?」「勇者さま……お助」


「知るかッ! そんなナイフごときで、どうにかできるとおもったか! せいっ!」オレは筒を振って中身を侵入者にむけてばらまく「オマケにもう一本だ!!」連続で二本。


 ボワッ――と粉が舞う。


「!? な……、うっ……! ゴホ……め、目がッ! クソが!!」


 とつぜんのことにひるむ侵入者。攻撃範囲の極小なナイフならこれで攻撃能力を封じられた、はず。


「ふはは! 己の迂闊さを悔やむがいい! 怯えろ! 竦め! これで終わりだッ!! ロークいまだ! やれっ!」


「いや、……でもブッケが……ブッケに当たっては」


「躊躇するなっ! 二分の一で敵にも当たるだろが! もういい! オレがやるッ!」


 ババアのちっぽけな命を案じて判断を躊躇するロークを押しのけてオレが飛び出す。チャンスは一瞬なのだ。オレは筒の中身をばらまいた一連の流れから、両手をクロスさせ腰の短筒に手をのば――


 ゴオッ!


 粉で煙る中から炎球がとび出した。


 オレの左頬を高速でとおりすぎるジワッとした熱感。耳をかすったようでジクとした痛みがする。

おくれて焦げた匂いが鼻腔にとどいた。燃えたのはオレの髪の毛だろう。


「へ?」


 ゴゴオッ!! こんどは二度続けて炎球がとんだ。

それらはオレの左右をかすって後方の壁を焦がす。暗かった部屋が燃える炎で紅くかがやいた。


「……ちょ、おい、マジか」


「くっ、来るなあああ!!」侵入者は叫ぶ。


 ゴオッ! ゴオッ!


「これはまずい!! 退けローク!」


 オレはすぐに伏せて部屋の入り口から出る。続けてロークも這い出てきた。

 オレ達が部屋の外に逃げてからも、侵入者による炎球の反撃は続いた。視界が奪われた為、当てずっぽうなものだったのが幸いした。


 うわ、あっぶな……。この侵入者、間違いない。……魔法使いだ。


 相手がナイフしか持ってない子供だと舐めてかかったが、判断ミスだった。ここが異世界だってことを忘れていた。魔法使いとか、そんなん来られたら、外見からはどんな力をもっているかわからない。目つぶしが効いてなかったら、確実にオレ達が黒焦げになっていただろう。命拾いした。



 ☆



「えーコホン。侵入者……さん。対話をしようじゃないか」


 たっぷり間をとってから、部屋の外から声をかけた。


「う、うっさいわ! ボケしね!!」 


 ゴオッ! 怒気をはらんだ返答と同時に炎球がとんでくる。


「とりあえず落ち着こう……話し合いは大事だ。オレ達に敵意は無い」


「敵意しかないでしょーがっ! コホッ……あー目がめっちゃピリピリするし……。そっちが先に襲ってきたんでしょーが! しかも人質ガン無視でっ! 欠片も躊躇しないって、どういう性格してんのよ!」


「部下が功を焦ってすまないことをした。ロークには勝手なことをしないよう、きつく申しつけておく。こらっ! ばかもん! あれほど勝手な行動は慎むようにといっただろう!」


「あっしのせいですかい……」


「いや、あきらかにアンタが率先して襲ってきたよね……」


「まずは名乗ろう。オレはこの館の主でダイスケ。暴力じゃなにも解決しない。わかり合おう。無益な血を流さないためにも――」


「カッチーン。アステマちゃん、あったまきた! さっきから、ふっざけんな! あんたとなんか、わかり合えるかっ! 暴力には暴力を……って、え!? ダイスケ?」


「え!? アステマ?」


 オレはおそるおそる部屋の中をのぞいた。まだ粉っぽい部屋の中には、フードが脱げた侵入者の姿がある。大きく肩で息をしているが、それはよく見知った紅いショート髪と紅い瞳をもつ少女だった。


「「あー!!!!」」


 オレとアステマの声が、どうじに部屋にひびいた。

 ほぼ一ヶ月ぶりの再会だった。

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