部屋いっぱいのエルフ娘を
「いったぁ……ダイスケが腕を強くつかむから、アザができちゃったよ」
二のうでをさするしぐさをするアステマ。
「……いいから、アイテムをよこせ。ドラゴンを倒すアイテムあるんだろ!」
「強引ねダイスケ……。でも、そういうのキライじゃない」
「そういうのいいから! はやく!」
「そんなにガツガツしないでよ、もう……」
「ドラゴンを倒すアイテムをよこせ!」
「うー。……はい、コレ」
アステマがだしたのは一振りの剣。チートアイテム剣とは王道すぎるアイテムだ。オレの活躍予想図が容易に想像できる。異世界の勇者にして竜殺しダイスケ爆誕の予感。だけど……
「あのさ……この剣、えらくボロいんだけど大丈夫か? おもいっきり錆びているし、ところどころパーツが外れたりしてるし……ほんとうにこの剣でドラゴン倒せるのか? なんつーか……不安しかないんだが……」
「大丈夫だよ! あたしの魔剣だよ!」
「あ、いま魔剣ていった! やっぱ悪魔じゃねーか!」
「は? あくまじゃねーし!」
かたくなに、じぶんが悪魔であることを否定するアステマ。なんどめだろう、このやりとり……。
☆
「話は聞かせてもらったぞ」
そういうのは、いつのまにかオレたちの近くにきていたベクトールだった。黒ドラゴンに殺された皇帝の長男にして帝国騎士。オレ達の世話係だ。
「すまない、虫のよいはなしだとはおもうのだが、その剣、わたしに譲ってはくれないか?」
「なんだベクトールか。無事だったか?」
「ああ、なんとかな……。それよりも女神アステマ殿。その、やつを倒せるという魔剣を、わたしに譲ってはくれないだろうか? 父の、そして部下達の敵をとりたいのだ。わたしたちもずっと攻撃を加えているが、あのドラゴンには効き目が無いようだ。このままでは被害も大きい。そして、帝国の威信にもかかわる……」
「え? でも、この女神剣はダイスケにあげるって……」
女神剣て……さらっと言い直しているし。こざかしい真似を。
「オレはべつにいいぞ」そうアステマにうながす。
「!? え、いいのダイスケ?」
「べつにいいよ。ベクトールにその剣を渡しても。ただ、オレに褒美はもらえるなら……だ。いいだろ? 皇帝陛下」
皇帝が死んだ以上、目の前の男。ベクトールが現皇帝なのだ。オレは祭りの褒美さえもらえれば、ぜんぜん構わない。
「ありがとうダイスケ。褒美の件はもちろんだ、約束しよう。わたしもタダで剣を譲ってもらおうとは考えていないよ。
「さすが、はなしがはやい。じゃあ決まりだ!」
「ところで褒美とは、なにが望みなのだ?」
「エルフ嫁……、えっと、若いエルフの娘が欲しい!」
「……はは、なんだ、そんなことか」
軽く答えるベクトール。さすがは皇帝陛下。太っ腹!
「エルフ娘、たくさんほしいな……なんて」
「大丈夫だ、帝国出入りの奴隷商人達に手配しよう」
この雰囲気は、まだいける!
「部屋いっぱいのエルフ娘をヨコセ!」
オレはふっかけた。ベクトールの顔色をうかがうが、余裕のある微笑をたたえている。
「……ふふ、よくばりだなダイスケ。承知した。ドラゴンを倒したらすぐに用意させよう」
「よっしゃベクトール! きまりだ。ホラよ!」
オレはアステマの手から剣をとり、その剣を放り投げる。パシッとうけとったベクトールは怪訝な表情をした。無理もない。
「この剣で……ほんとうに、やつを倒せるのか?」
「ふんっ、ダイスケ。また……エルフ……」
「なんかいったかアステマ? その剣の効果、ほんとうだな?」
「……うん。それは保証するよ。その剣は数万のドラゴンを葬り去ってきた『竜殺し』の魔……じゃなかった女神剣。この世界のやつじゃないから、効果がぜんぜん違うよ。放置してたからみためボロいけど。なんかドラゴンに効く毒みたいなものが染みこんでいるらしいから、それはかんけいないはず」
「そうか……ならば、この剣で」ベクトールの視線は、すぐに黒ドラゴンに注がれた。
「がんばれよベクトール」
オレは笑顔で送り出す。歩み出したベクトールは、こちらをみず、腕だけをあげてそれに答えた。
☆
「ほんとうにいいの? 剣をあげちゃって。ダイスケが倒したほうがいいんじゃ?」
「……いや、これでいい。むしろベストな展開だ。リスクを冒さずに目的を達せられる。だいいち素人のオレだとドラゴンに近づく前にやられるかもしれない、それに……」
「……それに?」
オレは、アステマの顔をのぞきこむ。
「きゅうに顔を近づけて、な、なによ……」
その紅い瞳には、なんの疑念もやましさも見当たらない。炎が揺らいでいるようなうつくしい瞳。
嘘をついているようにはみえない……が、オレには別の考えもあった……。
「おまえ、かなり可愛いんだけどな……。でもな……。まぁ、いい。……さあ、新皇帝の戦いぶりを見学しようじゃあないか」
「……なんか、気になる言い方だけど、そうだね」




