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いつものように飲食店のお手伝いをした後、日課になっていた泉に行ったときである。
膝を抱えて座って泉を眺めていると何処からか声が聞こえてきた。
―――『・・リ・・・ナ・・・』
それは囁くような微かな声で、風に乗って聴こえてきた…。
―――『・・こっち・・に・・・・』
優しい囁きではんすうする声に私は導かれるように自然と足がその方向に向かって行った。
木の間の茂みを掻き分けて少し進むと、目の前に1羽の鳥が倒れていた。綺麗な白と淡いピンク色の翼をもつ見たこともない綺麗な鳥だった。
何処か怪我をしているのか、その鳥は地面に横たわってピクリともせず倒れていた。私はその鳥にそっと近づくと側で両膝をついた。
―――なんてこと!翼に血が!!
私は思わず周りを見渡した。しかし、木と草しか見当たらず人なんて居るわけもない。誰か連れてこようかと考えたが、村に治癒師は居ない…。街には居るが遠すぎる。
そして私は魔法が使えない。だから運ぶことも治療する事も出来ない。目の前で苦しんでいる鳥を助けたいのに…助けることが出来ない。
―――どうして私は無力なんだろう…。
何も出来ずただ見つめる事しか出来ない。自分が悲しくて悔しかった。どうにかしてあげたいのにどうにも出来ない自分が情けなかった…。
私は思わず唇を強く噛んでいた。
横たわっている鳥に手を伸ばしそっと優しく羽に触れる。鳥は暴れることもなくただ横たわって私をじっと見つめていた。
「何も出来なくてごめんなさい…。助けられなくてごめんなさい…。」
目の前にいる鳥にそっと声を掛ける。自然と私の目に涙が滲んできた…。
―――なんで自分はこんなに情けないんだろう…。
「誰か助けて!!お願い!」
私は知らずに何度も叫んでいた。
その叫びは虚しく辺りに響き渡るだけで木々にかき消されていった…。
私は思わずうつ向いてしまう。目から涙が溢れてきて
いた。
どうしたら…。私はどうしたら…。
何か出来る事はないの…?
お願い…誰か……お願い………助けて…。
私は心から必死に願った。何度も何度も願った。
―――その時である。
手に何か温かいぬくもりのようなものを感じる。
私は思わず顔をパッとあげると温もりを感じる場所を自分の手を見た。
私は思わず目を見開いた。
なんと自分の手が光り輝いている。そしてその光は徐々に大きくなり鳥を包み込むように拡がっている。
その輝く光を通じて微かな鳥の鼓動を感じる…。
掌から羽・内蔵・血管・骨…そして鳥が怪我してる場所が手に取るように分かる。まるで鳥の身体を透かして見てるような不思議な感覚だった。
何が起こってるのか分からなかったが、そんなことよりも直感的に私は鳥の傷口に集中し光を集める。
キラキラと輝く光が更に強くなる。
折れた骨、血管、そして傷口を元に戻すかのように繋ぎ合わせていく。なんとも言えない感覚だった。まるで接着剤か何かで元に戻すような感じだった。
暫くすると完全に傷口はなくり元通りの姿に戻った…。
私は安堵するとぺたりとお尻を地面につき、横たわっている鳥を見つめた。
鳥はむくりと起き上がると、両羽根を広げ空に飛び立った。そして、私の頭上をお礼を言うかのようにくるくると周り飛び去っていった。
後に残された私は、暫く放心状態で自分の手をボーッと見つめていた。
――― 『一体何が起こったの?』
私は元に戻った両手の裏表を繰り返しながらじっと観察した。だが今は光も消え普通の手である。
私は魔法は使えないはず…。
でも…実際に見た事はないけれどさっきのは治癒の魔法…?いや、まさかそんな事があるわけない。それじゃあ一体何が…。
魔法だとしたら呪文を唱えないと発動しない。私は呪文を唱えていない。そして、魔力の消費が激しいとされる光魔法…それなのに私の体は異変が何も感じられない。
理解出来ない事だらけで頭の中は混乱するばかりだ。
―――とりあえず落ち着こう…。
そうして私は空を見上げた。
何が起こったのかは分からないけど、鳥は無事に助ける事が出来たのだ。今はそれだけで充分だ。
思わず自然と笑みがこぼれる。
この事を誰かに相談しようかとも考えたが偶然の出来事かもしれないし、きっと女の私が光魔法を使ったとしても信じてもらえるはずがないと思い誰かに話すのはとりあえずやめておこう。
そしてあの時の声の主は誰だったのだろうかと頭の中を一瞬過ぎったが、それよりも鳥を助ける事が出来た嬉しさで頭がいっぱいだった。