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金鎖の解師  作者: 畑中希月
第二章 解師を目指す少年

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五 魔法薬学

 ミナキたちは薬草を持って、帰途に就いた。途中、また激しい雨が降ってきたので、持ってきた傘をさしながら、皆、駆け足で家を目指す。ようやく家に辿り着いた一行は、雨が止むのを待ってから、(くりや)へ向かった。カヌトに促され、ミナキとロウは薬草を種類ごとに分けて、ざるに載せる。


「さあ、これから、取ってきた薬草を使って薬を作るぞ」


 カゥは炉端に座ると、そう宣言した。ロウがすかさず尋ねる。


「どんな薬を作るんですか?」


「そりゃあ、取ってきた薬草によるさ。ミナキ、お前さんが取ってきた薬草だと、風邪薬、ロウ、お前さんが取ってきた薬だと、傷薬ができる」


「えー! それじゃあ、魔法薬でもなんでもない、ただの薬じゃないですか。傷なんて、魔法を使えば治せるし。姿を消す薬とかできないんですか? 魔法院で習いましたよ。そういう魔法薬があるって」


「あれは、そこらに生えてる薬草じゃあできっこない、金も手間もかかる薬だ。第一、そんな薬作って何に使うんだよ」


 カゥに問われて、ロウは黙り込んでしまった。何かよからぬことにでも使おうと考えていたのだろうか。


『これから作る薬って、普通の薬とは違うんですか?』


 ミナキは初めてカゥに質問してみた。ミナキの声が出ないことを、カゥは知らないはずだ。だが、質問が書かれたラーナンを見ても、彼は顔をしかめたりしなかった。


「魔法薬師(やくし)が作る薬だからな、もちろん、魔法の使えない薬師が作る薬とは違うよ。なんたって、たくさんの魔法薬師が今まで改良に改良を重ねてきた薬だ。風邪薬も、普通の薬なら治るのに一週間はかかるところを、三日で治せる」


 ロウが顔を輝かせた。


「あ! 確かに風邪を引いた時、魔法院でもらった薬を飲むと、すぐに熱が下がりました!」


「そういうわけだ。効果が分かったところで、さっさと作ろう。さて、まず最初にすることは?」


 ミナキは水瓶からひしゃくで水をすくい、たらいに張った。たらいを薬草を載せたざるの脇に置き、種類ごとに洗い始める。


「そう、その通りだ。まずは土を落とさないとな。ところでカヌト、使っていい鍋はあるか? それに、硝子の容器と硝子棒、あと、蜜蝋もな。軟膏と浸剤を作りたいんだがな」


「はいはい」


 カヌトは普段、薬草を煮る際に使っている鍋と煮炊き用の鍋を、五徳の上に置いた。横から、ロウが魔法で薪に火を点ける。鍋に水を入れ沸騰させると、カゥはロウに、取ってきた薬草を入れるよう言った。


「ああ、それはまだ入れなくていい。入れる順番を間違えるなよ。失敗するからな。それから、ミナキは薬草を種類ごとに刻んでくれ」


 ミナキは薬草を包丁で刻みながら、囲炉裏のほうに目を向ける。

 カゥは煮炊き用の鍋を五徳の上から下ろして、硝子の容器の中に入れた蜜蝋を湯煎で溶かす。時間を置いて、何種類もの薬草を鍋の中に入れるよう、カゥはロウに指示していく。


「魔法薬師にならなくても、魔法薬の作り方を何種類か知っているだけで、何かの役に立つぞ。カヌトも商売に使ってるだろう? 俺は旅の路銀が欲しい時に役立ててる。そこら辺に生えてる薬草が原料だから、元手がかからないしな。それに、着いた先に病人や怪我人がいたりすると、珍しい薬を持ってるってだけで、ありがたがられたりするもんだよ」


 確かに魔法薬を作ることができれば、食いはぐれはなさそうだ。魔法薬師になるのもいいなあ、とミナキは想像を膨らませた。


 そうこうしているうちに薬草を刻み終えたので、ミナキは刻んだ薬草をそれぞれ小皿に入れて、カゥのもとに持っていった。


「お、できたか。よし、鍋が空くのを待ってな。さてと、ロウ。これから言う通りに作れよ」


 カゥに教えられ、ロウは蜜蝋と植物油を掻き混ぜたものを別の小さな容器に移し、薬草を煎じた液と一緒に硝子棒で混ぜ合わせた。さらに何種類かの液体を混ぜて固めると、それは立派な軟膏になった。


「これで傷薬の完成だ」


「やった! 早く使いたいな!」


 喜ぶロウに、カゥは苦笑した。


「おいおい、薬を使いたいからって、わざと怪我をするんじゃあないぞ。さて、あとはミナキの風邪薬だな」


 鍋が空いたので、ミナキはカゥから教わりながら水を沸騰させ、刻んだ薬草を中に入れた。火を止めると、蓋をしてしばらく蒸らし、布ごしした液を容器に入れる。


「よし、風邪薬も完成だな。薬には期限があるから、古くなったものは使わないようにしろよ。ミナキの風邪薬は、浸剤だから特に足が速いが、大事なのは材料と作り方を覚えることだからな」


 ミナキは力を込めて頷いた。


(これで、先生やロウが風邪を引いた時に、自分で薬を作れるわ)


 魔法薬を作ることは、料理や魔法具を作ることとも違う。だからこそ、確実に何かをもらたしたように、ミナキには感じられた。


「さて、次はメムだ。茶にするためには、乾燥させにゃならんぞ」


 カゥはざるの上に残ったメムを一本摘まんだ。

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