五 魔法薬学
ミナキたちは薬草を持って、帰途に就いた。途中、また激しい雨が降ってきたので、持ってきた傘をさしながら、皆、駆け足で家を目指す。ようやく家に辿り着いた一行は、雨が止むのを待ってから、厨へ向かった。カヌトに促され、ミナキとロウは薬草を種類ごとに分けて、ざるに載せる。
「さあ、これから、取ってきた薬草を使って薬を作るぞ」
カゥは炉端に座ると、そう宣言した。ロウがすかさず尋ねる。
「どんな薬を作るんですか?」
「そりゃあ、取ってきた薬草によるさ。ミナキ、お前さんが取ってきた薬草だと、風邪薬、ロウ、お前さんが取ってきた薬だと、傷薬ができる」
「えー! それじゃあ、魔法薬でもなんでもない、ただの薬じゃないですか。傷なんて、魔法を使えば治せるし。姿を消す薬とかできないんですか? 魔法院で習いましたよ。そういう魔法薬があるって」
「あれは、そこらに生えてる薬草じゃあできっこない、金も手間もかかる薬だ。第一、そんな薬作って何に使うんだよ」
カゥに問われて、ロウは黙り込んでしまった。何かよからぬことにでも使おうと考えていたのだろうか。
『これから作る薬って、普通の薬とは違うんですか?』
ミナキは初めてカゥに質問してみた。ミナキの声が出ないことを、カゥは知らないはずだ。だが、質問が書かれたラーナンを見ても、彼は顔をしかめたりしなかった。
「魔法薬師が作る薬だからな、もちろん、魔法の使えない薬師が作る薬とは違うよ。なんたって、たくさんの魔法薬師が今まで改良に改良を重ねてきた薬だ。風邪薬も、普通の薬なら治るのに一週間はかかるところを、三日で治せる」
ロウが顔を輝かせた。
「あ! 確かに風邪を引いた時、魔法院でもらった薬を飲むと、すぐに熱が下がりました!」
「そういうわけだ。効果が分かったところで、さっさと作ろう。さて、まず最初にすることは?」
ミナキは水瓶からひしゃくで水をすくい、たらいに張った。たらいを薬草を載せたざるの脇に置き、種類ごとに洗い始める。
「そう、その通りだ。まずは土を落とさないとな。ところでカヌト、使っていい鍋はあるか? それに、硝子の容器と硝子棒、あと、蜜蝋もな。軟膏と浸剤を作りたいんだがな」
「はいはい」
カヌトは普段、薬草を煮る際に使っている鍋と煮炊き用の鍋を、五徳の上に置いた。横から、ロウが魔法で薪に火を点ける。鍋に水を入れ沸騰させると、カゥはロウに、取ってきた薬草を入れるよう言った。
「ああ、それはまだ入れなくていい。入れる順番を間違えるなよ。失敗するからな。それから、ミナキは薬草を種類ごとに刻んでくれ」
ミナキは薬草を包丁で刻みながら、囲炉裏のほうに目を向ける。
カゥは煮炊き用の鍋を五徳の上から下ろして、硝子の容器の中に入れた蜜蝋を湯煎で溶かす。時間を置いて、何種類もの薬草を鍋の中に入れるよう、カゥはロウに指示していく。
「魔法薬師にならなくても、魔法薬の作り方を何種類か知っているだけで、何かの役に立つぞ。カヌトも商売に使ってるだろう? 俺は旅の路銀が欲しい時に役立ててる。そこら辺に生えてる薬草が原料だから、元手がかからないしな。それに、着いた先に病人や怪我人がいたりすると、珍しい薬を持ってるってだけで、ありがたがられたりするもんだよ」
確かに魔法薬を作ることができれば、食いはぐれはなさそうだ。魔法薬師になるのもいいなあ、とミナキは想像を膨らませた。
そうこうしているうちに薬草を刻み終えたので、ミナキは刻んだ薬草をそれぞれ小皿に入れて、カゥのもとに持っていった。
「お、できたか。よし、鍋が空くのを待ってな。さてと、ロウ。これから言う通りに作れよ」
カゥに教えられ、ロウは蜜蝋と植物油を掻き混ぜたものを別の小さな容器に移し、薬草を煎じた液と一緒に硝子棒で混ぜ合わせた。さらに何種類かの液体を混ぜて固めると、それは立派な軟膏になった。
「これで傷薬の完成だ」
「やった! 早く使いたいな!」
喜ぶロウに、カゥは苦笑した。
「おいおい、薬を使いたいからって、わざと怪我をするんじゃあないぞ。さて、あとはミナキの風邪薬だな」
鍋が空いたので、ミナキはカゥから教わりながら水を沸騰させ、刻んだ薬草を中に入れた。火を止めると、蓋をしてしばらく蒸らし、布ごしした液を容器に入れる。
「よし、風邪薬も完成だな。薬には期限があるから、古くなったものは使わないようにしろよ。ミナキの風邪薬は、浸剤だから特に足が速いが、大事なのは材料と作り方を覚えることだからな」
ミナキは力を込めて頷いた。
(これで、先生やロウが風邪を引いた時に、自分で薬を作れるわ)
魔法薬を作ることは、料理や魔法具を作ることとも違う。だからこそ、確実に何かをもらたしたように、ミナキには感じられた。
「さて、次はメムだ。茶にするためには、乾燥させにゃならんぞ」
カゥはざるの上に残ったメムを一本摘まんだ。




