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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第三幕 人間失格、鬼合格
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79 回転する運命の輪


 それから烈火は前と同じく「タンザナイト」の一室を借り受け、そのまま二日間ほど休んでいた。

 その最初の一日は金を頂きにリヒャルトの研究室に赴いたが、まあほとんどなにもなく二日間を寝て過ごした。

 一応、疲れていたし、丸きり人目を気にせず安楽ぬくぬくと寝られるのは久しかった。いつも爺様と同室だったからな。

 もうひとつ理由を挙げれば――二日後には行動の指針ができることを確信していたからだ。

 そう、一ヶ月に一度の発表だ。


「いやぁ、なんだか一ヶ月が短いように感じますね」

「ま、今回の一ヶ月は旅の付き添いで消費したからな」


 しかも途中で鬼と遭遇する不運がやって来て、その頃は戦々恐々で日の経つことに頓着していなかった。

 ともあれ、一ヶ月経過したのは事実。

 七は例によって例の如く安っぽい紙切れを烈火に渡す。いや、ほんと、この情報伝達の仕方どうなの。紙切れて。そりゃ文字として残るのは便利だけど、なんか神が渡す紙ってギャグじゃなくてシュールだろ。凄い経費削減感あるぞ。

 ひとしきり文句を唱え終わると、烈火は一仕事終えた気分で紙を開く。内容に目を通す。



【魔道王】     第四大陸グリュン・南西部・魔都ガルディア(変化なし)

【人誑し】     第五大陸ブラウ・北部・八咫蒲ヤタガマの町

【武闘戦鬼】    第三大陸ケルフ・南東部・バージェシアの村(変化なし)

【真人】      第五大陸ブラウ・東部・散波サンバの都

【運命の愛し子】  第七大陸リラ・北部・中心都市ツェントルト

【無情にして無垢】 第六大陸インディゴ・北東部・サザリカの人里(変化なし)

【不在】      不在



「……む」

「……あ」

「【運命の愛し子】が、来てるな」

「来てますね……」


【運命の愛し子】第七大陸リラ・北部・中心都市ツェントルト――つまりあの南雲 戒が、不愉快不運野郎が、再びこの地にやって来たらしい。

 これは、困ったな。


「なにしに来たんだ……って言いたいところだが、おそらくおれがまだ残ってると踏んで来たんだろうな。つまり仕返しか」

「厄介ですね。流石に同じ手は通じないでしょうし、どうしますか」

「どうって、どうしよう……」


 烈火を狙って再びあの不運をばら撒く傀儡がやって来た。これはまず間違いない。

 で、では烈火はどうするか。これに関しては正答が思いつかない。


「あの能力はほとんど無敵だ。最強ではないが、無敵だ。向こうから遭遇を望まない限り、こっちからはほぼ確実に出くわせない」

「そのくせ【運命の愛し子】からは直接対面しないでも不幸を送ることができて、攻撃できる。これに勝つのは至難でしょう」


 前回は相手の馬鹿でかい隙を突いてなんとか退けた。しかし、次はもう以前ほどの馬鹿はすまい。してくれたら非常に助かるしラッキーだけど、それを期待するのは、敵の自殺を期待する戦士みたいな阿呆だろう。

 ならば今回はどうするか。烈火はぴっと二本の指を立てる。


「方策としては、そうだな――ふたつ」

「すぐにふたつも思いつきますか、凄いですね玖来さん」

「まあ、ぶっちゃけどっちも結局逃げるって結論なんだけどな」

「逃げんのかよ!」


 格好良く二本指を立てて我に策ありとか言っといて逃げるのかよ! 褒めた過去を返せと叫びたい七である。

 烈火は無視して話を続ける。というか敬語をとるのやめて。


「ひとつ、第六大陸に逃げる。以上」

「全く意味ない策の気がするんですけど、尻尾巻いて逃げるのとなにが違うんですかチキンさん」

「いやちょっと違う。第六大陸には誰がいる?」

「え? えっと、六番の――【無情にして無垢】!」


 そうかそういうことか、七は罵倒しまくったのと同じ口で納得を告げた。

 神子様の舌は二枚舌ー、なんてどこかの穴に向かって叫んでいいですかね。


「それで意外に考えていた玖来さん、二つ目の方策のほうはどうで?」

「あー、それはな、橋に逃げる」

「え?」

「橋、神代の橋。そこでぐるぐる歩き回る感じ。一本道だから、逃げ隠れが困難だと思う」

「成る程、それはそれで妙案かもしれません」


 でかい都市だから発見できない。複雑な場所だから尾行されて紛れる。だったら狭く簡素な場所ならば、もしかしたらなんとか二度目の遭遇叶うかも。

 ちょっとばかし浅はかで、希望的観測だけども、まあ絶対ありえない策ではないだろう。


「それでそれで、どちらにするので?」

「後で決める。ここで即決する必要はねぇだろ」

「おや、それはまあそうですけど……なんか出鼻を挫かれた気がします」

「様子見の時間がいるんだよ。もしかしたらおれ狙いじゃないかもしれないし、こっちの想定以上に馬鹿で真っ向から勝負挑んでくるかもしれん。可能性はまだ他にもあるから、それを見極めるために……【運命の愛し子】は一週間くらい放置だ」


 なのでひとまず置く。発表で得た情報をもう少し考察することにする。


「そういえばこの変化なしって表記はさ、どこまで変化なしなんだ? 最近位置が細かくなってきたけど……大陸内にいれば変化なしか? 東西南北の位置まで込みか。それとも村とか都市の留まってないと駄目か」

「大陸だけです」

「じゃあ大陸内で動いてる場合はわからんのか」


 そういえば【武闘戦鬼】は滞在する村や方角的なものは違うのに、変化なしとされている。というか、


「第三大陸北西部にいたはずの荒貝 一人と鬼灯は、やっぱフットワーク軽いなぁ」


 前者はもう大陸移動してやがるし、後者は正反対の方角にいやがる。鬼灯の奴が【魔道王】でも狙ってやがんのか、この方向だと。


「で、その【魔道王】は魔都住まい、か。要は首都でいいんだよな?」

「はい。魔族たちの首都、魔王の座す城もありますよ」

「魔王城か……まさかな……」


 あえて烈火はなにも考えなかった。最悪の想定とか頭によぎったけど、考えると考えただけで滅入りそうなので考えない。人は目を逸らすということができる生物なのだ。


「で、【無情にして無垢】さんは【魔道王】と同じくやっぱり変化なし。女は意外に下積みを欠かさないんだなぁ」


 後がすっげぇ怖いけど。

【魔道王】も【無情にして無垢】も恐ろしく恐ろしいけど。

 目を逸らす方針で。まずは目の前の敵からだ。そう、【運命の愛し子】。こいつと今度こそ決着をつけないと。


「まあもともと自分で撒いた種だからな、ちゃんと刈り取るさ」


 とはいえ【無情にして無垢】、北西部だったのが北東部になっているのは、少々気がかりだな。



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