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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第一幕 そして不在はいなくなった
9/100

9 一応安定してきたし、そろそろ考えるか









 平和で争いが絶えないファンタジー世界ファルベリア。

 その七大大陸の内、最大の面積を誇る第一大陸ロートのど真ん中よりやや南東寄り、小さな丘の麓にある町サイクラノーシュ――の、傍の森の外れの草原のどこかにて。


 なんの予兆も外敵も悲鳴もなく、魔物が消滅していた。


 唐突、突然。何故か。

 ただ歩いているだけで消える。蒸発したかのように。空間的に削り取られたように。

 まるで見えもしない神の御手が不意と魔物を握りつぶしたのかと思える光景。いや、もう少し現実的に――この世界における現実的に――考えて、魔物は死ねば消滅する。故にともあれ何かによって殺傷されているのだ。

 ではなにに? なんらの予兆もなくどうして魔物が死んでいく? 不可視の結界トラップでも張られているのか。超遠距離から見えぬほどの高速射撃でもしているのか。まさか姿隠しの魔法でも使っているのか。

 まさしく然り。最後の推測大当たり。

 何匹目か、亀のような魔物がのっそりのっそり歩いて来た。魔物のお頭はよろしくない。同胞が先から何匹も近くで死んでいるのに、気付かずただそこを行く。

 魔物に知能はない。だが本能だけは強く、鋭く、それゆえ恐ろしい。殺気や気配を知覚し知恵ある生命を殺しにかかる。五感にも優れ、足音なんてすれば即座に襲ってくる。種類によっては呼吸音でさえ捉えてきたり、血の臭い体臭などの匂いで追いかけてきたり、蛇のように体温を感知するのもあるだろう。

 その中で、亀のような魔物はなにをもって知覚し世を見渡しているのか。それは不明だが、今現在に周囲に殺すべき対象なしと判じてのそのそ行く。どこぞに殺すべき命はないかと歩き回る。それが魔物の本能で、それだけが魔物の存在理由。

 だから人に恐れられ、嫌われ、狩られる存在として忌避される。


「――――」


 なんだろう。一瞬、魔物が足を止める。殺せ殺せの本能だけの魔物が、周囲になにもない場所で停止する。それはおかしい、それは正しい。

 なにがおかしい――だって魔物は殺すしかない。殺すか殺すに繋がる行動以外はしない。停止は殺傷に繋がりえない。

 なにが正しい――だって魔物は死んでいる。結界に踏み入ったわけでもなく、狙撃されたわけでもなく、首に斬痕がある。

 そして消滅し、その場にはなにも残らず。







「ハーントハント、ハーントハント」

「なんですか、それ」

「狩猟用テーマソング。特に意味はない」

「ですよねー」


 小さな丘の麓にある町の傍の森の外れの草原にて、烈火は今日も魔物狩りである。

 歌いながらさくりと魔物の首に小剣を突き刺す。斬り裂く。抉り貫く。基本的に狙いは首元頚椎だ、それが一撃で殺すに最適だから。たまに失敗もするが、慌ててはいけない。すぐにその場を離れ、もがく魔物を観察。だいたい放置で勝手に死ぬが、余力がありそうなら袖の小剣を投擲。極力近づかない。『不知(シラヌイ)』あっても近づかない。だって反撃はあたるし。幽霊でもないのだから。

 ……『不在(アヴェイン)』は封印中である。絶対危ないし。もうちょっと、いやかなり反復練習が必須だろう。

 なにはともあれ、このように軽々しく楽々に狩りができるのは、勿論『不知』が作動していて誰にも感知されないからである。

 敵に気付かれないとは凄まじいアドバンテージとなる。相手は警戒しない。相手は油断し切っている。だって誰もいないのだから。敵もなく警戒しろなど無理な話。平和の毎日に死を油断するなとか、無茶である。

 常在戦場とは言うが、常に警戒心を研いでいては確実に続かない。精神的に物凄く疲れてしまうだろう。そして疲労の隙間に首を飛ばされさようなら。

 こんな生死が目と鼻の先の近さの世界で、そんな気苦労野郎は長生きすまい。ある程度気を抜いて、いつでも自然体がベストである。であるが、そのある程度でも抜いてしまった気を突くのが、不可知の技である。つまり玖来 烈火の暗殺だ。対象は魔物だけど。

 たぶん他人視点だと物凄く恐ろしいと思う。

 ただいつも通り歩いてるだけなのに、なんの脈絡もなくいつの間にか首チョンパされている……。気付いた時には意識が掠れ、死を理解し――最後に下手人だけでも憎悪に睨み殺そうとしても何もいない。見えない。感じない。


「え、ホラー?」

「ホラーですね」

「しかし恐怖の対象を画面上に絶対出さないホラーってどうなんだろ。不可視の恐怖はあるけど、後ろ向いたらうわー! とか驚愕はできないよな」

「それとこれとはホラーの中でも種別があるんじゃないですか? 知りませんけど」

「あー、そうか。ゾンビとかグロ系で怖いぞーって襲いかかってくるのと、シトシト静かに血が垂れるみたいな恐怖は違うわなぁ」


 実物的恐怖と雰囲気的恐怖とでも呼べばいいのだろうか――って、なんでファンタジー世界で現代のホラー映画について語り合っているのだろう。わけがわからなかった。

 気を取り直し、周囲に目を配る。敵影なし。外敵なし。たぶんなし。

 粗方狩り尽くしたかな。思い、烈火は『不知』を解除する。一息。やはり『不知』連続長時間使用はだいぶ堪える。一挙に汗をかき、息が乱れ、フルマラソンをした後の心地。余力はあるけど辛いので寝たい。

 倒れるわけにはいかないので、そこら辺の木にもたれ掛かって休憩。十分も休めばまあ、ぼちぼち回復するだろう。

 暇潰しと確認のため、烈火はポケットからギルドカードを出す。討伐数は――


「ん、お、九十九か。なんかピンポントなような、微妙にズレたような」

「おめでとうございます、玖来さん」


 これで烈火もあと一匹狩れば、晴れてBランクに昇格できるわけだ。かれこれ十日、狩り続けた成果である。

 Bになればもっともっと金が稼げるぜ、とか普通の討伐者みたいなことを思う。お前はどこぞのゴロツキか。

 にしても、魔物はやっぱり多いな。十日で九十九匹と簡単にエンカウントできたぞ。一日十匹計算の上に強そうなのは避けてたことを考えると、ちょっとウザいくらいの頻度だよ、ゲームだったらクレームいれるわ。いや、それで金をもらえる現状なんだけどさ。

 あと都合がいいのか運がいいのか、魔物はあまり群れて来ない。一度に現れるのは多くて五、六匹ていど。出現率を考慮すると、ちょっと首を傾げる数だ。魔物の習性として群れないとか? 破壊衝動の塊みたいな存在だし、まあ友達は少なそうだけど。


「いえ、実はそのような調整をこっちでいれました」

「……なんで」


 神どもが魔物を創っていることに関しては、なにも問うまい。追求しても仕方ない。神は試練が大好きなのだ。

 その上で、調整を入れる意味はちょっと計りかねる。そこだけ聞く。


「いえ、魔物が徒党を組んで沢山沢山やって来たら、討伐者なんて発展しないでしょう。討伐者のような少数での討伐よりも、もっと数を集めて組織化した――軍隊が幅をきかせてしまいます。で、それは困ります。傀儡は、個人ですから」


 この世界は、傀儡が活躍するための舞台として創り出された箱庭だから。だから討伐者のような業種が一般的で広く普及していないといけない。そういう設定の世界観にしたかった。

 そのための、小細工である。

 また嫌な話聞いたなぁ、的な顔をする烈火。邪神怖いと思いつつ、この会話は切り上げる。闇深いし。


「さてと、じゃあ今日はあと一匹狩ったら帰るとするか」

「もう二、三戦分くらいなら『不知』も続行できますしね」

「あー」

「おや、どうしました玖来さん」

「いや、最後の一匹くらいは『不知』なしでやってみようかなって」

「へぇ、それは珍しい発言ですね。危ないんじゃないんですか?」

「危ないけどよ、あんま『不知』に頼りっきりの慣れっきりってのも駄目だろ」


 たとえば今今、他の傀儡に襲い掛かられたら――『不知』で逃げおおせるかは微妙だろう。

 継続時間を考慮して、撤退にかかる時間を予測して、妨害が来るとも想定して、やっぱり微妙だ。行ける気がするが、手練相手では厳しいだろう。

 七人の傀儡、一応は現代人ということで精神的に極まってはいないだろうが、推測段階ではあるが結構ヤバイ奴らじゃないかと思――


「あ」

「……なんだよ、その不吉な「あ」は」

「言ってませんでしたっけ、選ばれた七人は皆どこか頭おかしい類の人種ですよ?」

「聞いてないな、特にこの常識人四天王なおれに対して頭おかしいという納得できない評価とか」

「はいはい、そうですねー」


 適当に流された。

 おかしい。おれは真っ当な感性を持った正常人格、普通男のはず……。

 嘆きつつも、思考は止まらない。烈火は立ち止まらない。常に前進する男。今の七の情報は随分と興味深くて重要だ。

 何故って確信したから。

 やはり――選別の段階で傀儡は楽しそうな奴らが選ばれている。

 たとえば烈火、玖来 烈火。彼は玖来流刀剣術の師範代、実戦的な殺し合いを明確に意図して鍛錬していた現代においての異端だ。そんな烈火が偶然で神子に見出されて殺し合いに参加? ありえない。誰かの意志があっての厳選の結果に相違ない。

 要は神の目に留まったのだろう。異世界という殺し合いの舞台に立って、役者として不足なく演じ踊れる程度の者だと。

 そう、他の六名もまた、烈火と同じくこのクソッタレたゲームに参加できると神が選んだ役者なのだ。

 烈火のように武術を嗜んでいるかもしれない。知識溢れる天才とかいう人種かもしれない。奇想天外の思考回路のキレた輩の可能性もある。

 ともかくゲームが楽しくなって、演劇が盛り上がるような人材を広く求めて成り立っている。

 神の邪悪さを考えるに、遊びに妥協しない系の奴だと、烈火は思う。何故なら烈火自身がそうだから。


「あれ、じゃあやっぱ六人の傀儡どもはだいぶ敵に回すとまずい感じ?」

「まあ、人によりけりじゃないですか? たぶん貧弱で神様スキル以外に目立った特徴のない人だって――んん、いるかもしれません」

「神になりたくない候補でもいるのか?」

「たぶんいませんね」

「駄目じゃん!」


 叫んでから気付く。あれ、そんな話がしたいんだっけ。


「あー、しまった。また話がアラスカのサイクロン並みに掻き乱れてる。戻す」

「何故アラスカなのでしょう……。えっと、もう一匹だけ魔物見つけてスキルなしで殺しに行くぜ、でしたっけ」

「そうそう」


 まあ、もう少し休んでからだが。

 ふむ、休み、時間の空きか。烈火は少しだけ余裕ができた頭で考え巡る。

 異世界にやって来て早十日。生活習慣を定め、金もぼちぼち溜め込んでいる。金稼ぎの討伐業もBランクにまでなったらさらに稼げる。

 割と安定してきていた。なので、そろそろ、先を見据えるとしよう。

 というわけで、今の会話を続けることにした。


「もう少し傀儡バトルロワイヤルについて適当に考えてみようと思う」

「傀儡ばとるろわいやる……ふっ」


 ふふと何故だか一人で七が笑っていた。ツボに入ったらしい。腹を抱え、涙目になってまで笑っている。

 やっぱ神のツボはなんか邪神風味じゃないだろうか……。

 置いといて。


「最初にまず、七名の思惑として簡単に言って――」

「ふふっ、傀儡ばとる……ふふふ……」

「ふたつにわかれ……わかれると思う。思う――いつまで笑ってんだよ!」

「いえっ、ふふ……すみませっ……ふふふ……」

「……はぁ」


 烈火はため息を吐いて一旦黙る。腕を組んで空を仰ぐ。

 あぁ、青いなぁ、元の世界となんも変わんないや。呑気してる間にも笑い声がすぐ傍で聞こえて、安穏できない。

 睨むように笑い続ける七を眺め――まあ、それはそれで可愛らしくて眼福――待つ。雨がやむのを待つ気分である。神の気まぐれ的な意味では近い気がする。あ、いや、そういや神の干渉はないんだから、雨の具合も自然の摂理か。雨乞いの悲しみを思う烈火であった。

 思考が逸れまくっている内に、七のほうの衝動も収まってきた模様。息を整え、薄く滲んだ涙を拭う。


「それで、なんでしたっけ玖来さん」

「……」


 しれっときりっと正常に戻りやがる。

 完全になかったことにしていた。いや、蒸し返しはしないが。そのまま話を続けるが。


「傀儡七名はふたつにわけることができると思う」

「男と女とかですか? それとも馬鹿と玖来さんとか?」

「そんな簡単で阿呆なわけ方じゃねぇよ。定住したがる奴と、帰りたがる奴だ」


 思考を説明しながら自分の中でも整理していく。


「もとの世界への未練の度合いだな。一刻も早く帰りたい奴は積極的に動くだろうし、帰りたくない奴は消極的になるだろ。そこを見越してやればなんかあるかなぁって思ったけど、それ以上は考えてない」

「あぁ、成る程、それいいですね」


 なにか言いようが気になった。嫌な予感がする。凄い嫌な予感がする。

 二度目の不吉の感覚に、烈火は恐る恐る問いただす。


「なに、なにがいいの」

「いえ、一ヵ月毎の発表に使えそうだなって。母さんに進言しておきましょう」

「…………一ヶ月毎の発表って、なに」

「あれ、言ってませんでしたっけ。ゲームの停滞を防ぐため、傀儡七名には一ヶ月毎に情報を提供しますよって」

「聞いてねェ! ていうか、それ今日二度目じゃねぇか!」


 どうしてこいつは勝ちたい割に情報提供が杜撰なんだよ!

 本当は勝つ気ないんじゃないの! ただ哀れな人の子を弄んで笑いたいだけじゃないの!?


「ていうかおい、てことはおれの情報アドバンテージって、あんまり意味ねェじゃん! いずれ知れる情報を先に知ってるだけじゃん!」

「あっ、いえいえ、流石にそこは隠しますって。最低、呼び名くらいしか発表されません。ちゃんと自力で知るべきことは別ですよ」

「それでほぼわかるだろーが! スキルに関しちゃおれも知らんし!」

「大丈夫ですよ、すぐってわけじゃありませんから。最初は七人の居る大陸を発表――あぁ」

「今度はなんだよ! まだなんかあんのかっ!」


 さっきから「あ」だの「あぁ」だの思い出す時の感嘆符はやめてくれませんかね!? 心臓辺りに悪いんですよ!

 だが今度の七ちゃんは笑顔だ。過失の際にこの笑顔だったらブン殴っているところである。拳を握り締めて次の言葉を待つ。


「そうですそうです、玖来さん。いいこともありますよ。玖来さんは能力特典で居場所の発表の際に不在とされます」

「所在位置不在って?」

「そうです。一ヶ月毎に常に告知される情報として、傀儡七名の現在地というのがあります。その際に【不在】の玖来さんは例外的に不在表記です」


 脱力。拳がほろりとほどけて緩む。

 肩を落としつつ会話を続投。やや力なく言う。


「微妙に能力バレしそうな、しなさそうな……」

「まあ、こっちもこんなゲームはじめてですからねぇ、色々と試行錯誤なんですよ。粗があったり、ミスしたりなんて当たり前じゃないですか。完全や完璧なんて、どこの世界にも神にもないんです」

「えー、神様は全知全能じゃないのかよー」

「いえ? ただ世界より前にいて、世界を創った母さんが、神様なだけですし。全知全能? あるわけないじゃないですか、小学生だってわかりますよ」

「おー、現実はいつだって世知辛いなぁ……」


 とはいえ新たな情報を入手。

 月に一度の情報公開か。先の言いぶりからするに、場所とあとはスタンスなんかも公表されるのか。それでどう転がるのか。

 まあ、場所の発表がなければ確かに探し出して殺し合うのに大分時間がかかるだろう。一所に留まるのも危うくなるし、ゲームが動く切っ掛けにはなるはず。つまり、あと二十日後辺りにある最初の発表がゲームの初動になるわけだ。それまでになんとかできることをしておかねば。

 今、烈火にできるのは身体を休めることと、口を動かすくらいのもの。後者を働かせる。


「ちなみにその一ヶ月って、日数にするとどうなるんだ。月によって違うのか?」

「いえ、それだと面倒ですので三十日固定です。三十一も二十八もありません。一ヶ月毎より正確に言えば三十日毎です」

「そうか。把握」


 ていうかこの世界の暦ってどうなってんだろうか。カレンダーとか特に見かけないし、よくわからん。

 見かけないで思い出す。話を切り替え。


「あー、そうだ、割とどうでもいいけど確認」

「なんですかー」

「確か黒髪黒目が珍しい設定だったよな」

「はい。この世界で黒髪黒目の子が生まれる可能性は数百年に一人とか、その程度です」

「おう。で、言語は世界共通で日本語とかいうジャパンな仕様だと」

「はい、そうですね」


 マジこれのせいで異世界来ました感が薄いのなんのって。

 だって目にする文字は全部母国語で、賑わい飛び交う言葉も日本語。これでは異世界というより、ちょっと隣の町に来ましたである。

 そういえば異世界にトリップするフィクション主人公はどうしているのだろう。ちゃんとはじめて聞く言語を学んで、出会ったばかりの言葉を練習して、異文化に溶け込んでいくのだろうか。正直凄いと思う。異世界の文化とか、絶対ヤバイだろ。外国の文化ですらついていけない現代日本人な烈火には、異世界の風習とか確実に馴染めない自信があった。

 いや、烈火が現在馴染み始めているこの世界は異世界であるが。


「つまり選ばれた傀儡七人は全員日本人だな?」

「あー、やっぱりわかります?」

「そりゃな。けど理由はわからん。なんで日本人だけなんだ? 狙ったんだろ?」

「おや、偶然かもしれませんよ」


 わざとらしく問う七。不思議そうな色は欠片もないくせに、わざわざ訊ねてくる。いつも説明している側だからこそ、説明される時には細密にしろとか言ってくる。可愛らしい仕返しか、それとも底意地の悪い挑発か。言い方の違いでしかないかもしれない。

 烈火は肩を竦めて乗ってやる。それくらいで腹を立てたりはしない。


「んなわけあるか。地球上には七十億人人間がいて、日本人はそのうち精々が一億人ちょいちょいだろ。つまり七十分の一だ。割と狙わないと一人だって当たらないってのに、七人ともが日本人なんてのは明らかにおかしい。選ぶ側に意図があったと看做すべきだろ」

「まぁ、そうですね。ぶっちゃけ狙いましたよ」

「ちなみに狙った理由は?」

「ノリと文化の方向性が個人的に好きだからですけど」

「そんな感じかよ……」


 雑の上に雑だった。ただの好みかよ。

 まあ、イメージ的に日本人ならこう、異世界トリップとか言われても何割かは「ああ、はいはい、よくあるやつね」とか言い出しそう。


「なにか確実に偏りまくったことを考えているような気がしないでもないですが、置いときまして玖来さん、実は私も聞いておきたかったんですけど」

「なんだよ」

「玖来さん、現代知識でチートとかできないんですか? よくあるじゃないですか、現代兵器を再現してファンタジーを蹂躙とかいう本末転倒。あれやってくださいよ」

「できるかっ。んな知識があったら苦労しねぇし、まずそもそも記憶力が持たねぇよ。こっちの世界のことも覚えるんだぞ?」


 というか現代兵器って漏れなく弾薬とか使い切りの補充前提じゃねぇか。どうやって量産するんだよ、魔法か? 魔法はなんでもありなのか? だとしたら、じゃあ魔法で頑張れよ。現代人なら銃の扱いなんざ経験ないはず、あれだって間違いなく扱いに訓練がいるだろ。作成にはもっと専門知識がいるだろ。魔法を覚え始めるのとなにが違うんだよ。魔法はなんでもありなら魔法頑張るほうがマシじゃねえのか。

 というか、世界観ぶっ壊しは七の服装だけにしておけ!


「玖来さん、よっぽど私が現代服着てるのが気に入らないんですねぇ」

「そうじゃねぇよ! 似合ってるし、可愛いし、素晴らしいよ! ただなんかこう、筆舌に尽くしがたいアレコレソレがあるんだよ」

「ぁ、ありがとう、ございます……」


 なんか真っ向から褒めたら顔を赤らめて恥らった!

 新鮮な表情、可愛い! 惚れる! 写真に写して残して額縁にいれて飾っておきたい! 御神体として祭り上げたい!

 ――なんだか結局いつも通りに、彼と彼女はやんややんやと仲良くお喋りするのであった。

 








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