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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第三幕 人間失格、鬼合格
89/100

side.【武闘戦鬼】その二


「あ――はははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」


 笑う。笑う。鬼は笑う。

 純粋に楽しくて、子供みたいに満足で、だから笑う。馬鹿笑いを轟かせる。

 何度も何度も飽きもせず、幾らでも何処でも何と言われようとも、鬼灯は笑って笑って笑うだけ。


「見事だ、最高だ! 文句なんざ欠片もねェ! 悔いも心残りもなんもねェ! 誰がなんと言おうが、おめェが拒もうが言わせてもらう――俺の負けだ、玖来!!」


 それは純粋な賞賛で、嘘偽りなき喝采だ。

 烈火の技に、度胸に、魂に、心底から敬意を表して賛歌する。

 お前はすげぇ。お前の勝ちだ。オレはお前を尊敬する。

 鬼灯は、別に負けることが嫌いではない。勝負というのは勝ちと負けのふたつで構成された概念であり、喧嘩もまたそこは等しい。だから鬼灯は喧嘩の果ての結末に頓着しない。ただ楽しかったと、面白おかしく自身と向かい合ってくれてありがとうと、それだけだ。


「――って、ん?」

「…………」


 なんだ、勝者がどうにも反応なし。喜びも安堵もなにもかも、無感動になにもない。

 烈火は――そしてそのままぶっ倒れた。

 極限まで力を使い尽くし、本当の意味で全力を使い果たしのだろう。体力全消費、気力全蒸発。そりゃぶっ倒れる。戦いの終わりに糸が切れてもはや己の身すら支えられない。


「くっ、玖来さん!」

「烈火!」


 七と傘が慌てて駆け寄り、無事かと顔色をうかがえば


「……寝てますね」

「……寝ておるの」


 ちなみに傘には七は見えず感じず、存在自体知らないはずなのだが、なんだかぴったり挙動が同じだ。

 仲がいい、というよりは、単に浮かぶ情動が同じで、表れた行動言動も同じだというだけ。

 ともあれ無事で済んでよかったと、干渉しえないふたりは、やはり同時に安堵のため息を漏らすのだった。






 一方で、烈火が倒れた以上は何も言うまい。鬼灯は鬼灯で、自らの仲間たちのもとに戻る。

 噴き出すのは軽薄な嘲笑。絆の存在を根底において、切れることなしと理解しているが故の茶化した罵倒である。


「あっははは、お頭ダッセ! 負けてやんのー!」

「うるせぇ、喧嘩なんだから勝ち負けするもんなんだよ!」


 ナーガは物凄く笑っていた。


「でも有利なルールだったとはいえ、頭目に勝つなんて、やっぱり僕の見立てた通り強い人だったね」

「そうだな、最高強かったぜ。またやりてェもんだ」


 デーヴァは何故かドヤ顔気味で。


「頭領ばっかずるいって、次やるんなら俺だろう」

「んー。どうかね、玖来はどうもやりだせばノリノリだが、やるまで行くのが難儀っぽいぞ。自分で焚き付けろよ」


 ソーマはやっぱり自分が頭領になりたいのだと主張する。


「どうしよう、あたしも相当やり合いたいわ。疼いてきちゃう」

「まァ、おめェらがやりたがるのも大いに共感できる。勝手にしろ」


 キンナはうずうずと酷く耐え難そうにやばい目をしている。


「オレァ、もうひとりのほうでもいいぜ」

「やだね、譲らん。あっちもあっちでそそる威圧だしな」


 マコラはこだわらないからとっとと戦いたいと言う。


「わたしも、どちらかと言えばもうひとりのほうがいいかな。今の彼もいいけど、圧倒的って感じはしないし」

「だから譲らねェって!」


 カルラはむしろ玖来よりも荒貝がいいと偏食っぽく笑う。


「一応、怪我の治療をしてくる」

「……おう黒塚クロヅカ、頼むぜ。死なれちゃ俺が困る」


 黒塚だけは真っ当に言って、さっさと烈火のところへ向かう。クールで助かるぜ。

 七人各々言いたい事だけまくし立て、楽しそうに笑いあう。

 おいおい好き勝手言いやがって、ボスを労うなんて殊勝な心がけもった奴はいないのか? まったく、そもそもボスが負けたってのになんだってんだ、その楽しそうなツラはよ。なんて、愚痴る鬼灯の顔こそ喜色満面で、敗北の痛痒なんて一ミリだって感じえない。

 嬉しいのだ、彼らは。気にいったのだ、烈火のことが。

 同じ武の輩の存在が、自分たちの同胞の実在が嬉しい。そして気に入った。

 もしも烈火が目覚めて「戦鬼衆」に入りたいと言うのなら、きっと満場一致で九人目の戦鬼として迎え入れるだろう。それくらいに皆が烈火を――誤解を恐れず言えば――好きになったのだ。

 ――まあ、それはありえねぇんだろうがな。

 鬼灯は、傀儡たる男は、鬼の少女と神の子に心配そうに見守られる少年を見て、そう思う。

 自分に「戦鬼衆」があるように、彼にもきっと切れない縁を持った友なりなんなりいるのだろう。気持ちのいいくらい真っ直ぐな少年だ、ともすれば自分なんかよりももっと多くの縁を持っているかもしれない。


「そこんところ、おめェはどうだよ、荒貝?」

「おれはひとりだ。ひとりきりだとも。友愛や親愛を軽んじるわけではないが、おれはこの異世界にて独りきりで戦うさ。なにせこの世界には、神に縋る家畜ばかりで鼻が曲がりそうでね」


 有望そうな少年には嫌われてしまっているようだし、やれやれどうしたものか。

 鬼灯は鼻を鳴らしてそっぽ向く。


「ま、別にそこはどうでもいいがよ。んで、玖来との喧嘩は終えたが――おめェはどうする。今の俺は最高テンションマックスで最強なわけだが、すぐやるか?」

「いや、よそう。できるなら玖来 烈火がこの村を去った後がいい。もしくはおれたちが移動するかだ」

「なんで」

「巻き込んで死なれてはつまらんだろう? 先の戦いで、貴様相手には手を抜くことができんと判じた故だ――この小さな村程度なら、戦いの余波で滅ぼしかねない」


 それはつまり、鬼灯と喧嘩して周囲の被害が甚大にはなるが――負けない心算があると、そういうことか。

 獣の笑みが、鬼灯の頬に深々と刻まれる。


「そいつァいい。玖来との喧嘩は最高だったが、殴打の快楽と痛みの悦楽だけは得られなかったからな。そこを補完してくれるなんて、ひひ、俺ァツイてるねェ」

「戦鬼の衆、か。確かに貴様は戦鬼らしい。修羅の如くに戦を求め、また相対すべし修羅を求める。その単純にして血生臭い思想、果たしてどこまでの輝きとなるか」

「ぁあ?」


 なに言ってんだ、お前。鬼灯には、荒貝の言葉回しがよく理解できなかった。理解できるようなことを話しているわけではなく、独り言の類だろうか。

 まあ、この御仁はよくわからない奴なのだろう。鬼灯はあっさりと懊悩をとりやめて適当な落とし所で無意味な納得をした。彼は馬鹿なのである。その分、自分のできる範囲を理解していて、それを越せば人に丸投げできる。わからないをわからないままで、楽しいを探しに行けるのだ。

 そんな風に傀儡二名が話し込んでいると、その会話の空白を見計らってひとりの竜人が声をあげる。少々遠慮気味に、しかし食い込んでくる。


「なぁ頭領、話を聞いてりゃそこの御仁、あそこの奴が去るまで頭領とはやり合わないんだろ?」

「ん? まァ、そうらしいな。それくらいは尊重してやるさ。全力でないと、喧嘩はつまらんからな」

「じゃあ、その間に俺とやろうぜ、そこの御仁」

「……ほう?」


 竜人の彼、マコラ・ガ・ジェ・トバルカルの発言に、荒貝は目を広げる。驚いた、と言うより興味深いといった風情だ。

 すぐに別に、鳥獣人の少女が挙手をする。意気揚々と興奮気味に。


「だったらわたしもやりたい! 踏みにじられたい!」

「性癖カミングアウトかよ新人。恐ろしい女だな」


 さておき、他の鬼どももそれに追随して荒貝との手合わせを望む声を上げる。鬼灯がやれない間に、自分もと。

 一応、集団のトップ、まとめ役である鬼灯はその殺到する要望になんらかの答えを出さねばならない。だが面倒だ、単純明快にシンプルな回答を示す。


「あー、まず荒貝。いいか?」

「確かに鬼灯 正宗と戦うまでの間は時間の猶予がある。その間だけなら、喜んで戦おう。おれもツワモノは好ましいと思っているからな」

「そいつはよかった。じゃ、早いモン勝ちな。えっと、だから最初はマコラで、次にカルラが声を上げたな? その次は……誰だっけ?」

「俺だ、俺」

「あ? ソーマか? じゃソーマで」

「待った。ソーマは性癖に突っ込みいれただけで主張したわけじゃないよ。というわけで僕だ」

「ん、そうか。じゃあデーヴァな」

「マジかよぉぉぉぉぉぉおおおお!!」


 なんて、やはり絶叫までも楽しそうに響くものだから。


「…………」


 孤独な荒貝は、ほんの少しだけ、目を伏せてしまうのだった。



 76話としようか悩んだけど、短いし烈火寝てるし、やっぱ別視点だよなぁ。ってことになりました。



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