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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第三幕 人間失格、鬼合格
82/100

70 お誘い








「戦鬼衆」という気になる集団がいて、【武闘戦鬼】という敵が存在していても、遠征の工程は滞りなく進めねばならない。

 今回の、というかこれより四日間こなすのは討伐者としての仕事である。

 魔物を探し、仕留め、金を得る。そんな単純なシステムを利用してみるのだ。また同時に戦闘経験も積んでもらう。魔物という多種多様な敵対者を見て、知り、学ぶ。それは結界内、学園ではできないことだから。

 というわけで、朝食を済ませて準備を整え、烈火ら三人は村の外へと出た。

 烈火としてはホッとする。村という狭い中では、自分が傀儡だといつバレるとも知れないが、外ならまあ大丈夫だろう。軍帽を少しだけ緩めた。


「油断は駄目ですよ?」

(お前もな)


 七もまた、屋根の上から烈火の傍へと舞い戻る。一人で寂しかったらしい。通りで昨晩は二割増しで話しかけてきたわけだ。まあ、烈火はともかく七は見れば一発でバレるから仕方ない。我慢してくれ、四日だから。

 烈火が七に言い含めている横で、トトの爺様が同じく傘に言い含めていた。


「先日まで魔物に出くわさぬように幾らか注意をしたと思うが、こと討伐に出かける際には一端忘れよ」

「忘れて、いいのかや」

「うむ。じゃが、帰りの段には思い出さねばならんぞ?」


 これまでは移動が主だったので魔物から逃げていたし、極力戦闘は避けていた。その逆に、今回は魔物をこちらから探すなりおびき出すなりせねばならない。少し、やることと適性が違うのだ。

 

「逃げておっても討伐の仕事にならぬか」

「そうじゃ。こちらから攻めるのだからのぉ、目立って寄せ集めて一網打尽じゃよ」

「過激でありんす」


 ほほほとトトは笑った。誤魔化すような笑い方だった。ちょっと失言したと感じたらしい。

 気にせずに話を進める。指示を飛ばす。


「わしと嬢は魔法が主体じゃ。魔物どもをおびき寄せて、そこを魔法で撃ち抜くのが簡易じゃろう」

「それでは近寄られた時まずくはないのかや」

「そのための護衛殿ですじゃ。のぉ、護衛殿」

「……はい、精一杯努めさせていただきます」


 この爺さん、烈火にどんだけ面倒押し付ける気だ。前衛一枚後衛二枚って、あきらかに烈火の負担が酷いと思うのだが。まあ、爺さんから見てゲストは傘だけで、烈火に容赦する理由はないのだろう。甘んじて受け止める。頑張るさ。最近は、ちょっと【武闘戦鬼】や「戦鬼衆」の影に怯えて遠征への集中力が欠けていたしな。


「では、ちょっと魔物を探すぞ。よいな、嬢、護衛殿」

「うっ、うむ」

「えっと、はい」


 頷いたはいいが、探すって、なんだ?

 爺様は杖を掲げてなにやら呪文の詠唱。結構近くにいるのになにを言っているのかわからない。小声で他者に聞き取れず、かつ詠唱として意味をなすという、ひとつの技法だ。詠唱内容がバレると色々と不都合なので、言声魔法を使う者には割と必須の技法だ。それでもトトほどに上手くできる者を、烈火は知らない。コロシアムで戦ってる奴は、見世物を意識してるせいか声高らかに格好つけて詠唱してたし。


「――《  》」


 結局、詠唱が終わって魔法が発揮されても、なにを唱えてなにをなしたのかわからない。

 なので率直に問いかけるのが一番手早い。


「なんの魔法で?」

「《察知》じゃ」


 あぁ、確かキッシュがいつだか討伐者として持っておくべき魔法のひとつに挙げていたな。そうか、こうして討伐側に回る際に偵〈察〉し周辺を〈知〉る補助系魔法である。〈遠〉くを覗き〈見〉る《遠見》の魔法とは違い、視界を飛ばすのではなく気配というものを明確に捉えられるようになる魔法らしい。よくわからんが、望遠鏡とサーモグラフィみたいな違いだろうか。ちょっと違うかも。どっちも使ったことないからわからん。


「しかしふむ……」

「どうかしましたか」

「いや、よい。行くかの、向こうじゃ」






 それから魔物狩りと洒落込む。

 爺様が見つけ出した魔物と、少し派手に戦う。烈火に派手さは要求できないので、傘にそこは任された。まあ言われずとも傘の得意は雷の魔法。轟音と閃光が周囲に撒き散らされて果てしなく目立つ種類の魔法だ。これで魔物を倒すと同時におびき寄せることができる。

 コロシアムでは派手さが売りになって、その雷光雷鳴が敵の感覚器を乱しただろう。こうして敵を集める際にも使えなくはない。けれど隠密や非戦を望む際には使えない。キッシュが風を主にしていたのは、それが理由なのかもしれない。闘士と討伐者では、使う魔法に差異ができるものらしい。

 というか、単純に烈火は雷が横で落ちてるとかメッチャ怖いです。支援に向いてないって絶対。というかオーバーキルなんじゃ?


「いやいや護衛殿、以前に言ったがの。魔物に殺しすぎるを心配してはならんよ。生命力は尋常ではないでの。殺したと、灰になるまで思ってはならん。油断は死を招くでの」


 烈火が傘に向けてちょっとレクチャーというか苦情を申し立てると、爺様にそう言われた。

 なんか嫌な過去でもあったのだろうか。厳しめの口調だ。


「まあ、護衛殿の言うことも一理あるがのぉ。嬢、魔法は他にはないのかの。制御を失敗すれば、確かに護衛殿が危ない」

「そのぅ、威力が高く、一撃で滅ぼせそうな魔法は他には……」

「ない、と。ふむ」


 まあ、ひとつの魔法に偏れば、他が疎かになるのは当然だ。雷の魔法は威力が高く、速度もあって派手さは脅しとしても使える。全体的に強力な魔法と評していい。その分、扱いは難しいはずで、最初に使った際にはトトの爺様も驚いていた。

 そっちにばかり時間と手間を割いたから、他の魔法は少々自信のない傘であった。


「では護衛殿、がんばってくだされ」

「……ええ、はい。大丈夫ですよ、がんばります」


 まあ結局こうなるわけで。

 うじゃうじゃと寄って来る魔物と、烈火は背中から襲う雷にもビビりながら戦うハメになる。

 それだけならよかった。

 ――雷鳴すらも貫くような轟音が、どこかで鳴り響いた。


「っ!?」

「なんじゃ……!」

「……」


 自然に発生するような類の音でも音量でもない。何か何者かの意図なり目的なりがあっての爆音のはず。

 烈火は警戒し、傘は不安がる。トトの爺様だけはおよそを推測して、若者ふたりに言って聞かせる。


「おそらく、こちらの雷鳴に対抗して大きな音を鳴らしての魔物寄せをしておる輩がおるのじゃろう」

「それって……まさか……」

「うむ。今朝の「戦鬼衆」とかいう小僧どもじゃろうな」


 トトの爺様が《察知》を使用した際に微妙に変な反応だったのはそのためか。「戦鬼衆」の連中もまた魔物狩りに村から出たことに気付いたのだ。

 烈火はおずおずと手を挙げる。まさか村の外に出てまで奴らと関わりあるなんて御免被る。


「あー、その、個人的ですがあの連中とはあまり顔をあわせたくありません」

「まあ、そもそも討伐者同士で狩りがかち合うと諍いにしかならんでのぉ。端から遭遇はしたくなかったが――それはおぬしの個人的な考えじゃろ。どうしてじゃ、護衛殿」

「からまれたくない」


 率直に言った。明快かつ誤解のないくらいに清清しく斬断するようにばっさりと告げた。

 そんな烈火のむすっとした物言いに、トトは苦笑する。まああの手の連中にからまれるのは、確かに嫌だ。


「では少し離れたほうがいいかもしれんのぉ。嬢?」

「うむ、烈火が言うならそうするでありんす」

「ありがと」


 依頼人に我が侭聞いてもらった形だ。ちょっとバツが悪いが、あれと関わるのは傘にもいい影響とはならないだろうし。

 ではちょっと移動しようか、という段で現れるのが魔物ども。空気を読まず、嫌なタイミングで登場する


「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

「ち」


 木々の狭間から飛び出してきたのは奇声を発する怪鳥。が四匹。

 烈火は即座に前に出て、右手で小剣を構える。左手で小剣投擲。

 待ちの姿勢に見せて先制攻撃。飛来する剣は過たず怪鳥の一匹の眼球を抉る。


「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa――っ!」


 苦痛に喘いでいるのか、興奮しているのか。不明だがダメージは通った。すぐにワイヤー伝いで小剣を引っ張り回収。

 している間に怪鳥二匹が烈火に襲い来る。鳥のくせにくちばしには牙が並び、それを見せ付けるように大口開ける。噛み砕かんとする。二歩退いてスウェーバック。ギリギリの回避。ばちんと噛み合う歯音が聞こえる距離。だが触れてはいない。ダメージはない。

 烈火はぐるりと首を回し、勢いつけて上半身を前に押し出す。軍帽を放り上げる。鳥の一匹の顔面にぶつける。そして《接着》。視界を覆って、そして離れない。振りほどこうにも〈接〉せば粘〈着〉し続ける。

 そっちを無視し、右手は稼働。構えていた小剣が舞う。前かがみの姿勢に移行した力を利用しての刺突。首に突き刺し命脈を断つ。

 未だに視界を覆われ暴れている鳥のほうも、回収した左の小剣でさっくり仕留めて終わる。知能がないとパニックになってから立ち直るのが遅い。

 これにて怪鳥三匹は絶命した。

 ではあと一匹は?


「傘! 爺様!」


 即座に振り返って叫べば――


「あぁ、そう焦らずとも」

「な……っ」


 吸血鬼の男によって、怪鳥が素手で寸断されているシーンを目撃した。

 なにがどうしてどういう――違う。うろたえるな。

 討伐者が音を聞きつけ寄ってみて、ちょうど危ない場面だから手助け、そんな情景はありふれているはず。

 そうじゃない。手助けは助かったが、そうじゃない。この男は、この吸血鬼は今朝に見た――


「どうも。僕は「戦鬼衆」が一角、デーヴァ・フォン・ディエッセと言います」

「あ、うむ。助かったでありんす、わっちは夜鳥・傘じゃ」


 名乗りに、応えたのは傘だけだった。

 トトも烈火も警戒し、口を閉ざして構えを解かない。その姿を、デーヴァと名乗った美男子は嬉しそうに眺めている。


「いいね、君とご老人、強そうじゃないか」

「……助力は感謝するがの、手をだされんでもこちらで処理はできた。あまり笠に着た態度は御免じゃよ」


 あらかじめ、爺様は言っておく。ここできっぱり言っておかないと後々トラブルが発生しかねない。流石である。

 デーヴァは苦笑で手を振る。そんなつもりはないと。


「無用な手助けだったかな、すみません。ちょっと大きな音がして気になって見に来たらあの状況だったので、思わず手出しをしてしまったんだ。別に、恩に着せたいわけじゃない」

「……なぜ音がしたからと寄って来る。討伐者なら、討伐者同士、かち合わないほうが互いの利になるはずだ」

「それはそうだけど、ちょっとここいらの討伐者さんの実力を見てみたくてね。今朝やったあの人は、たいしたことなかったから仲間内で不満が溜まっててねぇ」


 それは、こちらの腕前を観察したかったということか。今の魔物との一戦を、見届けられてしまったということか。烈火は遅まきながら軍帽を拾って髪を隠す。歯噛みする。戦法で出自がバレるとはあまり思わないが、ワイヤーを使った点が少々奇異に映ってしまったかもしれない。僅かでも注目されてしまえば、それだけどんどん状況が悪化する。ここは穏便に済ませたいが。

 デーヴァはこっちの思惑を知ってか知らずか、友好的に話をする。


「これは別に単純な頼みなんだけど、そこの剣士さん? 君、ちょっとうちの仲間と戦ってくれない? 僕は結構我慢きくほうだけど、そうでもない奴らが多くてさ。困ったもんだよ」

「……我慢ってのは、殺しか?」

「まさか、戦いだよ。僕たちの噂聞かない? 極力殺しはなしでやってるよ。頭目の意向でね」


 頭目――【武闘戦鬼】。現代人らしい価値観の発想だが、そこに烈火のような傀儡は含まれないだろう。殺さねばならない、ゲームに勝利するためには。

 烈火は断固たる態度で返答する。無論、否と。


「断る」

「どうしても?」


 軍帽を目深に被りなおし、目線を合わせないようにしながら続ける。


「どうしてもだ。おれは喧嘩のために鍛えているわけじゃないし、今の仕事は護衛だ。怪我をするわけにもいかない」

「怪我ならこっちに治癒師がいるけど」

「それでもだ。治癒師の腕を信用できないし、傷ついたところを癒してくれる保証もない。おれは、初対面の者をすぐに信用できるほど真っ直ぐじゃない」

「ま、そうだよね普通は」


 苦笑。これまでも似たようなお誘いとお断りを何度となく繰り返してきたのだろうことが、その仕草からは見てとれた。

 粗雑な連中ばかりと思ったが、こういうタイプも属していたか「戦鬼衆」。余計恐ろしいが、今は行幸と思っておこう。最初に戦闘を見られ誘いをかけてきたのが、この彼であったということを。


「じゃあまあ、君たちのことは大したことがなかったって頭目らには言っておくから安心してよ。ただし、僕以外の「戦鬼衆」のメンバーは割と強引なのが多いから、気をつけてね。君の腕前ならこぞって喧嘩を求めてくる奴らばっかりだ」

「注意するよ。忠告どうも」

「どういたしまして。じゃ」


 デーヴァはそのまま去っていく。轟音響く側へと、仲間のもとへと。

 からまれたくないって言ったのに、見事にからまれてしまった。彼の言った言葉に嘘はないだろうが、しかしそれでも懸念事項は多大だ。

 やはり、決意するしかない。決断するしかない。ここで迷っては一生後悔しかねない。だから。


 烈火は今晩――【武闘戦鬼】を暗殺する。











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