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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
幕間 コロシアム編
61/100

53 陽だまりのような暖かさ







「リーチャカ・リューチャカ聞いてくれ、おれ魔法が使えるようになったんだ!」

「……そうカ」


 魔力枯渇で疲労していた烈火だったが、リーチャカに顔を出さねばという意地でもってその日の内にやって来ていた。リーチャカの家だ。

 明日はまたコロシアムに戦いに行くし、あまり日を空けるのも機嫌を損ねると学習した。ちょっと無茶だったが、まあ徒歩くらいに支障はなかった。無事に到着して、部屋に案内され、お話だ。


「え、それだけ? 反応薄くない? おれ結構がんばったんだけど……」

「いや、そもそもレッカ、魔法使えなかったのカ? それに驚きダぞ」

「…………」


 烈火はこの時になってようやく魔法が子供でも扱えるものだということを思い出した。おれはなにはしゃいでいたんだろう。なんか落ち込む。

 そうしていると、リーチャカのほうが少しだけ焦った。そんなに気落ちしなくてもいいだろう。


「悪かっタ。できないことができるようになるのは喜ばしいことダ、おめでとう」

「うぅ、リーチャカ・リューチャカ、お前はいい奴だよ、ほんとう」

「ところで、コロシアムのほうはどうダ?」


 さらっと話を変える。

 リーチャカは烈火が話題によって非常に面倒になることを知っていた。そして都合が悪くなると話を変える癖があり、そのためこちらがその手を使ってもなにも言えないことも。

 今回も多分に漏れず、当たり前のように受け答え。


「おお、Bランクになったぞ。一応、負けなしだし」

「それは、凄いナ。いや、「先剣」を討ったのだから当たり前、カ?」

「ありゃ運がよかったんだって。Cでも普通にみんな強いぜ? 馬鹿じゃないからな。まあ魔物相手でなく人間相手に強さを研ぐんだ、暇な連中っちゃ暇な連中だがな」

「毎日戦いに明け暮れているような連中の巣窟だからナ。まァ、それを言うならリーチャカもまた、毎日飽きずに鉄を打ってる馬鹿な女だがナ」

「そりゃ冗句か? 笑えないぞ。手間暇かけてひとつに打ち込むのはカッコいいだろうが」

「む」


 冗句と言えば冗句の一種だったが、烈火の返しは予想外だった。

 僅かに言い詰まり、目を逸らしてまた話題の変更を。


「あァ、そうダ、レッカ。腕輪、見せてくれ」

「ん、おお。そういえば顔出すのはそれが目的だったな」


 最近何度か訪問しても、腕輪を見せた記憶はなかったが。というか、最初を除けば今回がはじめてなのではないだろうか。

 まあいい。烈火は左の腕輪を外し、小剣をとってリーチャカへ渡す。


「そこに置いてくれ。リーチャカはちょっと、とってくる」


 言われた通り、烈火は伸ばした手を机に向ける。腕輪を置く。

 リーチャカはその間に立ち上がり、別室へ。とってくるって、なにをだろうか。

 首を傾げて一分も待たず、リーチャカは帰ってくる。その手に持つのは、


「お? 腕輪じゃん。え、嘘、もうできたの?」

「形だけダ」


 言って見せてくれる。それは烈火のしている腕輪とほぼ同一の外見をした腕輪であった。

 リーチャカは椅子に座りなおし、机に置かれた本物の腕輪を持ち上げる。そして見比べ、ひとつ頷いた。


「外見はよし。重量も、だいたい変わらないダろう。あとは……」

「ギミックか」

「うん。それをどうにかしないと意味がない」


 リーチャカはそれからしばらく黙りこくって腕輪の観察をはじめた。自分で作った模造品と比較して、どこにギミックがつめ込められて、どう作用しているのかを細かく確認。そして色々とメモに書き込んでいく。烈火にはよくわからない数字や言葉の羅列で、その上走り書きだったのでちょっと解読はできない。

 まあする必要もないか。烈火は思い、そのままちょっとこの空気に沈むことにした。

 静かだった。リーチャカの字を書く音と、あとはせいぜい腕輪を動かす物音くらいしかしない。穏やかな日差しが窓から差し込み、心を落ち着けてくれる。座るソファに身を預け、ゆったりとした心地で目を閉じる。このまま眠ってしまいそうだった。

 あー、やっぱ美少女との戯れは癒されるわぁ。小さいおっさんとは別次元だわぁ。喋ってないで同じ空間にいるだけでもすげぇ心地いいもん。


「私がいるじゃないですか!」

(七ちゃんはもう、なんていうか……マスコットみたいな?)

「喜ぶべきか怒るべきかわからない表現ですね」

(デフォルメ化とかできないの? グッズ展開まっしぐらだぜ?)

「できますが」


 ぽん、とわざとらしい効果音を鳴らして七ちゃんの姿が消える。いや、縮んだのだ。思いきり、二十センチくらいに。まるでお人形のようにデフォルメ調の姿となって。


「うわっ」

「っ!」


 流石に驚いた。いやこれはこれで物凄く可愛らしいけど。ファンシーなぬいぐるみみたいで胸に抱き締めて一緒に寝たいわ。おやすみ!

 そこでリーチャカがはっと顔を上げた。烈火の声でなにやら集中力が途切れた模様。


「あっ、あぁ、すまん。邪魔しちゃったか」

「……いや、リーチャカのほうこそすまない。客人の前で仕事をはじめてしまうなんテ」


 バツが悪そうにリーチャカは頭を下げた。

 烈火は微笑。柔らかく、楽しげに、笑う。


「謝らなくていいよ。リーチャカ・リューチャカが真面目に仕事に取り組んでるの、凄い見てて眼福だったし」

「眼福? 何故?」

「そりゃ可愛いらしい子が真剣な顔してるのって、趣きあっていいじゃん。目とかすんごい綺麗だったぜ?」

「あぅ。ちょっと、恥ずかしイ」


 そうやって顔を赤くするのも、羞恥に顔を隠そうとするのも、本当に尊いくらい愛らしい。なんでおれは今、撮影機材を持っていないのだ。心のシャッターを切るしかないじゃないか。いや、それとも写生か。写生すればいいのか。ああくそ駄目だ。ペンと紙はあっても絵心がなかった!


「それに、おれのために真剣になってくれてるんだ、そりゃ嬉しいだろ?」


 その烈火のために、という思いは写真にも絵にも写せないのが悔しかった。見ることすらできないなんてあんまりだ。こんなに嬉しいっていうのに。

 リーチャカは今度こそ烈火の笑顔を見ていられなくなった。数瞬硬直してから、突如立ち上がって部屋を辞す。


「茶をいれてくるっ!」


 なんとかそんな捨て台詞を残して。

 またまた微笑ましくって、烈火はずっと笑っていた。






 その後、お茶を頂いていると、別に客が来た。リーチャカに剣を頼みに来た馴染みの客らしい。

 なので烈火は残った茶を飲み干して、すぐに退散した。商売の邪魔しては悪いしな。リーチャカの生活がかかってるわけだし。

 そうして今、烈火はゆったり都市を行く。


「どこへ行くんですか、玖来さん。魔力もほとんどなくて身体もダルいでしょうし、あまり歩き回るのも辛いのでは?」

(お前いつまでデフォルメなわけ?)


 七ちゃんは何故だかデフォルメ小さいまま烈火の肩の上に座っていた。お前はおれの操縦者か。


「えへへ。行けっ、玖来ロボ! 敵をやっつけろです!」

(がおー! じゃねーよ!)

「いつまでって、そんなの飽きるまでに決まってるじゃないですか」


 時間差つけて返答すんな。と突っ込むのはやめた。烈火はだから疲れているんだってば。

 まあ、今日一日くらいで飽きるだろう。放置しても構わない。

 で、話を戻すが。

 

(どこに行くかね。久々に図書館行こうかと思ったけど、どうだろ、今の体調じゃ寝ちまいそうだな。というかもう再開してるのかな)

「確認に行けばいいじゃないですか」

(手間……と言って捨てるのは短慮か)

「それともコロシアムに観戦とか、身体が重くてもできますよね」


 色々と案をだしてくれるのはありがたい。休みの日だからってなにもせずに時間を無駄にするのは嫌なのだ。そういう休み方なら怪我をした時だけでいい。

 しかしどれもパッとしないな。どうもぴんとこないというか。


「では買い物なんてどうですか? 少々小金は入ったでしょう。なにか買ってみては」

(それは、いいかもな。紋章道具が気になってたし)


 以前、キッシュと買い物に出かけた時はほとんどリーチャカへの詫びの品を選ぶのに時間を使ったからな。本格的に紋章道具は買えていない。単純に金がないのもあるけど。


(今の懐事情だと、どうだろ。下位魔法くらいなら変えるかな)

「そうですね……うん、たぶんひとつくらいなら買っても支障はないかと」

(じゃ、行くか)


 足を北へ。烈火はゆるりと商業区へと向かった。






(やっぱ高いなぁ)


 以前の買い物で、キッシュにおすすめされた紋章道具のお店にやってきた。

 烈火は店内で下位魔法の刻まれた品々を眺めるが、どうにも顔色が渋くなって仕方がない。


(《明々》の魔法ですら宿代より高いし、《復元》は今の有り金全部はたかないと届かないって、はぁー)

「仕方ないでしょう。それだけ性能がいいはずですし」

(性能か。紋章を刻んだ魔法使いの腕によるんだっけ)


 ちらと頬杖ついてる店番のおじさんに目を向ける。どうも優秀な魔法使いには見えない。まあ、店の主がここの道具に紋章刻んだ魔法使いとも限らないだろうが。おすすめしたキッシュを信じて、そこらの不粋な思考はやめておくか。

 棚を見渡す。そこには指輪や護符、短剣やコートまで、色々なアイテムが置かれている。一見すれば一貫性がなく、なんの店なのかと戸惑いそうだ。だが、その商品には簡素な説明の紙が添付しており、そこに魔法名と効果がつらつらと書かれている。全てが紋章魔法の付与されたアイテムであると、それで理解できる。

 ひとつひとつ解説の紙を見遣る。


(《伝達》、《障壁》、《浮遊》……お、《気断キダチ》もあんな。それに《軽癒ケイユ》……あぁ治癒種はやっぱ下位でも高価だな)


 そして攻撃種はない、と。キッシュが前に言っていた通りだな。それと、対抗系も少ないな。それは単純に高度な魔法が多いかららしい。なのでやはり多く目につくのは補助系の魔法。身体能力を伸ばしたり、速度を増したり、種種便利な効果の魔法だ。


(一個に絞ると悩む、というか選びがたいな)


 あれとこれのどちらにしよう、と迷うというか、買うべきではないのではと思ってしまう。なにせ下位魔法なら、いずれ烈火が自力で扱えるようになる。はずだ。今は魔法の得手不得手を把握すらしていない。烈火は名前通り火の魔法が得意で水が下手。じゃあ水属性の紋章魔法が付与されたのを買おう、とかもできないのだ。なにせさっき生まれてはじめての魔法を成功させたズブの素人なのだから。一応、下位魔法で対抗系がひとつも発現しなかったから、それが苦手と言えなくもないが、ここに対抗系魔法が少ないのと同じ理由かもしれない。つまり単に魔法側が難度が高かっただけということ。

 

(もうちょい、魔法を覚えてから買いに来たほうがいいかな)


 今度にしたほうがいいのにもうひとつ理由がある。

 紋章魔法というのは下位ならば道具に刻んで誰でも扱える便利な代物だが、中位以上の魔法となると紋章理解が必要になるのだ。紋章がどう機能し、回路がどこへ向かい、魔力をどう分散して込めればいいか――そういった紋章魔法の知識と経験が要る。下位ならばそういった面倒な読解は不要なのだが、ある程度以上に紋章が複雑になればただ魔力を込めただけでは上手く発現しないのである。

 紋章魔法は汎用性に優れた誰でも使える超便利アイテム、とはならないのである。まあ、紋章を出来うる限り簡潔簡素にまとめあげることで、中位以上の難易度の魔法でも魔力をいれるだけで発揮可能という技術もあるらしいが、そんな紋章道具が造れるのはほんの一握りの卓越した術師だけだろう。少なくとも、こんな店で売っているわけがない。

 つまり、ここに売っているのは大半が下位魔法で、残りは紋章魔法について学んでいなければ無意味な代物なのだ。しかし紋章理解ができているなら、同時に自身で紋章を描けるということでもあるので、事情もなくわざわざ買いに来る者は少なかろうが。

 で、烈火は勿論、紋章理解なんざからっきし。印相派だって覚束ないのに紋章魔法が扱えるわけもなく、下位魔法しか購入しても使えない。しかし下位魔法なら先も考えたが、すぐに自分で覚えられるのではないだろうか。いやいや、キッシュがそうだったように旅に必須の道具は持っていたほうがいい。でも金の問題もあって……あー、んー、どうすっか。


(七ちゃんアドバイスは?)

「『不知』使って泥棒」

(七ちゃんマジ邪神!)

「普通の発想ですって。玖来さんステルス能力とか選んだくせにちょっと潔癖すぎません?」

(うるせー、両親の教育がよかったんだよ。ただしジジイは除く)


 笑い話でもなく事実である。

 七としてもこういう邪念をくすぐることを言う割に、本当に腐った性根の輩であったら、それはそれで嫌悪していただろうし。

 玖来さんはそれでこそ、でしょうし。含み笑いをしつつ、返答を。


「まあ、真面目に答えますと、わかりませんよ。戦さ事なら玖来さんの領分でしょう? なんか小細工でも考えたらどうですか?」

(うーん、そうだなぁ。とりあえず身に着けるものがいいな、手を塞ぎたくないし、小剣買っても握りが悪いだろうし)


 指輪も駄目だろう。手の感覚に変化を与えるわけにもいかないし。コートも動きの邪魔になる。服装系も学ラン以外着たくない。では護符などの持っているけど身に着けないもの、それとも腕輪や首輪とか装着しつつ邪魔じゃないものだろうか。


(ん? なんだ、これ)


 帽子である。しかも何故か軍帽。この世界にも軍隊あって制服制度があるのか。それとも単に似たセンスがファッションとして発達しただけか。どうにせよ、なんかそそられる。カッコいい。

 烈火はそういう軍服系統が好きだった。なので学ランも気にいっていて、マントも好きだった。中二ではない。ファッションセンスである。断じて中二ではない。それにマントが好きでも着てるのは外套だ、ちゃんと分別ついてる。ほぼマントに近い外套ではないかという突っ込みはなしで。

 ともあれ目を奪われたのは事実。軍帽を手にとり、おおと目を輝かせている。付与された魔法は――


(《接着》……)

「触れ〈接〉したものを付〈着〉させておく魔法ですね」

(用途は……)

「帽子がとれないようにじゃないですか?」

(ファッション用かよっ!)


 なんなら帽子を床に叩き付けたかったが、我慢。売り物である。

 と、思ったが、おや。


(これ、もしかして……)


 烈火は軍帽を持ち、魔力を流してみる。そして、手を離す――付着しとれない。落下しない。


「…………」


 無言のまま、烈火はもう片方の手で帽子に触れる。とれない。手が離れない。割と力強く両手を離そうとしているのに、だ。

 このまま無理に離そうとすれば、軍帽が引き千切れてしまうだろう。それで紋章が損傷して魔法は解ける。効果適用中には、どうしたって《接着》し続ける。

 思わず、烈火は呟いた。


「面白いな……」

「ファッション用のはずですが、なにを思いつきました?」

(少なくとも、ファッション用で警戒されないだろうってのは、それだけで利点だ)


 それに前から髪の毛を隠すための帽子は欲しかった。まあ、この軍帽じゃあ頭全体を隠せず髪は漏れるけど。それでも色が黒なぶん髪の毛と混同しやすくて遠くからならわからないかもしれない。戦闘の際も派手に動いてとれそうになっても、紋章を起動させれば外れないまさしく魔法の帽子だし。

 うん、よし。

 烈火はひとつ頷くと、そのまま軍帽を棚に戻さずカウンターに持って行く。今日購入するのは、これに決めた。

 ……決して中二病的なビジュアル面の決断ではないことを、ここに明記しておく。










 烈火の現在の服装

 学ランに外套を羽織り、軍帽を被っている。

 ……軍人?



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