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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第一幕 そして不在はいなくなった
6/100

6 神様スキルってすごーい












「じゃ、魔物でも狩るか。主に金のために! 主に金のために!」

「うわーい、玖来さんってば現実的ー! 素敵ー!」

「金は力だ! 金はパワーだ! つまり金は命だ!」


 というわけでありまして。

 さあ行くぞ、町の外へ! 魔物狩って金にするぜ! いざ部屋を出ん!


「――の前に、自分ができることの把握をしとかねぇとな」

「あぁ、そういえば神様スキルについて説明してませんでしたね」

「神様スキル? すぅげぇネーミングセンスだな、おい」


 サマ付けの辺りがなんとも言えない。しかも与えた本人はまだ候補じゃん。見栄を張っているの? 


「細かい突っ込みはいりません」

「へいへい」


 先手をうたれた。ジト目が意地らしいが突き刺さるぜ。

 七ちゃんはシステムモードらしく、烈火の調子には合わせない。さくさく言葉だけを重ねて感情をなるだけ削る。


「で、玖来さんに与えた能力は――」



不形(カタナシ)』:姿が見えなくなる。それだけ。音は出すし、気配もする。

不知(シラヌイ)』:存在を感知されなくなる。声を出しても聞こえない、触れても気付かれない。

不在(アヴェイン)』:その場から消える。空間座標から外れる。全存在の干渉選択能力。制御によってはこちらの五感や身体の一部を残すことや一方的な干渉も可能。だがそこにいない。だいぶ不思議で、割と危険な状態。



「――のみっつです」

「なんか増えてね」

「改善しました、褒めていいですよ」


 フンスと胸を張る七。なにこれ抱きしめて撫で回したい。やっていいですかね?

 であるが、烈火は割と慣れてきたのか、可愛さに負けずに受け流す。割と内容的に気になること、早く聞きたい。路線変更しないためには努めて冷ややかな対応。


「あー、はいはい、七ちゃん偉い凄いカッコイイ」

「それほどでもあります。で、少し説明しますね」

「おう」


 ぴっと、七は人差し指を立てて見せる。


「ひとつ目のスキル『不形』。これはブラフ用能力で、穴があります。わざとこちらを使って慣れさせたところで、さらに隠蔽度の高い次の能力で仕留めるのがいいんじゃないですかね。まあ、消費が一番少ない、他のふたつにはできない触れていない他者や物への付与ができるのは利点でしょうか」

「いや、だいぶ利点だろ。これでブラフとか豪勢だろ」

「一応は神様が与えた力ですからねぇ、三つとも並外れた力なんですよ」


 ふふんと得意げに笑いながら、さらに中指を立てる。ピース。ではない。二個目の意。


「ふたつ目のスキル『不知』。これがたぶん玖来さんの欲しがってた能力だと思います。完全に誰にも感知されません。けれど存在はそこにありますので、相手に気付かれることなくダメージを負うことはありますのでお気をつけて」

「まぁ、そんなもんだよな。見えないだけでなく、感知できないんだろ? だったらすげぇよ」

「五感どれでも感じ取れませんし、並みの感知魔法じゃあ捉えられませんね」

「おう、想像通りだ。いい仕事だぞ」


 素直な称賛に、一瞬戸惑いながらも七は薬指を立てて三つ目の説明。


「あっ、ありがとうございます。

 えーと、それで最後のスキルは『不在(アヴェイン)』です」

「おい、ちょっと待て、おい。なんでこれだけ中二病的ネーミングセンスなんだよ、恥ずかしいんだけど」

「えー? カッコいいじゃないですか。というわけで名称の変更はありません」


 なんか笑顔で断定された。どういうわけだよ、理屈で言えや。


「理屈ですか。これ不在と書いてアヴェインと読ませてますから、中二ルビがないとアザナと被って混同しちゃいます」

「そもそも不在って名前をスキルにあてるな」

「駄目です。他の傀儡方もアザナを書いてカタカナで読ませるスキルを持っていますので。統一感ですよ」

「統一って……」


 必要なのか? 首を捻る烈火の頬に、七は三本指をぐいぐい押し付けて強引に進める。


「で、『不在(アヴェイン)』です。これはちょっと他とは毛色が違いますね。隠蔽隠行の能力ではなくて、どちらかと言えば空間干渉です。本当にその場からいなくなります。移動ではないですよ? なんと言いますかね、その場にいるけどその場にいない。あらゆるものへの絶対不干渉状態みたいな。ただ『不形』や『不知』みたいに見えなくなるとか感知されないとかは内蔵されていませんので」

「ふぅん? その状態で移動はできるのか? 攻撃とか」

「鍛錬次第ですね。それ次第では干渉対象を取捨選択できるので。まあ、そもそも『不在(アヴェイン)』は結構魔力使いますし扱いは難しいのでお気をつけて」

「ふむ……」


 とりあえず実際にやってみる。

『不形』。

 烈火の姿が消える。誰の視界からも見えなくなる透明化。

 なのだが。


「……消えたの?」

「消えました」

「…………」

「…………」

「……ほんとに?」

「本当です」

「……えっと、わかんないんだけど」


 自覚の方法がなかった。鏡とかないの。ないわな。てか鏡で確認できるのかすらわからん。自分だけは見えます的なノリだったらやっぱり自覚できない。あ、手は……見えるし。

 これ本当に消えてんの? 信じてみたら赤っ恥とか裸の王様オチは嫌だぞ。王様の耳はロバの耳ー! 関係ないか。


「ていうか、待てよ。裸の王様で思ったが、この能力って服とか装備はどうなってんの。浮いてるように見えるわけ?」

「スキル発動中に触れているもの、身に着けているものもまた同時に消えますので安心してください。他のふたつもそうです。ただ、『不形』だけは付与ができるというのが特徴でしょうか」


 物に付与できるのはいいな。小剣投擲とかに便利そうだし、隠したい物を見えなくしたりも便利、協力者ができたらそいつに付与するのもいいだろう。

 と、実利的な思考は回しつつ、現状の問題における解法たる光明にもなるのでは。


「あぁ、じゃあ物に『不形』を付与してみれば確認でき――」

「あっ、玖来さんには見えますので確認は難しいかと」


 ならなかった。


「マジかよ! じゃあどうすんだよ!」

「そうですねぇ、外出てみますか? 女風呂とか……」

「やめろ! 女の子がそういう下世話なこと言うんじゃありません! あと、おれの品性を考えて物を言え!」

「え、すみません。風呂なんかじゃ物足りないですよね、トイレがいいですか? 業が深いですねぇ、玖来さん」

「マジでやめろォ! そういうセクハラ発言をその顔で言うなァ! ほんとお願いします、神様、神子様、邪神様」

「ぅぅ、そんなに本気で嫌がらなくてもいいじゃないですかぁ」


 ちょっとへこむ七である。小粋なお茶目だったというのに。

 言い過ぎただろうか。しかし烈火にもジョークの許せる許せないのラインがあるのである。

 ごほんと咳払い。


「だが外に出てみるのはいい案だ、出てみよう」


 さっそく部屋を出て、ギルド上階宿屋スペースの廊下へ。

 一歩のごとにぎしりと床が軋む。でかい癖に微妙に安く済ませてないか、気のせいか。いや、そうか、これはきっとあれだ。うぐいす張りという奴なのだ。敵襲に備えたギルドのおもてなし。たぶん。

 さて、ふむ、廊下に人影なし。気配もなし。

 下のギルドスペースに下りるか。ぎしりぎしぎり、音を鳴らして階段へ。


「ぉ」


 ちょうどよく階段を上がろうとする屈強な男が一名。これはナイスタイミングだ。さっと壁に寄り、通り道を邪魔しないように張り付く。ついでにガン飛ばしておく。

 どうだ、こんな変なことを目の前でされたらギョッとするだろう! 無視はできまいて!

 だというのに無視される。烈火の目の前を普通に通り過ぎて、男は廊下へ。


(ふむ、本当に見えてないみたいだな)

「そりゃそうですよ、私は嘘なんて吐きません」

(じゃ、もうちょい確認しよ)


 ちょい、と通り過ぎる直前に男の背中に指を滑らせる。


「っ!?」


 びくりとマッチョな男は驚き、咄嗟に振り返る。烈火はわざわざその視線の前に移動、目を合わせる。

 だが、男は烈火には気付かず、きょろきょろと周囲に視線を飛ばし、誰もいないと判断。不思議に思い首を傾げつつも、前に向き直った。

 続けて、烈火は先に進んでいく男の背で、床を踏み締めてみる。ぎしりと、音が響く。


「!」


 やはり誰かいるのか、と言わんばかりの形相で振り返る男。


(ふむ。発する音は聞こえているわけだ)

「その説明はしたと思いますけど」

(実感が伴わないとな。ていうか気配は残るんだよな、あいつなんで気付かねぇんだ?)


 呼吸は止めて身動き一切を停止していた。だが、それでも体温とか空気の流れとか、あと他諸々で判断できたりするはずなんだが。姿消してるだけなんだろ?


「単純に実力不足では? もしくは方向性の違いとかかもしれません。そもそも気配を察知とか、そういうのはある程度の修練がいると思いますけど」

(ふぅん、討伐者とか言っても漏れなく超人級ってわけでもないのか。いや、戦闘特化の感知投げ捨てとかゲーム的なノリもあるのか? 

 まあいいや、次だが――『不知』)


 スキルを変更。今度はただの透明化ではなく、存在を感じ取れなくなる技能だ。

 もう一度、床を踏み、音を鳴らす。

 今度は振り返らなかった。


「なるほどなぁ。『不知』になると関連したものも感じ取れなくなるのか」


 自然に声をだす烈火だが、やはり男は振り返らない。『不形』のままで声をだせば気付かれていただろうが、『不知』はこれも隠蔽する。どういう理屈なのだか。


「しかも触れてもバレねぇんだろ?」

「そうですね。まあ、ダメージを受けたり衝撃を受けたりすれば、そのことには気付きますけどね」

「なるほどなるほど」


 隠蔽されるのは烈火だけで、烈火が起こした二次的な影響は隠されない。あれ、音とか声はどうなってんだ?


「そこらへんは曖昧ですねー」

「それでいいのか、世の法則……」


 がちゃりと男が部屋に入った段階で、『不知』の解除。ドッと疲れる。


「あちゃ、結構体力――いや、魔力か? 使うな、少し疲れたぞ」

「なにもなしで力の行使なんてできませんし」

「そりゃそうだ――ふむ」


 どうせなら三つ目の『不在(アヴェイン)』も使ってみるか。軽い気持ちで発動、『不在(アヴェイン)』。

 烈火の存在がこの世界の座標から外れる。全ての存在の干渉から逃れる。玖来 烈火はただひとりとなり、そこから消える。そこに居ない。ゆえに――


「えっ」


 ――床をすり抜け落下した。

 どが、と一階の廊下に落ち、背中を強か打ってしまう。

 咄嗟に能力を解除したからこの程度で済んだ。もしも今のまま力が続行していたら、おそらく自分を支えるこの床すらも透過していただろう。


「てて……」

「ちょっ、玖来さん大丈夫ですかっ!?」


 烈火と同じように二階の床をすり抜け、七が慌てて追いかける。心配の声をあげる。

 烈火は端的に答えた。


「生きてる」


 死んでないなら大丈夫。一度死んだ烈火としては、そういう認識である。

 痛む腰をさすりつつ、烈火は立ち上がる。埃を払い、ふぅと一息。それからぐるりと七に向く。


「おいこら、詐欺師七、どういうこっちゃ。欠陥能力じゃねぇか」

「いえ、そんなこっちに相談もなく唐突に使わないでくださいよ。『不在(アヴェイン)』だけは特殊で危険だって言ったじゃないですか」

「む」


 そこは確かに言っていた。


「いいですか、『不在(アヴェイン)』は空間に干渉しています。そのため他ふたつよりも魔力消費が激しいです。実感していますよね」

「あぁ、だいぶだるいわ。一秒程度の発動だったんだがな」

「それに、この世界から離れるため、全てを通り抜けてしまいます。それを制御して、一部分だけを干渉したまま、ひとつの概念にだけ干渉したままでいる訓練が必要になります」


不在(アヴェイン)』の能力とはつまりが全存在不干渉状態への移行。なにものにも干渉せず、触れえず阻害しえず完全に次元を異とする。同時にそれは、干渉対象の完全なる選別とも言える。このスキルを制御し切れば、干渉したいものだけに干渉し、したくないものを不干渉とできるのだ。少なくとも干渉の制御を最低限し、足裏が地面に干渉している状態だけを維持しなければ今のようなことになる危険もある。ただ、空気や光などの生存に必須のものは無意識に干渉状態を保ってはいるが。


「つまり、自分が立ってる地面だけとは離れないようにって?」

「そうなります。でないと際限なく透過して生き埋めですよ」

「そりゃゾッとしねぇ話だな。闇雲には使えない、鍛錬必須の能力か」


 一か零かのスイッチ方式でしか扱えていないからまずい。危険で自滅を招く。零から百までどの数字でも自身で選べるようなダイヤル方式にしないといけない。そのように鍛える必要がある。そうでなければ危なっかしくて実戦でなど使えない。

 あれ、ハズレ能力……?


「他の人のだって即座に扱えるほど単純なものは少ないですよ。全て修練の結果、チートとなりえるのです」

「ふぅん――って」


 足音。音を聞きつけて現れたギルドの人だ。


「あの、すごい音がしましたけど大丈夫ですか」

「あぁ、大丈夫です。すみません、ちょっと派手に転んでしまって」

「はっ、はぁ、そうですか」

「すみませんでした」


 へらへら笑い、ひらひら手を振って誤魔化す。

 ギルドの人はいぶかしむも仕事中だ、あまり構ってもいられないらしく去っていく。

 背中を見送りつつ、表情は普段のそれに戻る。七と話の続き。


「で、三つのスキルか。他の奴らもこんな感じ?」

「はい。他の方々もこんな感じで三つの神様スキルが付与されます。英知とか異能とか才気っていうのは、まあ概略で、細かくは玖来さんみたいに三つのスキルがあるってことです」

「三つね。で、そのスキルはおれ、教えてもらえないの、七番手だけど」

「そこまで教えたらつまらないので。概要とアザナで想像してください。それに関連あるようなスキルのはずですから」

「あっそう」


 本当にゲームだな。烈火は己の滑稽さに、苦くて渋い笑みをこぼした。










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