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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
幕間 コロシアム編
57/100

49 小さいおっさんが現れた!










「えーと、玖来 烈火十八歳。ギルドカードはこれで、ランクはBです。コロシアム参加ははじめてで、なにもわかっていないのでできればここについての解説とかしてもらえると大変ありがたいです」

「承りました。確認しますので少々お待ちください」


 あれ、説明は……。

 問いかけすらできずに受付のお姉さんは事務作業をはじめる。けれどまあ、嫌な顔なんてしませんけどね。澄まし顔を固定して無念感すら露出しませんとも。

 受付役のお姉さんは烈火にとっての鬼門であるからして、極力仮面を被り通す。もう二度とヒかれたりしないぞ。

 それに仕方ないことなのだ。お姉さんの仕事は説明ではないのだ。だから業務外の要求は無言でお断りしてもいいのだ。烈火は内々でそう処理した。

 ここはコロシアム小会場参加者受付である。

 観戦の翌日、さっそく烈火はひとりこうしてやって来た。お金欲しかったし、善急とも言うし。


「善は急げですね。ゼンキュウって、発音だけじゃ絶対伝わりませんよね。まったくもう」


 はいはい、説明どうも。

 一方で説明してくれない受付さんは確認作業を終えて、こちらに紙を二枚寄越す。


「こちらの書類に記載事項を確認の上、書名なさってください」

「はぁ」


 一枚目は説明がだーっと並び、二枚目はこの記載に同意しましたという書名欄がある。ふむふむ。

 以前、ギルド加入の際はすっ飛ばしたが、今回は読んでみるか。流し読みだが。

 要約するとこんな感じ。


 とりあえず怪我に文句は絶対になし。

 死んでも事故扱い。

 個人戦と集団戦があります。

 武器と魔法はあり。

 観客へ危害が加わったら即敗北。

 賭けの対象になるけど了解しろ。

 自分の参加する戦いに賭けは許されない。

 八百長ぶっ殺す。

 敗北判定は自己宣言と気絶、また相手の殺害。その他、審判がそう看做した場合。


 長い。多い。しつこい。

 怪我に文句言うなと八百長ぶっ殺すについては三回くらいあったぞ。なに、そんなに横行してんの? それともよっぽど敬遠されてるってことか。

 まあ、あの晴れがましい舞台で八百長とか嫌だよなぁ。賭けにもなってるし。

 ともあれよし。烈火はあっさりサインする。

 そのまま書類を渡すと、お姉さんは新たにカードを取り出しすっと差し出す。


「コロシアム闘士用のカードです。おおよそ討伐者カードと似た役割のものですので、所持していてください」

「あ、はい」


 カード二枚目……なんか買い物の度にポイントカード渡されてる気分だぜ。

 カードを見遣れば、零勝零敗……は仕方ないにしても、Cって書いてある。討伐者ランクとはまた別に新しくカウントされるのか、面倒な。


「それで本日は参戦登録をなさいますか?」

「お願いします」

「承りました。ではカードを頂きます。クライ・レッカ様はCランク闘士ですので、Cランク戦個人の部しか参加できませんが、それでよろしいでしょうか」


 Cランク戦? あぁ、ランクごとに戦える相手が区分されてるわけね。で、Cランクには集団戦はないと。まあもとから友達いないし個人戦しかできないけども。

 推測だけど間違ってはいまい。烈火は訳知り顔で頷いた。


「はい」

「では登録しておきますので、待機していてください。組み合わせが決まり次第、壁の掲示板に記載しますので忘れないようご確認ください。掲示された時間に遅れた場合は不戦敗となりますのでお気をつけください」

「どこで待っていればいいですか?」

「向こうに参加者用の観戦席がございますので、そちらでお願いします。離れて別の試合の観戦も構いませんが、掲示板から離れて試合に遅れないように注意してください。また、戦いを終えたら勝敗に関わらず一度この受付に声をかけてください。連戦やファイトマネーについてお話いたします」

「はい」


 事務的だなぁ。と思いながらも、烈火はお姉さんが指し示してくれた席へと向かう。去り際に一礼は忘れていない。

 この小会場の様相は、広い体育館みたいな感じだった。

 建物に入ればすぐに小さな机に数人の受付嬢が待ち構え、そこで観戦か参戦かでわかれる。そこを抜ければあとは正方形の戦うためのリングが二十ほども等間隔に配置され、そこで闘士は戦う。それぞれのリングの傍には席が用意されていたが、そう多くない。付近で戦いを立ち見している客も多かった。

 なんか体育館でやる小規模の武道大会に似ていると思った。大きな違いは受付の隣に勝ち負けを賭け事にしている胴元さんが楽しげに煽っていることか。どの世界でもギャンブルっていうのは発達するもんだな。

 さてと烈火は参加者席に空きを見つけて座る。するとちょうどよく目の前のリングにて一戦はじまるらしい。興味深げに注視する。


「Cランク闘士のアグリオ・ウィット対Cランク闘士ジェリオ・シューグ! 開始!」


 小会場での戦いは大会場とは違い、予定などなくリングが空いたら次といった具合に適当らしい。そのぶん、回転は早いし試合数が多い。観客も沢山の試合が観れる。まあ無論、大会場ほどの強者同士の戦いはお目にかかれないのだが。

 目の前で繰り広げられてるそれも、昨日のことを思うと言っては悪いが、ちょっとショボイ。

 アグリオと呼ばれる猫獣人の男はダガーを握り俊敏に動くが、直線的で読みやすい。太刀捌きも下手ではないが光るものは見受けられず、ああ弾かれた。ジェリオという小人ホビットが魔法で形成した土の篭手はダガーすら物ともせずに顔面へ迫り――


「まっ、参った!」


 直撃寸前で敗北宣言。稲妻のように審判が駆け寄り、ふたりを引き離す。高らかに宣言した。


「そこまで! 勝者ジェリオ・シューグ!」


 周囲で軽く拍手と歓声。前者は負け組、後者は勝ち組のそれか。賭けのな。

 烈火は特に賭けてもないので喜べはしない。小さく拍手だけ送っておく。悪くない戦いだったしな。

 別に技量や強さだけで戦いの良し悪しは分かたれまい。両者の真剣味はリング外にも伝わってきた。ならば健闘、立派な戦いだった。

 していると、不意と隣の席にすとんと座る男がひとり。特段、気にしなかったが、向こうから声をかけてくれば流石に別。


「お前さん、はじめてだろ」

「ん? あぁ、なんだ垢抜けないか」

「違う違う。さっき受け付けで時間とってただろ? それで初参加だろうなって見当つけただけだ。当たりか?」

「大当たりだよ。賞品はおれからの乾いた拍手だ」


 言ってぱちぱちと拍手をくれてやる。

 そこではじめて、烈火はちらと隣の男に目をやる。

 おっさんだった。なんかこう、ギャンブルに身をやつしてそうなちょっと恰幅良いおっさんだった。バンダナなんか頭にしちゃって、それがやたら似合う。無精ヒゲを残した顔は人懐っこい笑顔を浮かべるが、眼光は油断ならない気もする。そもそも大人ってのはだいたい侮ってはいけないものだ。しかし、座っているから一瞬わからなかったが、大人にしては非常に背が低いな。だって百二十センチくらいだぞ。そう感じてからよくよく見れば、足が大きく毛深くて素足だ。それに耳が少し尖っている。

 この特徴は、小人ホビットか。

 おっさん小人ホビットはにやけた顔で烈火に顔を近づける。


「なんでぇ、新顔のくせにふてぶてしいじゃないか。討伐者か」

「さっきから察しがいいな、年の功か? 亀の甲羅はどこだ」


 しかし人種差別じゃないけど、小さいおっさんて変な感覚だな。顔近づけられると余計に奇異で、思わず近寄られたぶん離れる。


「はははっ、言うな小僧。やっぱり強ぇ奴は肝が据わってら」

「ん? なんでおれが強いんだよ、ここに来たばっかの新人Aだぞ。びくびくしちゃってトイレ行きたいわ」

「ひひ、冗談言いなさんな、お前さん……例の「先剣」をサシで倒した討伐者だろ?」

「…………」


 なんで知ってるんだよ。そんな思いが顔に出たのか、おっさんは余計に笑みを深めた。


「怖い怖い。そんなお前さんに敵意を持たれるのも嫌なんでさっさと種明かしすると、俺ぁ見てたのよ」

「は?」

「お前さんと「先剣」がやりあってるところをさ。偶然通りがかってよ、ありゃ痺れたぜ」

「だからおれが討伐者なのも知ってたわけか。大人は嘘吐きだ」

「元々がどっちでも、賞金もらうにゃ討伐者にならにゃいかんからな」


 なるほど道理だ。一瞬こいつが傀儡の手先かなとか深読みしたが、まあ流石に神経過敏すぎる解釈だったな。

 単に馴れ馴れしいおっさんか。こういう場には結構出現しそうといえばしそうだ。賭博場でもあるわけだしな。

 おっさんは烈火の疑念の色が薄れたのを敏感にも把握し、またニヤついた顔になる。


「でも「先剣」を討った小僧がまさかコロシアムでCランクって、笑っちまうわ」

「この都市には最近、来たばっかりでな。おのぼりさんだよ」

「成る程な。そりゃ仕方ない。どんだけ強くても下積みもなしにいきなりあの大会場では戦えないわな」


 そこらへんは神妙に言う。おちゃらけていても一線はしっかりしてるっぽい。たぶん。


「ま、お前さんにゃ俺の有り金ブッコむんだからよ、負けてくれんなよ?」

「おい……」


 ごめん、やっぱわかんない。ただの賭け好きのおっさんかもしれない。

 胡乱げな視線の烈火を、おっさんはまったくもって気にしない。にやりと笑んで指を指す。


「お、試合が決まったらしいぜ。ほれ」

「む」


 指し示す方向を見遣れば、壁の掲示板にて先の受付嬢さんがなにやら書き込んでいる。目を凝らせば、今より二十分後に第七闘技舞台にて試合の決行をするとのことだった。

 対戦者はCランク闘士クライ・レッカと、Cランク闘士ベンド・ガリィ。

 あー、もう試合か。ちょっとだけドキドキするな。心なしゆっくりと立ち上がり、一呼吸だけ瞑目。開眼して歩き出す。

 の前に一言くらいは断っておく。


「じゃ、おっさん、おれは行くから」

「んじゃ俺は賭けてくるかな。儲けさせてくれよぉ?

 っと、そういや名乗り遅れたな、俺はダグ。ダグ・ラックだ。よろしくクライ」

「……よろしく」


 烈火はなんとも言えない心持ちで、小さなおっさんと別れて歩き出した。緊張感は、なんだかだいぶ霧散していた。






 舞台の上に立つと、どうにも見世物感が増した。ちょっと視線が集まって恥ずかしい。おっさんの雑な応援でまた一層に辛い。帰りたい。

 無論、帰るわけにもいかず――対面にひとりの男が現れた。

 耳、尖ってなし。肌、普通。毛、濃くない。身長、百八十前後。うむ。どうやら人間だ。腰元からロングソードを引き抜くあたり、剣士か。

 おお烈火的には一番わかりやすくて気楽な相手だ。初戦くらいは心持ちを楽にして戦いたかったし、ラッキーである。

 肩の力を抜いていると、烈火と男の中間地点から新たな男が舞台に上がる。ちらほら見かける服、審判だ。


「只今より、Cランク闘士クライ・レッカ対Cランク闘士ベンド・ガリィの戦いを開始する。互いに準備はよろしいな」


 審判さんの高らかな宣言に、烈火は頷く。相手さんも首肯。

 瞬間、ベンドと審判の顔つきが恐ろしく真剣なものへと変貌する。そして。


「では――試合開始!」


 瞬間、先に動いたのは烈火。小剣を手に刺突突貫。

 ベンドの視点からすれば瞬間前にはなかったはずの小剣に驚愕を隠せない。

 なんとか身体は動いていた。烈火の刺突を必死で受け止める。剣を横にし、腹で止める。

 鍔競り合いは一瞬。烈火は膝を折って手首を捻る。ベントの剣を支点にぬらりと刃の下に滑り込んだ。そこから膝を伸ばし、腕を上げ、思い切り剣を下から弾き飛ばす。


「っ!?」


 無論、そこで剣を手放す馬鹿はいない。だが万歳強制。隙だらけ。

 その間に脚が動く。必死に小剣を警戒して剣で防ごうとする端で、脚は金的を蹴り上げていた。玖来流に卑怯の教えは特になかった。


 かっきーん!(非常に柔らかい比喩表現)。


 男、悶絶。


「――っ! っっ……!!」


 地獄の痛みに、男は局所を押さえて地面に這い蹲る。叫びは意味ある言葉にもなっていない。

 その苦痛を理解できる烈火としては忍びない。もはや慈悲。仏の心で頭を蹴っ飛ばしてやる。気絶させる。

 これにて決着――試合は十秒もかからず終わっていた。


「……は?」

「ひひ」


 審判の人はぽかんとした顔を晒し、どこかで楽しげな笑声が漏れた。

 そして一拍遅れてギャラリーからの歓声が上がった。怒涛のような喝采はこの小会場では珍しいほどに激しいもので、瞬殺のインパクトの大きさを物語っていた。

 勝利した本人はその絶叫に耳を押さえて、面倒そうに叫ぶ。


「ちょ、うるせっ。審判さん、これおれの勝ちでいいの?」

「あっ、ああ。勝者クライ・レッカ!」

「うし」


 それだけ確認すると、烈火は逃げるように舞台から降りた。

 なんか異様にうるさいし、視線集中するし、今日はもう帰ろう。そのまま受付で一戦分のファイトマネーとカードだけ頂いて、そそくさと会場から去ったのだった。













 小人ホビットの特徴


 亜人。

 小さな人、身長は成長しきって百センチから百三十センチほどと小さい。耳は少し尖っており、足が大きく毛深くて靴は履かない。身軽で器用、農業などが得意。戦いは嫌いだが、農業で生計を立てていて世界の食糧事情が潤っているのは小人のお陰が大きい。魔法の素養もある。

 寿命は五十年程度と少し短め。





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