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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
幕間 コロシアム編
53/100

46 一難去って、どうするか




 幕間としたのは本命である傀儡戦争からしばらく離れるからです。本編であることに変わりはありません。というか元々、三幕目のつもりで書きましたが、戦争無関係に戦っていて、その上神様能力すら使わず、どこが三幕だよとなったのでこのような形になりました。

 別の視点では話が進みますので、できれば飛ばさないでくれると嬉しいです。というか飛ばして問題なしとは言えません。












「十日近くも顔を出さず、なにをやっていタ」


 いつものように訪れて、ドアを開いてもらって、開口一番これである。玄関先でこれである。

 え、なんか凄く不機嫌ですよ、リーチャカさん。綺麗な顔が台無しです、怒りを鎮めてくださいな。

 烈火はなんだか非情に焦ってワタワタ返答。


「えっと、色々かな」

「言えないカ。そうカ」

「いや、ほら! 言ってあったじゃん、こう、敵と戦うぞって!」

「それで何故リーチャカに顔を合わせないことになるカ」


 じろりと睨まれる。美少女のねめつける眼光はすこぶる恐ろしい。顔立ちが整っているから、感情がくっきりと顔に映りやすいのだろう。

 烈火はすっと目を逸らしつつ、とはいえ本音を告げる。


「巻き込みたくないかなぁって」

「顔を合わせて話すだけで巻き込むのカ?」

「……たぶん」


 リーチャカは一旦口を閉ざし、微妙に不満げな顔をする。そういうのは、ちょっとズルい。

 すぐにため息吐き出しいつもの無表情に戻る。淡々と続ける。


「では、会いに来タということは倒しタな」

「まぁ」


 逃げられたけど。


「……怪我は」

「したけど、しばらく安静にしてたから」


【運命の愛し子】との戦いのあと、諸々の刀傷や足の怪我などもあって一週間ほど寝こけていた。この異世界には医者の代わりに治癒師とかいう魔法で傷を治してくれる人がいるらしいけど、金ないし自己治癒力に任せた。無理をする理由もないし、すぐに癒して行動したいほど急いでもいない。休める時に堕落しておく。軽いストレッチと神様能力と魔法の訓練はしてたけど。

 丸一週間休んでなお今も少々痛む。が、まあ動けるしと今日リーチャカのところへやって来たのだ。

 それでもなんだか凄く不機嫌そう。


「おい、何故それを言わない。見舞いくらいは行っタぞ」

「心配かけるかなって」

「……ハァ」


 なにも知らないところで苦しんでいた、という事実のほうがよほど心が痛む。悲しくなる。そんなに信用ないのか。

 なんて、言えないけれど。言わないけれど。

 リーチャカはどうにも烈火のあっけらかんな態度が気に食わない。


「レッカ、リーチャカはお前の友人ダ。迷惑かけても、別にいい」

「え、や、でも」

「でもじゃない。リーチャカは、お前を心配したかっタ。ダメか」

「……ごめん。ダメじゃない。悪かった、次からはちゃんと伝えるよ」


 やっぱりリーチャカには勝てない。烈火は諸手を挙げて降参した。

 まあ、逆の立場になって考えてみれば、確かに烈火もリーチャカが怪我していることを隠したらムッとする。心配するしかできない無能だけど、心配くらいはしたいと思う。友人を思い、気にかけるなんて当然なのだから。


「よし、では入レ。茶をいれる」


 ともあれ、まあ、これからはリーチャカの家に来るのも予定に組み込んでおこう。そう決意する烈火であった。






「そういや一週間くらい前の地震は大丈夫だったか?」

「大丈夫に見えるカ」

「まあ、あんまり」


 いつもの部屋に通してもらえば、結構悲惨な有り様であった。散らかってはいないが、大きめの家具が倒れ、壊れ、放置されている。小物や汚れなんかは片付け終えたのだろうが、少女ひとりじゃ家具は整理できないか。質素で部屋に物が少なかったので、部屋が使い物にならないとまではいかないのが幸いだろう。

 一週間前の地震――【運命の愛し子】が烈火への不運として起こしたアレである。あれは個人狙いであっても、そう狭くは完結しない。第七大陸全体に影響し、都市中に打撃を与えていた。

 大きい地震だった、この大陸の直下だった。津波はないだけマシだが、都市中が軽いパニック状態に陥ってしまった。建物が倒壊するほどではなかったにしても、脆い品や高所に設置された物品、場合によってはタンスなどの家具さえも倒れ散らばり最悪損壊してしまっている。未だに片付け作業がそこかしこで行われているのを、ここに来るまでにも幾らか目にしたものだ。おそらく図書館なんかはてんやわんやの大わらわだろう。しばらくは入場自体ができない。また、地下洞窟への侵入も禁止とされた。崩落などはないらしいが、安全面を考慮しての一時的措置である。

 ――と、掲示板で見た。

 これらもまた、第七大陸に留まる烈火への不幸の仕業なのかもしれない。最後っ屁、という奴か。クソ厄介でうざったい限りだ。

 烈火は肩を落として、とりあえず半分くらいは自分のせいなので、こう言った。


「片付け、手伝うよ」






「お疲れ様ダ」

「おーう」


 最初は断ったリーチャカだったが、そこは押し切らせてもらった。リーチャカには無理だった家具の立て直しや、ささやかな掃除を請け負い、小一時間ほど作業を頑張る。そのついでに家中を案内されたのは、ちょっと楽しかった。異世界の一軒家だし、少女の一人暮らしだし、気になっていたのだ。決して下心の類は米一粒もありはしないが。逆に一滴くらいは邪心があったほうが健全だろうってくらい皆無だったが。


「そーでーすねー」


 ほら、神子のお墨付きだぜ? あれ、逆に信頼性が失せた気が……まあいい。

 ともかくお片づけ終了。リーチャカが持ってきてくれたお茶――紅茶っぽい飲み物――を頂き、一息。


「ん、おいしい」

「故郷の茶葉を使っタ」

「へぇ、いいのか?」


 第七大陸には他大陸の物が流入しやすいだろうが、それでもちょっとお高くなるのではないか。そういう意図の問いかけだったが、リーチャカはすまし顔。


「まァ、今日は助かっタ。礼も含めてダ」

「なるほど」


 じゃ遠慮なく。もう一度、紅茶をすする。んむ、おいしい。子供舌な烈火でもおいしいくらい、甘みがあった。元からか、それとも砂糖とかが混ざっているのか。舌の上で転がしながら味わいを分析してみる。

 リーチャカも向かいのソファに座り、音もなくカップに口をつける。白いドレスのような服装とその仕草動作はよくよく似合っていた。初対面にも思ったが、お姫様みたいだな。眼福眼福。

 かちゃりと、ほんの微かに音を鳴らしてカップを置く。リーチャカはちらと視線を烈火へ。


「しかし病み上がりに労働は辛かっタか?」

「いやいや、この程度で音は上げないって。おれだって鍛えてるんだぜ?」

「そうカ。そうだっタな。ジジ様の見立て通り、レッカはリーチャカの剣を振るうだけの資格があっタ」

「資格?」


 なにそれ。はじめて聞いたけど。

 きょとんとした顔の烈火に、リーチャカは少しだけ言いづらそう。紅茶を持ち上げることで自然と目を逸らして言う。


「リーチャカが武器を渡すのは、コイツならまた来ると確信した奴だけダ」

「ふぅん? つまりあれか、自分の武器持った奴が死ぬのが嫌だってこと?」


 武器は人を生かすためのものだから。敵対者を殺してでも生き延びるためのものだから。それが叶わないのなら、武器を作る意味なんてない。鍛冶師の意義なんかない。だからどうか生きて再び、ワタシの元へ帰ってください。

 そうした願いの意味だろうか。リーチャカはしかし首を否定に振った。


「違う。死なれたら、買う奴いなくなる。それは、困る。金づる、生かさず殺さず」

「うへぇ。そりゃ照れ隠しにしても本音混じりだな、おい」

「照れ隠し、じゃ、ナイ!」


 慌てて赤い顔してちゃ説得力ないぞ。

 笑う烈火から逃れるようにリーチャカは手に持つカップを口につける。両手で持って口元を隠している辺りは奥ゆかしい気がする。いや、できるだけ赤面を隠そうとしているのか。愛い奴め。


「そういやおれは? おれは会ってすぐ剣造ってくれる感じだったじゃん」

「だから、それはジジ様の紹介だったからダ」

「あぁ、そういう」


 思い出した。爺さんがリーチャカを紹介する時、気難しいだのなんだの言っていたのを。あれはこれのことか。まあBランクだってのに顧客を選ぶのは、確かに我が侭だわな。だが爺さんが思うよりも、リーチャカは爺さんを信頼していて、烈火は難なく剣を造ってもらえた。サンキュー爺さんありがとう。


「レッカはあの通り魔を打倒できるだけの強さがあっタ。ジジ様の目は確かだっタ」

「うん? 通り魔って? なんでそんな話がでてくるんだ? あいつは確かに強かったけど……」

「お前、もしかして倒した相手のことも知らないのカ」

「え、知らん。誰?」


 あっけらかんと言う烈火に、リーチャカは何故か半眼。この間抜けめがという表情で睨む。なんで睨むんだよ。烈火は異世界事情に疎いんだ、仕方ないだろ?

 リーチャカは烈火が本気で知らないらしいと判じ、ちょっとため息。だがまあ、この都市に来たばかりだということを考慮すれば、なんとか情状酌量の余地はあるかと。


「キルバルト・バーバトラ。Aランク討伐者にしてコロシアムの戦士ダぞ。リーチャカですら知ってる、『先剣センケン』と呼ばれる有名な闘士ダ」

「あ、へぇ、あいつコロシアムの有名人だったのかぁ。通りでやたら戦い慣れてたわけだ」


 人との戦いに。

 烈火の反応の薄さに、リーチャカはまたため息。こいつ絶対理解していない。


「『先剣』は、個人戦の人間枠で見れば五指に入る実力者ダぞ」

「五指……そりゃすげぇな」


 味気なく烈火が褒めたのは、人間の種が弱いのではないかと考えているからだ。

 この異世界には人間以外にも多くの知的生命体が存在する。それも、人以上のなんらかを持ち合わせた種族がだ。精霊種には寿命も魔法も劣るだろう。他の亜人種には肉体性能で負け、幻想種などには先に挙げた全てで下回っている。

 やだ人間って最弱種族、と烈火が結論付けるのも間違いではないのだ。

 だがこの世界に住まう少女は首を振る。そんな単純な話ではないのだと。


「人間は、強いぞレッカ。お前も強いだろう」

「人間の中ではだって。流石に他の種族が戦闘に特化しだしたら勝ち目がないだろ」

「……レッカ、『先剣』は全種族総合でも上から数えて三十位前後には入るゾ」

「む」


 それには驚いた。烈火は片眉を跳ね上げて意外だと言外に告げる。

 その態度は、まさに劣等感の表れに思えて、リーチャカは不愉快そうに続けた。その姿勢が気に食わない。


「それに、個人戦総合三位は人間ダ。集団戦で考えれば人間種は上位に多く食い込んでイる」

「なんで……だって、スペック的には……」

「劣っていても努力を重ねる種族だからだろう。特出点がなくても、他で補って前に進む種族だからだろう。リーチャカは、そういう人間の前向きさが好きダ」


 場違いだけど、リーチャカが好きだとか言うもんだから烈火はちょっと照れる。

 無論、彼女はそんな意はなく、推し進める。だが、続く言葉は、それ以上に烈火の胸を衝いた。


「なのにリーチャカが認めたレッカがそんな後ろ向きでは気に入らナイ。しゃっきとしろバカ」

「あー、や。すまん」


 異世界で、ファンタジーで、人より優れた種族がいる。

 では人間なんて、自分なんてどうせそこまで活躍できまい。神の力があっても真っ向やりあうのは賢くない。だから烈火が選んだ力は【不在】であり、暗殺の道だった。

 だが、そうでもないのか。人間意外にやるもんだ。

 ちょっと色々、悲観的過ぎたかなぁ。苦笑して、烈火は紅茶をぐいっと飲み干した。











 ちなみに破れた学ランは七に《復元》してもらいました。




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