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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第二幕 時計仕掛けの運命
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side.【運命の愛し子】その三









 七番目の行動には一貫性が見える。目的をもって、長期的なスタンスで動いている。

 朝に出て、午前中は図書館に通い、午後はその日によって変わる。学園に行ったり、買い物したり、最近では鍛冶屋に赴くようになった。洞窟へのアタックは一度してから、それ以降はしていない。だいたい午後は暗くなるまで行動し、夜が更けた頃には帰ってくる。臆病で慎重、かつ計画的な性質が見える。

 しかし、不意に今までの行動基準から外れまくってた日がやってきた。まずほぼ宿から出ないのだから、上記した行動のどれもとれようはずもない。

 丸一日宿に引きこもるなんて、どうしたのだろうか。ブラウはいぶかしんだが、ちらと覗く戒の表情は特に変化なし。そういうこともある、と流している。それとも、いつもと違うという違和感さえ抱いていないのかもしれない。

 そこから三日も引きこもり、四日目もまた引き込もるのかと思いきや、午後には鍛冶屋へと赴いた。ここ三日は単なる休息だったのだろうか――そう考え出したブラウは、宿に戻った七番の行動で目を見開いた。


「む……そうかい。そういう力で、そういう魂胆かい……困ったねぇ」

「どうかしたのか」

「……いや、ちょっとだけ、考え事さね」


 戒に問われて、ブラウは言葉を濁した。これは言えない。言ってはいけない。ルール違反だ。

 ブラウには、神子には見える。わかる。あの七番目が現在やっていること、やろうとしていること、その結果まで、把握できる。

 七番の能力は、どうやら姿隠し。存在隠蔽だ。

 それを使って、彼は宿の周辺を散策している。リラの姿も見えない。隠れている。完全に隠密行動だ。

 なにをしている――こちらを探しているのだ。

 そう確信して、ブラウは目を細める。思った以上にやるとは思ったが、ここで反撃にでるか。なかなか侮れない。

 七番はこのゲームを理解している。こちらの能力もおおよそアテがついている。

 なにも考えずに尾行だけしていた内に――だいぶ追い詰められていた。

 だが、ブラウは戒になにも言えない。今、七番が不可視となってそこらへんを歩いてアンタを探している、とは言えないのだ。

 何故か。それは、それを伝えれば七番のスキルを教えることになるからだ。ルール上、それは許されない。それが許されては傀儡七名全員が全員のスキルを神子から教えてもらえることになる。七番はルールを理解しているからこそ、この大胆な行動にでたのだ。

 そして、何故自分の周囲に戒がいるという判断の元、散策をしているのか。これを辿れば、おそらく七番が戒のスキルの概要を推理できていることがわかる。

 術者が不幸を与える対象を知らなくてはスキルは発揮されない。また、効果範囲は存在する。それら単純にして前提たる事実をリラに問い、確認できていれば、普段より多い不幸がこちらの干渉で、故に付近にいる可能性を想起できるのだ。そもそも七番目なのだから、他六名の力に関して少々ながら情報を持っていて、それと繋ぎ合わせれば考え至って不自然はない。こちらの能力にアテがついていると見ていいだろう。

 つまり、だいぶまずい。不運を装った襲撃で攻めていると思った。手の届かない高みから、一方的に攻撃できていると思った。だが、それをかわされ反撃が今飛んで来た。

 しかも、戒はその事実に気付いておらず、楽観のまま。なにせ七番のスキルは隠されたままで、知らないからだ。

 無知は死への片道切符である。ブラウは億劫そうに紫煙を吐き出した。

 この現状は伝えられない。七番の能力も教えられない。けれどヒントを伝えるくらいならば、許されるはずだ。無知を知れと、教えてやるのはセーフのはずだ。


「ところで、アンタ?」

「……なに」

「七番目は、一体どんなスキルを持っているのかねぇ?」


 どうにか自分で考えてもらうしかない。戒自身が考え、思いつき、把握する分には制約はない。七番が自力で戒のスキルを推測したように。

 戒は少し煩わしそうに言う。


「そんなのわからないよ。だって、あいつは一切それを使わないじゃないか」

「そうだねぇ。だけど、取っ掛かりはあるだろう? 他の選抜者らの現在地を伝えただろう」

「ん、そうだね。でも、七番は不在だって……ああ、それがあいつのスキルだってことだね、それは僕だって考えたさ」


 僕は馬鹿じゃないんだ。馬鹿にするな。そんな非難を乗せて、戒はブラウを睨みつける。

 こちとら安い自尊心に触りたくて言ったわけじゃない。受け流して続ける。


「じゃあ、一体どんな能力と見たんだい。ちょいと聞かせてくれないかい」

「……いいけどさ」


 戒は、割と暇人だった。毎日毎日、ひとりの少年の尾行をしていても問題ないくらいに、暇だった。

 金に関しても色々な幸運が巡って余裕がある。剣の鍛錬、魔法の修練も毎日こなしてはいるが、劇的な成長もなくつまらない。あまり時間をとっていなかった。他にも最近は七番を真似して図書館に行ってみたりもするが、文字の多さにうんざりだった。

 ではなにをしようとなって、あまり思いつかないので尾行にしようとほとんど毎日、ストーキングを続けていた。

 だが、尾行というのもここ最近続けて特に変化がないので退屈していた。会話くらいは、まあいい暇潰しかもしれない。


「たぶん、情報操作の力だと思う」


 的外れ――というほど外れてはいない。だが、正答とは遠い。

 とはいえ、ちょっと興味深い。どういう力なのか、説明を頂きたい


「それはどういう力なんだい」

「情報を操って、都合いいように……ええと、ことを運べるような、感じ……かな」

「アンタのような力だってことかい」


 運命に愛されるスキル、それの恩恵を受けているがために、思考が逸れている。皆が皆、自分と似たスキルをもつわけでもないのは、一番から四番――いや三番の能力説明の時に判断がつくはずだが。

 少しブラウが反応に迷い困っていると、戒は熱に浮かされたような口調で続ける。自分の推理が正しいに違いないといった風情だ。


「一ヶ月毎の発表、これは情報を与えるという行為だ。だから、それを操って自分の所在を改ざん、不在と表記させたのさ」


 だったら別の大陸表記にしたほうが、他への警戒などをさせつつ騙せるだろう。いや、それはできないと踏んだのか。


「ふぅん? それだけで決め付けたのかい」

「違うよ。ほら、彼って見たところ」


 後ろから尾行して判断するところ。


「人に好かれてるような気がする。不自然に」


 不自然だっただろうか。ブラウにはわからない。戒はそう思ったらしい。


「不自然だよ。普通そんな、なんでもかんでも創作みたいに上手くいくわけないじゃん。あいつは主人公とかでもないんだから」

「…………」


 何故なら主人公は自分のことだから――とでも言いたいのか。失笑が漏れるのを、ブラウは堪えねばならなかった。

 そそくさと話を促す。


「それで? 人に好かれることと、情報操作のどこに因果関係があるんだい」

「人の印象も情報によって操れるってことさ」


 テレビばっかり見て、あれが真実だの、あれは嘘だの、そうのたまう輩はネット上でゴマンと見た。ネットの情報だって、ガセが混じることはあるというのに、テレビ局の意図の混じった報道なんて信じられるわけがない。

 と、思考が逸れている。それはどうでもいいだろうに、ブラウが考える戒を無視してまとめる。


「つまり、七番はいい人だって誤報を他者に報道できるってわけかい」

「そう。上手く言うね」


 ふむ、参ったねぇ。

 今のところ論理の破綻がない。ちょっと強引なスキル内容だが、矛盾はなく真っ向からは否定できない。

 下手に理屈を通すもんだから、ここでブラウがそれは違う別の能力だ、と言うのはルール違反に抵触してしまう。やはりほとんどヒントもない七番手の能力を推理するのは困難か。

 そこにくると、七番手はやはり厄介だった。傀儡七名全員分のスキル、その名と概要を把握しているのだから。こちらのスキルがバレ、対策をとられるのも仕方なかった。

 そんな七番を相手取って、さてどうしたものか。

 おそらくここまで考えて結論付けた戒に、これからブラウがなんぞ喋って隠行のスキルへと思考誘導するのは難しかろう。ひとつの結論に辿り着いてしまえば、それを訂正するのは難しいものだ。

 だからブラウは戒への働きかけを諦めて、七番への攻撃に打って出ることにした。

 このまま七番の行動が続けば幾ら幸運であってもいずれ戒の存在がバレる。見つかる。それは、戒にとって不運という他ない。

 だが戒は幸運でなくてはならない。彼は『幸運招来グッドラック』でなくてはならない。

 故にブラウはいつもよりもさらに力を揮える。不運が近づけば近づくほど、幸運にするために力の行使の上限が増すのだ。


 さあ七番目、もう甘くは見ない。

 第五神子ブラウ、今出来うる限り最大の不幸をアンタに贈ってやるよ。

 存分に踊りな――『運命の見えざる手』の中で。








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