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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第二幕 時計仕掛けの運命
44/100

40 反撃準備完了










 それから四日はあっと言う間に過ぎ去った。

 あまり行動にでずにいたからだ。

 まず図書館には行かなかった。討伐業をお休みしていて収入がないので、散財を控えたのだ。

 代わりに一応、読んで覚えた文書を少しだけメモに記載したりしたものを読み返したり、リヒャルトに借りた本を読み耽ってはいた。読書自体は怠っていない。魔法についての思索は続けいている。

 リヒャルトが懸念するよりは、印相の型については覚えられそうだ。割とこういうの好き。あっ、いや、中二ではないけどね?

 あともちろん鍛錬も休みはない。身体を動かし、『不在アヴェイン』に慣れるために何度も何度もベッドにダイブした。

 ――で、今日だ。

 今日はリーチャカとの約束の日。小剣を受け取りに行く日だ。






「コレだ」


 もう何度目かのリーチャカの暮す家への訪問。

 訪れればすぐに通してくれて、以前も案内された部屋にてしばし待つ。数分もせずに、鍛冶師の少女は剣を持って帰って来る。

 

「もってみろ」

「おう」


 テーブルに置かれた十本の短剣。その内から一本を掴み、握り――うん。


「バッチリだ。感触もいいし、長さも、うん。重さもよし。凄いな」

「そうか」


 心なし胸を張って、ともすればドヤ顔一歩手前くらいなリーチャカである。微笑ましい。

 烈火はひとつ和んでから、他の剣も確かめる。よし、全部問題ない。剣を外套の下の学ランに仕舞っていく。仕込んでいく。

 その合い間に、ちょいと気になったので烈火は言ってみる。


「そういえば剣の材質とかって、大丈夫だったのか?」


 興味津々に烈火の仕込み風景を眺めていたリーチャカは、一瞬送れて返答。


「素材について指定、なかっタ。別物」

「まぁ、重さとか同じならいいけど。硬度とかはどうなってる」

「もらっていた分の金額でできる限り最上のものを使っタ」

「ならまあ、ベストか」


 完了。十本もあった小剣はどこへやら。服のあらゆる箇所に消えてどこにあるかもわからない。

 リーチャカは感心した面持ちで烈火の袖などを眺めていた。手品の種を聞いて驚く子供みたいだ。

 少しむず痒い視線から逃れるように、烈火は苦笑で口を開く。


「さてと、リーチャカ・リューチャカ」

「なんダ」

「ちょっとお話していいか」

「? なにか別に用でもあっタか?」

「いや、世間話、かな。剣に関してはこれからリーチャカ・リューチャカに頼むことにするし、腕輪の件もある。仲良くなっておこうかなと」


 命を預ける武器を造ってくれる人、人となりを知って信用したかった。まあ、ここまでのアレコレで烈火は既に結構、信用しているが。

 それに、都市に住んでいる人間に聞きたいことも、あった。

 とか、しっかり考えての行動だと言うのに、七が笑顔で確信を衝く。


「本音は?」

(都市でひとり寂しい)

「私がいるじゃないですか」

(その台詞気に言ったのか?)

「わりと、ですね」


 えへへ、と笑う七ちゃんは可愛らしい。

 ちょっと面食らっているリーチャカも可愛らしい。

 自然と口元が綻ぶ。ニヤついていると勘違いされないよう、ちょっと注意を払っておく。


「別に悪い仲じゃ、ない」

「でももっと仲良くなれるだろ」

「ナンパか」

「名前も知って顔を合わせて何度目かの間柄に対して親睦深める行為にナンパという名称がついてしまうのか」

「冗談ダ」


 謎の落ち込みを見せる烈火に、リーチャカはニコリともせずにそんなことを言う。声音も淡々としたいつもの調子であるが、それでも烈火はまた嬉しくなった。笑ってしまう。


「リーチャカ・リューチャカの冗談ははじめて聞いたな」

「それだけ、ワタシはお前を気にいってるということダ」

「それは、光栄だな。おれもリーチャカ・リューチャカだいぶ好意的に見てるぞ」

「ナンパか」

「違うって」


 苦笑してしまう。

 なに、リーチャカさん意外にノリいいのか。全く声音に揺れもなく楽しげな風情は見えないのに、ぶっちゃけて仏頂面で平淡な声なのに、しかして内容は普通にフランクだぞ。

 それだけ仲良くなれたということか。

 え、なんで。おれ、怒らせてばっかだった気がするんだが……。

 まあいいか。いいならいいのだ。

 うんうん、と満足そうにしている烈火に、リーチャカは不意と声を低くする。肩を落として、心なし残念そうだ。


「けれど済まない。今日は用事ある」

「ん、あ、そうか。なら仕方ない」


 ぼちぼち話してたような……突っ込むまい。

 少しの会話くらいはオーケーだったのだ、きっと。その少しを烈火にくれたことを喜ぶべきなのだ、間違いなく。


「ワタシはだいたい家にいる。暇なら勝手に来ればいい。話し相手くらいには、なる」

「え、いいのか」

「まあ、ワタシも腕輪を見せて欲しいからナ」


 ちらと目を逸らして言うリーチャカ。褐色の頬にちょいと朱がさしている。

 まあ、彼女の言い様って、いつでも部屋に来いよと男に言ったようなもんだし、恥ずかしかろう。照れ隠しなんてしちゃってもう、抱きしめたいわ。

 自重するけどさ。


「でもどこ行くんだ。って、聞かないほうがいいか」

「別に構わない。ちょっとした仕入れダ」

「あぁ、仕入れね。そりゃいるよな」


 烈火の小剣作製にも幾らか素材は使っただろう。それを補充したりとかも必要だわな。

 しかし女の子ひとり歩きか。大きな都市で人通りも多い。普通は問題ないが……。


「一週間くらい前から通り魔が出没してるらしいぞ、気をつけろよ」


 と、宿の掲示板で書かれていた。捕縛すれば金をだすという触れ込みで。

 通り魔、無差別にすれ違った人を殺すとかいう犯罪者のことだ。なんでも真昼間から凶刃を振るったとか、四人ほどは殺害してるとか聞いた。怖い。自警団の人さえぶっ殺したというのだからマジで凶悪事件だよ。

 そのため一時騒ぎになった、らしい。烈火はあまり知らない。最近になって掲示板から知った。キッシュはどうだったんだろう。情報は掴んでいたと思うが、特になにを言うでもなかった。怖がらせるとでも思ったのだろうか。いや、この都市でそんなことをすればすぐに捕まるだろうと考えて気を割かなくてもと考えたのかもしれない。

 だが、未だに犯人は捕まっていない。

 顔を見た人はいるらしい。犯行は既に二度繰り返されたらしい。それでも、犯人は行方知れず。

 烈火が外出を控えた理由のひとつでもある。なんか……不幸にも遭遇しそうだったから。正直、捕まるまで待っていたかった。今日も戦々恐々の警戒心バリバリでここまで来たのである。

 リーチャカは無表情のままに頷く。


「聞いタ。人通りの多いところを通るつもりだっタ」

「なんならついてくけど」

「いらん」


 だわな。余計なお世話の自覚はあったし。

 今日はこれで帰るとしよう。

 烈火としても、今日はやりたいこともある。

 なにって――反撃だ。








「で、四日前にも言っていましたが、仕掛けるとか反撃って、具体的にはどのような?」

「おう」


 リーチャカの家から宿まで帰り、さっそく切り出す七。思わせぶりに言うもんだから、流石に気になった。

 烈火は鷹揚に頷き、ちらと窓から外を見遣る。説明する。


「おれは【運命の愛し子】に狙われてる」

「あれ、確定したんですか」

「――と仮定する」

「あぁ」


 なんでそこでわざとらしく間を置いたんだ。真面目な話じゃなかったのか。

 七の責めるような冷めた目線にも屈せず、烈火は続ける。


「で、その仮定の上であれば、おれの不幸は敵の攻撃となるわけだ」

「まあ狙われているなら、そうでしょうね」

「で、さらにそのスキルには範囲があるとする」

「うっわ、仮定に仮定重ねてますよ、この人」

「うるせー、黙って聞け。範囲がある、イコール付近にいる可能性があるんだ」

「そうですかねぇ」


 七は不審げ。確かに根拠も理屈もあったもんじゃない。そうかもしれないだけだ。

 烈火はでは足してやる。


「じゃあ近くにいる根拠のひとつとして、おれはここしばらくずっと学ランで過ごしてたぞ。外套が破れちまう不運があったからな」


 もう買いなおしたけれど。黒いのを。


「目立ちますね、いえ、目立ってましたね、確かに。ですがそれだけを理由にするというのは……」

「もうひとつ。相手の行動予測だが、【運命の愛し子】はこちらの能力を知らない、けど知りたがっているであろうってのはどうだ」

「不運の最中でスキルの使用を期待し、尾行し見ているということですか」


 そういえば烈火は都市ではスキルの使用など一切していなかった。使っていたのは鍛錬の時か、せいぜい洞窟内での一件の時くらいだけだ。

 警戒心ゆえか、はたまた使うほどのこともなかっただけか。どちらであっても株は落とさないが。


「でも玖来さん、尾行くらい気付けないんですか?」

「まず相手がこっちより上手かもしれない。尾行の得意な奴かもしれない。それに、常に尾行してるとは限らない」


 というかいつも尾行してるとか暇人すぎる。異世界でなんか生活しているんだ、やることなすこと色々あるだろう。暇人にはなれないはずだ。


「で、ともかくもしも敵がおれの近くにいる場合に限り、宿に戻ったおれがすぐに周辺を探せば黒髪くらいは探し出せるだろ」

「いえ、でも外に出た段階で向こうも警戒して隠れるでしょう」

「阿呆。敵がスキルを持ってるのと同じく、おれだってあるだろ」


 全ての知覚から外れるスキル『不知』。


「あぁ、そういえばそうですね」

「忘れてんじゃねぇよ」

「忘れてません、使用の発想に思い当たらなかっただけです」

「似たようなもんだろ……まあいい。で、ここで確認、神子は『不知』を使っている状態でも認知はできるんだよな」


 毎度、『不知』中にも七ちゃんはまったく普通に喋りかけてきたし、すぐ傍に寄り添い続けていた。これは七ちゃんは烈火を正しく認識しているがためだ。

 ならば、他の神子も同様なのでは。烈火の問いに、七はちょっと曖昧。


「それはそうですけど、心配はないかと」

「というと」

「認知はされてます。見えてます、聞こえてます。ですが、神子はそれを傀儡には伝えられません。ルール違反ですから」

「神子は情報提供以外にゲームに干渉してはいけない、だっけ。でも、拡大解釈すれば情報提供の範囲内じゃね?」

「範囲外です。情報提供というのは、この世界についてです。傀儡についての情報は提供できません。利になるようなことは、極力してはいけないのです」


 でないとつまらないから。

 理由は果てしなくクソだが、真っ当なルールだ。神子は傍観者であって、協力者ではない。そうでないと人の争いではなくなる。神子同士の喧嘩、一気に神話になってしまう。そんな神話風景で人類が生き残れるはずもない。


「あれ、じゃあもしかしてこうやって七ちゃんと作戦会議するのも駄目なんか」

「いえ、この程度なら。私から策を挙げたり、知らないはずのことを故意に告げるのはアウトですけど」

「故意に……じゃあ無意識にお前が口を滑らすのはあり?」


 言外にちょっと口を滑らせてもらえませんかねぇ、とか悪徳なことを言う烈火。ニタリとした笑みはもはや越後屋の如く。

 しかし悪代官は乗ってこない。白けたジト目である。


「……ありですけど、意識して口を滑らしたらアウトですからね」

「だよな。まあ、お前の発言をヒントにするのはオーケーって辺りを喜ぶかね」

「名探偵みたいな?」

「じゃあ七ちゃんは頭悪い割に核心に近いことをぽろっと漏らす頭悪い助手かなにかか」

「そういう助手さんはだいたい頭いいですよ。探偵が予知能力もってるだけです」

「おれも予知能力がほしい」

「それは最初に言ってください」


 確かに。

 あぁ、やっぱなんでもありなら――範囲の狭いなんでもだったけど――もっと時間をかけて検討、選択をすべきだったかもしれない。ほとんど思いつきに近い形で決定したのは浅はかだったかも。

 後悔は、しないけど。

 今だって、この【不在】の力だからこそできる反撃なのだ。


「ともかくおれは『不知』使ってここら一体を探し回る」

「見つけたら大金星。見つけられなかったら……」

「特にリスクはない」


 強いて挙げれば、敵の神子にこちらが警戒していると悟られることくらいか。だが、それも傀儡には伝えられないはずだ。問題とするほどではない。


「あぁ、そう考えるとやって損はないですね」

「ついでにもうひとつ、もしも今日を境に不幸が増したら、これはやっぱり敵が近くにいることになる」

「どうしてですか」

「お前、思考放棄してるだろ……」


 ちょっと考えればわかることを他人に説明させるな。するけど。


「おれの探索を、【運命の愛し子】は気付けない。『不知』使うからな。けど、神子は気付く。するとどうなる?」

「五の姉ぇはルール上、【運命の愛し子】に伝えることはできない。けれどスキルの使用は五の姉ぇの采配が混じり、玖来さんと出会うという不運を避けるために、殺しにかかってくるってことですか」


 意識して【運命の愛し子】が避けようとしない、できない。何故なら探している烈火が見えず感知できないから。だが、確かに脅威は迫っていて、第五神子はそれを把握していて、なのに助言はできない。【運命の愛し子】に間接的に促すことはできるかもしれないが、強くは言えない。動かないかもしれない。

 だったら烈火を処理したほうが早い。不幸の名目で、武力行使で退けることが許されているのだから。


「おお、なるほどです。これなら敵が玖来さんの傍にいることが前提ですが、炙り出すことができそうです」

「ま、これがおれの独り相撲でないことだけを祈るわ」

「そうですね。でもなにもしないでいるよりは、ずっと建設的で前に進めます。やりましょう、玖来さん。たとえそれが的外れであっても」

「おい、やる気を削ぐな」


 推理仮定というのは数撃ちゃ当たるもの。どれかの推測が一個でも掠ればめっけもんなのだ。










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