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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第二幕 時計仕掛けの運命
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ii. 今はまだ








 ――なにもかもが苛立つ、全てぶち壊してしまおうか。

 荒貝 一人はふつふつと怒りを滾らせながら、雑踏を歩いていた。怒気をひた隠しにし、平常の体でそんな危険思想を募らせていた。

 そろそろ握り締めた拳がほつれてなにやら動き出しそう――といったところで、彼の神子グリュンは止めに言葉を挟む。やれやれと息を吐き出しながら。


「やめておきたまえ。お勧めしない」

(……ほう。久しくグリュン殿の声を聞いたな、なに用かな)


 荒貝 一人は現在、橋を渡っていた。第一大陸から第二大陸へと架かる、巨大な橋だ。

 烈火が第七大陸にまで向かうのに使った橋の同種であり、神々が人の交流を繋ぐために創造した神代の橋である。

 それが彼には気に入らない。気に食わない。苛立って仕様がない。

 なにを勝手に橋など創っている。人と人の交流のためだと? そんなものは貴様らの手を借りずとも成し得ることだろうが。だいたい、大海原という敵にどう対処して征服するか、そういった知恵を絞って前に進もうとする人類の発展を妨げている。敵を奪われては堕落するばかりだろうに。そのせいでこの異世界では造船技術が他と比して劣っている。人類史がはじまって千六百年も経ているのに、大陸から大陸に船でもって渡るのは大変困難らしい。大航海時代などやって来る気配すらない。橋を渡ればよいからと、海は水霊種ウンディーネくらいしか渡ることがないのだ。

 なんたる惰弱か。否、神が成長を阻害したのだ。

 これだから神は嫌いだ。この世界は嫌いだ。この世界の人類もまた、同情はするが嫌いだ。

 いっそのことこの橋を落とすか。そうすれば大陸間の道は途絶え、船に頼らざるを得ない。こんな巨大な橋、この異世界の建築技術で再現ができるはずもないのだから。

 巨大な損失は試練となりうる。換えのない橋を奪うことは、燻ぶった異世界人どもを強制的に前を向かせる試練となりうるのではないか。

 だが、グリュンはそれに否定的。神の子だから、というわけではなく、現実問題としてだ。


「今のお前の力量では、橋を崩すのには足りん。捕まるぞ」

(成る程。それはその通りだろう)


 流石に神の創った橋、神ならぬ人の身で破壊するのはまずもって非常に難しいだろう。神の力の片鱗たる魔法ならば不可能ではないが、今の荒貝ではまだできやしない。

 数発撃ち込み続ければ一部の破壊くらいなら可能性はあるが、その場合は周囲の人間に止められる。殺される。

 第一大陸と第二大陸を繋ぐこの橋にもまた、魔物は寄らない。侵入できない。そのため橋上には人々が集まってひとつの集落のようなものを形成している。その彼らにとって、いや、この世界に生きる者にとって神代の橋は失えない不可侵の安全地帯にして重要物。宗教的にも神の遺産で、実用的にも大陸を繋ぐ文字通りの架け橋だ。橋を落とそうとする者は断じて許されない。歴史上にも橋を狙った者はいたが、非常に重い罪を負い罰せられた。もしくはそれ以前に橋上住まいの者たちに無残に殺されている。


(そういう輩もまた、気に障るのだがな)


 賑わう橋の上の人々の姿が、荒貝 一人には腐って見える。神サマに恵んでもらった安全圏にたかる恥知らずの蝿ども。それを当然と享受する蒙昧の寄生虫ども。まとめて焼き払ってしまいたくなる。


「お前は相変わらず過激だ。彼らもまた人間じゃないか、好きではなかったのか」

(人間とは己の足で立っていてこそだ)

「心の在り方で差別をするか」

(するとも。おれは博愛主義ではないのだよ)


 そういえば傀儡どもを家畜と蔑んでいたか。グリュンは思いあたって沈黙する。

 しかし果たして、彼の定義づける人間とは、一体この世にどれほどいるのだろうか。


(だがまあ、おれがまだ至らぬというのも至極正しい、納得せざるをえまい。事を成し遂げるのに、短気ではなせぬものよ。ここは堪えよう)

「……まあ、それがいい」

(故に、いずれ、だな)


 言いながら、荒貝 一人は恐ろしいまでに頬を裂く。

 笑みなのだろうか、これは。グリュンはしばし迷った。


 ――荒貝 一人はそうして第二大陸へと上陸する。








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