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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第二幕 時計仕掛けの運命
33/100

31 時間潰しの塔内見学









 本日も朝より図書館で読書読書の勉強である。

 文字の羅列と争い、文章理解と鬩ぎ合い、襲い来る眠気と戦う。熾烈な争いであった。

 今日はキッシュと別行動なので、ひとりきりでの読書バトルである。まあキッシュだっていつもいつも烈火に構ってはいられない。旅の支度や一人でやりたいこともあるだろう。

 それに正確にはひとりではない。もうひとり、監視の司書さんがいる。昨日と同じ人。前髪で目が隠れた黒髪女性だ。静かに烈火の傍で佇んでいる。

 なんとなく、嫌われてるんじゃないかなぁと思っている。そのせいでちょっとそわそわする。

 あれ、中心都市に来てからそんなんばっかじゃない? ファウスもリヒャルトも、全体的に烈火を嫌ってない? 

 あれれぇ? 玖来 烈火、逆モテ期? 都会の奴らの心は汚れていて烈火とは相容れないのか? 単純に烈火に人徳がないだけ?

 あー、キッシュと離れたくなくなるわぁ。もう魔法とか放り投げてキッシュの妹探しの旅に同行しようかな、マジで。

 現実逃避が脳裏を掠る。目の前の読書という困難な現実に、心が逃げたがっている模様。


「そんな玖来さん、私とお話しませんかー」

(お前はおれの頭ン中の悪魔かなにかか)


 こう、煩悩の悪魔、理性の天使、脳内争いという比喩的描写のあれ。嫌でも本を読まなきゃいけないんだってば。


「それでしたら私は天使でしょう。天使のように美しい――いえ、天使なんて神の使いですからね、私の足元にも及びませんね」

(あっはっはっは)

「テレパり中の笑い声はわざとしかありえないんですが」


 自然と笑うなら顔にでて、口から笑声が漏れ出る。


(なんだ、お世辞笑いがモロバレか)

「冗談でもないのに笑うってどうなんですかね」

(もはや七ちゃんの持ちネタだろ)

「事実が冗句呼ばわりは解せないんですが」


 解せよ。

 事実である点は否定できない。だが、美少女自称は笑い話の種になるだろ、そりゃ。

 追求せず、烈火は話を曲げる。あまり深くここを言及するともうネタとして起用できなくなってつまらん。


(だいたいおれは体育会系なんだよ、座って本読むとかあんまり趣味じゃねぇんだよ)

「おや玖来さん、勉強は不得手でしたか」

(そりゃな。人生のだいたいを修行にあてた――あてられてたんだ、勉学も疎かになるわ)


 おおよその凡人は、時間をかけてその分野に精通していく。ひとつに偏って時間をかければ別は滞るに決まっている。こちとら超人でも天才でもねぇんだよ。


「その意見には異議を挟みたいところですが、まあ得てして自覚する己と他人から見た己は別人ですしね」

(ともかく身体動かしたくてウズウズする)

「その一言で一気に脳筋野蛮人みたいになったんですが。

 というか今朝もきっちり鍛錬は欠かしていないじゃないですか。割と過酷で凄い謎の運動してたじゃないですか」

(あれは鍛錬。やらないと気分が悪くなるもの。今やりたいのは身体を動かすこと。やれば気分がよくなるもの)

「わーお、斬新な切り口で開いた口も塞がりませんね」


 デザートは別腹とか言って太る女みたいなことを仰る。大丈夫か、この人。主に脳とか。

 七の皮肉とか呆れ眼を気にせず、それが真っ当だみたいな風情で――おそらくマジでそう思ってる――烈火は続ける。


(なんか最近は戦うもなくて、身体が鈍りそう)

「最近って、この都市にやって来てからまだ三日じゃないですか」

(橋の段階で魔物いねぇだろ。バトル皆無だろ。あれ、そういや魔物退治しないと収入もなくて、やばいんじゃ)

「ぼちぼち蓄えはあるでしょう? それでも不安なら、まあコロシアムとか洞窟とか、お金稼ぎに行けばいいんじゃないですか」

(……キッシュに言ってみるかぁ)


 ここでひとつの小休止。

 会話に一区切りがついたので、ようやく烈火は本へと意識を戻す。姿勢を整え、今度こそちゃんと読むぞ。


「しかし勉強駄目で運動得意って、小学生時代にはモテたんじゃないですか」


 なのに七ちゃんは本当に心底まるでどうでもいいことを言い出した。

 一応、こっちは読書しているところなんだが。お前と話していると完全に進行が鈍って、現在数分ほどページをめくる手が止まっているんだが。

 だが烈火としても読書よりも会話のほうが気楽で、しかも今日は理性の天使(キッシュ)が傍にいない。常に耳元で囁いてくる堕落の悪魔(ななちゃん)に返答してしまう。


(まあな。小学校では結構モテたぞ。それを大事にしておけばよかったと後悔してるくらいには)

「あー、中学くらいではもう運動できてもー、って感じになりますよね」

(小学生の頃に幼馴染のノリで仲良くなっといてゆくゆくは朝起こしに来てくれるような美少女の友人が欲しかった)

「定番ですねぇ。ひとりくらい小学生で仲良くなれた子はいなかったんですか?」

(いない。当時のおれは硬派クール系がカッコいいと思ってた。ぶっちゃけ高校に入るまではそういう感じのキャラで通した。女? はっ、女々しい! とか公言してた)

「…………」


 そりゃ女は女々しいものだろう。

 とか突っ込み期待の、しかし事実を告げれば、七ちゃんは非常に優しい瞳。いや、違う。これは優しさではない、憐憫、憐憫の視線だ! この七、烈火を憐れんでいる!

 嘲笑なんかよりもずっと余計、烈火にダメージが刻まれる。過去の己が牙を剥くとはこのことか。


(やめろ。マジな憐れみ目線はやめろ。心が砕ける!)

「大丈夫、大丈夫ですよ玖来さん。誰だって過ちは犯します、私はそんなあなたの味方ですよ」

(やーめーろー!)


 そして烈火はその後、生暖かい目で見守ってくる七から逃れるように本へと意識を集中させた。今までにない物凄い集中力を発揮し、その日の内に「はじめての魔法」を読破し終えたのだった。

 げに恐ろしきは黒歴史の流出であるか。はたまたそんな過去から目を逸らそうとする元中二病罹患者の現実逃避力か。







 がんばって読んで、読後にばたんきゅーと突っ伏す烈火。流石に集中力をぶっ通しで維持するのは気疲れするのだ。背中に刺さる司書さんの視線がやや痛いのはきっと気のせい。

 そうして机で寝そうになってる烈火に向けて、七が言う。読み終えたようだし、ちょっと間を置いたし、そろそろ声をかけてもいいだろう。


「で、時に玖来さん」

(なんだ十引くことの三)

「答えは七ですが、読み終わりましたよね」

(おう、読み終えたな。完全に理解したとは言い難いし、次はメモ帳持参で読みに来るかな)

「ともあれ読了、お疲れ様です。ここでひとつ前々から訊いておきたかったことを訊いてみます」

(なんだよ)


 烈火は突っ伏す首を曲げ、横の七ちゃんに視線を合わせる。


「玖来さんはどの形式、どの流派の魔法を覚えますか?」

(あー、それな。確かにそれは決めとかないとな)


 この世界にある魔法は大きくわけて三種類。

 言声魔法。

 紋章魔法。

 舞踏魔法。

 さらに流派でわければそれぞれに三派あり、その九種でどれを習得し、己が力とするのか決めておかないといけない。一気に全部に手をだしては中途半端に終わるだけ。ひとつに定めて集中的に学び、練習し、最低限の魔法を使えるようにならなくては。


(まず言声魔法はない。全部恥ずい。無理)

「中二を醒めるとこういう時に気取りますよねぇ」

(うるせぇぞ。ちなみに想念派は絶対難しいのでパス)


 言声魔法三流派の中で唯一、喋ったりしないで発現しうる魔法。一番恥ずかしくない魔法。それが想念派の魔法だ。

 であるが、その発動はおそらく最も難度が高い。イメージを言葉で表現して世界を変える魔法なのに、それなしで行えるだけの想像力と集中力と魔力が必要となるからだ。

 って、「はじめての魔法」に書いてあった。

 七ちゃんも同意首肯。


「そうですね、ぶっちゃけますが想念派だけは難易度が二段階くらい高いです」

(だよな。で、紋章魔法もちょっとなぁって思う。即効性に欠けるし、ていうか買うし、別にいい)

「簡単に言いますが、紋章アイテムは結構お高いんですけどねぇ」


 それはそうだろうけど。


(あと光るのが気に食わん。なんで魔法陣輝くんだよ、暗所で目立つだろ)

「暗所前提なのが暗殺精神感じますが、『不知』中なら隠せますよ?」

(それでもだ。『不知』抜きで暗所で暗殺しなきゃいけない時もあるかもしれんだろ)

「どんな時ですかねぇ……。まあ、では、消去法で舞踏魔法ですか。流派はどうします、舞踊派――あぁ、いえ、玖来さんは武器使ってますし舞器派ですかね」


 確かに玖来流の身体操作術をもってすれば、動作が媒介となる舞踏魔法は適している。どんな動きでも完璧にやってみせるだろう。

 七の納得に、当の烈火が水をさす。


(いや……印相派だな)

「おや、それはまたどうしてですか? 一番カッコいいからですか」

(カッコいいがカッコいいだけで決めるほどロマン派じゃないぞ)

「やっぱりカッコいいとは思ってるんですね……。ではどんな理由での決断ですか?」


 ぱっと手の平を挙げて見せて、一言簡潔に。


(片手でできるから)


 片手で小剣を持つならば、もう片方の手でなにをするか?

 人間はふたつ手を持っていて、それを別物とし自在に動かす玖来流。戦闘では両手の用途が重要になる。

 もう一本武器を持ち出すか。拳を握るなり掴みかかるなり素手で攻めるか。砂でも握って目潰しするか。色々と選択肢があり、適宜適切な選択をせねばならない。

 その選択肢の中に、印相派ならば組み込める。片手でできる魔法、他のどの流派でもできないことだ。まあ言声魔法なり紋章魔法なら手も使わずにできるが、それは前述した理由で却下である。

 七は並べられた説明に納得し、感心する。手品の種明かしに驚く童みたいで、なんだかそれだけで愛くるしい。美少女はずるい。


「なるほど。やっぱりこういうのを考える時は真剣ですね、玖来さん」

(おれはいつでも真剣真摯紳士だ)

「紳士は机に突っ伏したりしません」

(む……)


 烈火は指摘に唸りゆっくりと半身を起こす。のっそり立ち上がる。


「ともあれでは、次に読む本は舞踏魔法:印相派について記載されたものですね。今から探しますか?」

(いや、今日は疲れた。帰る)

「そうしますと少々時間が余るのでは?」

(あー、それは確かに……)


 烈火は地球にいた頃から早寝早起きであったが、異世界ではさらに輪をかけて早寝早起きとなっていた。

 異世界では電気が未だ普及していない。蛍光灯なんて望めず、電球もない。明かりには魔法か松明、ランプなど火種がいる。そういうとこだけ文明遅れの異世界っぽさをだしている。だから、夜の闇が訪れれば起きていてもあまり意味がない。暗がりで外を歩けばそれだけで怪我の恐れがあるし、室内にいても火の無駄。安い宿なら早めに消灯するところも多い。魔法の明かりは高級の宿でもないとないのだ。まあ魔法は結構普及していて、自前で明かりの魔法を灯せる者も多いが。

 なので異世界人はだいたい早寝。そして早寝すれば早起きとなるのは道理で、この世界の人々は朝日が昇った頃合から活動をはじめるのが一般だ。烈火もそれに倣っている。

 逆に言えば明るい間は活動しておかないと損。動ける時に動かないのは贅沢だ。時間は有限で、他の人間にも平等に与えらているのだから。

 なので烈火は僅かな時間も無駄にしない。寸暇を惜しみ、宿に戻る前に寄り道しよう。


(そうだな、ちょっと中央塔っての、見に行ってみようかな)







 世界の中心に聳え立つ超超高層建築物、中央塔。

 別名を「試練の塔」。または「勇者選定門」、「天地の繋ぎ目」、「神御座(カミザ)」、「リラの塔」、「白い巨塔」。


(まさかのオチが最後にあるんだが……)

「ノーコメントでお願いします」


 烈火と七は、そんな様々な呼び名をもつこの馬鹿高い塔の下にまでやって来ていた。

 なんかここだけ雰囲気が違う。遠目で見た時は特に感じなかったが、この白い塔、やけに小奇麗で無機質で、ぶっちゃけ人工物感半端ない。ここまで近くに寄って見上げれば、機械的な部位がところどころ露出していることに気付く。歯車が剥き出しで回転し、壁面が金属っぽいところとなんかスクリーンっぽいところがある。

 現代の地球でもありえないような高層建築だが、まさかマジで科学要素で出来ているとは。これでは神秘的というより近代的な匂いが漂っている。ちょっと後ろを振り返れば木製、石造りの建築物が溢れる町並みで、場違いな非現実感がある。というか明らかに浮いている。ファンタジー衣装の中の現代服的な浮き方だ。


「玖来さん、ちょくちょく私に文句飛ばしてますけど、玖来さんだってファンタジー内で現代服ですからね?」

(おれの視界には入ってないので雰囲気は壊してないんだ)

「めっちゃ自己中なこと言い出しましたね。まあ、そういうところは嫌いじゃないんですけどね」


 何故かちょっと頬を朱に染めて言う七ちゃん。お前のときめくポイントは意味がわからん。

 烈火は突っ込むべきか一瞬考えたが、やめておくことにした。

 それより歩を進める。見上げる塔の内部へ踏み込む。


(って、入り口どこだよ。反対側か?)


 塔の高さばかりに気をとられていたが、円周も長い長い。これを半周回って反対側に行くとか、結構普通に辛い。時間がかかりすぎる。

 烈火の懸念は簡単に払拭される。ふふんと何故か得意げな七ちゃんに。


「入り口はありません。壁に触れれば内部に入れますよ。そういう感じに魔法付与しときました」

(また無駄な演出を……)


 呆れつつ、塔の壁に触ってみる。

 刹那、視界が真っ白に染まる。いつだかこの異世界にやって来た時と同じ心地を味わう。同じ原理か。

 次の瞬間にはメカメカしい風景が目に飛び込んでくる。壁面は歯車が回転し、金属パイプが幾つも走る。まるで巨大機械の内部みたいなところだった。以前忍び込んだ学校の時計塔の内部みたいな感じ。近未来というよりちょっとレトロだ。

 壁面の機械っぽさを差し引けば、周囲にはなにもない。あるのは端の階段。その階段が螺旋のように捩れ繋がり天へと目指す。天井は高く、遠い。だが床面積としては意外に狭く、壁が結構分厚いのだろうことがわかる。先の《転移》以外では出入りは難しそうだ。

 人もいないようなので、烈火はテレパシーをやめて口を動かす。


「なーんか殺風景だな」


 最初の煉獄もどき神様空間とやらも殺風景だったし、神は殺風景が好きなのか? 殺す風景と書いて殺風景だしな……。


「別に神様は試練を与えるだけで殺しとか好きじゃないんですけどね。単純になにもないほうが神秘的じゃないですか」


 試練だから虐殺じゃないもん、とか言いそうなので前文はスルー。後者にだけ突っ込みをいれておく。


「こんなサイバーな空間で神秘もクソもあるか」

「この世界の人々の視点で見れば凄い神々しいんですって。それに地球よりもずっとずっとオーバーテクノロジーですし、ある種の神秘じゃないですか」

「なんでオーバーテクノロジーに歯車だの管だのが使われてんだよ、どっちかって言うとこれじゃレトロだろ」

「あれは演出です。蒸気機関ってカッコいいじゃないですか。ちゃんと実際に使われている技術はオーバーテクノロジーですよ」

「また変なこだわりを……。というか、そもそもファンタジーにオーバーテクノロジーまで混ぜ込んでくるな。マジでごった煮世界だな、ここ」


 実は魔法も超科学の産物なんですとか言われても驚かないぞ、おれは。


「よくある展開ですが、それはないのでご安心を」


 安心するところなのかそこは。

 ――って。あぁ、いかん。

 さっきから阿呆な会話で時間が流れてしまっている。七ちゃんと話すとどうしても主題から逸れてズレてネジれてぶっ飛ぶ。しかも内容はだいたいどうでもいいことなのだから始末が悪い。

 ちょいと七ちゃんから視線を外す。塔の風情を眺めて見る。

 やっぱり階段があるくらいの殺風景だが、気付いた。床には年輪のように広がる魔法陣が刻み込まれている。これが例の勇者しか起動しない《転移》の魔法陣とやらか。


「ふむ……」


 どうせだから乗ってみる。なにも起こらない。

 ジャンプしてみる。なにも起こらない。

 寝そべってみる。なにも起こらない。いや、七ちゃんに変な目で見られた。

 烈火は怯まず強気に言い返す。


「なんだ、なにが言いたいんだその目は。文句あんのか」


 寝そべったまま、涅槃の姿勢で。非常に滑稽間抜けな様相を呈している。


「いえ……別に……」


 七ちゃんは努めて真顔で首を振った。唐突の奇行でも優しく受け入れる度量があった。なんでそこで寝そべってみるとか選択肢が浮かんで、なおかつ実行できるんだこの男は。

 烈火は無言で立ち上がり、埃を手で払う。


「ともかく魔法陣が起動しないってことはおれは勇者じゃないな、よかった」


 烈火は、というか傀儡が、という点が重要である。もしかしたら傀儡は全員勇者素質ありとかまた変な設定ねじ込んでくる可能性を危惧していたのだ。

 七は請け負う。それはないと。


「勇者はこの世界の人だけですから、傀儡七名がこの《転移》を起動させることはありません。やはりチートは一人ひとつが基本でしょう。複数もってたらなんかつまんないです」

「でもダンジョンアタック成功したらチートアイテム手に入るんだろ?」

「それはそうです。塔昇りも楽しそうですからね。どうしますか玖来さん、昇っちゃいますか。ダンジョンアタックしちゃいますか」

「これダンジョンなのか? ひたすら階段昇る拷問じゃなくて?」

「ある程度の高さまで昇れば二階について、ここと同じような空間が広がってます。こことの違いは高さと襲ってくる魔物ですかね」

「あぁ、そういうのか。マジでゲームみたいだな」


 階段を昇り次の階へ進み、そこに現れる魔物と戦い、また昇る。

 物凄い作業ゲームっぽいけど、そんなゲームもたぶんあるんだろう。烈火はやったことないけど。


「とりあえずおれは昇らんぞ、面倒臭い」

「えー、勇者になりましょうよぉ。「塔破者(トウハシャ)」の二つ名が名乗れますよ? チートアイテム手に入りますよ?」

「悪いが中二は卒業したんで。そして命がけで力を欲するほど餓えてない。そんなもんなくてもおれはまだ強くなれる」

「まあ、正論ですねー」


 つまんなーい、と七ちゃんは唇を突き出す。なんでこいつは偶にサブクエストとかを推奨してくるのだろうか。ゲームクリエイターかなにかだろうか。ある意味ではそうかもしれない。以前、世界の仕組みに呆れ返っていたら凄い喜んでたし。

 そこで話を別に回す。塔昇りは心底どうでもいいが、そっちじゃなくて別の方角には少々の興味がある。知っておきたい。


「あ、そういえばさ」

「なんですか」

「こんなとこに来たわけだし訊いとくけど、勇者ってなに?」

「この塔を昇った人ですね」


 なんの説明にもなっていないことを断言された。というかそれは聞いている。そうじゃないだろ、問いかけの意味合いは。

 烈火は突っ込みを我慢して問いを重ねる。


「そんだけか? もっと他に説明しとくこととかないのか、システム画面。たとえば、ほら、勇者選定条件とかはどうなってんの?」

「気分ですかね」

「……聞きたくなかった」


 これだから邪神という奴らは。

 要はつまり勇者はなんとなし目に付いた人類のひとりでしかない。特に才気に優れるとか、英傑の素質を持つとかじゃない。完全に運がいいだけ――


「まさかとは思うけど【運命の愛し子】は……」

「ないですないです。というか勇者は一世代にひとりで、今回は玖来さん方が来る前から存在しています」

「ならよかった」


 流石にそんな追加特典はないか。あったら猛抗議していたところである。

 ではもう、割とだいぶどうでもいい。烈火は話題が地続きだからというだけの理由でもうひとつ問い。


「ちなみに勇者に与えられたとかいうチートアイテムってどんなんなのか聞いてもいいのか」

「一応、敵対したりするかもしれませんし詳細な能力は教えられませんが、名前くらいなら」

「名前とか知ってどうすんだよ……」

「勇者にしか扱えないという神剣エクスカリ――」

「おいっ! おいっ! おィ!」


 それってあれじゃん。あの有名甚大なあれじゃん! なに、この異世界にアーサー王様でもいるの? 完全に地球からネタパクってるじゃねぇか!


「違います、エクスカリバーではありません」

「え、違うの」

「エクスカリヴァーです。発音の際には気をつけてください」

「ちょっとニュアンス変えただけじゃん! ヴァーって、お前。ヴァーって!」


 神のくせに人からパクるとかどうなのさ!

 七ちゃんは鷹揚に首を振る。否を告げる。


「いえ、パクってなどいません。わかりやすさ重視なだけです。この名ならなんか凄い強そうでしょう? それがすぐわかるでしょう?」

「まぁ、詳細は詳しくないけどおれでも知ってるくらい知名度は高いし、凄そうだが」

「そう感じた時点で、あなたは神の術中に嵌っているということなんですよ」


 どやぁ。

 やーばい、うざっい。めっちゃうざい。可愛さ余ってウザさ百倍。

 そのくせやっぱり可愛さも保持しているから卑怯だ。もはやウザ可愛い。ウザさ引き立て可愛さ千倍。玖来 烈火、人生ではじめてウザ可愛いを実感する。一回死んでいるが。

 ウザ可愛さのせいで、なんかエクスカリヴァーパクり問題はどうでもよくなってきた。アーサー王でもランスロットでももう好きにしろ。

 烈火は一度、高い高い塔の天上を仰ぎ、それから小さく嘆息を漏らす。


「あー、帰るか……」

「え、帰るんですか玖来さん。なんもしてないですよ? なんで塔に来たんですか?」

「いや、本当は全然行く必要ないから一切全く来る気なかったんだけど、時間空いたし記念に一回くらい行っとこうと思って。もう二度と来ないけど」


 そのまま烈火はさっさと塔をでて、振り返ることもなく宿へと向かった。











 神が自らバベルの塔(?)を建てていくスタイル。

 言語の乱れなんてない世界である。


 その上、色々描写した割にマジでおそらく二度と来ない場所である。

 ダンジョンアタックはしないのです。





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