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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第二幕 時計仕掛けの運命
29/100

side.【運命の愛し子】その一

 別視点。











 ――と、バッチリとフラグを立てた烈火は、もはや当然のようにひとりの男に見られていた。宿の外から監視されていた。

 常の烈火ならば視線で気付いただろうし、尾行なんてすぐに露見していたはず。だが、この異世界では黒髪黒目が珍しがられ、よくよく視線を浴びていて、それに紛れてしまっていた。そういうタイミングでしか、彼は烈火に視線を向けていない。烈火が外套を着ずに目立つ学ラン(いでたち)でいたのがさらに功を奏していた。不覚にも宿に辿り着くまで、辿り着いても男の存在に烈火は気付けなかった。

 それは監視者の実力ゆえなのか。彼は視線の混在混線を狙って行っていたのか? 否だ。ただ運よく、幸運にもそういうタイミングであっただけだ。

 何故なら彼は第五番目の傀儡【運命の愛し子】、その名を南雲(ナグモ) (カイ)

 七番目の神子にして曰く――運命の加護を持つ傀儡である。あらゆる不運から遠ざかり、幸運を得て前進する。運命に愛されて、どんな絶望にも死ぬことはない。立って歩けば害は絶え、座って休めばお金持ち、歩く姿はラッキーボーイ。文字通りの主人公補正。

 その実態真相は神子の尽力という面倒な能力だ。

 戒を選んだ第五神子ブラウ。

 彼女の作為によって、戒はこの世界にやってきた時に唯一人里の端っこであったし、近くに人がいて助けてもらえた。

 大陸もまたブラウによって吟味された結果の第七大陸である。ここなら様々な人間、また他の種族が訪れる。縁に恵まれるだろうし、知識も得やすい。生きやすい。学園や図書館があり、なによりも魔物がいない。平和だ。こちらにやってきて、異世界的事故によってゲーム参加の前に死亡の不幸はありえない。

 初期に与えた金はあるので、しばらくはここで安全に世界を知ればいいと考えたのだ。

 そして、またしても運よく幸運な出来事に遭遇する。二ヶ月ほど滞在していた中心都市にて、偶然にも黒髪の少年を発見できたのだ。金髪ツインテールの少女と、パーカーを纏う美少女を連れた、コートの男だ。

 遠目では瞳の色まではわからないが、黒髪とパーカー少女でほぼ確定できた。あれは自分と同じ、「選抜者」であると。

 そう考えた直後、その黒髪の男の頭に水が降ってきた。運悪く横の建物から水が落ちてきたのだ。すぐに彼は外套を脱ぎ――下には学ラン。確定に、ほぼが消えた。確信した。

 

「あれ、が……はじめて見る、同郷さんか……」


 適度な間合いを置きながら、できるだけ気付かれないようにして、漫画やゲームで培った知識を思いだしつつも尾行をしてみる。目が合わないように足元を見て追うとか、雑踏に紛れて堂々とするとか。

 しかしその尾行に理由は特にない。流れでやっただけ。見つけた敵を捨て置くのはアレなので、とりあえず追ってみただけ。だから、烈火が宿屋に入った段階で、戒は小さく息を吐く。


「どう、しようか」

「……しばらく待ってな。アンタがあれを敵だと認識できたんだ、それでアタシが動けるからね」


 彼の独り言に声を返すのは青い髪をし、鮮烈な赤い和服を着崩す女性だった。まるで花魁のように色めいて華やか、貴婦人のように上品で可憐――この異世界にも、現代日本にすら珍しい浮世離れの美人別嬪様である。

 彼女こそが第五神子、ブラウの名を持つ七の姉だ。

 ブラウは異様に似合う風情でキセルを一吸い、それから紫煙とともに言葉を続ける。


「あれがアンタの幸を害す者ならば、それで不幸を送ってやれる。アンタにとっては運がよく、ね」

「それで、彼は死ぬのかな」

「さぁて、ね。相手もなんらかの力を持っているだろうからね、簡単にはいかないだろうさ。けど、ともあれアンタは不幸に見舞われている(やっこ)さんをちゃんと見ておくんだよ」


 びしりとキセルで指され、戒は少しだけ疑問。生存を優先しての反論を述べる。


「え、なんで。近づいたら、危ないんじゃ?」

「阿呆。相手の力がどんなものかを見ておかないと、厄介だろう? 見たところ奴さんと一緒にいたのはリラ――第七神子だった。誰も知らない能力を秘めた七人目のかい――選抜者だ。知っておくだけでも有用さね」

「なるほど。どんなスキルか知れば、対策も考えられるってことか」


 漫画や小説にもよくある。情報は重要だ。相手の手の内を知れば、対処を考えられる。ぺらぺらと自身の能力を語るような間抜けなんて、現実いるはずがない。あれは話を盛り上げるための演出に過ぎない。

 戒は理解し、けれど今日のところは身を翻す。


「ともかく滞在する宿屋は確認できたし、仲間っぽい女の子――チッ――も把握できた。充分な収穫だ。しばらくはブラウさん、お願いします」

「任せておきな――運命の見えざる手にね」


 所詮、七番目の底は知れている。第一大陸において四番目とやりあい、殺しきれない程度でしかない。無能力の【真人】と遭遇しておきながら逃すなんて、同様の無能なのだろう。しかも直後にこの平和な第七大陸にやって来る辺りからも臆病者の側面が見える。


「まあ、存分に平和に異世界道楽楽しんでおきなよ七番目。そのお気楽の間にこっちははんなりと、死を送ってやるからさ」










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