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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第一幕 そして不在はいなくなった
25/100

24 後処理はさっくり、それよりもこれからを







 その後の処理は素早く終わった。

 いや、キッシュがさっさと最低限だけ済ませて立ち去ったのだ。

 伝えたのは簡素にふたつ――魔物は討伐完了した。だがふたりの犠牲者を出した。

 犠牲になったふたりの遺体は、おそらく燃えて残らず灰となってしまっているだろうとも。また被害は森にも及ぶ、広範囲において樹林が失われてしまった。そこについて文句を告げるような輩も少なからずいたが、やはり感謝のほうが大きい。だって彼らは生きているから。

 一晩だけ宿を借りて休んで、謝礼に幾分かの金を頂いて、その後のご馳走するとの申し出は断った。キッシュの計画から少しズレてしまい、遅れを取り戻したかったから。なによりも、そんな大層なことをしたつもりはないから。

 討伐者は魔物を狩って当然、それが役割なのだ。

 変に騒がれたりするほうがこそばゆい――キッシュは半ば無理矢理勝手に逃げるように村を発った。

 無論、同行者にはもうひとり。


「レッカは、よかったの?」

「え、なにが?」


 玖来 烈火は今日も先達の背を標に旅を学ぶ。生きるために、生きて目的を果たすために。

 その姿勢はよいが、祝い事も一応は討伐者ならばありえることだとキッシュは言う。


「ほら、Aランク討伐の立役者じゃない。なんで名乗らなかったの?」


 烈火は表向き討伐に参加すらしていないことになっている。今回の魔物を打倒したのは、キッシュレアひとりということになっているのだ。

 キッシュとしてもまあ目立つのは苦手で気持ちはわからなくもないが、それでも頑張った報いはいらないのか。


「べっつに。おれはキッシュを助けたかっただけだし。他の、村とか討伐者とかどうでもよかったし。そんな心意気の奴が感謝される謂れはないだろ」

「素直じゃないなー」

「正直者だぞ」


 烈火の本音としては、魔物に立ち向かうことなくキッシュと逃げ延びることが最上だった。彼女の性格的にありえない選択だったわけだが。

 この世の人々が生きていると確信していても、自身と自身の友人が生き延びる方が優先される。この価値観は地球であろうと異世界だろうと変わらない。烈火は博愛主義でもなければ見知らぬ誰かのために頑張れる正義の味方でもない。

 まあ、流石にバツは悪くなるけど。今回のようにきっちり解決するほどに心残りもなくとはいかないけれど。


「キッシュのほうこそ、よかったのか。金とか、あれで適切だったのか? 少なくない?」

「いいんだよ、お金が欲しくてやったわけじゃないし。それにお金だったらAランクの討伐したってことでギルドからもらえるから。勿論レッカも」


 だからこそキッシュという少女が眩しくて、率直に言って尊敬できる。本当に、この異世界で出会い、仲良くなったはじめてが彼女であったことが、烈火は凄く嬉しいのだ。この出会いが異世界生活最大の、かは終わってからでないと不明だが、最初の幸運であったことは確実だろう。

 おくびもださずに話を続ける。


「え、トドメはキッシュだったけど、おれももらえるのか?」

「もえらえるよ。そうじゃないと補助とか支援を生業にする人たちに収入が入らないじゃない」

「む、そうだな。けどどういう理屈なんだろ」

「それは――と、待って。レッカ」


 中途で声を潜め、キッシュは烈火に手を差し出す。

 無言でその手をとり、烈火は『不形』を発動。あとはふたりで隅に寄り、息を潜めて数十秒――魔物がのっそりのっそり歩いてくる。

 周囲をきょろきょろ見回しながら、魔物は歩んでいく。のっそりのっそり。きょろきょろ、きょろきょろ。

 ――しばらくお待ちください。


「いやぁ、レッカの『不形』だっけ? 便利だねー」


 魔物が去って、歩みを再開。会話を再開。

 にこやか真っ直ぐ褒めるキッシュに、烈火としては外付け神頼りの力。受け入れるわけにもいかずにはぐらかすように笑う。


「便利だな。便利過ぎておれが馬鹿になる」

「だから旅の心得を教えて欲しかったんだね――で、あぁ、ギルドカードのカウントの方式だっけ」


 先ほど中断された会話。忘れずに続けてくれる。


「あれって実は魔物がカードの周囲何メートルかそこらで死亡したらカウントされるんだよね。だからパーティ単位で一匹狩ってもひとりずつお金がもらえる計算になるの」

「あ、そうなんだ」


 まあ益を多めに配分しないと討伐者なんてやってくれないだろう。儲かるよーとか詐欺的なノリででもやってくれる人間を増やさないと人類滅ぶし、出し惜しみして滅んだら笑えないし。

 ちなみに遠距離主体の討伐者は特別に広範囲のカード申請と審査が必要だという。

 でもこの方式だと悪用できそうな気がするな、特に遠距離の奴。とか最初に考える辺りに烈火の卑怯っぽい性根が現れている。

 感じ取ったか、キッシュは悪戯っぽく笑う。


「戦わずに傍にいるだけでいいなら楽に稼げそうって、思った?」

「……思った」

「それバレたら一発でCランクに降格だよ。悪質なら剥奪もあるらしいし」

「厳しいな」

「厳しいよ。ギルドの信用に関わるからね」


 誰でも考えられるような悪事だから、やってしまえば重い。一線を厳しく引かねば誰もが踏み外してしまうから。

 そのためそれを知っていて報告しない者にも罰があり、合意の上でも許されない。命を賭けて魔物を討伐する他の討伐者たちに、それはなにより失礼であるから。


「けどなにかしら誤魔化せるよな、って考えるのは浅いか?」

「うーん、そうかな? だいたいバレるもんだよ。ギルドの監視者さんとか、大きいところなら監視魔法で見られたりもするからねぇ」

「うへ、そこまでするか」


 普段はただの討伐者、しかしてその実態は! ギルドの監視者! 的なあれが発生するのか。異世界、さすが異世界。ちょっと見てみたい。

 監視魔法とやらは普通に嫌だが。


「他にもカードが所有者の魔力とかを検知してるって噂もあるね。それで全然魔力減ってないのに討伐数だけ増えたらおかしいってなる、っていう噂」

「……噂、ね。ありえそうで怖いな」


 それがただの噂でも、真偽を確かめる方法がなければ警戒せねばならない。意図的に流された噂な気がする辺り、ギルドも色々考えている。なにか烈火が考えられる程度の問題点は、対応策くらい出されているのだろう。たぶん。


「とりあえず、Aランクの魔物一匹ぶんの金が入るわけだな。頑張った甲斐はあったわけだ」

「村でもらった謝礼金も半分あげるよ?」

「それはキッシュがもらっといて、後生だから」











 それからは『不形』の存在と、不幸も予定外も特になく、ふたりは予定通りに道を進んでいった。

 幾つかの村を超え、その度に人の生活に触れて。

 何度かの野宿を過ごし、その都度に旅の知識を学び。

 多数の魔物を屠って、その分だけ死線を潜って。

 キッシュと沢山話して。互いに教え教えられ。命を助け合い。友誼を交わして。

 ――烈火とキッシュのふたり旅は、遂に終わりを迎える。












 第一幕終了。

 短くてすみません。

 あまりに短いのでちょっと小ネタいれときます。(読まずとも問題はないはずです)









 烈火とキッシュの旅の一コマ






 妹



「そういえばレッカの妹って、どんな子なの?」

「妹?」

「うん。前、話にでたよね。どんな妹さんなのかなー、ってちょっと気になってさ」

「どんなって訊かれると、ううん、困るな」

「じゃあ、レッカに似てるのかな」

「そうだな、顔の輪郭とか目元は似てる、らしい。けど性格はあんま似てないな。おれはあんま執着しないけど、妹は執着できるもの見つけるとすげぇ執着しだす。おれは運命なんぞ信じてねぇが、妹は運命を信じてた」

「まあ、兄妹でも別人だからねぇ。うちも妹と外見は似てるけど中身は似てるとは言えないかな」

「あ、外見似てるんだ、じゃあ美少女姉妹かぁ」

「えっ、やだなぁ、レッカ。お世辞なんか言われても困るよ」

「お世辞のつもりはないんだが……」

「またまた。レッカのほうこそ、似てるんなら可愛らしい妹さんなんだね」

「そうなんだよ。おれはそこそこなのに、妹はだいぶ可愛いという理不尽。パーツが似てても総合で差異がでるって、なんてこった。いや、妹が可愛いのは眼福だし可愛がるのにもいいんだけど、おれももう少し面構えがよければなぁと思わずにはいられん」

「え、レッカも格好いいよ?」

「キッシュはだいたいの奴を褒めるからなぁ」

「そんなことないよー」

「まあ平行線になるからいいや」

「んん。じゃあ仲はよかった?」

「いいというか、懐いてはくれたな」

「そっか、仲良しだね」






 魔法



「キッシュってどんな魔法が使えるんだ?」

「え、魔法? 紋章道具なしで?」

「そうそう。なんか風で敵をぶった切ってるトコしか見てないからさ」

「攻撃系魔法は風のふたつしかないからね」

「え、そうなのか?」

「うん、攻撃系の魔法って魔物退治にしか使えないから実はあんまり覚える必要ないんだ。弱い魔物なら剣で倒せちゃうし、そもそも魔法は妹のほうが得意だったし」

「あー、そうか。確かに攻撃だけじゃあ利便性はないな」

「一応、剣の切れ味を上げる補助系の魔法とかも使えるけど、他はだいたい旅に必要な魔法くらいしか覚えなかったかな。物覚えが悪いからさ」

「紋章道具があるのにか?」

「なくしたり、壊したり、盗まれたりしちゃうかもしれないから、最低限は自分で使えるようにしないと。レッカもだよ?」

「おっ、おう。そうか、そうだな、第七大陸で覚えます」

「よろしい」






 舞踏



「最初キッシュが戦ってる姿見た時さ」

「うん? なに?」

「あれが噂の舞踏魔法とやらかと思った」

「あー、うん、よく言われるね」

「やっぱりか。すごい踊るみたいだったし。実は舞踏魔法も嗜んでいたり?」

「ううん。わたしにそっちの才能はなかったからね。妹は言声と舞踏どっちも使えるけど」

「あ、そうなんだ」

「魔法の才能はキーシャのほうがあったから、ふたりの時は基本的にわたしが前衛、キーシャが後衛だったよ」

「キッシュ、あれで前衛かよ。魔法でAランク首チョンパしてたじゃん」

「あれはすっごい溜めて、魔力全部使ったからね。キーシャならもっと短くても同じ威力を繰り出せた、と思うよ」

「やっぱAランク討伐者はすごいなー。で、なんで姉妹揃って舞踏の動きを取り入れてるんだ? 師匠の意向か?」

「あたり。そうだよ、というかそもそも師匠が舞踏魔法の達人でね。その舞い踊る姿に見惚れたのがはじまりだったから」

「そう繋がるのか、ふむ」

「だから弟子になって教わったのは舞踏魔法。まあ、わたしは才能なくて扱いきれなかったけど、動きだけは今でも取り入れてるから。そうすれば相手が勘違いして勝手に警戒してくれるかも、って師匠が言ってた」

「やっぱ師匠さん微妙に悪辣だわ」

「そうだね。だからこそ一流の討伐者になれたんだよ」

「それもそうか。しかしキッシュの動きでも綺麗だと思ったけど、それ以上か……。おれも見てみたいもんだな、キッシュと妹さんを見惚れさせた舞いって奴を」






 めた



「いやぁ、最近私の出番がキッシュレアに奪われてしまって困りますねー」

「おっ、おう?」

「まあ、全編ヒロインであるこの七ちゃんと、章ヒロインであるキッシュレアでは格が違うんですけどね」

「おー、お?」

「でも私の出番がないと読者の方々も寂しがると思うんですけど、大丈夫でしょうか」

「おぉ……」

「玖来さん? さっきから返事が適当過ぎませんか。生返事は女の子に嫌われますよ」

「いや、だってさ。お前、本編じゃないからってメタなこと言い過ぎだろ……ついていきづらい」

「玖来さんこそ本編とか言ってる時点でメタですよ」

「あー、確かに……って、ん?」

「どうしました玖来さん。番外なのをいいことに七ちゃんへのセクハラですか」

「しねぇーよ! 紳士淑女に本編も番外も関係ねぇーよ! そうじゃなくて、なんかポケットに違和感が……あ、なんか紙がある。なんだこりゃ」

「どうせゴミじゃないんですか? そこらへんに捨てておけばいいじゃないですか」

「いや待て、なんか書いてある。えっと――」


『あんまりメタネタばっかしてると消すぞ by神』


「…………」

「…………」

「……さて本編に戻るか」

「そうですね。いつまでも番外小ネタじゃ話が進みませんしね」






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