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七と烈火の異世界神楽  作者: ウサ吉
第一幕 そして不在はいなくなった
15/100

14 拾ってください


 前回までのあらすじ


 とりあえず異世界で暮すために討伐者になった烈火。鍛えた身体と神様にもらった能力をもって魔物を狩り金を稼ぐ日々を送る。

 しかし本命は七人の傀儡での殺し合い。

 その緒戦として烈火は、唐突に現れた第四傀儡【真人】荒貝 一人と出会い戦い、敗れる。

 敗北を喫したことで、烈火は魔法の修得の必要性を思い、第七大陸へと向かう決意をする。














 玖来 烈火の朝は早い。

 というほどでもなく普通。食堂で朝食が出される時間帯に起きて、メシを食えればいい。

 食えば腹ごなしの習慣として身体を動かす。玖来流としての動きが染み付いた身体に、さらに何度でも刻み込むよう鍛錬する。

 玖来流の教えは身体の精密制御に始まり精密制御に終わる、それに尽きる。それだけに終始する。徹底的にそれのみをやり尽くす。

 初歩の修練は本当に体操みたいなもので、ある程度まで行くと武器を持った状態での身体操作を叩き込まれる。その武器が身体の一部と錯覚できるまでに刷り込まれる。

 烈火が知り、異世界に訪れてからも続けている鍛錬方法は幾つかある。普通にランニングとか柔軟運動なども勿論やるが、ちょっと特殊な玖来流鍛錬も幾つかこなす。たとえば「一定跳躍」。百回ほど垂直に跳躍を繰り返す。その跳躍の高さを完全に一定にし続けるというもの。そのひとつ上の鍛錬法「段階跳躍」。垂直跳躍を一回目には一センチだけ。二回目には二センチ、三回目は三センチと跳躍の高さを制御して繰り返すというもの。

 今日、烈火が行うのはさらにその上の鍛錬法である「不規則跳躍」というものだ。


「というわけで七ちゃんや、一から五十の間で数字を適当に言ってくれ。そのセンチぶんだけ跳ぶから」

「また意味わかんない鍛錬ですねぇ。そんなこと本当にできるんですか?」


 七は半信半疑になりながら、どこからともなく定規を取り出す。ちゃかり五十センチの定規である。

 それを烈火の足元に据えて、一瞬だけ考えてできるだけデタラメな数を告げる。


「では、三十四でお願いします」

「ん」


 なんの力みも躊躇いもなくひょいと跳ぶ。足先はそろえてあり、何センチ跳んだかわかりやすい――で。


「ぅわ、きもっ。本当に三十四センチぴったりじゃないですかっ。しかも定規に沿うよう綺麗に真っ直ぐ跳んでますし、正直若干ヒきました」

「はいはい、その反応は慣れてるぞ。いいから適当に数字を連続して言え。おれの足が地面に着いた瞬間にな」

「わっ、わかりました。十一! 四十一! 十八! 二十二……!」


 その後、数字を連呼し続けても、烈火の動作に乱れは皆無。数字通りに跳んで見せた。一センチ跳んだ時とか、やばい。二センチとの差が気持ち悪いレベルである。本当に機械のような正確さだ。

 なにこの生物、本当に人間なのか。人間でない七だが戦慄した。


「ふむ」


 しばらくすると烈火は止まる。跳躍をやめて、なんだか深呼吸を繰り返している。息を吸い、吐き、吸い、吐き、調息という奴か。

 そうこうして気合を入れて、また七に目線。言えということか。


「では、二十九」


 烈火はちょうどぴったり二十九センチ跳躍し、その跳躍の最中、『不在(アヴェイン)』を織り交ぜる。


「!」


 跳んでいる間の数瞬なら、地面に沈没したりしない。そして着地の頃には『不在(アヴェイン)』は解除される。ちゃんと足は沈まず地を踏む。干渉している。


「できたな。じゃ、ちょっとゆっくり数字を言ってくれ。これを繰り返して慣れるわ」

「はっ、はい。わかりました。でも、気をつけてくださいよ」

「おー」


 下手をすれば解除をミスり、地面を透過してしまいかねない。割と危険な訓練である。

 だが、この力を使いこなすには危険も呑みこまねば話にならない。まずは使用に慣れるため、スキルの短時間連続行使だ。

 鍛錬の繰り返しの重要性は生前から叩き込まれている。今できないことも、練習すれば大半できるようになるものだ。できないとしたら、そもそも不可能ごとか才能があからさまに欠如していたか、はたまた努力不足に過ぎない。

 そうだ、奇跡などに縋ってはいけない。そのための努力だ。奇跡がなくとも人は生きているし、成し遂げたりなんかもしている。

 魔法を学ぶには足りないものが多い。だから今出来ることを頑張る。

 人間の身体能力、身体駆動操作に限度などない。玖来流ではそう言い張っていて、流派の人間はそう信じている。鍛錬は無駄にならず、毎日続けてこそ意味がある。それはきっと、神様スキルも同様だから。


「四十四!」

「ふっ」


 神様スキルもなく圧倒的だった男を思い出し、今日も烈火は鍛錬に励むのであった。







 昼食の時間には鍛錬を切り上げて、再び食堂へ。

 食後は魔物狩りへ赴くのだが、今日はその前にギルドに用があった。そこの掲示板をちょいと覗き込む。どれどれ。


「……んん、残念。今日も受諾はなしか」

「まぁ、こればかりは気長に待ちましょう」


 一体なにをしているのか。

 実は今日より一週間ほど前、荒貝 一人に敗れた翌日に、依頼を掲示していた。金を払って仕事を頼む、いつもの討伐者の逆の立ち位置。

 どんな依頼を投げたというのか。

 それは荒貝 一人に敗れた日に問うたことがはじまりにある。第七大陸へ旅立とうと決心し、それで必要なものがあったのだ。

 烈火は七に問うた――どうしたら同業者に協力願えるんだ、と。





「おや。珍しいですね、単独行動ではなかったのですか? 私以外とはお話もしないヒキニートじゃないんですか?」

「どこが引きこもりだボケ! 金も稼いでるだろうがよ!」

「性根がってことですよ、玖来さん。殺し合いには消極的、人脈形成とかも放り投げ。自己鍛錬という名の引きこもりしかしてないじゃないですか。もうちょっと世界に目を向けたらどうですか」

「ニートを説得する母親みたいなこと言うな」


 なんで地球でも言われたことのないような言葉を、異世界くんだり来てまで言われなくちゃならんのだ。

 七の切れ味が復活している辺り、まあ撫でたりした甲斐はあったけれど。


「じゃなくて! ほら、第七大陸に行くんなら、道中ひとりはまずいだろ! 水の確保とか、メシとか。全部もって行けるか?」

「この世界、地球と比べると小さいので、移動時間も短く済みますよ。広いと遭遇が難しいですしね」

「あ、そうなんだ。安心だわぁ――なわけねぇだろ! 世界の単位で大小とか五十歩百歩だろっ。てか、だったらもっとひとつの大陸だけとか制限つけとけよ」

「それはたぶん後半戦でやりますかねぇ」

「マジかよ、やんのかよ……」


 なんでこうすぐに思いつく系統の奴をだいたいやろうとするんだよ。アイディアごった煮過ぎて破綻するぞ。

 神への突っ込みはどうせ考慮されやしないので、人間は黙して語らず。せめて神の子へと言葉を投げる。


「けど短いったって、一日二日でつくわけじゃねえだろ? 備えだけじゃな。水とかってそこらの川で確保したりするもんじゃないの? 川の水って、呑んで大丈夫なのか?」

「さあ? ためしてみます?」

「無理だろ! 身体の弱い現代っ子だぞ!」


 なんかこう、ろ過したり浄化したりしないと!


「クソひ弱いもやし小僧ですね」

「言い方、言い方! 美少女的言い方でお願いします!」

「もう、役立たずのゴミ虫ですねっ」

「なんで悪化してんだよ!」

「え、可愛らしく言ったじゃないですか」

「そっちか、声音のほう頑張ったのかっ!」


 そこは確かに可愛らしかったけどさ! 美声だったけどさ! 歌姫にでもなれば応援するけどさ! ついでにきょとんとする様もキュートで庇護欲を掻き立てるけどさ!

 そっちじゃない、烈火が言いたいのはそっちじゃないんだ!


「まあ、玖来さんの言いたいことはわかりました。一人旅は心もとないから頼れる人くださいってことですね」

「……おう。旅は道連れ世は情け――誰かベテランの人について行きたい。お供したい」

「ぅわ、男してどうなんですか、それ。ぶっちゃけ寄生虫野郎ですよね」

「うるせー、初心者はいつだって中級者辺りについていって教えを請いつつ生き抜くもんなんだよ。ひとりきりはもうやめだ。おれは別に怖がってなんかねぇ」


 シャットアウトしていたこの世界への干渉を、ここにやり直そうと。

 異邦人だけれど、だからこそ節度を持って教えを請い、この世界を学ぼうと。

 烈火は当初の方針を取りやめて、また別の道を選ぶのだ。

 玖来 烈火は荒貝 一人の馬鹿野郎の言うような、臆病者ではない。断じて違うと行動で証明してやる。


「……そうですか。わかりました。玖来さんと二人きりでなくなるのも寂しいですが、それなら仲間を募りましょうか」

「あ、でも最初はそんな大人数は困るな。恥ずかしいし」

「やっぱりヒキニートじゃないですか……」


 やれやれと額に手を当てる七ちゃん。呆れたり、見直したり、呆れたり、烈火の相手をしていると忙しい。

 システム画面な自分を思い出し、説明を。


「で、討伐者になにか仕事を依頼したいなら、そういうためのシステムはあります。討伐ギルドの受付、その横に大きなコルクボードっぽいのがあったと思います」

「コルクボードっぽいの……」

「まあ、突っ込みはなしでお願いします。

 そこに依頼を書いた紙を貼り付けておけば、討伐者の方が引き受けたりしてくれます。他にも得た情報を公開して共有したりするのにも使います。「一緒に一狩り行こうぜ」とか、「どこそこでAランクの魔物でたヤバイ、オレは帰る」とか、「誰かこの物資を隣町まで運んでくれ。開封厳禁。報酬応相談」とか」

「それで言えば誰かおれと第七大陸まで行ってくれ報酬応相談、って感じで書けばいいのか?」

「条件とかも書き込んで、自身の程度も書き込むべきでしょうね」


 ふむふむと、それから丸一日内容を考え、出来上がったのがこれ。



『拾ってください。

 第七大陸まで行きたいがひとりの身なので足踏みしています。誰か一人か二人同行をお願いしたいです。

 こちらの戦闘力はCランクを無傷で打倒できる程度のBランク討伐者。ただし旅の知識に不足しているのでできれば教授も同時にお願いします。報酬は応相談。受領してくれる人はこの紙に会える時間と場所を記載してくれるか、黒髪黒目のクライ・レッカに連絡をください』



 これをギルドのボードに貼り付けて早一週間なのだが、


「音沙汰なし。人気ねぇなぁ」

「まあ、野郎と二人旅とか嫌なんじゃないですか?」

「おれだって嫌だよ、背に腹だよ」


 実際は、烈火の変な独り言の奇行がギルド内で知れ渡っており、近づくのをやや恐れられているのが原因である。

 最初に出来上がった印象というのは、そう容易くは払拭されないのだ。

 そんなことに気付かず、烈火は食堂で昼食を頂く。この世界の食糧事情は結構飽食っぽくて助かる。餓死とか飢餓は縁遠い。神の采配だろうけど、ひもじいよりは百倍マシだ。

 今日の昼食はなんか知らない焼いた肉とサラダとパン。木製フォークをとっていただきます。ついでに七と念話会話を並行する。


「そういえば、なんで第七大陸にしたんですか? 第一大陸の首都でも距離は大差ありませんよ?」

(なんとなくだな。いや……いや違うな。荒貝 一人から逃げたかったの、かも)

「……そうですか」


 一言で七の顔色が落ち込む。

 なんでお前が軽度トラウマになってんだよ。なるならやられた烈火当人ではなかろうか。

 置いておいて、サラダを毟るようにひと齧り。


(あ、そうだ。それで思い出した、マントと帽子買おう)

「は? どうしたんですか玖来さん、中二病が再発しましたか」

(ちげぇよ。単純に黒髪と学生服を露出してると遠目でバレバレってのは証明されたし、旅するんならくるまって寝るのに便利だろ)

「じゃあ服買えばいいじゃないですか、あと寝袋」


 至極正論。

 だが正論だけで人間は生きていけない。精神的苦痛というものが介在するのである。


(荷物増やしたくないし服はこれで慣れてるからなぁ、重さとか動きの機微とか込みで。それにファンタジー服着る自分って想像したくないし。コスプレみたいじゃね?)

「今の玖来さんの格好のほうが、この世界ではコスプレみたいなものですよ」

(おれの主観が大事なの)


 踏ん反り返ってから、烈火は謎の生物の肉から骨をとっていく。なんか丁寧で丹念だ。

 うんよし。ある程度綺麗に骨がとれたと食べ始める。あと話流れで聞いてみる。


(それとさ、第七大陸ってどんなとこなんだ?)

「あぁ、そういえば大陸ごとの云々は説明していませんでしたねぇ。一通り説明しておきますか?」

(……あぁ、頭辛いが、がんばるよ)

「記憶が辛いですか? じゃあ紙に書きますよ。それを持ち歩いて必要な時に参照してください。ちょっと待ってください」

(え、紙に書いてるシーンがポルターガイスト的ホラー映像になっちゃわないか?)

「紙も神様仕様で完成するまで玖来さんにしか見えないようにしましょう」


 また要らんところで神様パワーを使いやがる。すごい勿体無い気がするのは気のせいか。

 で、ちょちょいと書かれ、実体化した紙を渡される。木製フォークを置いて見遣る。



『第一大陸ロート    

 亜人種の大陸、人間が住まう。

 最も大きい大陸で、精霊種や他の亜人種も少数住まう。危険度、低。


 第二大陸オーランジュ

 精霊種の大陸、エルフやドワーフ、ウンディーネにサラマンダが住まう。

 人間も少数住まう。二番目に広い大陸。危険度、低。


 第三大陸ケルフ   

 亜人種の大陸、獣人や小人が住まう。

 精霊種や人間も少数住まう。危険度、中。


 第四大陸グリュン  

 幻想種の大陸、魔族が住まう。

 戦争の果てにこの大陸を魔族のものとすることで現在休戦中。

 魔王城がある。二番目に狭い大陸。危険度、大。


 第五大陸ブラウ   

 幻想種の大陸、鬼族が住まう。

 魔族や精霊種も少数住まう。危険度、大。


 第六大陸インディゴ 

 幻想種の大陸、竜族が住まう。

 鬼族や精霊種も少数住まう。危険度、中。


 第七大陸リラ   

 中立の大陸、全ての種族が住まう。

 最も小さい大陸で六大陸のちょうど真ん中に存在し、ひとつの都市があるのみ。第一、第二、第三、第五、第六大陸と繋ぐ橋がある。危険度、低。



 備考:この世界に住まう種族。


 亜人種:人間、獣人、小人(ホビット)

 精霊種:風霊種(エルフ)地霊種(ドワーフ)水霊種(ウンディーネ)火霊種(サラマンダ)

 幻想種:鬼族、竜族、魔族』



 種族とかも気になるが、それは置いておく。食事中に真剣な説明をもらうのもまずくなる。今度いつか正式に説明を求めるとして、今は軽く。


(ん? グリュンに、リラって確か……)

「はい、四兄さんと私ですね。七大大陸というのは、神話にて私たち神子がそれぞれひとつずつ創ったとしていまして、そのまま自身の名をつけたとされているんですよ。ちなみに世界の名であるファルベリアは母さんの名ですね」

(じゃあ他の神子兄妹の名前もこの通りか、ふーん)


 とりあえずこの紙切れは大事に保管しよう。覚えるまで、何度か見ることになるだろうし。


(で、第七大陸は中立なのか。いろんな種族を一気に見られるっていうのは慣れるのに手間がいらんな)


 いきなりドラゴンとか鬼とか目撃することになったらショックでしばらく動けなくなりそうだ。先に慣れておけば、そういう隙も生じない。様々な種族が存在するなら、あらかじめ全てこの目で見ておきたいものだ。第七大陸は、それにはうってつけ。

 それに危険度が低ってのがまたいい。平和が一番である。


「いえ、そんなガチガチな戦術思考ではなく、もっとこう純粋に、はじめて見る幻想生物わくわく、みたいな感想はないんですか」

(ねぇよ。こちとら動物園で興奮する年齢じゃねぇんだよ)

「……地球上に存在しない生命を動物園で喩えるのもどうかと思います」

(見たことない動物も、異世界生物も、知らないって点では大差ねぇよ)


 おおっと、食事の手が止まっていた。再開だ。フォークを持って肉を――


「あなたがクライ・レッカだね」

「んん?」


 突然、声が降って来た。高めのソプラノ声だ。

 なにやら同じようなシチュエーションで思い起こされる不吉から目を逸らしつつ、烈火はフォークを再び置く。ゆっくり首を上げる。声の主に目線を合わせる。

 この世界において烈火が名を名乗ったのは数える程度。だから、その名を知るのはあの依頼書を見つけた討伐者だけだろう。それ以外の場合は――


「わたしはキッシュレア・ライロ、Aランク討伐者だよ。あなたの依頼、受けようと思うんだけど」


 あぁよかった敵じゃない。烈火は安堵とともに、だが驚愕した。

 って、女の子じゃん!










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