1 死んだら殺し合えって言われた
「死んだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアア!!」
玖来 烈火は絶叫した。
それはもう痛ましく悲痛悲惨な声音。なんとも熱烈にして熱狂的な情念。いっそ断末魔の如き終末間際の感情発露である。
これぞまさしくまさに魂の叫び。
声の色に喜色はなく悲鳴に近いが、絶望に染まったわけでもなく、ヤケッパチの捨て鉢、捨て身の大絶叫だろうか。
何故こんなにも彼は叫んでいるのだろう。悲しいのか、悔しいのか、嬉しくはないだろうが、まさか単なる衝動的な叫びの線もある。
違う、違う。全部違う。まるで違う。
彼は、なんと、
「死んだ! 死んだ! おれ死んだんですけど!」
そう、死んだ。玖来 烈火は死んだのだ。
激走するトラック。横断歩道を渡る烈火ともうひとり。衝突。事故死。さよなら!
いや、弁解しておこう。させてほしい。烈火ひとりならばかわせた。華麗に回避し吃驚ていどで終わった出来事。危ない冷や汗危機一髪と胸を撫で下ろしていただろう。
だがひとりじゃなかったのでさあ大変。隣の少女を押し退け自分のことを後回しにした結果、トラックに撥ねられ跳ね飛び地に沈む。人に構って自分を忘れた体たらく。回避は可能でも耐え切ることは不可能。烈火はあえなく息を引き取りおっ死んだ。
刹那で感じたのは後悔よりも物凄い衝撃。万言にて語りえぬ苦痛は全身をバラバラにされたかと思うほど、死ぬかと思うほど。死んだわけだが。
そんな痛みも死んだという事実に吹っ飛んで、烈火はぐちぐち愚痴る。ひとり喚く。
「畜生、人生呆気ねぇなァ、おい! 十八年とか短命過ぎだろっ! 高三事故死って諸行無常か、コノ! 盛者必衰にしちゃ盛ってねぇぞ! 独り身だ!」
というかここはどこだ。なんで死んでから目が覚める。烈火は死んだ。あのサイズと速度のトラックとじゃれ合って生きる人類はもはや人類ではない。そして烈火は紛うことなき人類だ。やはり死んだのだ。
では、まさか世に聞く噂の死後の世界? であれば天国か地獄か煉獄か、どれだ。
周りを見渡しても殺風景。なにもない。殺風景。真っ白白の空白地帯である。天国のような楽園には見えず、地獄のような苛烈さも見受けられない。じゃあ煉獄か、煉獄なのか。けれど煉獄がどういうところかちょっと知らない烈火である。
と、そこに。
死んだ矢先にいらん思考を回す烈火に、突然の不意打ち。無駄に元気溌剌、演劇的に大声炸裂。楽しげ少女の美声響く。
「はーい、そんな死んで悔し悲しいあなたに、今だけお得な取引です!」
「は?」
流石に吃驚仰天。烈火は反応遅れて相手にさらに言葉を許す。なんか言い出す。楽しそう。
「なな、なんと! 今だけ特別! あなたを生き返らせてあげます! かっこ、異世界にだけど、かっこ閉じ」
「マジで!? おれはなんてラッキーなんだ、やったー! 胡散臭ーい!」
「私のノリに付き合いたい建前と本音が上手い具合に混ざってますねー」
なんだか苦笑するのは愛らしく小さい少女であった。
可愛い。率直に言って物凄く可愛い。香りたつ花のような可憐さを醸し、子猫のような愛嬌で愛くるしさを訴えてくる。
月光のように真っ白で艶めいた肌、さらさらした長髪は紫銀に煌き美麗に流麗、紅に染まる瞳だけが強烈に輝いて燃えている。
纏う服は嫌に現代的。白いフードつきの丈長パーカー前全開で、下には星の描かれたシャツを着る。シャツも丈が長くて太ももを半分隠している。そのせいで下の衣装がわからない。まさか下を履いてないわけはないだろうから、ミニスカートかショートパンツだろうか。大人に憧れる子供というか、だらしない悪戯っ子というイメージのファッションである。
「って、なにじっくりジロジロ観察してるんですか、訴えますよ」
「あー、わり」
見蕩れてしまったことに他意はない。本当にマジで。
そうではなく、烈火は悟ったのだ。これは人じゃない。人間の美しさではない。人類の枠を絶している。だから割と怯えつつ、それ以上に警戒心を持って問いかける。
「お前、誰、何? えっとあれか、悪魔か天使とか? それとも神様……死神? 閻魔様!」
の割には服装が現代チックなんだが。厳か神秘という言葉から縁遠い外見なんだが。どちらかと言えば愛嬌、キュートという単語のほうが似合うだろう。
案の定と言うか、まさかと言うか、どちらでもあるが少女は否定。演じるように大仰な仕草で首を振る。人さし指二本で×(ぺけ)を作る。
「ぶっぶー、残念間違い全部ハズレです。私は私は、今をときめく美少女――『神様候補その七』です!」
「は? 神さま……候補? その七?」
神じゃなくって? その候補? 研修中って感じ?
「そうです、そうです」
「神様も世知辛いな。世代交代とかあんのかよ……」
「ありますねー。まあ今回がはじめてですけど」
「ふぅん」
神様とやらがいて、それの候補がこいつ。その七だから最低候補は七人――人? 柱? まあ置いといて――いるわけだ。
信じるかと考えて、死んだ身の上ではなにも言えない。死人に口なし。なんか違うか。なんでもいい。死んだのは事実で、だから死後に現れた美少女はただの人間ではないだろう。神様だろうが、神様候補だろうが、よしんば蜘蛛だろうが、生き返らせてくれるんなら誰でもいい。
烈火は特に信心深いタチではなし、死ぬのが嫌なだけの一般人だ。
「しかし神様なら、敬語で対応したほうがいいですかね?」
「あ、いえ。別にそういうのは求めてないです。ご自由に、気楽にどうぞ」
「それは気遣いどうも」
そのほうがスムーズに話が進むだろうし。烈火としてもやりやすい。というか服装からして敬語を使うのにちょっと違和感ある。なんでそんな服装なのだろうか、神様候補。
「で、えっと、その神様に成れてない、将棋で言うトコ桂馬みたいなお前が、なんだって?」
「また微妙なチョイスを……せめてわかりやすく歩兵とか、格好良く銀将と言ってくださいな」
「いや、お前捻くれてそうだから。将棋で一番捻くれた駒をあてただけだ」
「うっせーですよ。出会って一分のあなたになにがわかるんですかっ」
「説明する気がない杜撰さ加減とか。自分の利益がないと人助けもしなさそうな気質とか」
「…………」
微妙な顔して沈黙する少女。構わずずけずけ烈火は言葉を続ける。死んだ割に神様候補にお構いなしの図々しさは瑞々しい。生き生きしてる。
「で、おれを生き返らせるって、お前にどんなメリットがあんの? ただの慈善活動じゃないんでしょ、候補」
「割と頭が回りますね。あんだけ馬鹿みたいに喚いてた人と同じとは思えません」
「えっ、いや、死んだらそりゃどんな奴も喚くでしょ。叫ぶでしょ。だって死んだんだぜ?」
本気で不思議そうに首を傾げる烈火。自分の態度が模範的行動であると信じて疑わない者の目であった。
お前が模範の人類とか嫌過ぎる。少女は嘆息ひとつで切り替える。あまり無駄に駄弁っても駄目駄目だ。
「まあ、説明しますよ説明。私、杜撰じゃありませんから、丁寧で評判ですから。昔、母さんにも「七ちゃんはいい子だね」って言われてましたから」
「杜撰といい子は両立しうるだろうが、なんの否定にもなってねぇよ」
ていうか、七ちゃんて。名前ないのか?
「いえ、気に入ってるだけです。玖来さんも私のことを呼ぶなら七ちゃんでお願いします」
「おれの名前を勝手に呼んでおいて自分はリクエストとか、七ちゃんはいい子だねー」
「え、なんですか、いやですね。そんな、会ってすぐに男性のことを下の名前で烈火さんとか、ちょっと恥ずかしいです」
てれてれと顔を赤くする。身をくねらす。あざとい、七番あざとい失格。
「なんの試験ですかっ」
「おれを生き返らせる奴の選抜試験だ。候補に八番はいないの?」
「いません、私で最後です。そしてなによりあなたは受験生ですから。試験官は私ですから」
「ち」
まあ、それはそうなのだろうけど。
死んだ烈火にはできることなどなにもない。だって、死んでいるんだから。死者にないのは口だけじゃなく、だいたい全部失くしてる。今だって崖っぷちに手をかけているだけに過ぎない。転落は容易で、這い上がるのは……できるのだろうか。困難でもいいから可能であってほしいものだ。
七は脱線ばかりの説明を続ける。今度こそ脱線はすまいと丁寧に。
「で、ですね。あなたを生き返らせる、と言っても元いた場所ではなくて異世界です。ファンタジーです。剣と魔法の幻想世界です」
「はぁ」
「相槌がテキトーですね。もっと驚いたりしないんですか?」
「いやまあ、割と定番かなって。まあ、あんまりそれ系のマンガも小説も読んでないけど。伝え聞く話では、よくある奴じゃん」
意外性があるとすれば、ファンタジーへの案内人がだいぶ現代的服装でいることだろうか。もうちょっと、こう、ファンタジックな格好とか、なかったの? そんな駅前の服屋さんで奮発しちゃったみたいな服とか、雰囲気ぶっ壊してるぜ。先の展開を予感させる意図とかないのか。性格上厳かさないんだから、せめて外見でカバーしとけ。なんかこう、後光キラキラさせるとか。
烈火の微妙極まる視線を感じてないのか、無視しているのか、七はそのまま会話を続行する。服装批判の心の声など聞こえない。
「マジですか。じゃあ説明いりませんか」
「あんま読んでないって言っただろ、いるよ!」
「ちぇー」
こんな奴が神様候補……。いつか神になる可能性があるというのか。なんかもー、うわー、このまま死んだほうがマシなのではないだろうか。この世界を任せるに足る人材じゃないだろ、明らかに。
果てしなき絶望に嘆く烈火であるが、七はあっけらかん。人の嘆きなど些細で瑣末で散々聞いた。当然無視。
「じゃあ、説明続けますけど。
その世界で、とある六人をブチ倒して来てください」
「は?」
「六人をブッ殺して来てください」
「……おい」
「六人を血祭りに――」
「もういい、わかった、わかったから! どんどん言い方を悪くしないで!」
美少女の外見で、麗しい唇から、なんて言葉を乱発しやがる。
やめてください砕けた幻想が灰になって吹き抜けてしまいます。あぁ、美少女はおトイレ行かないんじゃなかったのか。ゲップもオナラもしない謎の進化を遂げた新種異能生命体の代名詞を指して美少女なのではなかったのか。
新種異能生命体もとい、神様候補その七はゲンナリと肩を落とした。
「というか既に幻想は砕けているんですね……」
「お前と会話して間もなくな」
「あー、突然、死人に鞭打ちたくなりましたー」
棒読みで言い、ぱちんと指を鳴らす七。
するとタライが落ちてくる。
「は?」
ひゅるるーと気の抜ける音が届いて見上げる烈火。顔面にタライがぶち当たる。烈火は倒れた。なんか物凄く痛い。
激痛の最中、烈火は絶え絶えの意識の中、最後の言葉をひとつ遺す。
「こっ、古典的過ぎるだろ……」
「いえ、その……寸劇いらないんで立ってもらえます?」
「いや痛いのはマジです」
とはいえ意識は途絶えないが。
七はえへへと可愛らしい悪戯っ子のように微笑する。てへ、みたいな。
「あれ、加減間違えちゃいましたかね。七ったらドジですね。ごめんなさーい」
「覚えてろよ、テメ」
烈火はそれだけ言って、全身に力を込める。苦痛を極力無視して立ち上がる。話はまだ終わっていない。
――足が震えている辺り、マジにダメージは大きかったらしい。
人間脆いな。七の内心には気付かず、烈火は言う。話の筋が読めてきたと。
「まあいい。ていうか今のでだいたいわかったぞ。つまりあれか、要するところこうだな、七人の神様候補がひとりずつ人間選抜して殺し合いさせて勝ったら神様イエーってか」
「おお、素晴らし! その通り、その通りですよ! 勿論、勝ち抜いたら元の世界に帰してさしあげます! 居残りたいならそれはそれでありですけど」
「じゃ、正解した玖来さんはハワイへご招待。要するに元の世界に帰してあげます」
はいここでファンファーレ!
――なんて、勿論そんな気のきいたサウンドエフェクトはなく、七の無情な一言だけがこの空白世界に響き渡る。
「それは無理です」
「…………」
「それは無理です」
「二度言うなっ! わかってたけど二度言うなっ! 畜生、じゃあ、おれのメリットは!?」
馬鹿を叫びつつも、烈火は抜け目なくそんなことを言う。欲張りにも要求する。
七としては意味不明。美貌を顰めて言い含める。
「はぁ? 生き返らせてあげますって言ってるじゃないですか、なに忘れてんですか、馬鹿なんですか」
「うるせーぞ、偽り美少女」
「いつわっ!? ななななに言ってるんですか、私こんなに美少女でしょうが!」
「ツラはな。性格がちょっと捩れてるぞ、矯正してから出直せ――いいか、それじゃ報酬が足りんだろ」
「足りない、ですか」
こてん、となんとも魅惑的に首を傾げやがる。くそ、可愛い。セコイ。交渉事に向いた外見しやがって。
烈火は萌える心を抑え込んで、できるだけ冷厳とした風情を保ってみせる。可愛いからって唯々諾々と頷くほどに緩くはない。
……いや、生き返らせていただくのは感謝感激雨霰なんだけども。土下座くらいなら軽く百回しても足りないくらいの恩義なんだけど。
けれどそれとこれは別。ここは退かない。つりあわない。
「足りん。生き返って、けど行き先は異世界で、そんで殺し合いに参加って? おいおい、まず間違いなくおれ二度目の死に直行じゃねーか」
「でも、玖来さんも武術できるじゃないですか」
「剣と魔法のファンタジーで腕っ節が強くてどーする。いや、役には立つだろうけど。でも、それは他の六人もなんらかあるんだろ? 「も」って言ったもんな、お前」
おや、耳聡い。七は少し楽しげに烈火の言い分を聞きうける。
「ていうか、剣と魔法の世界で暴力磨かない阿呆はいねぇだろ。だって剣と魔法の世界だぜ? もとから住まう奴らはだいたい強いと考えていい」
剣と魔法のファンタジー――言い換えれば戦い続ける「剣」士と逸脱の「魔法」使いがわんさか一杯いる「理不尽」な場所だろう?
そこに放り込まれる烈火は現代っ子の高校生、勝てると思うか? 思わない!
「ちょっと武術齧った一般人Aが日夜殺し合ってる専業軍人様と殴り合って勝てると思うかって話だよ! 大多数の意見はノーで、おれの意見もノーだ。人生二度目でハードモードは辛い」
「いやいや、一個だけチート能力さしあげますよ」
それも定番か。だがそれはそれで問題がある。巨大な問題の発生を意味する。
「あん? それじゃ余計駄目だろ。他の六人がヤベェ奴らってことじゃねーか。チート野郎にネチネチ狙われた挙句殺されるじゃねーか。お前、知ってるか、死ぬって相当痛いんだぞ」
「むぅ。経験者は語りますね」
「そりゃ語るわ。だから、なんか、寄越せ」
ハードモードにも飛び込みたくなるような景品を、死の恐怖を乗り越えられるほど魅力的な賞品を、ここに示して見せてくれ。馬の鼻先にニンジンをぶら下げておくれ。それがモチベーションになるのだから。
異世界なんてわけのわからん、かつ危険そうな異境魔境の果てに放り込まれる人間に、やる気と元気と勇気を与えてくれ。なぁ、神様なんだろう?
なんて、切実な烈火に七は醒めきった目線。なにせどんな高尚な主張であろうが、結果的にやっていることは――
「うわぁ、強盗かよ。こんな可愛い女の子にカツアゲとか恥ずかしくないのかな、この悪魔は」
「正当な報酬を求める契約相手だ」
というか丁寧語を外すのはやめろ、頼むから。本当にそれだけが最後の砦だから。外見と言葉遣いだけでせめてイメージをがんばって前向きにしているこっちの身にもなれ。
美少女幻想、未だ死なず。そろそろ死にそうではあるが。いや、瀕死であれ死んでいないならば生きているのだ。今、死の淵から生の希望を掴み取ろうとする玖来 玖来のように。
烈火のあまりと言えばあまりの態度に、予想外ながらも七は逆に脅しを仕掛ける。できるだけ強気に人を見下ろす。
「いっ、いいんですか、そんなこと言って。私は別にあなたじゃなくても――」
「嘘だな」
「へ?」
だが効かない。その返しは予測してある。
「チェンジありならもっと前から見限るだろ。それに、七人が無限にチェンジ有りじゃ時間がかかり過ぎる。いい目が出るまでサイコロ振ってちゃいつまで経ってもゲームが始められねぇ。出たトコ勝負の一発勝負、おれならそうする」
「うぅ、やっぱり変なところで頭が回るぅ」
確かにその通り。神様が選んだ数十名の中からひとりを選べ。変更はなし。そういうルールだった。
七はもはや烈火でゲームに参加するしかないのだ。その烈火が非協力的では困る。ゲームの性質上、神様候補と選抜された人間の連携は必須だ。というかここで断られでもしようものなら、七はゲームに参加すらできなくなる。七人の候補で、唯一参加すらできない不様を晒すことになる。
それは嫌だ、非常に嫌だ。仕方なくこちらから折れるしかない。今までの会話で、烈火を言い伏せるにも手間だと判断したから。七は結構面倒くさがりであった。
「じゃ、わかりました。あなたが最後のひとりにまで勝ち抜いて、私が神様になれたなら――神としてひとつだけ願いを叶えてあげましょう」
「勿論、元の世界に帰すというのは前提だよな。それが願いになるとか馬鹿な話はねぇよな」
「ありません! そこまで卑劣じゃないですよ!」
「ならよし!」
ニッと烈火は笑んで見せる。値引きが成功したような喜びである。まあ、命の値段を交渉したと言えなくもない。必死にもなる。
この笑みが消える前にとっととまとめて畳んでしまおう。七は急ぎ結論に走る。
「これでこれにて契約完了ってことでいいですか。協力して六人ぶっ殺しますか」
「言い方がアレだが……まあ、どうせやらなきゃ死ぬだけだ。チャンスがあるなら飛び込むさ。いいぞ、仕方ねぇやってやるぜ――おれがお前を神にしてやる」
「わ、カッコイイ惚れそう……」
「惚れてもいいぞ、ただし性格直してからな」
「冷めましたのでご安心を。ではでは異世界へと一名様ご案内! よい旅路と殺戮を!」
そうこうして、玖来 烈火は死した身から生き返る。
生き返った先は異世界だけど、上等だ。きっとまた元の世界へ帰ってみせる。
決意を最後に浮かべて、直後に烈火は強烈な光に包まれ意識を失った。
「……それにしても、本当に母さんの言う通りでしたね。なんて異常な順応力でしょうか」
この異常事態になんの疑念もなく。
この異常生命になんの躊躇もなく。
この異常発言になんの懊悩もなく。
全て受け入れて、そして頷いた。
「七人七様、どこか壊れた人間が選ばれる。そうでなければこんな馬鹿な話に本気で了承はしないでしょう」
本気本心で了承しなければ契約は結ばれない。彼女の母――現行の神はそういう仕組みを創っていた。そして、それを相手に告げてはいけないというルールも。
だから玖来 烈火はその場を誤魔化すためとか、流れに乗ったとかではなく、本気で本当に話を理解し受け入れたのだ。
なんらの疑念もなく、少しの躊躇もなく、なにかの懊悩もなく――受け入れた。
ああ、やはり。それはどこかが壊れてしまった人間だ。
「まあ、私には都合がよいので構わないですけど――さて、次は向こうの世界。異世界ファルベリア。玖来さんにはがんばってもらわないといけません。
――私が神に至るために」