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私の記憶  作者: あいら
3/4

襲撃

「…ぅん?」

何かの気配を感じ私は薄く瞼を開けた。周りはまだ皆寝ている。障子の外もまだ薄っすら明るくなり始めたばかり。

もう一眠りしようかと思った矢先、リンの言葉を思い出しまわりを瞬時に見渡す。

そこには誰も起きている者がいないのだ。見張り役が交代でいるはずなのになぜ皆寝ているのか。私はガバッと起き上がるとリンとショウジを探した。隅のほうで寝ている二人を見つけるのにそう時間はかからない。

「リン、ショウジッ!起きて、見張りの人がいない!」

私の言葉に二人ともガバッといっせいに起き上がる。二人とも私が言わんとしている事を察したのかアイコンタクトを交わすとすぐに周りの警戒へと体勢を変える。

眠っている人の確認と廊下や外への警戒とすぐに行動に移れる二人はやっぱりすごい。どんな死線を潜り抜けるとそんな能力が身に付くのか。記憶のない私には自分のスキルの把握も出来ていないので無理だろう。

たった数分で二人は状況の把握が終わったらしい。邪魔にならないように隅へと移動していた私のところに合流してきた。

「転がってるのは眠ってるだけのようだね。見張りの予定の子も寝てた。もう一人は姿が見えないけど…。」

そう言いながらショウジに視線を送るとショウジは首を横に振った。外には警戒するような気配はなかったらしい。ならば、どこに行ったのだろうか。

リンに起こされた人達が何事かと起き出した頃に、襖がすっと開いた。

私たち三人は瞬時に開いた襖を凝視する。リンとショウジは次にくることに備えてか身構えている。私もいつでも逃げれるように体制をとった。

しかし、顔を出したのは見知った黒髪のショートの女の子だ。何の悪びれもなくひょっこり顔を出したかと思うとそのままいつもの定位置に歩いていく。

「ちょっと!何で持ち場を離れた…」

リンが女の子に詰め寄ろうと声をかけていると、開いた襖から見たことのない男が入ってきた。

映画俳優顔負けの整った顔に、スラリとした体躯。柔和な表情はこちらの警戒心を解きほぐすのに時間はかからないだろう。現に、あの女の子は連れ立って来てしまった。

「…。」

私は一目見て何故か本能的に“違う”と思った。リンに奴等の特徴を聞いたせいかもしれないが、そのカンは確信に近かった。

まずい、逃げなくては。

瞬時にそう結論付けた私はリンに視線を送る。リンはすぐに理解した様で一度頷くとショウジに合図を送った。すぐにショウジから廊下より隣に逃げる裁断が伝えられる。異論はなく、私も頷き返した。

他の皆は突如現れたイケメンに色めき立っている為、危険を促している暇はない。その間にも此処はすぐに戦場へと変わるだろう。誰しも自分の身は可愛いものである。私も例に漏れず。誰かを助ける事よりも自分が助かる道を選ぶ。

リンと、ショウジ、その他状況に気が付いた数人と部屋を抜ける為隣の部屋へ続く襖まで移動して行く。目立たない様に移動しようとすると少しずつしか動けず気持ちばかりが焦る。

やっと隣の襖にたどり着いた頃には手に大量の汗をかいていた。それをズボンで拭いながら隣の部屋へと移った。襖を閉める瞬間、あのイケメンが一緒に入ってきたショートの女の子に牙をむいて喰らいつく場面が見えた。

そこからは阿鼻叫喚の地獄絵図だ。泣き叫び、わめき叫び、逃げ惑う。廊下に逃げ込んだ人も廊下で待ち受けていた奴等の餌食になったのだろう。叫び声がやむことはなかった。

結局、私、リン、ショウジ、の他には三人しか逃げられなかった。

「…こっち。」

自分たちもいつまでも此処にいるわけにも行かず、リンに促され反対の壁まで移動する。その壁に掛けられた大きな掛け軸を払うと、隠し扉が現れた。

「これって…。」

私と他の三人も驚いてリンを見ていた。この展開に驚いていないのはリンと、ショウジのみ。つまり、この二人はこの抜け穴を知っていたのだろう。

「こんな抜け道があるなんて聞いてなかったけど。」

嫌味のつもりではなかったけど、新参者の私はともかく他の三人も知らないのはどうかと思った。

「私らも最近見つけたんだ。こんなにすぐに使うとは思っていなかったけどね。」

隠し扉から出てた先は非常階段のようなものだった。屋外に出てしまうことに躊躇しなかったわけではないが、どうせ室内ももう安全とはいえない環境なら同じことだ。

ショウジを先頭に移動していく。幸い奴等に見つかることはなく難なく目的地“1階の食堂”にたどり着いた。

移動しながら次の目的地への話し合いをした結果ここを出るという結論に至った。しかし、今後の移動距離や時間もわからない上手ぶらで移動しては心もとない。最低限の食料確保の為食堂に立ち寄ったのだ。

「いい?まずは何か食料をいれられる物を探すんだ。音がするような物は駄目。できれば背負える物とかの方が移動しやすいが贅沢は言わない。そんな時間もないしね。私と、ショウジで食料を探す。いいね?」

食堂の方を警戒するショウジの後ろでリン、私、他の三人が壁伝いに一列で並んでいる。

食堂は建物の一番奥なので正面からはこの辺りは見えないだろう。裏手は今は木々が茂っているが以前はきれいな庭園だったに違いない。見晴らしのいい場所ではないので見つかりにくいとは思う。屋上から覗いていればアウトだが。

リンの提案にそれぞれが自分の役割を理解し頷く。食堂ならば食べ物は簡単に見つかるだろう。

なぜなら、奴等の食事は“人間”であってパンやハムと言った私たち人間が食べる食物を口にすることはないからだ。だから、荒らされたりなくなったりすることはない。この食堂も壁が破壊されていて風通しがよくなっている他は荒らされた形跡はないとの事。

しかし、それを入れる物となるとビニールや紙袋以外で見つけるのは難しいかもしれない。それでこの割りふりになった事を私たちは少なからず理解できていたので誰も文句を言わなかった。

ショウジからのゴーサインを受け取りリンが小さな声で合図をする。

「じゃぁ、いくよ!」

それからのみんなの行動は早かった。それぞれが与えられたことを無駄なく卒なくこなして行く。

袋を見つけるのは意外と早かった。大量に芋が入った麻袋があったからだ。仕入れ時にでも使っていたのだろう。あいにくそれ以外の物はなかったが贅沢は言ってられない。

その袋から芋を出すのを三人に頼んで私はリンとショウジに袋があったことと大きさを伝えに行く。大きさによって詰められる食物の量を決められると思ったからだ。

「リン、ショウジ!袋見つけた!麻の袋だけど頑丈だし大きいから結構入ると思う。」

正確な形状と大きさを口頭で伝えていく。

「ありがとう。それなら、もう少し増やせるな。」

リンはショウジとアイコンタクトをしてまたそれぞれの持ち場に歩いていった。

私も芋出しを手伝おうと他の三人がいる所へと戻ろうと歩き出した。

そのとき、

「きゃぁぁあぁーーーっ!!!」

大きな悲鳴が食堂に響き渡った。

声は三人の方からでその声だけでその場がどんな状況下が理解できてしまった。そう、見つかってしまったのだ、奴等に。

私は見つからないようにそっと影から奥を覗いた。まだ助けられる人がいるかも。しかし、そんな希望はすぐに打ち消される。

「ショウジ!」

リンの大声で振り返ると今度は破壊された壁から奴等が入ってくるのが見えた。挟み撃ちだ。

「そ、そんな…。」

もうこの場に逃げ道などなかった。

私はとっさに近くに治してあった包丁を両手に取った。一本は後ろに挿して予備だ。

記憶がない為こんなものを振り回したことがあるかは定かではないが。武器を握ったことで恐怖心はいくらか和らいだように思えた。どれだけ奴等の方が強くても一子報いる。そんな気にさえなっていた。


まずは、一番近くにいた奴の背後に回る。足元に倒れているのがわかったがそれは見ないようにした。食事に夢中なのか案外簡単だった。

武器を持った私は何故か訓練された兵士のように足音も立てずに背後に回り迷いなく一点だけを見つめて両手で握った包丁を振り下ろした。

丁度頭と首の付け根を一刺しし、グリッと捻る。ギュアッと小さく悲鳴を上げた後そいつは倒れた。痙攣した後は動かなくなったので絶命したのだろう。

なぜ自分は奴らの急所を知っているかはもはやどうでもよかった。食い散らかされたメンバーの遺体を尻目に他の者達の所に向かう。

先ほどと同様すぐにもう一体見つけたが、こちらも食事中だった為難なく始末できた。メンバーは助けられなかったが致し方ない。

残りのもう一人はどこかと見回すと、隅の方でカタカタと震えていた。

無理もない。奴らが二体しかおらずたまたま助かったが仲間が食われる所を目の前で見た経験は人間の精神を破壊するには十分だからだ。

「立てる?」

私は彼に手を差し伸べた。血の付いた私の手に最初はギョッとしたが、顔を見て安堵からか涙を流しながら手を握り返してきた。

「お、おれ…何も、出来なくて…」

恐怖心から震えはとまらず鼻水と涙を拭きながら救えなかったメンバーへの謝罪を口にする。

「…付いてきて。」

それに対して私は何も言えなかった。まだ、終わったわけではないから。

彼をつれてリン達の下へと足を進める。二人は交戦中らしく刃物の擦れる音が響いてくる。

「ここにいて。」

彼は付いて来たそうだったが足手まといだったので隠れていてもらうことにした。死角になる所に彼を残し私は二人の元に急いだ。

要領はさっき一緒だ。正面からでは太刀打ちできない為隙を狙う他ない。しかし、食事中でもない限り奴等の隙をつくなど成功するとは思えないが。

まず、リンが相手している奴の背後に回る。食堂なだけあって障害物が多く身を隠すのは容易い。

奴は圧倒的な力を持っているにもかかわらず抵抗するリンが楽しいのだろうか、まるで遊んでいるかのように徐々に痛めつけていた。

徐々に傷を増やしていくリンを見ながら機を伺う。すると、奴は飽きたのか腹が減ったのか我慢が出来ずにリンに攻撃を仕掛けた。

(いまだ!)

私はすばやく出ると一挙に間合いを詰めて腕を振り上げる。目指すは一点。浅い傷では次にやられるのは自分だからだ。

私が出て来た事をとっさに理解したリンは注意を自分に向ける為無謀にも襲い掛かった。リンの強硬姿勢に注意を一瞬引かれたがやはり気付かれたようだ。奴は振り向きざま私に攻撃を仕掛けてくる。鋭く尖った爪で容赦なく引き裂こうとした。

しかし、一瞬の遅れは命取り。私は刺さった包丁を力任せに横に引き裂いた。一拍遅れた奴の攻撃は私の腕を軽く裂いただけで致命傷には至らなかった。

「リン!大丈夫?!」

奴が床で痙攣を起こしているのを確認しリンに駆け寄る。

左腕の傷が深そうだが、そのほかの傷はそれほど深くなく、全体的に致命傷はないようだった。放置すると出欠死の可能性もあるので時間はあまりないかもしれないが。

「ぅ…だ、大丈夫だ、とりあえず。左腕はもう使えないな。助けてくれてありがとう。」

左腕を動かす度に痛みに顔を顰めるが本人が大丈夫と言うなら何も言わないでおこう。私は無言で頷くと、自分の袖を力任せに引っ張って破くとそれをリンの左腕の傷の上に巻いた。

「止血しておかないと。」

ぎゅっと結んだ時に呻き声を上げていたが気にせずきつく縛る。

「ありがとう。こっちからは二体来たんだ。ショウジがまだ戦っているはずだ。」

もっていた包丁を握りなおしリンは立ち上がろうとする。私はそれを手で制して付いてくるように手で合図する。

ショウジは粘っていたが傍から見ても押されていた。しかし、リンの時同様ショウジも奴に遊ばれているようだった。奴らは獲物はなぶり殺しをするのが趣味らしい。あの似非ら笑いを浮かべていると思うとぞっとする。

リンをその場に残し私は反対に回る。止めを刺すのは私の役目で、リンは劣り役だ。弱点は教えたが二番手では狙うことは出来ないだろう。

劣り役を買って出たリンは本当に肝が据わっている。何とかこの状況を脱却すべく私とリンは頷きあった。私が合図した所でリンが飛び出す。

「ショウジから離れな!」

堂々と奴を見据えるリンの顔には奴らへの恐怖心は見えなかった。

「なっ、リン!何してんだ!逃げろッ!!」

突然現れたリンにショウジは驚きつつも逃げない事への怒りと、まだ生きている事への安堵感が一斉に顔に出てしまいひどい表情をしている。

「一人でどこに逃げるんだ。来い、私が相手だ!」

震えることもなく奴に包丁を突き出して威嚇するも、奴は気にも留めないように横目でリンを見ると目の前のショウジに視線を戻す。

「興が削がれたな。遊びはここまでだ。まずはお前から食ってやろう。女お前は後だ。」

高い女性的な声でそう言いながら、ショウジの腹を目掛けて腕を振り上げる。

奴がショウジを殺すことに集中するその一瞬の隙を付いて私は物陰から飛び出し背後から腕を振り上げて体重を乗せたまま振り下ろした。

が、思ったより深く刺さらなかったようで私に気付いた奴が振り返った拍子に振り落とされてしまった。

(しまった!)

失敗した!そう思った直後振り向いた奴の背後にはショウジがいて、刺さったままの私の包丁を握り体重を掛けて下に切り裂いた。

私を見つめたまま床に倒れていく奴の目には何の感情も写してはいなかった。床に倒れた後は他の奴同様痙攣を起こし死んだ。

「ショウジ!」

リンは床にしゃがみこむショウジの下へと駆け寄る。奴の最後の攻撃をショウジもとっさに武器で庇った様だが防ぎきれず、腹からは出血し、服をどんどん染めていく。

「止血しないと!」

リンは自分の上着を破り止血に使うがすぐに血で染まってしまう。その上、大柄なショウジの腹囲を巻くだけの物が此処にはなかった。

「リ、ン。もういい。俺を置いて、二人で逃げるんだ。」

自分の状況は自分が一番わかっていると言いたげな視線で私に投げかけてくる。リンを連れて逃げろと。

「そんなこと出来る訳ないだろう!」

そうリンがショウジに向かって怒鳴っていると、

「うわぁぁぁあぁぁーく、くるなぁぁぁー!!!」

奥から絶叫が聞こえてきた。どうやら奴らは逃がす気はないらしい。

生き残りがいたことに驚いてもいるようだが、それよりも二人とも絶望の色の方が強かった。何せ満足に戦えるのは私一人だからだ。

「…見てくる。」

私だって何回もあんな作戦とも言えない様な物がまた成功するとは思っていない。きっと一陣より二陣の方が奴等も多いだろう。どうにか逃げ出せないかと奥の様子を見に行った。が、目の前の光景に私は再び絶望するしかなかった。

さっき助けた“彼”は数人の“食事”に変わっていた。それもサイコムービー真っ青なほど散らばっていた。その場で吐かなかった自分を褒めたい。もうどこにも勝機なんぞ見えなかった。

きびすを返したところで、

「みぃーっけた。」

とこの場には不似合いなほど愛らしい声で私の背後に奴は立っていた。

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