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断りのキメラ   作者: 和銅修一
9/26

物の怪

 一通り歩いて最終的にたどり着いたのは俺たちの学校だった。ここに来るまで篝火は不機嫌そうに歩いていた。

「もう見回りは十分じゃない? 早く帰りましょう」

 ここ、キメラファームには何処にでもキメラがいるというわけではない。何かの規則性があると葉狩は言っていたがその詳細は分からないらしく、こうやってシラ目潰しに探して行くしかないのが現状だ。

「いや、学校の中を調べから帰ろう。少し気になることがあってな」

 しかし、それは何も起こっていないような時であって大まかな居場所が分かる時だってある。

 鶴ヶ谷が巻き込まれた犬猫戦争事件もそうだ。犬と猫が集まる場所に奴はいた。つまり大きなキメラは加々良たちの世界にも影響をもたらす。

「何故? まさか勘とか言わないでしょうね。私はそういった根拠のないものは嫌いなのだけれども」

 どうやらまだ何かを根に持っているらしい。まるで親の買い物に付き合わされている子供のような目をしている。

「実は話してないがキメラを見つけるには二つ方法があるんだ。今日みたいに歩き回る。それともう一つは俺たちの世界で起こっている事と照らし合わせることだ」

「成る程、キメラは私たちの世界と関係があるのね。まあ、そうでもなければ無視すればいいだけの話なんだけどそう単純な事ではないようね」

「そうだ。理屈は分からんが大きなキメラが現れると必ず事件が起こる。しかも奇妙な事件ばかりだ。お陰でいつキメラが出たかは分かり易いが警察からしたらたまったもんじゃないだろうな」

「なら、今後はニュース番組を見るようしなきゃいけないわね。でも学校で事件なんて起こったかしら?」

「知らないのか? 一週間ぐらい前のことだぞ。それに結構大騒ぎになったんだが」

 あれは本当に騒がしくなった。全校生徒が知っているはずなのだが……。

「? あ〜、それなら私が知らないはずね。だって一週間前といったらお爺さんのお葬式でいなかったもの」

 あれそうだったけ?でも一週間前なんてまだ俺と篝火が知り合う前だし手鏡の事もそれから気になった事だから休みだったと気づかなかったのも無理もないといえば無理もない。

 友達でも知り合いでもない人が休みでも気にも留めない。だから忘れていたんだ。あの日、あの時に篝火がいなかったことに。

「そうか、なら仕方ない。教えてやるよ一週間前のことを」

 自慢することではないが、篝火が知らないことを俺は知っている。俺はちょっと誇らしげになって少し上から目線で話を始めた。

「生意気よ。いいから簡潔に重要な事だけを言いなさい」

 あ〜、ヤバイよ。目かマジだよ。でもさ、俺は男な訳でこんな事で何を曲げるほど弱くはないんですよ。やっぱり男には一本の芯があってそれは何事にも代え難いものであって

「いいから言いなさい」

 あたふたしていると鬼の形相で睨んできた。

「は、はい……」

 芯は折れた。それはもうポッキリと。

 もうプライドとかどうでも良くなってきた。自分のキャラもどうで良くなってきた。

「一週間前にここから少し行ったところにある動物園から動物が逃げたしたんだよ。それも三匹も。それでその中の一匹であるタヌキが学校の中庭に迷い込んできたんだよ。それを見かけた教頭先生がすぐに警察に連絡して捕まえられたんだけど凄い騒ぎだったぜ。授業は自習になったから俺的には良かったけどな」

 先生達はてんやわんやだったと噂があちこちに流れているほとだ。生徒だけでなくここに住んでいる人なら誰かから嫌でも聞くことになると思っていたのだが篝火は違うらしい。

 何故かはまあ、大体想像がつく。

「タヌキ……、それだけ?あまり大した事件には思えないのだけれども」

「言ったろ。三匹だって。学校の騒動はすぐに収まったが他の二匹が街を騒がしてたんだよ。猿と虎がな」

 動物園に必ずいるであろうこの二匹はやりたい放題だったらしい。

 らしいというのは流石に虎が街にいると危険なので家から出ないように広報から忠告されたからだ。しかし、俺は冷静に明日の放課後の委員長の授業に備えて数学の予習をしておいた。

 だがそんな騒ぎも警察か何かの活躍のお陰で一時間程度で収まったことは記憶に新しい。

「そう、猿を捕まえるのは大変だったでしょうね。虎はあまり走らないでしょうけど、あれは木の上なんか登ったりしてすばしっこいものね。ご苦労様と伝えておいて」

「お前は一体何者だ。上から目線過ぎるだろ」

「黒幕よ。知らなかったの?」

「お前だったのか⁉︎ って随分と大きく出たな。この世界の事も知らなかったのに」

「残念ながらその時黒幕は街から出ていたのよ。お爺さんはもっと遠くに住んでたから」

 つまり葬式はそのもっと遠くの所で行われていたからこの街で起こったことを知らない訳か。

「それを先に言えよ黒幕さん」

 ようやく篝火がこの事件を全く知らない理由が理解出来た。まずその時この街にいなかった。それと、篝火にはその情報を提供する人物がいなかった。誰とも喋ていなかったのだからそれは仕方ない。

 光の戦士でも一人で全ての国を守る事が不可能なのと同じだ。

「加々良くん。失礼な事考えないかしら? 例えば、そうか友達いないからそんな事も知らないのか〜、という感じの事を」

 ギクリ!

 勘の鋭い女だ。そのストレートヘアーの中になんちゃらアンテナがあるんじゃないのか?

「そ、そんな事ないぞ篝火。でも分かっただろ。つまりここは事件と関係している。猿と虎は街中を動き回ってるから絞り込みにくいけどタヌキはここで捕まったし、先生達が追いかけ続けてからずっと学校の敷地内にはいたんだ」

 つまりら虎や猿より印象の低いタヌキだが場と関係が一番深いのはこの生き物しかいないということだ。

「成る程、加々良くんはイチゴは最後に残しておくタイプなのね」

「は?」

 一瞬何が言いたいのかサッパリだったがつまり、「貴方は楽しみを最後にとっておく人なのね」と皮肉っぽく、あざ笑っただけだ。

「でもここに長くいたからといってこっちにいる保証はないんじゃないのかしら?」

「いや、それが結構関係あるんだよ。よく推理ものであるだろ。犯人は現場に帰ってくるってやつ」

 あれ、戻るだったけ?まあ、どっちでもいい。

「それも根拠はないわよ。それにあれは証拠隠滅する為に来るのであって場所を懐かしんで来るものじゃないのよ」

 それぐらいは知ってる。ドラマとかで姉が見ている隣で眺めているし、常識だ。

「怪物が証拠隠滅するかよ。ましてや懐かしむなんてのはもっとない」

 篝火の口から俺を賞賛する言葉が出てくるくらいない。

「まあ、言い返してくるなんて生意気ね。それに最近の加々良くんは冷たいわ。初めはあんなに純粋な下僕だったのに」

「純粋で止めることは出来なかったのか?俺はお前の下僕になったつもりはない」

「あら、なら誰の下僕かしらんもしかして実の姉とか?」

「何で俺に姉貴がいることを知ってるんだよお前は」

 つぐつぐ隙のない女だ。俺にプライバシーの権利はないのか。

「鶴ヶ谷さんから聞いたのよ。あの人はすぐに教えてくれるから役に立ってるわ」

 そういえば勉強を教えてもらっている最中に言ったかもしれない。と、なると鶴ヶ谷に流れた情報は自然と篝火に流れているということになる。

 何処まで話したかは自分自身でも覚えてはいないが油断してそれなりの事は言ってるかもしれない。

「はぁ……。お前は何様だよ」

「黒幕様よ!」

 胸を張って、高らかに主張するその姿は逆にカッコいいとさえ思えた。




「ここには久しぶりに来るわね」

「なんだ、篝火は中庭に来ないのか?」

 一通りいつとのやり取りを終わらせて一目散に探すことにしたのはタヌキが現れた中庭だ。

 ここが一番現れる確率が高い。

 そしてここで一番目立つのは木だ。同じ大きさの木が同じ間隔で空いている。それは一本の筋のようで、上から見るとその筋は二本あり、筋の真ん中には一回り大きな木かまありそれはレンガに囲まれている。

 隠れる場所はいくらでもある。

「そうね。お昼は教室で食べるし、休み時間は図書館に行ってたりするからこんな所に来たりはしないわね」

 お昼休みにはここで弁当を食べる人がそれなりにいるのだが、どうやらそんな事はしないらしい。

 まあ、俺もそうなのだが。

「でも文句は言うなよ。見つけるのは早めに越したことないんだからな」

 篝火の時だってそうだ。もう少し遅れていれば完全にキメラ化していた。

 時間は待ってくれないというやつで、ガンに似ている。早期発見が大事になってくる。

「ならもう少し奥に行ってみましょうか。そこに何もいなかったらすぐに帰ることにしましょう、そうしましょう」

「分かってるよ。ここにいなかったらどうせ他の所にもいないだろしな」

 今日本来の目的は篝火が武器を出せるようにすることだったが予想よりも少し……というか遥かに早く終わったので後で一人でやろうとしていた見回りを二人ですることになったのだが、それが油断を産んだ。

 油断があったからこそ渡り廊下を横切った後でアレの存在にやっと気づいた。

 毛が逆立ってトサカのようになっている猿の顔、可愛らしさの欠片もない大木のような虎の手足、尾にはそれらの大きさに比例して日本には絶対いないであろうとほどの太い蛇。そして胴体は赤と黒が混雑した何かで埋め尽くされた生き物。

 顔はあちら側を向いていたが尾である蛇はしっかりと加々良達を目で捉えていた。

「しまっ‼︎」

 距離は五メートルしかない。木や渡り廊下にある柱などが邪魔をしてこんなに近くになるまで気づけなかった。

 咄嗟に後ろに飛んだが勢い余って篝火を巻き込んで尻もちをつく形となり、怪物の方は虎の手足で距離をひとっ飛びで埋め、グルリと首をこちらに向けて殆ど距離のない状況で対面することとなった。

 最早これまで。

 目を閉じ、全てを委ねたが足音は徐々に小さくなり最後には気配すら消えていた。

「あれ?」

 何がどうなっているか確かめる為に目を開けるとそこには怪物の代わりに公園で会った友人。簗場 優が妙なグローブを手にはめてそれで耳を塞ぐ姿があった。

「事情は良く分からないけど助けに来たよ。加々良くん」

 公園で会ったような張り詰めた顔ではなく、いつもの優しくて見るだけで何故か心が安らぐような笑顔がそこにはあった。

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