篝火の憤懣
「お〜、まさかお嬢さんを連れてくるとは意外とプレイボーイなんだね翔くん」
お気に入りのソファに鎮座して一服しようとしていた葉狩だったが、驚きのあまり人差し指と中指にあった煙草を床に落としてしまった。煙草を口に咥える前だったので洋式というか何処かの民族が使ってそうなカーペット(これだけはは葉狩の持参)には火はつかずに済んだ。
「プレイボーイの意味知ってて行ってんのかそれ」
どう間違っても俺みたいな彼女いない歴=年齢という悲しい性の人に使うもんじゃあない。これだけは断言しよう。
「そう怒らないでよ。でも実際凄いと思うよ。あのお嬢さんを仲間にしちゃうなんてね。僕だったら一蹴だよ。強気な女の子は苦手だし、何より女子高生ていうのがね。同い年の翔くんなら問題ないけど僕みたいなオッさんだったら話しかけるだけで嫌な目されるからね〜」
「大丈夫。私も貴方みたいなニートなオジサンには興味ないから、寧ろいない者として扱っているから気にしないで頂戴」
何故か篝火は叔父さんを毛嫌いしている。
確かにふざけた人ではあるがやる時はやる人だ。それに一線は超えない、そして超えさせない。
プライベート的な話はしないし、させようともしない。人畜無害というより、篝火の言う通りいない者に近い。
しかし、二人は似ているから意外と仲良くなるんじゃないかと俺は期待していた。
お喋りな二人だし、俺をからかう時は息ピッタリだった。
正直、篝火に仲良くだとかは期待なんかしてなかったが仲間になるのだからお互いを信じなくてはいけない。なのにそれどころかこの険悪な感じ。
俺が予想してたのと違う。最初は敬語使ってたじゃないか。しかも借りた猫みたいに大人しくしてだ(俺をからかう時以外は)。
「お、おい……。一応仲間なんだから仲良くしようぜ」
「分かったわ。加々良くんが言うなら表面上は仲良くするわよ。表面上はね」
なんて嫌味な奴だ。頭の固い人だったらすぐに怒るであろうが、葉狩は痛くも痒くもない。
「いーよそれで。翔くんが仲良くしろって言ったから仲良くしてくれるなんて面白くないからね。僕が僕の力で君と仲良なるさ」
「ご自由などうぞ。私は貴方みたいな人には心は開かないからそのつもりでね。まあ、加々良くんは特別ね。もう私的には心を開いているつもりでいるもの」
え⁉︎ あれで?
何とも信じ難いのだがそうでなければ夢の事をああもアッサリと教えてはくれなかっただろう。つまり少しは、蟻が入れるくらいには心が開いているかもしれない。
「なんか篝火からそういう台詞聞くと新鮮だな」
「あら、いつも私は新鮮でシャッキシャッキよ」
そんな野菜みたいに言われても困る。
「ちょっとちょっと、いちゃつくのは後にして何で今日集まったか説明するよお二人さん」
別にいちゃついてた訳ではないのだが俺たちはそよ横槍であの世界へと出発することにした。
「いつ来ても慣れないわねここは」
「まだ二回目だからな。徐々に慣らしてけばいいさ」
今回、キメラファームに来たのは他でもない、篝火の為だ。
彼女はこの世界について、キメラについて、何もかもに置いて知らなさ過ぎる。成績上位者だとかは関係ない。
未知の場所を未知で終わらせていたらそれをつかれて死ぬのがオチだ。だから今回はこの世界についての説明をする予定なのだが物知り博士こと葉狩はついては来ない。
理由は単純で、「動きた行くないから、それにお嬢さんは翔くんから説明してもらった方が信じてくれるんじゃないかな。最初もそうだったんだからさ」と面倒くさいらしい。
まあ、あの人はここに来るのを拒んでいるといて逆に来るのが珍しいくらいなので最初から自分一人でやるつもりだったからそれでいい。
「さて、来たはいいものの一体何をするの?」
「いつも通りに危険なキメラとかいないか見回りだよ。まあ、それより先に篝火が門を使いこなせるようにしたいな」
俺にとっては眼鏡、篝火にとっては手鏡である門だが形は様々でこの世界にとってこれは手放せないものだ。
これがなければ戦えないし、元の世界には帰れない。いわば命綱。
そしてキメラに対抗できる唯一の武器でもある。
「眼鏡を刀に変えるってゆう芸当は私には出来ないわよ。原理も分からないのに」
キメラが存在している時点で原理とかそういった常識はもはや無いに等しいが、篝火はこのキメラファームに来てまだ間もない。
実際にキメラに会ったもの一度だけだ。それも小さなキメラだけ。それは常識が吹っ飛ぶほどの衝撃ではなかった。
しかし、加々良は違った。この二ヶ月でいろんなキメラと遭遇し、幾つもの修羅場をくぐり抜けて遂には一般人が持っている一般常識とかけ離れてしまい、物理法則とかはどうでもよくなっていた。
いや、その前からキャラの濃い奴に囲まれて常識は失われていたかもしれないが、ほれでも普通の人としての常識はやはり無くしなってしまった。
「簡単だ。ここに来た時と同じようにイメージすればいいんだよ。武器の形は勝手に決まる。強い意志をお前の門にぶつければいいだけだ」
「……分かったわ。やっみるけど加々良くんはどれくらいで出来るようになったのかしら?」
「え? 俺は三回目くらいだったと思うけど」
門を開くのに相当苦労したがこれはそれよりも簡単に出来た。
原理が門を開く時と似ているのでその時のコツを思い出してやったら出来た。
「そう、なら私が一回で成功させてみせて貴方がいかに無能なのかを証明させてあげるわ」
いちいち腹立つがこいつは一発で門を開いてみせた女だ。どうやってかは知らないが俺よりは才能があるのは百も承知なのだがやはり腹立つ。
何だろう? 例えば何年もやってる格ゲーを友達とやることになって数ヶ月経ったらその友達の方が上手くなってる。そんな感じの気分だ。
「いいぜ。武器の形じゃなくてお祈りしてみる感じにやってみろ。俺はいつもそうやってるぜ」
武器を出すから武器のイメージをするのではない。キメラと戦うからその力を門から借りたいのだ。
だから最初に強い武器をイメージした俺は失敗した。その時は叔父さんがいたかはアドバイスをもらって成功したがそれが分かっていないと出来ないことだ。
先入観が邪魔してくる。
「ちょっと邪魔しないでくれる。今集中してるの」
懇切丁寧に説明してやったつもりなのに既に篝火は武器を出す為に目を閉じていた。
仕方なく俺は文句を言う為に開いて口を咄嗟に塞いだ。
俺が二回目を失敗したのはそのせいだったからだ。叔父さんが横から喋りかけて来て邪魔をしてきたから実際にした。
本当にあの人は性格が悪い。親の顔が見たいみたいが少し考えると見たことがあった。自分の叔父なのだから。
それにしても篝火の集中力には目を見張るものがある。小説家になりたいからとかではなく、彼女自身の強さがそこにはある気がした。
暫くそのままでいると手鏡が光だした。
光はグニャグニャと動き出して空中へと飛んで六つに分かれるとゆっくりと降りてきて主人の周りで静止した。
一つ一つ小さいがこちらに向けられているのは穴。多分、そこから弾とかを発射するのだろう。
つまりは空中に浮く六つの銃。それが篝火の武器となった。見た目は手鏡の持ち手によく似ている。
「本当に一回で成功しやがった」
「ご、ごめんなさい。本当にこんな簡単に成功するだなんて思わなかったの。でも、加々良くんが無能って事じゃないのよ。私が凄すぎただけだからそう気を落とさないで」
最後の方はもう自分を褒めてるだけだよな! 俺を慰める気なんてないよな!いや、そもそも期待なんてしていた俺が馬鹿だったが逆に俺の心えぐってないか?
俺は混乱した。たった一回で武器出しに成功した篝火の隠れた才能に。
しかしその才能は心強くもあった。これからこいつが仲間だ。叔父さんは何かと理由をつけてこっちに来たがらないからずっと一人でやって来たがようやく二人になった。
「ふん、大丈夫だよ。そんなあからさまか顔をするな。俺はいつも通りのお前の方が好きなんだからよ」
「っ‼︎そ、それは告白と受け取っていいのかしら?でも、別に加々良くんが嫌いということではないのだけれどもそうゆうのはもっと知り合ってするもんじゃないのかしら? だから……その……今答えるというのは……」
「は?告白⁉︎お前何か勘違いしてるだろ。俺は友達つーか、仲間として言ってんだぞ」
一体何と勘違いしたかは不明だが、顔を赤くして喋り方も何処と無く変だった。挙動不審と言ってもいい。
だがそれも俺の一言でスーッといつもの篝火の、凛々しい顔へと戻った。
「ああ、そうよね。そういう人だものね。ヘタレだし、私をイライラさせる存在だものね。やっぱり鶴ヶ谷さんから聞いたとおりね」
「待て待て待て! 何で俺がヘタレって事になるんだよ。委員長からなに聞いたんだよ」
それなりに、篝火よりは付き合いが長く俺のことをちゃんと知っているはずだし、性格が性格だから委員長が間違った事を言うはずがない。多分、何かの陰謀だ。
「そんなのどうでもいいじゃない。それよりも早く見回りを終わらせまょう。貴方とあまり一緒にいたくないもの」
「ちょっ! 待てって言ってんだろ。ちゃんと説明しろよ!」
一体何が篝火の気に障ったかは未だにチンプンカンプンだが怒っていらっしゃるのは確かで、俺は仕方なく一歩一歩を力強く歩く篝火を追いかけて行った。