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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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断りの刀

 刃物をいきなり出されたら人は多分、必死に抗うか怖気ずいて動けなるかの二択だとばかり思ったが俺のそんな浅い考えは打ち砕かれた。

「眼鏡が武器に変わった⁉︎ それって元に戻せるの? 戻せるわよね、戻せなかったらこの世界に閉じ込められてしまうものね」

「あ、ああ……そうだ」

 少したじろいでしまった。

 状況的に有利なのはこちら。葉狩にこの世界のことを知らされ、二ヶ月もここに通いつめて慣れた場所。それに棒の両側に刀が設置された武器を持っているのに手鏡だけしか持たない同い年の女子に圧倒されてしまった。

「何、主人公のあまりの強さに驚きを隠せない雑魚キャラみたいな顔をして。私は何もしてないわよ。ここに来る前からずっ〜と」

 的確な例え過ぎる。それでは俺は「あべし」とか「ひでぶっ」と言って破裂しなくてはいけないのか? 冗談ではない。

「嘘つけ、散々俺に罵声浴びせてたじゃねーか」

 それはもう滝のように、そのせいで修行僧の大変さを思い知らされたがお陰で広い心を手に入れられた気がする。

「小さい男ね。私に自分の悪いところを指摘されただけでそんなに根に持つなんて、将来が心配だわ」

「お前になんか心配されなくてと上手くやっていける自信をはあるぞ。お前みたいな上司がいない限りはな」

 こんな奴がこの世に何人もいたらたまったものではない。

「そう、でもいてもいなくても貴方は仕事出来なそうね。何もないところでこけて書類をばら撒いて謝りながら集めている姿が目に浮かぶわ」

「俺はドジっ子か‼︎」

 はっ、自分で言って気づいたがまた新しいキャラ設定を俺に埋め込もうとしてやがる。油断も隙もあったものではない。

「どちらでも違わないじゃない。雑魚キャラかつい証拠を残してしまうドジっ子犯人よ。五十歩百歩よ」

 確かに推理ものでの犯人は大抵ミスを犯し、重大な証拠を残してそれが解決の糸口になるというのはよくある話だ。

「雲泥の差だぞそれ。雑魚キャラを馬鹿にしてんのか」

「それもそうね。雑魚キャラでも集まれば厄介よね。そのせいであのキャラが死んだり、あのキャラが死んだり、あのキャラが死んだり……。本当に屑ね。救い難いわ」

「待て待て、個人的な感情入ってただろ」

 どのキャラだよ。戦争ものはよく雑魚キャラに殺されることが多いが最後はただ怒ってるだけじゃないか。

「まあ、こんな話をするよりも早く終わらせましょう。こうして貴方と喋っていても問題は何も解決しないものね」

 脱線させてそれを戻したのはその脱線の元となった篝火。一体何がしたいのか分からない。

「お前が話し始めたのによう言うな。それで、俺が何をしようとして言ってるのかそれは」

「ええ、それで私を斬るんでしょう?」

 いつもの冷たい目で何の躊躇いもなくそう言ってみせる、それが彼女の強みではあるがここまでくると正気の沙汰とは思えない。最初から、会った時から正気とは思ったことはないが兎に角反応が普通ではない。

「だって貴方が言ったんじゃない。無理だって、手遅れだって。だったら手は一つしかないじゃない。根元を失くす。つまりは私を殺すことしか方法はない。だからこそ貴方はそうして自分の武器を見せつけているのよね」

「大体合ってるが殆ど違うぞお前。確かに俺は何も出来ない。だがこいつが何とかしてくれるだからこそ出したんだ。脅しとかじゃない」

 この棒につけられた刀。決して怖がせる為のものでもないし、自慢とかでもない。これがお前も救う物だと言いたかったのだ。

「何を言い出すかと思ったら馬鹿発言ね。それだったら何故あんな言い方をしたのからしら? 最初からそれで助けられると言ってくれれば良かったじゃない」

「ちょっとお前の反応を見てくれって叔父さんに頼まれたんだよ。俺はあの人に助けられた身だからあの人を信じてこんな面倒な方向に進めちゃったけど本当は全部、本当のことを言おうと思ったんだぜ。でもそれじゃあお前の為にならないと思った」

 答えを教えるだけでは成長はしない。その過程をどうするか教えてやらせる。そうして出た答えが間違っていたとしても意味のある答えになる。

 数学と同じだ。答えだけではどうやってそれが求められるかはサッパリ分からないがどのような公式を使えばいいか教えることで他の問題も解けるようになってくる。

「上から目線ね。だけど何と無く言いたいことは分かるわ。でも具体的に私はどうすればいいのかしら?貴方がどうやってこのキメラ化を止めるか聞いてないんだけども」

 やはり冷徹で心がないとしか思えない篝火でさえも不安らしい。

 それもそうだ。篝火からしてみればいきなりキメラとかいう気色悪い生物のいる異世界に連れて来られて、大して話したこともないクラスメイトが目の前で変な武器を持っている。何の説明もなく。

「そうだな。この刀は断刀(だんとう)だ。棒は関係かいから気にしないでくれ」

「あらそうなの。てっきり重要な役割があるのかと……、でもそんなことないわよね」

 使えにくそうなその構造に疑問を抱いていたのだろうが話が進まないので無理やり納得してくれたらしい。

「それでこの断刀は俺たちがここに来る為に使った門、つまり俺とっての眼鏡を来る時と同じように集中すれば出てくる対キメラ用の武器だ」

「成る程、眼鏡が消えたのはそれに変化したからね。だとしたらこの門は手放せないわね」

「変換というより眼鏡を核にして武器を構築してるって感じかな?」

 想像するのにも土台がいる。眼鏡はそれ、後は頭の中でどうにかしているがこの難しさは実際にやってみないと分からない。

 葉狩は一度目で上手くいったと豪語しているが、加々良はそうはいかなかった。

 最初なんて眼鏡から他の何にも変化しなかった。何十回目かは昔のゲームに出てくるようなポリゴンの形。それから徐々に徐々にそれらしい形になっていって今に至る。

「キメラとはそれで戦ってるのね」

 そう、ついさっき捕まえたカタツムリとカメレオンが合体したような奇妙な生物、キメラ。これはそれに対抗できる唯一無二の物なのだ。

「戦ってるとは少し違うかもな。なんたってこの刀は斬る為にあるんじゃない。断切(だんせつ)する為にあるんだ」

「それって結局同じじゃないかしら?もしかして日本語も分からないのかしら?そうだとしたら本当に救い用がないわね。石器時代からやり直しなさい」

「随分と前だな‼︎」

 しかも石器時代に日本語なんて存在しないだろうに。

「ごめんなさい。あまりにもムカつく言い回しだったからからかっただけよ」

 そのからかうという行為が貴方の場合は人の心をえぐるというダイレクトアタックになっているのに気づいていないのか⁉︎ いや、そんな事言っても仕方ないか。

「すまん、なら普通に説明するとこの刀はキメラを斬ると合成された生物を分離させることができるんだ」

 つまりは掛け算された数字を割って元に戻す武器、それが断刀。

「最初からそう言いなさいよ。つまりこの霧もその刀で斬れるってことね」

 正確には霧ではなく、それを放出する元になった彼女の体を乗っとろとしているキメラをだ。

「まあ、簡単に言うとそんなとこかな」

「なら早めに斬ってくれないかしら。遅くなると私がキメラ化してしまうんでしょ」

「別にキメラ化した後でも同じだ。斬れば口の悪いお前に戻るさ」

 出来ればその性格も斬ってやりたいところだが断刀にそんな力はない。

「あら、優しくて成績優秀で才色兼備の女子高生の間違いじゃないかしら」

 また減らず口を。しかも成績優秀は委員長とキャラがかぶってるからやめてほしい。ただ優しいという部分だけは自分で気づいて直して欲しいがこんな願いすら彼女には届かないだろう。

「じゃあ、斬るぞ。どうせのお前のことだから覚悟くらい出来てるだろ」

「ええ、間違って私の服を切り刻んでしまいサービスシーン突入にならないならね」

「ないから安心しろ」

 色んな意味でそれはない。

 てか地味にまたドジっ子として俺を扱わなかったか?まあ、いいか。俺だってここに長居はしたくない。

 篝火は目を閉じたりはしなかった。自分がどうなるのか、自分を悩ませたこの霧が一体どうゆう終わり方をするのか見てみたかったから。




「はぁ、もうこんな時間か」

 翌日。

 昨日と同じく放課後の委員長による特別授業を終えて教室から出ると、これまた昨日と同じく篝火 弥富が現れた。

「鶴ヶ谷さんに勉強を教えてもらわないと危険な状態の帰宅部のエースさん。暇そうね。部活はいいの」

 何とも憎たらしいがあの後も変わりないらしい。人を斬るのは初めての体験だったから少し心配してまった自分が馬鹿だった今、反省している。

「帰宅部に部活の話するなんてあんたらしいな。ちゃんと部活動はするさ。帰宅部のな」

「そう、なら私もご一緒していいかしら?帰宅部は男女混合の部活だものね」

「は?」

 俺はすぐに周りを確認したが、「ドッキリ大成功!」の看板を持ってスタンバイしている人の姿も気配もない。

「ちょっと何をしてるの? 私は一緒に帰らないかと言ってるのよ。どうせ帰り道が一緒の友達なんていないんでしょ。あなた友達なんていないんだもの」

 それは言いがかりだ。並程度には友達いるし、帰り道一緒の奴いるし……、そいつ部活で忙しいけど。

「ど、どうしたんだよお前。そんなキャラじゃなかっただろ。もっとさ……ほら、ちょっとナルシストで人の傷つくようなことを平気で言ってのけるSっ娘キャラだろ」

「ふん、だったら貴方は損ばかりするラノベの主人公ね」

 それは(けな)しているかどうかわからない例え方だぞ。でもまあ、どっでもいいか。

「おい、待てよ」

 同じ部活の仲間を放っておくわけにはいかない。俺はそのズカズカと廊下を歩く素直になれない女子高生の後を追った。

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