表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断りのキメラ   作者: 和銅修一
4/26

キメラの世界

「な、何、これは?」

 まず目に映ったのは赤より紅い空。

 夕日とかそういったレベルを通り越して、床に赤色のペンキをぶちまけてしまった、そんな感じの空。

 太陽はない。月も。

 ただ真っ赤な空が不気味に広がっている。

 他にあるとすると門の役割を果たした手鏡。

「俺も最初はかなり驚いたけど少しずつ慣れてくるから我慢してくれ」

 二ヶ月。

 黒縁眼鏡をかけて現れた加々良はそれだけここに通い続けている、通い続ける羽目になった。

 その過程でこの空も日常と思えるようになってきた。

「説明してくれる? これは一体どうなってるのよ」

「質問しなくても答えるつもりだったが教えやるよ。ここは簡単に言うと異世界だ」

「異世界? ごめんなさい。私、貴方の妄想に付き合っているつもりはないとだけれども」

 まさか俺を妄想癖のあるキャラに仕立て上げようとしているのか。何と恐ろしい女だ。

「妄想なんかじゃない。あの空が一応証拠ってところかな。まあ、信じてもらうには少し弱い証拠かもしれないけど」

「だから外から出たのね」

 あの小屋には一応屋根があり空を見渡すことができない。

 後で外に出ても別に構わないのだが印象に残すにはこちらの方が良かった。ただそれだけの話だが納得してくれてらしい。

「でもここは異世界言う割りには異世界らしくないわね。魔法使いやドラゴンがいるわけでもないし、ましてや超能力といった類のものも見当たらないわ。せめて霊能力ぐらいいてもいいと思わない。これじゃあ、ただ空の色が違うだけじゃない」

 超能力までは分かったが霊能力を異世界の者として扱うとはやはり変わっている。到底理解できない領域だ。

 しかし彼女言うことはもっともでここに今言われたものはいない。

 というかここは山の中だ。

 街の様子なんて分からないし、見えるのは俺たちの通っている高校とその周りにある住宅ぐらい。

 これだけで判断しようというのは少し早すぎる。

「ちょっと学校まで行ってみるか?」

「そうね、貴方に指図されるのは虫唾が走るけれど折角ここまで来たんですもの取り敢えずこの世界について知ってからこの霧の正体を聞き出すことにするわよ」

 それって俺からだよな。

叔父さんは来る気配ないし、他に人間はいない。二人っきりだから消去法でそうなるのだがもっと言い方はなかったのか?それだと後で拷問されてしまいそうな雰囲気がプンプンするのだが。

「へいへい。それは後で俺が説明してやるからあんま急かすなよ。説明っても順序が正しくないと分かりにくいだろ」

「あら、数学で毎回のように欠点をとっている人とは思えない発言ね」

「なっ⁉︎ いや、流石に毎回じゃないぞ」

 図星。

 だが毎回ではないのは嘘や見栄ではなく、たまたま理解できたところが問題して出てきただけで実際は毎回欠点とほぼ変わらない成績を数学では叩き出している。

「ちょっとした冗談のつもりで言ったのに本当だったの。まさか、この世で欠点をとる生き物が存在するなんて知らなかったものだから、ごめんなさい」

「憐れんだような目でこっちを見るな‼︎てか冗談だったのかよ」

 こういう時、一番辛いのは馬鹿にされるより可哀想とか思われる方だ。そっちの方が精神的にくる。

「冗談の冗談よ。鶴ヶ谷さんと貴方の話を聞いて何をしていたのかは知っていたし、鶴ヶ谷さんが勉強を教えるなんて相当な厄介者だものね。だから冗談というより推理よ。そう、いつだって真実な残酷なものだわ。加々良 翔、貴方は哀れのお馬鹿さんだったのよ‼︎」

 ズバッ!

 これが漫画だったらそんは擬音が彼女後ろに大きく現れそうなほどの勢いで指を差してくるその姿は何処と無くあの名探偵に似ている。

「もうそれ以上俺を傷つけるのはやめてくれ」

 最早ついていけない。

 篝火のペースに流され続けてもうヘトヘトで突っ込む気力すらない。

「意外と壊れやすいのね貴方のハートは。もしかしてステンレス製なのかしら」

「最先端すぎるだろ。しかもステンレスはガラスよりも強度はあるぞ」

 搾りかす程度の気力でツッコミを終えると既に山を降り、住宅街に入ったことに気がついた。

「なんだが疲れてきたわね。学校まで何て面倒くさいからここでいいんじゃないの。貴方の説明なんてどうせ下手くそなんだから場所なんて何処でも一緒だわ」

 だから近くにあった公園のベンチに座り込んだ。しかし、四人用のそれは図々しい女子高生が占拠し、拒むような態度でこちらを睨んでくるのでこちらから願い下げをしてここで説明することにした。

「疲れてるのはこの世界に慣れてないからだ。ちなみに叔父さんはここをキメラファームって呼んでるよ」

「キメラ? キメラってあれよね。ハゲタカみたいな頭にツチノコの体に羽が生えた感じのあれよね」

「うん、それ多分違うキメラだ。俺が言いたいのはある生物とそれとは違う生物が混合して出来た怪物のことだ」

 つまり俺たち人間にとっての敵、キメラ。

この異世界はそんなキメラが住まう世界なのだ。

 犬猫戦争事件。

 馬鹿げた名前だがこれもそのキメラが関連している。鶴ヶ谷は自然と収まっただけと思っているらしいが実際はここで色々とあって、ようやく解決した事件だ。

「俄かに信じがたい話ね。」

「ほら、これ見てもそう言えるか」

 分からせる為に拾ったのはアスファルトの上を懸命に這うカタツムリ……のようなもの。

 背中に貝を背負っていない。貝のように見えるのは尻尾。緑色の尻尾が丸まったもの。

 しかし、全体が緑というわけではなく、その部分以外は普通のカタツムリと同じ色をしている。

 色だけは。

 蚊が羽音を立てながら悠々と飛ぶ。

 それがキメラがどうかは小さすぎて確認できなかったがその蚊はカタツムリのほんの小さな口から出た舌が鞭のように飛び出してそれを捕らえてムシャムシャと、まるで草でも食べるヤギのように食した。

「こいつはカタツムリとカメレオンのキメラだろうな。兎に角、こんな怪物がうじゃうじゃいる。それがこの世界、キメラファームだ。言っとくけどこれはまだ優しい方だからな」

 犬猫戦争事件、あの時のボス、つまりは元凶と言える奴はこんなものじゃなかった。虫と犬ぐらい差がある。

「気色悪いわね」

 女子の第一感想はそれだった。

 俺の場合は呆然として、現実逃避をしたものだがやはり異世界なだけで現実で何も変わりはしなかった。だからこそその現実に立ち向かった。

 それが結果的に犬猫戦争の幕を閉じることとなったが二人しかしらない事実。

 少し虚しいことだがそれよりも今、大事なのは篝火がキメラの事をどう思ったのかだ。

 いや、咄嗟に出た言葉というものは大抵本音というのが相場だ。それはいくらこの冷徹無比の王妃様でも変わらないであろう。

「だがよ、その気色悪い奴が既にお前と干渉しているとしたらどうだ」

 顎に手を添えて考える。

 その末に出された答えに俺は彼女は本当に名探偵なのかもしれないと思ってしまう。

「もしかしてこの霧のことかしらこれが鏡、貴方が言う門に映るのならこれはこの世界のもの。そうよね」

 鋭いのが気に食わないが正解。

 何故赤いのかと聞かれると多分この世界の空が赤いからとしか答えられない。特にその色自体に意味はないのだから。

「ああ、そうだ。俺は眼鏡を通してそれが見えたから気になったんだよ」

「でしょうね。でなければ私よりも濃い学生のいる学校で私みたいな何の変哲もない生意気なクラスメイトになんか話しかけたりしないものね」

 (わざ)とらしい俯き。

「いや、話しかけてきたのはそっちだろ。それとお前は十分に個性がある。自信を持っていいぞ」

「貴方みたいな馬鹿しか特徴のない人になんか言われなくても分かってるわよ‼︎」

「ぎゃ、逆ギレ⁉︎」

 もしかしてこれがツンデレと言うやつか? 想像していたのより全く異なるのだが、これは篝火風とでも思えばいいこだろうか?

「馬鹿しか特徴のないことは否定しないのね。良かったじゃない。素直キャラも付け加えられたわよ」

 別に嬉しくもない。馬鹿キャラも、本当に馬鹿な人を侮辱しているとしか思えない。

「それで、俺の口から言おうか、それとも全部お前で突き止めるか名探偵さん」

 少し脱線してしまったが話を元に戻す。

「私は推理小説は事件が起こって調査が終わったら犯人と犯行につかったトリックを解き明かしてから読むようにしているの。だから自分で言うわ。これは自分の問題なんですもの」

 責任感の強そうだからそう言うと思った。しかしそれはいい傾向だ。俺みたいに拒むのではなく、受け入れる姿勢が何事においても大事なことだ。

「つまり、いえ、これは私の推論に過ぎないのだけれど、もしかして私はキメラになりつつあるんじゃないのかしら」

 感服を通り越して感銘だ。

 まさかここまで強いだなんて。

「正解だ。お前はキメラ化をしている」

 だからこそ率直にそれだけを言う。褒めたりはしない。自分が出来なかったのにどうしてそれが出来ようか。

「キメラ化……、貴方たちはそう読んでいるのねこの現象を。ちなみにどれくらい進んでいるのかしら」

 霧は初めて見た時よりも濃くなっている。

「そうだな。このぐらいなら手遅れだ。キメラになる寸前」

「何よそれ。だったら私はキメラになってしまえとでも言うの。それはあんまりじゃないの?涙も血も知性も無いわね」

 キツイ言い方したから心配したが全然冷静じゃないか。

「そうは言ってない。だから俺が声を掛けたんだろ」

 篝火 弥富が誰なのか知らなかったから早めに解決することは出来なかったが、何も出来ないわけではない。

「何その俺が助けてやるよ的な雰囲気。全然似合ってないわよ」

 確かに似合ってないかもしれない。正義のヒーローより助けられる一般人の方が似合っているかもしれない。

 それでも俺は敢えて言う。

「俺が助けてやる。篝火 弥富」

 眼鏡か消えて代わりに棒の両側に刀がついた奇妙な武器が彼の手元に現れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ