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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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解決の策

「何か解決策があるのか⁉︎」

 キメラである彼女に頼るというのもなんだがそんな事も言ってられない。問題を解決出来るならその方法を知ってる人に頼る。先生に教えを請うのと同じだ。

「うむ。しかしそれにはお主の力とその刀が必要じゃ。手を貸してくれるか?」

「勿論駄目です」

 即答で完全拒否したのは勿論、玲だ。

「お、おい玲。何言ってんだよ。協力しようって言ってるんだ。それにこれは俺達の為でもあるんだぞ」

 奇怪な事件は動物だけでなく人間にも手を出すだろう。それは門を持っている者でも防げるかどうか。

「それでも翔は危険な目に遭う。それは駄目」

 確かに傷一つなく帰って来れるとは保証できない。それどころか帰って来れる保証さえも……。それでも

「それでも俺はお前達を守りたい。誰が止めようが俺はエリヤについて行く」

 確固たる意思を持って行くのだ。そこに迷いなどはない。

「なら私もついて行く。それなら問題なし」

「駄目だ。お前が来たって何も出来ない。足手まといだからここで大人しくしてろ」

 隠れ鬼で戦闘以外で何の役にも立っていない自分だが誰も巻き込みたくはない。

「ほれ行くぞ。それと其奴の言う通り、お主が来ても何も出来ることはありんせん。ここで待っとるのが得策だと思うのだがのう」

 玲は翔の事になるといつもの冷静さを失う事が多々あるがこの挑発にも似た忠告でやっといつもの顔に戻って、悔しそうに俯いた。

「ごめんな。でも帰ったら何でも言うこと聞くからここは我慢してくれよ」

 落ち込む顔なんて見たくなかったから元気を出させる為に深く考えもせずそんな事を言うとパアッといつも以上に輝きを帯びた目で見上げて来た。

「本当、本当の本当に本当?」

「お、お〜。でも手加減はしてくれよ。俺に出来る範囲内の事で」

 でないと遠慮を知らないこいつなら無理難題を押し付けて来そうだ。

「約束。楽しみしてるから」

 後悔してももう遅い。こんな顔されたら今更断る訳にもいかない。




「それで、俺はどうしたらいいんだ」

 小屋から出て数分歩いたがあの、やたら古い言葉を使う癖に良く喋る吸血鬼が何も言って来ないので逆に不安になってくる。

「うむ、まずはお主らの言うキメラファームに連れてってくれ」

「なんだよ、お前行き来が出来るんだろ。だったら俺に頼ることはないだろ」

 吸血事件はこちらに来て起こしたものであって例の問題が原因ではないと自ら言っていたはずだ。

「自由に行き来出来るというわけではない。何かと時間が掛かるし面倒じゃ。そちの門とやらの方で行った方が早いのじゃ。文句言わずに働け」

「はいはい。すいませんでした」

 どうやら怒らせてしまったらしい。大人しく眼鏡をかけてエリヤの肩に手を置いた。

「おかしいのう?前は抱きついて来たのに今回はやけに謙虚じゃ。恥ずかしがらずとも良いのだぞ」

「言い方‼︎ 抱きついたんじゃなくてタックルだよ。ゆっくりしてたらお前に触ることも出来ないだろ」

 人型キメラ何だから油断はするなと葉狩の言葉があったので、男であってもタックルはした。

「そうじゃったな。誠にあのタックルは良かった。我が嫌がるのを無視してこう、両手でガッと……思い出すだけでも体が疼くわい」

「だから言い方‼︎そろそろやめてくれません⁉︎」

 分かった。

 喋る事よりも人をからかう事が好きなんだこの鬼は。この魔性の女は。

「ったく、じゃあ行きますよ。エリヤさん」

「うむ、エリヤでよい。我が認めたのじゃ。其れ相応の仕事をしてもらう。つまりは仲間なのだから呼び捨てでよい」

「それってちょっと違うような……。まあいいか。じゃあ俺の事もお主とか呼ぶなよ。誰の事言ってるかたまにわかんねーから」

 その古臭い喋り方をやめてくれるのが一番良いのだが、それを取り除いてしまうとらしさがなくなってしまう。

「うむ、お主の名前知らん!」

「うっ……そういえばドタバタしてて自己紹介とか全然してなかったな。俺は加々良 翔だ。よろしくな」

 肩に置いていた手を目の前に突き出す。

「呼びにくい名前じゃのう。かが……やっぱり駄目じゃ。もっと他のものにせい」

「いや言えてたじゃん。あと“ら”だけだったのに何でそこで諦めるんだよ。それと、他の名前はないから」

「なんじゃお主、異名とかないのか」

「逆にある人の方が少ないわ‼︎」

 暗黒なんたらとかダークなんたらと呼ばれる人はいない。いないことを祈る。

「間違えた。あだ名じゃあだ名。そっちならまだいいじゃろ?」

「それなら……まあ」

 そういえば加々良という苗字が珍しいのかそう呼ぶ人が多くてあだ名というあだ名は今だにない。

「そうじゃな〜何がいいかのう。あだ名をつける際にはその人の特徴を取り入れるの王道らしいが……」

 一体何処からそんな情報を仕入れてるのだと聞きたいが怖いからやめとく。

「ないのう特徴」

 グサッ!

 翔は精神的ダメージを受けた。

「ちょ、ちょっとくらいあるだろ。ほらもっと考えてくれよ」

「変態……かのう」

「何で⁉︎」

 翔は変態の称号を得た。

「しかし、あまりアグレッシブではないから紳士をつけた方がよいか。その方が何かカッコよいし」

「そこは問題じゃねーよ」

 変態は変態紳士にジョブチェンジした。

「もはや変態として扱われてる俺⁉︎」

「誰に向かって言っておるのじゃ」

「いや何でもないです」

 本当になんでも。それ以上突っ込まれるとシャレにならない。




「結構遠出するんだな」

 かれこれ三十分かそれ以上歩いただろうか? もうここら辺の道は詳しくは知らない。

「うむ、しかしお主がおるから思うように進まんのう」

 結局、あの後も「次は名前を変換して……」と続いたが両者が納得出来るようなものは出なかったのでエリヤは呼び方を変えていない。

「まだ歩くのか? 俺もう疲れてきたんだけど」

 思えばあの戦いから一切休まずにまたこちらに来てずっと歩いている。小屋の中でも濃い話を聞かされて精神的に休めなかった。

「うむ、このままだと軽く半年は掛かるのう」

「そんなに⁉︎」

 高校生の半年ってかなりデカイよ。帰ってきた時には浦島太郎状態。特に苦手な数学の授業では手は完全に止まるだろう。鶴ヶ谷の助けがあっても追いつけるかどうか……。

「ここは日本じゃったな。なら距離は……まあ微妙な所じゃのう。それとお主、半年歩く気はあるか?」

 今年最大の勢いで首を振る。

「じゃろうな。しかしこっちじゃと動く箱と金属の鳥は動いておらんしのう」

 多分、電車と飛行機の事。普通の人間がいないから当たり前だ。勿論、車の窓を壊して侵入して動かそうにも鍵がない。となると唯一自由に乗れるのは自転車くらいだがそれでは全く足りない。

「そうじゃ。お主、我に血を吸われろ。そうすれば一瞬で着く。どうじゃ?」

「血ってお前。どうしてそんな事」

 流石に血を吸われるのには抵抗がある。注射が嫌で献血をしないのと同じように。

「ただ血を吸うのではない。吸った分、我の血をお主に渡すのじゃ。さすればほんの少し力を与えられてお主の体が丈夫になる」

 吸血鬼は元来特殊な技は持っていない。ただ怪物並みの丈夫さと運動神経、筋力があるだけ。

「それって俺もキメラになるって事か?」

 吸血鬼の力を得るという事はつまりキメラの一部が自分の中に入ってくるという事。

「何を言っておる。元々人間はキメラじゃろうが。何も変わりはせん」

 そうだ人間もこちらで産まれた存在なのだと聞かされたばかりではないか。

「……そうだったな。そんな事気にするなんて俺らしくもない。いくらでもいいから俺の血を吸ってくれ」

「本当にいくらでも吸ってよいのか?」

 貴族なような彼女には似合わないほどのヨダレが流れる。

「や、やっぱり適量で」

 でないとカサカサの干物になってしまう。それだけは願い下げだ。

「承知した。なに、心配せんでも血を吸い尽くす趣味はない。そういったのはごく一部じゃ。誤解するでない」

「そうなのか?」

「うむ、大抵の吸血鬼は蚊のように気付かれぬようにある程度血を拝借しておる。人間の言う吸血鬼は血の味を求めて狂うごく一部の者たちでしかない。伝説の悲しいところじゃな。必ず何処かで誤解が生まれる」

 それは人型キメラであり伝説の怪物である彼女にしかわからない苦痛。

「大丈夫だ。俺はお前という本当の吸血鬼を知ってる。何よりお前を仲間として信じてる。安心して血を吸え」

 平凡に生きてきた翔のような人には到底理解出来ない苦痛だが見て見ぬ振りは出来るはずがない。

 これから共に戦う仲間なのだから。

「仲間……。こんな我でも仲間と言ってくれるのか誠に面白い奴じゃ」




「すげーな。噛まれたところがもう治ってやがる」

 左肩の二つの穴はカサブタの過程をすっ飛ばして完璧に元通りになった。

「それは我の唾液のせいじゃ。吸血鬼の唾液は治療を促進させる効果があるからの。お主が吸血鬼の力に目覚めるのにはもう少し時間がいる。それまで安静にしておれ」

 横になるまではしないが近くにあったベンチに二人で座った。

「それでエリヤは何で俺たちを助けてくれんだ」

 その問題の解決策というのも何故教えてくれるのかも聞いていない。ここは時間も無駄にしたくない。

「そうじゃのう。人間をもう一つの世界に逃がした何かのように人間に期待しておるからじゃ」

「期待ねぇ。人間ってのは範囲がデカすぎるけど俺がそれに応えられるくらい頑張ってみるよ」

 何処まで出来るかは断言出来ないが頑張る。小学生が書くこれからの目標みたいだが、とにかく頑張る。それしか自分が出来る事は見つからないから。

「うむ、期待しておるぞ。それと我もお主に聞きたい事が一つ。実のところどうなのじゃ。どちらがお主の好みなのじゃ」

「は⁉︎」

「は⁉︎ ではない! あの緑色の髪をした生意気な小娘と目が怖い小娘のどちらが好きか聞いておるのじゃ」

 シリアスな流れだったのに。本当に女って生き物はこうゆう話好きだよな〜。

「……分かんねえ。というか篝火は俺のこと嫌ってるからなあ。玲は何か俺の事やたらと気遣ってくれるけど自分の事は後回しって感じで、そこを直しては欲しいけど」

「女と見たことは無い……か。まあ聞くところによると昔からずっと一緒だったからそう思えるだけだがもうお主らは年頃じゃ。よ〜く考えて決めるといい」

 千年以上生きてきた吸血鬼の言葉。ありがたく頂くとしよう。

「ちょっと待て。何でお前が俺と玲の事知ってるんだよ。俺は話した覚えが無いぞ」

「玲とやらにあの森の中にある小屋に行く途中で一方的に聞かされたのじゃ。暇だったのでちゃんと聞いてやったが殆どお主の事しか話さんのでつまらんかった」

 見張りを頼んだつもりだったのにサボってやがった。まぁ、最初から期待なんてしてなかったけど。

「もう我の血も馴染んできた頃合いじゃろう」

 徐に立ち上がったと思ったら自分の体が宙に浮いた。

「ちょっ‼︎ お前なにすんだよ」

 何故か今、女であるエリヤにお姫様抱っこされている。肩に乗せようにも彼女の場合それでは持ちにくいというのがあってだろうが、これは恥ずかしい。

「舌を噛んで死にたくなかったら黙っておれ」

 両脚に力を溜め込みビキビキと筋肉の音が鳴り響いた後にはもう空を飛んでいた。背中には今まで出さなかったドラゴンの翼まである。

「ぎゃああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜‼︎」

「黙れと言ったじゃろ。大人しくしておれ」

 実は加々良 翔は高所恐怖症。それを知らず、いきなり何の確認もなしに飛んだ吸血鬼は腕の中で暴れる翔を頭突き一発で気絶させた。

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