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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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セカイのコトワリ

「や、やあ。随分と早いお帰りだね翔くん。ちょっと待っててくれないかな?今座れるようにするから」

 椅子が足りないわけではないをこの小屋には必要以上の椅子の数がある。ただそれらは床に転がっている状態で、小屋の中全体的がぐちゃぐちゃになっていた。

 葉狩のワイシャツもくしゃくしゃに(しお)れいる。

「何があったんだよこれ。もしかして叔父さんがやったのか?」

 最初から壊滅的だったのに、物置に近いものにした犯人は。

「オイオイ、僕を情緒不安定な駄目大人みたいに言わないでくれよ。これはお客人がしたことさ。大変だったんだからね。多分、血を吸われた事がトラウマになったんだろうね。起きた途端、ここを散々荒らして帰って行ったよ」

「血を吸われた? もしかしてそのお客人って人質の事か」

 作業をしながら頷き立て直した椅子にドカリと座り込んだ。

「どうせその吸血鬼さんが仕組んだ事でしょ。まあ、僕はお嬢ちゃん達から聞かなくてもそうだとは分かってたんだよ。ほんとに、見栄とかじゃなくてさ。言わなかったのは君達の為。どちらにしろ上手く行ってよかった」

 そして何かも知っていると言わんばかり首を縦に振り、お気に入りのソファの方に座り直した。

「これも貴方の仕組んだ事なのね。なんたってニート」

「そう来たか。僕的にはなんてたっての方が親近感沸くんだけど……、そんな冗談も言ってられないね。鬼が出て来たんだ。きっと次は蛇が出てくるに違いないからね」

 また鬼という事はあるまい。

「ふむ、お主はこの者達より幾分あの世界の事を知っているとお見受けするが」

 律儀にも今だに手を上げ続けるエリヤは次々と座る翔達に続いて椅子に座ってそんな堅苦しい質問をし出した。

「ん〜、まあそうだね。この子らにあの世界の事とかを教えたのは僕だし、昔っからあそこには因縁があるからね」

「やはりか! だが全ての事を話してないように思える。そこのところはどうなのじゃ?」

 葉狩の事だけではない。あの世界の事も。明らかに好意で隠していた。

「吸血鬼さんには敵わないな。でも、教えなかったのは敢えてさ。それで戦いに身が入らなかったら本末転倒でしょ。それに言うタイミングがなかったしね」

 知ろうともしなかったこちらにも非はあるが何も言わないこのちゃらんぽらんも悪い。

「ならこの機会に話すのじゃな。此奴らとて何も知らずに戦わされるのは不本意じゃろうて」

 何故か負けたはずのエリヤが偉そうに振舞っているが正論だ。

「まあな。前から叔父さんは何か隠していたがこれからもずっとは無理だ。こんだけ仲間が増えてきたんだ。そろそろ教えてくれないか?」

 当初のように一人だったら何も言うことはなかったが、他は時間経つに連れてそう思えなくなる。

「ん〜、そうだね。君達は肉体的にも精神的にも強くなった。何より吸血鬼さん試練を突破した。それを評して今回は特別に教えてあげるよ」

 かなり勿体振ったが観念してずっと隠してきた事の大部分、それもとても重要な事実を話し始めた。

「まず、僕がキメラファームと名付けたあの世界の事について話した方がいいかな。翔くん、君はあの世界は何だか知ってる?」

「ん? キメラが生まれる世界でそいつらが住まう場所かな。そこで強力なキメラが生まれると変な事件が起こる、いわば悪の根源みたいな感じかな。それで俺らが門を使って解決してるんだろ」

 ただキメラが生まれ、育つ場所。人間にとっての地球のような存在。その程度にしか思っていないし、異世界なのだが空の色以外違う点が見つからないのでそういった捉え方が出来ない。

「まぁ、そんな感じだよね。でももう少しあるんだよあの世界には。そうだね、簡単に説明しちゃうと、この世界はキメラファームから作られた、って言えば分かるかな?」

「は⁉︎」

 あまりにも唐突すぎる話で高校生陣は耳を疑った。

「作られたというより作ったというべきだね。僕たち人間を生かす為に。それこそ神だよ。と呼べるほどの力を持った何かが」

「人間を生かす? ちょっと待ってくれそれってどうゆう事だよ。それにこの世界が作られたって……」

 話が大きすぎる。世界がどうのとかは高校生にする話ではない。

「そのままの意味だよ。っと僕としたことが、翔くんがいるんだったね。どうも僕は教師には向いてないらしい」

 出来の悪い生徒だと言わんばかりにこちらに視線を送ってくるが、無視。

「つまり、人間は僕の言うキメラファームで生まれたんだよ。だけど人間はひ弱でね。あの世界では長く生きられないんだ。そこで何かが人間が滅ばないように人間が生きやすい世界を作ってそこに全員移動させたんだ。勿論、そんなゴリ押しみたいなやり方だったから問題が出てきたけど、それでも人間は今もこうして呑気に暮らしているとさ。めでたしめでたし」

 いきなり昔話のような終わり方をしたがそれが気にならないほどの事を聞かされているので誰もツッコミはしなかった。

「つまり人間は元々キメラファームの住民だった。けれど雑魚過ぎたから貴方の言う何かが可哀想に思ってもう一つ世界を作って人間を引っ越しさせたのね」

 独自の解釈だが何かそっちの方が分かりやすい。人間が雑魚ってところには目を瞑ったら。

「うーん、可哀想というか勿体無いと思ったからだよ。ほら、人間って変わってるから。他の動物と違って心っやつがあるし、どんな風にも成長出来る生き物だかさ。賭けたんじゃないのかな? 僕ら人間がどんな変化を遂げるか」

 果たして何かが人間を生かして良かったと思えるほどの存在になったかは定かではない。

「猿から進化してたんじゃないのかよ」

 あの誰もが知っているであろう自然科学者が提唱した進化論は間違っているというのか?

「あ〜、確かに猿と何かが合わさって人間が出来たかもしれないけど猿が進化して人間になったていうのは考えにくいな。だって、ヒラメとカレイなんて殆ど同じなのに違う生き物でしょ。それと変わらないよ。人間と猿の共通点が幾らあっても違う生き物なんだからさ」

 他人は他人。たとえ家族だって別の人間。ただの他人。友達になっても、親友になっても、恋人になっても、夫婦の関係になっても、結局は自分以外の人間である事は変えられようがない。

 それと大差はないのだ。

「ふーん、そんなもんか」

「そんなもんだよ真実ってのは」

 大抵、こうゆう時は誰もが黙ってしまう。一番お喋りで毒舌な篝火でさえも耳を傾けるだけで深刻そうな顔をしている。

「それにしてもお主、良くそんな突拍子もない話を信じられるのぉ。我が人間だったらとても受け入れられないがの。人間もお主らが怪物だと思っていたキメラなのだぞ」

「え?」

 そういえば何故だろう。まるでドッキリを仕掛けられたのにその内容をしていた、そんな感じの対応になっている。

 驚きという驚きはなかった。ああ、そうなのかと自然とその世界の真実とやらは消化されて体の中の知識の一つと化すだけ。

「翔くんは特別だからね」

 だから仕方ないよ、と。

「ふん、そんなの分かっとるわい。この我の目を騙せると思うなよチャラ男」

「ニートの次はチャラ男か。随分とキャラが濃いね僕は。でもそこはまだ教えたくないんだけど」

 サングラスをかけて吸血鬼を睨みつけるその目はまるで別人。門を持つ誰よりも殺気を放つ。

「おおう、お主やるな。心強い限りじゃ。今回はそれに免じて黙っておく事にしておこう」

 人差し指で唇を防いでニヤリと笑ってみせた。

「お、おい。勝手に話し進めるなよ。俺の意思とかは無視かよ‼︎」

 除け者のように扱いやがって。

 一歩前に出て無理矢理にでも聞き出してやろうとしたが、いきなり肩を掴んできた手がそれを止めに入った。

「やめなさい。貴方を思って言わないのよ。良く分からないけど。ここは二人に従いましょう」

 何かを怖がっている様子の篝火が、その後ろで不安そうに見つめてくる玲が一気に上がった頭の温度を冷やした。

「……分かった。でも、いつかは教えてくれよ」

「うん、約束するよ。僕の自尊心に誓うよ」

 お前に自尊心なんてないだろ。代わりに羞恥心を持て。

「うむ、我もこのスリーサイズに誓おう」

 スリーサイズに誓うってなんだよ。スリーサイズを教えてくれるなら分かるけど……ってこれだと俺が変態みたいなんですけど。

「はぁ……」

 口に出してそれらを言うのも面倒なのでため息で終わりにする。

「で、まあそれは後にしとくしてだ。本題に入ろうぜ。エリヤ、お前は俺たちを試すと言ったな。あれはどうゆう意味だ」

 学校で戦う前言っていたあの言葉。口からでまかせ訳ではないとみているが。

「ふむ、それは先ほどチャラ男の言った世界の真理に関わる事じゃ。気にならんかったのか問題が出てきたというところには」

「あ!」

 そういえば。世界がどうのかという大きなものに埋れてしまっていたが結構重要な事をさらっと言っていた。

「その問題なんじゃがお主らにも心当たりはあるのではないのか?」

 問題、この場合はトラブル。

 何か、あの二ヶ月前からの何か。キメラとあの世界が関係している何か。

「もしかしてあの事件の事か」

 犬と猫の戦争、動物の脱走などニュースでやたらと騒がれた事件。篝火に会う前にもこれの他に奇怪な事件は起こったがそれは今のところ関係ないがそれだろう。

「そうじゃ。我の場合はわざわざこちらに来て血を吸っとったがあれがその問題じゃ。強力なキメラが生まれるとそちらで事件が起こる。今のところは大したものではないが、これからはそうはいかんじゃろう」

 エリヤのような人型が出てきたら今度はどれほどの被害が出るか……。

「じゃから我がこうして来た」

 吸血鬼は誇らしげに腰に両手を置いて満面の笑みで牙を光らせた。

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