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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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驚きの連続

 隠れ鬼をする事を聞かされた教室で五分ほど二人で待つ事になった。

 ここはキメラの世界だというのに時計は一秒の狂いもなく動き、約束の時間を指す。

「よし、時間だ。取り敢えず二手に分かれて探すか? 学校たってかなり範囲が広いからな」

 隠れ鬼をする場所は学校のみ。その中には中庭も含まれて二人でたった一匹の鬼を捕まえるには広すぎる。

「駄目。敵の力量もわからないのにそれは無謀。それに翔から離れたくないし、私がいない間にあの鬼が翔に何をするかもしれないから」

「最後の二つは余計だ。けど、一理あるな。焦って俺らがやれたら意味ないもんな」

 仲間が増えて、守るものが増えてきて翔は考え方を変えている。

 ただガムシャラに突っ込んでいくのではなく堅実に死なないように勝つ。

 攻撃を入れるだけでなく守りもする。命を大事に、というやつだ。

「ならまず、合図送るね。あの翔に酷いこと言う人に頼るのは小癪だけどいないよりはマシだから」

 篝火の事だ。

 玲は俺とはクラスは違うが、あの日から篝火と話すようになった事と彼女が毒舌だということを何処ぞからか知り、試す為にいきなりスナイパーライフルで発砲するほど嫌いらしい。

 とにかく毛嫌いを超えて拒絶している。あの時から俺に近づかせまいと裏で動いているようだ。

「なあ、玲。どうして篝火の事そんなに嫌うんだよ。確かにあいつは少し口が悪いが、根は良いやつだぜ」

 でなければこんな世界の事は忘れて手鏡を気にすることのない日常を過ごせばよかったのだ。それを選ばなかったので彼女にも人らしい良心がそれなりにある事くらい何と無く予想できる。

「翔はわかってない。兎に角、気をつけて。何かあったら私に言えばすぐ助けるから」

「あ、ああ……」

 あれ? これって立場逆じゃね?

 と思いながらも呆気にとられて何とも情けない返しとなってしまった。

 頭の中で反省会を開いている横で玲はポケットに入れていたホイッスルを取り出して校内中に響くほど大きな音を鳴らした。

 これは二人にこちらの位置を知らせる為の合図だ。ついて来ているかどうかも確認できないが、こうすれば何らかの理由ではぐれていても二人と合流できる。

 その念の為の保険は効果かがあり、音は葉狩の小屋にいる優のヘッドホンまで届いた。

「それより何処から探す? 隠れる場所なんていくらでもあるぞ」

 この学校は生徒数が多いのでそれに比例して広さもそれなりだ。一年と少しここに通い続けているが全てを把握はできていない。授業で使うほんの一部だけしか知らないのが情けない現状だ。

「まずローラー作戦するのはどう?」

 ローラー作戦。絶対に時間がかかり、篝火が絶対にやりそうにないやり方だが他に案は浮かばない。

「そうだな。とりあえす下行って片っ端から探してみるか」

 廊下に出て階段を降りようとした所で体長三十センチほどの羽を生やした怪物を目にしてゴートゥーバック‼︎

「な、何あれ⁉︎」

 教室から足を出していない玲はそんな慌てふためく翔の姿を見てキョトンとする。

「翔?」

「れ、玲。落ち着いて聞いてくれ。俺が見たありのままを説明するとだな……ドラゴンがいた‼︎ それもなんかちっこいの」

 赤い鱗に二つの角。刀のように鋭い爪。足よりも少し細いが強靭そうな尻尾。

 ファンタジー小説とか漫画とかで出てくるそれを縮小化をさせた生物が誰もが通る廊下にいた。

「ドラゴン? 多分、それが下部だね」

「冷静だな! ヤバイな。ドラゴンとなると厄介だ。あいつら火吐くし、空飛んだりするからな」

 火を吐くのは二の次として飛ばれるのは本当にヤバイ。いくら距離があってもすぐに追いつかれてしまう。

「翔、落ち着いて。これは隠れ鬼だよ」

 子供の頃、誰もがやったであろう隠れ鬼。土管の中に隠れたはいいけどすぐに見つかってしまうあの隠れ鬼。

 そこに戦いの要素は一切なく、鬼はただ見つければいい。今回は捕まえるまでするがそれでも恐れることはない。

「……すまん。やっぱ俺カッコ悪いな。仲間がいないと何もできねー」

 最初は運良く勝てたがこういった時は役立たずだ。鵺だって優の武器の能力がなかったら断刀だけだったらどうなっていたか……。

 良く考えて思い出してみると自分は助けられてばっかりだ。特に叔父である葉狩のフォローがなければ今ここにはいないだろう。

「大丈夫だよ。ロリコンでも貧乳派でと私は一生翔について行くから」

「俺の話聞いてたのかな?」

 ロリコンでもないし貧乳派って何?純粋無垢な僕にはわかんなーい。

「つまりは結婚しよう」

「まさかの求婚⁉︎」

 今に始まった事ではないが、まさかこの状況でとは意表をつかれた。そして相手をするのに疲れた。

「はぁ…。それで、何か対処法とかあるか?」

 逃げるのは多分難しい。それ以外に何か。

「うん。翔はただ私の後について来ればいい」

 女なのに男勝りなカッコいい台詞を吐き捨てて何故か扉の方ではなく、教室の中央へと歩み寄った。

「お、おい何をする気だよ」

 と聞き終えると何も答えず、玲は門である万華鏡を目の前に放り投げたと思ったらそれは巨体な柱となり教室の床を突き破った。

「ほら、こっちなら大丈夫でしょ」

 あ、柱だと思ったらよく見ると顔とか彫ってあるからトーテムポールだ。巨体なトーテムポールだ。

「ソウダナ」

 勿論、ついて行きます。




「便利だなそれ。円柱の物になら何にでも変えられるんだろ」

 抜け穴で一階にたどり着いて上にいるであろうドラゴンに出くわさないようなルートで捜索を続けているが一切エリヤの尻尾も掴めないので何となくそんな事を聞いてみた。

「うん。完璧な円柱じゃなくてその要素が強ければ大丈夫。だから銃とかでも平気」

「だからってなんめトーテムポールなんだよ。他にも何かあっただろ」

 もうギャグとしか思えない。というか絶対に笑わせてきてるだろ。

「可愛いでしょ」

「………ん〜、だな」

 一応納得しておくが、それとこれとは関係ない気がする。可愛いからトーテムポールを武器として使う気にはなれない。最近のJKは進んでいらっしゃる。

「でも、私のは万能型って感じだけど翔のもそうだったよね」

 スライムのお陰でさらに攻撃の仕方が増えているその両手に握られている刀に目をやった。

「そうかな? 確かに断刀はキメラには有効だと思ってたけどメチャクチャ強い奴には不利なんだよ」

「不利? 斬るだけでは駄目なの?」

「これは叔父さんに聞いた話なんだがキメラってのは強ければ強いほど多くの生き物と合成しているらしいんだよ。その中にはキメラも入ってるらしい。特に俺らでも知ってるような伝説級のやつは途轍(とてつ)もない数らしい。だが断刀は二つに斬り分けるのが限度で普通の生き物にまでにするに斬る数が凄い事になるんだよ」

 無論、剣道部でもなんでもない帰宅部のエースである翔にそんな体力はなく、それは論外な方法だ。

「じゃあ、普通に倒すしか手はないと」

「そうだ。倒すだけなら断刀の力を抑えれば出来るが……」

 助けられるはずの生き物は助けられない。

 そこは仕方ないと諦めるしかないがそれではただ刀ということになってしまい、玲の万華鏡より劣ってしまう。

「なら、私が翔を守る」

 万華鏡をハンドカンに変えて周りを警戒するその様はただの許嫁とは思えない。最近のJKすげ〜。

「それはいいけどよ。本当にこんな方法であの吸血鬼を見つけられるのか?」

 ここまで探しても髪の毛一本すら見つかっていない。ただ時間だけが過ぎていく。

「人質の事を考えるとこのペースはまずいと思う」

 特に最初の被害者はこれで見つけられなかったら一番に殺されてしまう。

「なら別の方法で行こう。どうせローラー作戦なんて最後の方が答えだったとかっていうパターンが多いんだからさ」

 ゆっくりとしている時間はない。

 ただでさえドラゴンのせいで遠回りをして予想より進行具合が芳しくないのに、何の成果も上げられていないこの手段にすがりつくのはあまり賢い選択とは言えない。

 逆に単細胞と言われても差し支えないであろう人となってしまう。個人的にはこれ以上心を抉る言葉をいただきたくはない。

「確かにこれは時間が掛かりすぎる」

「だよな。やっぱり教室とかにかいないじゃねーか? 探すんだったらもっと隠れる所が多い所にしよーぜ。職員室とか体育館とかそうゆうとこ」

 隠れる場所が多ければ多いほど隠れる方にとって選択肢は増え、探す方は探す所が増える。

 エリヤが唯一勝つ方法は人質が死ぬまで時間稼ぎをすることだ。

 ならば広い所に隠れるだろう。教室とかではなく、隠れる場所沢山あるお得な所に。

「気になってる事があるんだけど」

 もう体育館にするか武道場かの二択で迷っているとふと玲らしくない不安そうな顔で尋ねてきた。

「なんだよ。裏をかいて教室とかにいるってか?確かにその可能性もあるが……」

「違う。その事じゃない」

「? じゃあ何の事だ?」

「実はここに来るまで見たの。三匹も」

「おいおい何の話だよ」

 薄々何の事かは聞かなくとも流れでわかってはいたが、聞かずにはいられない。

「敢えて言わなかったけどドラゴン。避けてきたからこんな遠回りになった」

 通りで一匹のドラゴンにしては動き回されたわけだ。

 複数配置してこちらの動きを制限する為だとしたら予想以上に効果をあげたと言えるだろう。

「そうか。でもそれがどうした。ドラゴンには俺も驚いたが数はそうでもないだろ。百や二百いるわけじゃないんだから」

 もしそれだけの数がいたらとっくに見つかって腹の中で消化されているはずだ。

「あの、数の事じゃなくて配置の仕方が気になったの。一貫性がなくて、適当に決めたって感じ」

 この館で見つかったのはスタート地点であり翔の教室からすぐ出てある廊下、一番奥側の階段それも二階と三階をグルグル回っているやつ、そして三階の少し開けた場所。

 並べてみると確かに規則性というものが一切感じられないし、これでは避けて通れば何の問題もない。この館だけに閉じ込めれたというのに。

「ん〜、自分の居場所を知られない為にわざと……、ダメだ。自分で言ってて訳分かんなくなってきた」

 こんなもの推測であれば幾らでも理由が出てくるが本当の事など本人にしかわからない。

「あ、翔。わかった」

 そんな諦めモードであった俺を尻目にいつもの冷静な顔に戻った玲が自信ありげにつぶやいた。

「マジか……」

「マジ。ついて来て」

「勿論ですとも」

 例え火の中であろうと水の中であろうとドラゴンが待ち構えている場所でも行ってやる。

 そしてまた俺は頼もしい背中に情けなく、ついて行く。

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