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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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消える男の黒眼鏡

 現状確認。

 俺はあることが気になり、勉強を教えてくれている委員長に篝火 弥富について質問をした。

 分かったのは彼女が鏡を学校に持ってくるようになったのは二年生に上がってからだということ。

 たったそれだけの情報で推理を始めていると俺の悩みの種である篝火 弥富が現れた。

「聞こえなかったの?私はなんで私について調べ回っているのか聞いているのよ」

 口調からして委員長との会話は聞かれているとみた方がいいだろう。

「いや……ちょっと気になってな。だって学校にそんな鏡持って来る奴なんていないだろ」

「確かにそうかもしれないけどこの学校には私よりも面白い人は沢山いるわよ。ここに通ってるんだもの、それぐらいは分かるわよね」

「それって遠巻きに私に関わらないでって言ってるよな」

「ええ、私に関わらないで。どうせ貴方になんて理解出来ないことだから。どうせ貴方に何も出来ないことだから」

 言い方がいちいち頭にくる。王妃というあだ名がつくわけだ。

 こんなのでは友達などいないだろう。

 いたとしたらその人は委員長並みに女神的な存在に違いない。

「何か私に言いたそうね。怒りはしないから正直に言いなさい」

「いえ、滅相もございません」

 流石に言えない。

 こうして会えたのは好都合なのに機嫌を損ねて帰ってしまってはこちらとして困る。

 ここは我慢、我慢。

「そう、なら二度私に関わらないで、同じクラスだからって馴れ馴れしくしないで、その気色悪い顔をどうにかして」

「最後のは余計だ‼︎」

 声は廊下に響き渡るが二人以外誰もいない。

「はあ……自覚がないなんてかわいそうね。私の鏡を貸してあげましょうかしら」

 差し出されたそれのおかげで当初の目的を思い出した。

「そうだ鏡‼︎その鏡何が見える。もしかして怪物とか見えたりしたか?」

 変な質問であるが、一番最初に聞きたかったことだ。

「怪物? 貴方は何を言っているのかしら、鏡は自分の顔を見るものよ。まさか私が怪物だとでも?」

「そうじゃない。まあ、でも鏡に変なものが映ってないならいいんだ」

 これで肩の荷が下りた。

 しかし、それは篝火の口から出た本音でひっくり返った。

「あ、でもこの鏡変なのよね。何故か私の周りに赤いものが映るの。まるで霧みたいな」

「な……それは本当か⁉︎」

 嘘だそんなはずがない。

「ええ、妙よね。鏡なんてこんな風な壊れ方してるかしら」

 ちょっとした勘レベルではあったがどうやら想像していたよりも最悪な状況に進んでいるらしい。

 真剣な眼差しになった加々良がカバンから取り出したのは黒縁の眼鏡。

「ど、どうしたのよ。いきなりそんなの出して。…分かったわ。私の美しい姿を鮮明に見るためね。その程度な許可してあげるわ。どうせ貴方にいい事なんてないでしょうからせめてもの思い出にするのね」

 ペラペラと喋るが先ほどのように反応しない。

「ちょっとどうしたのよ。さっきみたいに言い返してきたらどうなの。もしかして私の言葉責めで目覚めちゃったのかしら」

 勝手にキャラを確定されそうになっても口は開かれない。

「ちょっと何か話したらどうなの‼︎」

 話しかけてきたのはそっちなのき逆ギレ。

 無視された気分になって腹を立てている。

 そんな怒りの一言が終わった時には決心がつき、黒縁の眼鏡をそっと目の前に掲げた。

「いいか、お前は鏡で後ろを見てろ。それから説明してやる」

 慣れた手つきで眼鏡がかけられるとその本人の姿が消えた。

 まるで透明マントを被ったように、まるで最初から彼女の目の前には誰もいなかったように、廊下にポツンと残された。

「な‼︎これは……一体」

 これまで凛としていた篝火であったがあまりに非現実的なことが目の前で起き、自然と表情が崩れていたが咄嗟にあの言葉を思い出す。

 鏡で自分の背後を見る。

 ほとんどは自分の顔で埋まっていたが確かにそこには眼鏡をかけて消えたはずの男の姿があった。

「っ‼︎」

 声にならない叫びと共に振り返るがやはりそこには誰もいない。鏡に映ったあの男の姿もここを通るものも誰もいない。

 奇妙なことというのは人の頭を惑わす。

 いくら冷徹冷静である篝火でさえもこの不可解な現象に混乱している。

「どうだ少しは俺の話を聞いてくれる気にはなっなか」

 混乱の元である加々良 翔は何事もなかったのように現れた。

 その手には黒縁の眼鏡。

 別人というわけではなそうだ。

「一体今のは何なの」

 消えたり、鏡の中に出たり、でもそこにはいなかったり、この学校には個性的な人は多いけれどこの様なことが出来る人などいなかった。

 マジックの類かと疑ったけれどもタネをしかける時間などなかった。

 教室から出て来る前、つまりまだ鶴ヶ谷とこの男が話し合っていた時から私はここにいた。もっと前から仕掛けてたとも考えくい。そんなことしたらタネが見つかる可能性が増えるだけだ。

 それに今のはマジックという言葉だけでは片付けられない。

「それで、鏡には俺が映っていたか?あっちだとお前の様子が見えないから教えてくれないか」

「え、ええ……」

 バッチリと。

 ついでにいつもの赤い霧も健在だった。

「そうか、なら俺の予想は的中したってわけか。ヤバイなこれ。相談した方がいいするか。あの人とはあまり会いたくないけど」

「ちょっと、一人で勝手に決めないでくれる。私にも選ぶ権利があると思うのだけど」

「ああ、そうか。ならどうする? 俺について来てさっきのとお前の鏡のことの話をするか、見なかったことして黙って帰るか」

 無理にとは言えない。

 彼女の言った通り、権利がある。それを覆すのは無理。だから彼女から望んで来てくれるようにするしかない。


「貴方結構Sっ気あるのね。そんな言い方したら帰りたくなくなったじゃない」

 効果覿面。

 こういうタイプは少し挑発的な態度でいった方上手くいくと経験上知っている。

「なら案内してなるよ。俺の……いや、俺たちの秘密基地へ」

「秘密基地……、いい響きね。でも私が気に入らなかったら全壊させるからその気で案内しなさい」

 いつもの冷静さと冷徹さを取り出した少女は階段をおりていく。

「それだけは勘弁してやってくれ」

「無理ね。誰もこの私を止められはしないわ。全壊して新しいものをつくるわ」

「優しい⁉︎ これが世に言うツンデレというやつか」

「さあ、どうかしらね。私はデレた覚えはないのだけど、ただのボケなのだけれども」

「それぐらい分かっとるわ‼︎」

「ちょ……そんな激しいのやめてくれる。私始めてなんだから」

「誤解されるような言い方するな。ツッコミだろ?ツッコミされるのが始めてなんだろ。そう言わないと違う方に聞こえちゃう人もいるから」

「男と話すことがよ」

「根本的に違ったか。てか、今までどうやって過ごしてきたんだよ」

「知らない方がいいわ」

「まさかの危険な匂い⁉︎」

 そんな他愛ない? 話をしながら暗くならないうちにと早歩きで篝火 弥富をエスコートした。

 最悪の事態にならないことを祈りながら。

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