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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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麗しの吸血鬼

 時は戻り、玲が仲間に加わってから数日後。

 毎度お馴染みの秘密基地に集められたメンバーはドラム缶テレビに流れているニュースを睨みつけていた。

「昨日の午後十時頃に草むらの中から男性の遺体が発見されました。しかも遺体の血は全て抜き取られるという最近多発している連続殺人と同じ手口ということで同一犯として捜査が続いています。これで吸血殺人事件の被害者は九人目となりました。犯人は夜に犯行を行う傾向にあるので家に帰る際は十分に気をつけてください」

 ここでテレビは切られてリモコンに握っている葉狩に注目が集まった。

「皆も知ってるよね。最近話題になってるこの吸血殺人事件。ここだけじゃなくて日本中で騒がれてる事件なんだけど……、ここに住んでる君たちなら噂ぐらい聞いたことあるよね。最初の事件はここだってことを。場所を特定されないように移動を繰り返しているようだけど被害現場に印をつけて線で結ぶとあら不思議⁉︎不恰好ながら円が出来るのさ。これが何を意味するか分かるかい?」

 テーブルの上に置かれたこの辺の地図にさっき説明された点と線が赤で書かれたものを指差しながら得意げな顔で全員の顔を見渡した。

「犯人は何かしらの理由があってこの地域を拠点として吸血殺人を行っているということかしら」

 誰も答えないので仕方なく篝火が答えた。

「ピンポンピンポン。大正解だよ。まあ、でもその何かしらの理由も僕には分かってるんだけど、そこに行き着くとは流石はお嬢ちゃんだね」

 態と大袈裟に拍手するがこの程度、少し考えれば分かることだ。警察も知っていて隠しているのだろう。犯人をそこから動かさない為に。

「理由なら私たちに気づかれないように力を蓄えるといったところかしら?まあ、それも徒労に終わったのだけどもね」

「あれれ? お嬢ちゃん、お嬢ちゃん。それ僕が言おうとしてた事だよ。何で美味しいとこだけ持って行くのさ。そんなに僕の事が嫌いなの?」

 どうやら篝火と葉狩が勿体ぶっていた殺人犯がこの地域を拠点としながらわざわざ遠くで吸血殺人を犯している理由は一致しているらしく、珍しく慌てふためいている。

「ええ、勿論よ。一般の女子が虫やらゴキブリが嫌いなように私は貴方が嫌いなの。フリーターがニートと一緒にされるのを嫌うように、私は貴方と同じ仲間と思われたくないの。だからある程度の距離を保っているのにそれに気づかないとは真正(しんせい)のニートは流石ね」

 薄々そうではないかと思っていたが、これで断言できる。篝火はニートである葉狩が嫌いらしい。

「う〜、相変わらずお嬢ちゃんは僕には厳しいね〜。でも、まあ力を蓄えてるってのは正解だよ。僕がニートってのはちょっと違うけどそれは置いといてまずこれが何者が起こした事件なのか、もう皆も分かってくれたよね?」

 嫌でも分かってしまう。こんな奇怪な事件を起こすのはキメラだけだ。しかも規模が今までよりも大きいから、今回のキメラはかなりの強敵。

「ああ、でもなんで被害現場を点で結ぶと円になるんだ? 何か意味でもあるのかよ」

 ただ単に力を蓄えるならこんなミステリーサークルみたいな事をする必要はないはずだ。

「う〜ん、それに関しては僕たちを馬鹿にしてるとか、誘ってるだとか、これ以上ここから離れられないとか、色々思いつくけど一番はただの偶然かな?」

「ぐ、偶然⁉︎」

 意味深に地図を広げて置いてただの偶然⁉︎

「だって、敵さんの目的は僕たちに見つからずに人間の血を吸うのが目的ならこんな事する必要性がないからね。僕の予想だと犯人は方向だけ同じにならないようにして、ある程度の距離を走ったらその辺で見つけた人にガブリといっちゃてるんだと思うんだよね。被害者に共通点はないらしいから、誰彼構わずってやつだからさ」

 つまりはこの地図のカクカクの円はただ犯人が偶然、この辺から同じような距離を走った後に吸血をしたからだと言う。

「なら、どうするんだよ。全員でキメラファームに行ってそいつを倒すか?」

 今だに事件は終わる気配はない。寧ろこれからもこの奇怪な事件は続く。元凶であるキメラを倒さない限りは。

「やけに暴力的だね。僕的にはあまり進められないやり方だよそれは。だって勝てるって確信がないからね。やだよ、そうゆうギャンブルみたいなの。一回それで酷い目にあったからね〜」

 過去に何があったかは知らないが、加々良も賭けのような勝負はしたくない。

「それはそうだけど。俺たちが何もしないと被害者はどんどん増えていくだけだろ。だったら早めに何か行動しないと後後こっちが不利になるだけだろ」

 ケルベロスの時みたいに強くなってから戦うのはもう御免だ。

「はぁ〜、翔くんは相変わらずせっかちさんだね。なんの為に皆をここに集めたと思ってるんだい?」

 何時ものようなニヤケ顔を皆の前で(さら)した。

「何か策があるのか?」

「まあね、でも気をつけてよ。吸血鬼ってのは人の形をしているからね。騙されないように注意してくれよ。君は詐欺師から見るとネギを背負った鴨なんだから」




 夜、十一時前後。葉狩以外のメンバーは一緒になって目的地まで徒歩で進んでいた。

 時間も時間なので人とすれ違うことも無い。高校生が夜中に歩くのは良く無いが、この時間帯で無いと犯人は動かない。

 何故なら今回の敵は太陽に嫌われ、嫌う吸血鬼なのだから。

「それにしても人型キメラとは厄介な者が出て来たわね。あのニートがこれだけの戦力があって勝てる確信がないと言い切ったのが納得できるわ」

 街灯のあるところを選んで歩いているとため息混じりに篝火は呟いた。

「篝火さんは人型キメラを知ってるんですか?」

 ヘッドホンを耳に当てている優は不思議そうな顔をする。言い方がそれを知っているようで気になったのだろう。

 ふと、あのヘッドホンはあちら側の声が聞こえるだけで当てていても会話は聞こえると自慢していたのを思い出した。

「知らないわよ。普通のキメラだって大きいものは誰かさんのせいで見たことがないからこれは憶測で言ってるだけよ」

「うっ……」

 視線が痛い。

 あの事をまだ根に持ってるなんて案外心の狭いやつだ。後で謝っておかないといけないかもしれないな。

「人型だと何か問題? 翔なら軽く蹴散らしてくれる。こう……なんかビーム的なの出して」

 玲が右拳を前に出して妙なジェスチャーをするが誰もそんな事聞いてない。

「適当な事言うな。それに俺はロボットじゃないんだからビームなんて出せんぞ!」

「そうよね。加々良が出せるのは屁理屈だけだものね」

 謎かけに成功した人みたいなドヤ顏でこちらを見下した目をする篝火の顔は街灯の力もあって何処ぞかの妖怪に見えた。

「上手いことを言ったつもりかもしれないが、俺は屁理屈言うキャラじゃかいからその顔はやめろ」

 こんな冗談を言い合う為に外を出歩いいるのではない。全ては葉狩の作戦だからだ。

 遠足は家に帰るまでであって、俺たちの戦いは事件が起こってから既に始まっている。気など抜こうと思っても抜けない。

「あら、ごめんなさい。加々良くんったら(いじ)りがいがあるからついエスカレートしちゃたわ。でも、私はキメラと戦った事がないから不利ね。それに人型だもの、今回は長引きそうだわ」

 またもため息。

「人型、人型ってそんなに重要な事か?」

 姿形が違うだけだし、寧ろ小さくなって脅威さは減ったと思っているのだが。

「本当に馬鹿ね。人型になったて事は知能がついたって事よ。方向を変えて私たちに居場所をしられないように必死になってるのがその証拠よ! 全く、こんなのも分からないだなんて脳みそ腐ってるんじゃないかしら?」

 戦いを前に苛立っいるのか、いつもより罵倒が凄まじい。

 何とか耐えれたのはすかさず玲が目の前に両手を広げて、庇うように立ってくれたからだ。

「翔を悪く言わないで。悪いのは翔より頭の良い人が存在するこの世界が悪いの」

「玲、それ地味に俺を貶してるからな。それとそんな簡単に世界を敵に回すな」

「貴方の為なら世界だって敵に回しても惜しくない」

 ヤバイ、この人ちょーカッコイイんですけど。男なのに格好良さで女に負けた。

「イチャイチャしてないで早く行くわよ」

 何故か不機嫌気味な篝火に連れられてある廃ビルに到着すると中に入り、階段を登り三階の開けた場所で俺たちは立ち尽くす女性とその足元で皮膚がカピカピになって横たわるスーツ姿の男性の姿を目にすることになった。

「こんなに早く見つかるとは予想外じゃの。まだお主らには会いたくなかったのじゃが」

 妙に古臭い言い回しをする女性の髪は血を浴びたように真っ赤に染まっており、両側で二つにまとまられている。まるで血のツインテールだ。

 こちらを見据えている琥珀色の目は人を殺した後とは思えない宝石のようは輝きを放っている。

 それにこの中の女子メンバーの誰にも負けないほどのスタイルで、大人の魅力的なのが感じられた。

「エリヤ・V・ヴィルヘルム」

 誰もが呆気に取られていると赤髪を揺らした吸血鬼が名乗りを上げた。

 人型のキメラでありながら、全ての女性が(うらや)む容姿を備えて。

「我の名前だ。血を吸う前には必ずいっておる。いわば決め台詞といったところじゃな。こうして我を見つけ出した賞与じゃ。お返しとしてどうしてここに我がいるか教えてはくれまいか?」

「残念だがそれは断る。プライベートの侵害だ。分かるか?吸血鬼。そんは古くせー喋り方してるじゃプライベートの意味も知らないと思うけどよ」

 誰も答えないと分かっていた加々良はいち早くその問いに答えた。勿論、虚勢を張って。

「ふっふっ、面白いな小僧。ならばお主の血から貰い受けるとするかの〜」

 吸血鬼は不敵な笑みを浮かべるとその肌のように美しく、白く光る牙を見せびらかした。

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