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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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諦めの甘受

 眼鏡から黒くて大きな四足歩行の怪物を見てから、キメラと向こう側の世界について色んな話を聞かされた。

 まず、この眼鏡は門でありそれがないと向こう側の世界を見ることも行くこともできないこと。

 キメラは奇怪な事件を起こしこの世に良くないものを運んでくる厄介な、人類の敵だということ。

 それと最後に事件を解決するにはその事件を引き起こしたキメラを倒さなくてはいけないこと。

「俺にあの怪物を倒せってか⁉︎ 冗談じゃない。あんなのに勝てるわけがないだろ。武器も持ってないのに」

「武器なら僕が渡したそれだよ。翔くんが持ってる眼鏡、それが武器になる。使いこなせたらの話だけれどもね」

「さっき聞いた門の開け方の時にもそんなこと言ってな」

 集中と想像。

 ざっくりとした説明で何もどうしたら武器が出て来るのか分からないが一回試したが、やはりできなかった。

「ヒントをあげよう。刀、それが君の武器であり相棒。これでもう一回試してみるといい」

 具体例があって想像しやすい。刀なんて本物は見たことないが、誰でも知っているものだ。後は集中さえできれば何とか成功するかもしれない。

 そう考えるとこのヒントはかなり大きい。

「ああ、わかった」

 何故、キメラだとか向こう側の世界といった突拍子もない話を信じているのか自分でも不思議で仕方ないのだが、朝に歯を磨くように、お腹がすいたらご飯を食べるように、お風呂に入るように、そんなレベルで信じてしまった。

 まるでそれが当たり前かのように。

「それにしてもあの委員長は絶対に翔くんに気があるよね」

 集中しきれてはいなかったが、それを邪魔をするかのように葉狩は唐突に口を開いた。

「は?」

「だってそうでしょ。この地域の案内なんて他にも出来る人はいくらでもいたと思うんだよね。だってあの委員長ちゃんだもん」

 お前は委員長の何を知ってるんだ、と言ってやりたかったが自分も何も知らなかった。

 猫を飼っているのも知らなかったし、彼女が何処に住んでいるのかも知れない。

「それに案内なんて必要かな? 近所の人に聞いて回ればよかったんじゃないかな?委員長ちゃんが人見知りなら翔くんに頼んだのも頷けるけど僕と会っても態度とか何も変わってなかったからそれはないんだろうね。だとしたら考えられるのは一つだと思うんだよ翔くん」

 俺は目を閉じたまま集中をするが、その長ったらしい話を聞いて眉がほんの少し動いてしまった。

「委員長ちゃんは君に気がある」

 そこで集中の糸が切れ、目を見開いた。

「集中、できるかーーーーーーーーーーー‼︎」

 最近仲良くなっきた女友達が実はそんな風に思っているのかもしれないなんて。

 可能性は無いに等しいがそれでも一人の男として期待なんかしちゃったりして……でもそんな自分が情けなかったりで頭の中がこんがらがってしまった。

「ごめんごめん。翔くんがどれくらいの集中力があるのか確かめたかったんだけど逆効果みたいだったね。でもそんなに動揺するってことは……」

「ちょっと黙ってろマジで」

 あんなの横で言われたら誰だって動揺する。別に委員長は勉強を教えてくれるいい人。ただそれだけだ。

「おー、怖い怖い。全く誰に似たんだか。僕に似てないことは確かなんだけど」

 似てたまるか!

 再度、集中を始める。

 そして数分が経ってからだろうか?ようやく眼鏡が光だし、棒とその先端近くの両側に刀がついたものが現れた。

「や、やった……」

「ん〜、僕が予想してたのよりちょっと遅いけど及第点ってとこかな」

「悪かったな。随分待たせて」

 お喋りにとってはただ黙って待つことはさぞ辛かっただろう。嫌がらせとかじゃないが集中できなかったから仕方ない。

「いやいや。それよりもこの世界でそれを出すのはまずいな。銃刀法違反になっちゃうよ」

「それを先に言え!」

 すぐに物騒な物はしまって向こう側の世界へ移動することにした。




「ここが向こう側の世界か……」

 赤い空、何とも言えない不気味な雰囲気。

 一瞬だったが眼鏡を通して見た景色と同じものが存在している。

「あれ? あんまり驚かないんだね。翔くんだったら面白いリアクションしてくれると思ったんだけどな〜」

 茶色いサングラスをかけた叔父は残念そうに呟いた。

「叔父さんの門はサングラスなんだな」

「うん、形はそれぞれだけどこういった身につけられるのが多いね。その方が持ち運びやすいから」

 しかし、こちらとは違って武器を出す気配ない。というか、呑気に煙草なんか咥えて戦わない意思を示している。

「あ、それと僕は戦わないからそのつもりでね」

 言わなくても分かってる。

「甥にあの巨大な犬っころと戦わせる気かよ。まだの心の準備もできなてないってのに」

 勝てる気などしない。

 たとえ、武器を持ったところでスターをとって無敵になったわけではない。あの爪で引っ掻かれたら一巻の終わりだ。

「僕は君を育てる為に敢えて戦わないんだよ。RPGじゃないんだから一緒にレベル上げなんてできないからね」

 どうやら自分ならあんなの簡単に捻り潰せるらしい。なんとも頼もしい限りだ。

「はいはい。どうせ叔父さんに助けてもらおうなんて思ってないよ。これは俺が委員長の為にやることなんだから叔父さんは特等席で観戦してなよ」

 こうなったどうにでもなれだ。だが何も知らないのでは埒が明かない。

 周りに何もいないことを確認してから武器の使い方を教えてもらうことにした。

「この刀は断刀っていって特殊な武器なんだけど……まあ、使い方は分かるよね」

 触っただけで使い方が分かる。

 門から出した武器の特徴だ。それなら説明の必要がないんじゃと思ったが、話はそれだけでは終わらなかった。

「でも、僕が教えたいのはそれじゃなくて断刀をこの棒に縛り付けているこの琥珀色のやつなんだよ」

 金属とは思えない輝きを見せるその琥珀の接合部分は鞘と同化している。

「これか……。それにしてもこの棒必要か?俺は刀だけでいいと思うんだが」

「まあ、それは保険さ。それより言いたいのはその琥珀色のものはキメラなんだよ」

「キ、キメラ⁉︎」

 これから倒そとしているあの巨大な黒犬と同じあのキメラ。それがすぐ近くに、それも武器にくっ付いていると言うのだ。

「といってもスライムだ。ほら、ゲームとかに出てくるあれ。攻撃力とかはさほど高くないけど使いさすさを重視してみたんだ。それにまあ色々君に合っていると思ってこの世界を歩き回って探し出したんだよ。結構大変だったんだからね」

 優のヘッドホンにキメラが仕込まれた時と同じ方法でやっているが、葉狩がしたのは乗っ取る為ではなく、武器の強化の為である。

「それは……どうも」

「スライムは意志なくてこれは君が思ったように動くようにしておいたからね」

 門や武器出しの時と同様らしい。

 すぐに確かめてみると、琥珀色のスライムは手足のように動いてくれた。

「これで教えられることは全部教えた。後は君次第だよ。眼鏡を捨てて逃げるもよし、委員長ちゃんを助けるもよし。僕は君の考えを尊重しよう」

 選択肢を与えつもりかもしれないが、それは逆に決意を固める為の質問となる。

「俺はただ委員長の猫を探すだけだ。その経緯で何処ぞかの怪物を倒すことになっても文句はないよな」




「やっぱ、でっけ〜〜〜〜〜〜。何あれ、何食ったらあんなでかくなれんだよ。それに気のせいか最初よりでかくなってる……」

 かっこ良く決めた後、例のキメラを遠いところから眺めて情けない台詞を吐くことになった。

「気のせいじゃないよ。ほら、前は頭一つだったのに今は三つになってるでしょ。僕たちがのんびりしてた間に何かと合成したみたいだね。そのせいで一回り大っきくなったんだろうね」

 言われて再び怪物に目をやってよ〜く見てみると黒犬の頭の両側に白い頭が二つ増えていた。

 その白い頭はボロボロになって灰色に近いものになっていて虐待された猫みたいになっていた。

「合成?」

「この世界のキメラは何か条件が揃った相手だと合成ができるんだよ。合成といっても生贄的なのもいらない。ただ二つが一つになって怪物がさらに怪物になるそれだけのシステムだよ。この世界の性質とも言えるね。まあ、それがこの世界の本質的なものなんだけど」

 本質、つまりはその世界の性質である生き物も生き物の合成が怪物を作り上げている。

「俺はどうしたらいい。あいつらを助けてやることはできないのか?」

「できるよ。その断刀で斬ればいい。ただそれだけの話だよ」

 あっさりと、それは当たり前だと言わんばかりの怪物を睨みつけたまま答えた。

「そ、そんなことでいいのか?もっと特別な手順を踏まないといけないんじゃないのか?」

「ないよそんなの。その断刀が特別ってこともあるけど普通に殺してもただ合成された動物が死ぬだけで僕らの世界で起きた奇怪な事件は自然と解決することになるんだから君はあまり深く考えない方がいいよ。翔くんは優しすぎるとこがあるからそれで隙ができちゃうかもしれないからね」

「優しすぎる? なんだよ、あの犬っころとボロボロな猫を助けたいと思っちゃいけねーのかよ」

 いくら実の叔父でもそんな外道な人間だったなら軽蔑に値する。勘当されて当然だと傷を抉りたくなってくる。

「そうじゃない、そうじゃないんだよ。僕が言いたいのは優しさは時には弱点になるってことさ。それを心の隅にでもしまってくれれば僕は何も文句は言わないさ。ほら、そろそろ言ったらどうだい?相手はお犬様だよ。ずっとこんなところにいたら僕まであの地獄の番人見つかっちゃうだろ」

 玲とか付き合いの長い奴にはよく優しすぎるからお前は気をつけろだとかはたまに言われるがそんなに善人ではない。

 平和主義者でもない。

「ったく、わかったよ。行けばいいんだろ行けば」

 頭を無造作に掻きむしって、新品の武器を片手にケルベロス扱いされた巨大な怪物の元へと歩みを進めた。

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